文献情報
文献番号
201210002A
報告書区分
総括
研究課題名
国内未承認薬の使用も含めた熱帯病・寄生虫症の最適な診療体制の確立
課題番号
H22-政策創薬-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
木村 幹男(結核予防会新山手病院 診療技術部)
研究分担者(所属機関)
- 春木 宏介(獨協医科大学越谷病院 臨床検査部)
- 古賀 道子(東京大学医科学研究所 先端医療研究センター 感染症分野)
- 太田 伸生(東京医科歯科大学 国際環境寄生虫病学分野)
- 坂本 知昭(国立医薬品食品衛生研究所 薬品部)
- 大前 比呂思(国立感染症研究所 寄生動物部)
- 加藤 康幸(国立国際医療研究センター 国際感染症センター)
- 丸山 治彦(宮崎大学医学部 感染症学講座 寄生虫学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬マッチング研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
22,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究班は、国内未承認の熱帯病・寄生虫症治療薬を海外から導入し、それらによる治療が必要な患者に「臨床研究」として投与し、薬剤使用後に提出された治療報告書を注意深く解析して、今後の適切な治療のために生かすことを目的とする。その支援のために、簡便かつ正確な薬剤品質検査法を開発し、国内における寄生虫症の発生動向を把握し、診断については、海外で販売されている診断キットの評価を行い、組換え抗原を用いた抗体測定法などの開発を行う。またアジアの流行地での治療成績を検討し、動物モデルでの薬剤作用機序を検討するなど、多方面からのアプローチも行う。
研究方法
薬剤使用に関して「臨床研究に関する倫理指針」を遵守したプロトコールを確立しており、臨床研究保険も契約し、関係機関において倫理審査での承認を得ている。本年度の薬剤の輸入、使用状況、副作用報告などをまとめ、2003~2011年のプリマキン使用症例につき、治療報告書をもとに有効性と安全性の解析を行なった。トキソプラズマ症薬物療法については、当研究班での薬剤使用例のみならず、研究分担者/協力者の自験例、および誌上発表された例も含めて解析した。アーテミシニン系薬とルメファントリンを対象に、種々の分析条件を用いて一斉分析の開発を試みた。マラリア迅速診断キット(BinaxNow Malaria)を関係機関に配布して顕微鏡法の結果と対比し、宮崎大学では multiple-dot ELISA法によるスクリーニングとmicrotiterplate ELISA法による血清抗体測定を行い、患者のフォローアップとして症状、検査所見、抗体価から総合的に治療効果を判定した。レセプトデータを用いて、国内における蠕虫症の数と抗蠕虫薬の処方例数とを調べて比較した。実験的住血吸虫感染マウスを作成し、N-89がヘム代謝に及ぼす影響をカテプシンアッセイや虫体によるビーズの取り込みで検討した。
結果と考察
本年度には、国内未承認薬は延べ107例で使用された。薬剤が有効であった症例が多く、安全性でも特別な懸念は見られず、重篤有害事象として報告されたものは、原疾患による悪化や既知の副作用であった。抗マラリア薬の使用が多かったが、中でもアーテメター・ルメファントリン合剤の使用が目立ち、国内でも同薬剤の評価が高くなったためと思われた。抗トキソプラズマ薬の使用が増えているが、これは本研究班のことが次第に知れわたってきたためと思われる。また小児例への薬剤供与や妊婦からの相談が増えるなど、この分野に詳しい小児科医や産婦人科医との連携が必要と思われた。日本人でのプリマキン使用例は96例見られ、3例で副作用が報告されたが、特別な問題とは思えなかった。プリマキン服用後の再発は7例見られ、全て三日熱マラリアであったが、再発例は非再発例と比べて体重当り総投与量は有意に低かった。今後、感染国のみならず、体重も考慮したプリマキン投与を行なうべきであろう。後天性トキソプラズマ症でAIDS患者の場合には、ピリメタミン+スルファジアジンでは全例で治療の完遂ができず、ピリメタミン+クリンダマイシンでも治療完遂率が高くなかった。今後、研究班が中心となってわが国での治療ガイドラインを作成する必要がある。薬剤品質試験法の開発では、数種のアーテミシニン系薬およびルメファントリンの一斉分析法を確立し、両者の合剤(商品名Riamet)の両成分の同時分析が可能となった。マラリア迅速診断キットは熟練した機関における顕微鏡法と比べて、感度・特異度ともに100%であった。わが国でもときにマラリアの見逃しが起きており、この種の診断試薬が国内承認されることが望まれる。寄生虫症患者のフォローアップからは、回虫類の幼虫移行症にアルベンダゾールの有効性が高く、無効例にはイベルメクチンを試みる価値があると思われた。肺吸虫症に対してはプラジカンテルの有効率が高かった(約95%)。レセプトデータからは、蟯虫症の殆どにパモ酸ピランテルが処方されているなど、わが国での抗蠕虫薬の適応疾患の問題が明らかとなり、これの是正は急務と思われた。N-89を投与された住血吸虫感染マウスからの虫体では、試験管内培養系でのビーズ取り込みが減少しており、虫体による赤血球取り込みを阻害すると推定された。
平成24年12月に抗マラリア薬アトバコン・プログアニル合剤が治療のみならず予防にも、抗赤痢アメーバ薬パロモマイシンが治療に国内承認されたが、いずれも本研究班のデータが重要な役割を果たしており、特に後者については臨床データとして唯一のものであった。
平成24年12月に抗マラリア薬アトバコン・プログアニル合剤が治療のみならず予防にも、抗赤痢アメーバ薬パロモマイシンが治療に国内承認されたが、いずれも本研究班のデータが重要な役割を果たしており、特に後者については臨床データとして唯一のものであった。
結論
本年度も国内未承認薬の使用は効果的かつ安全に行われ、この分野での診断や治療の発展に資する研究成果が得られた。また、研究班のデータを元に2種類の薬剤が国内承認されるなど、厚生労働行政に役立つ実際的成果も得られた。
公開日・更新日
公開日
2013-08-27
更新日
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