人工赤血球(ヘモグロビン小胞体)製剤の実用化を目指す研究

文献情報

文献番号
201208035A
報告書区分
総括
研究課題名
人工赤血球(ヘモグロビン小胞体)製剤の実用化を目指す研究
課題番号
H24-創薬総合-一般-009
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
酒井 宏水(早稲田大学)
研究分担者(所属機関)
  • 小田切 優樹(崇城大学)
  • 東 寛(旭川医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
人工赤血球(ヘモグロビン小胞体, HbV)は、現行の献血-輸血システムを補完する新しい製剤としてその実現が期待されている。平成24年度は、製造工程の効率化、無菌試験、無菌化工程の検討のほか、動物投与試験において細網内皮系への影響を精査する実験、また臓器灌流液としての可能性の追求、更に、将来的な臨床研究の実施の可能性に備え、臨床研究のプロトコル草案、PMDAに事前面談を行い製造法や試験法に関する助言を得ること、プリオン対策について本研究班において意見を集約すること、以上を目的とした。
研究方法
1)混錬処理によるHbV調製法を試みた。2)脱酸素工程に使う硝子容器の内壁に蛍光プローブを貼付け、その蛍光強度から容器内の酸素分圧をモニタした。3)精製Hb溶液の無菌性をメンブランフィルタ法にて検討した。微粒子分散系であるHbVは、直接法(植継ぎ法)を検討した。4)HbVに常在性菌あるいは芽胞を添加し、BPLの添加量を段階的に増大させ、滅菌作用を検討した。5)ブタ新鮮血からのHb精製およびHbVの調製を試みた。6)ラット切断下肢を8時間灌流、再接着し100日間観察をした。7)放射線照射による抗腫瘍効果の増強に関する動物実験結果をもとに、臨床研究プロトコルを草案した。8)PMDAに製造法や試験法に関する質問を行なった。9)カニクイザルにHbVを投与し血中濃度をモニタした。10)ラットに対し、L-NMMAまたはarginine内包liposomeを投与、T細胞の増殖抑制効果の有無を調べた。11)我国の血液製剤に関するプリオン対策を検討し、当研究班の考えを集約した。
結果と考察
1)混錬中の昇温は脂質分子の分散に必要と考えた。僅か10分程度で十分な分散性が得られ、収率60-70%、1バッチで300 mLのHbVが調製できた。2)脱酸素処理量が250-300mLの場合は、約15-24時間で酸素分圧が0.1Torr以下に到達した。工程の終点を明確化でき、バッチ差の縮小に繋がる。3)精製Hb溶液の無菌試験がメンブラン法によって、また最終生成物であるHbV分散液は植継法により可能であった。4)BPLが菌体の不活化に有効であった。しかし芽胞の不活化は不十分であった。無菌試験によって菌が無いことを実証したHbVを何度も製造しているので、製造工程を完全な無菌管理下に置く事により対応出来ると考える。5)ブタ新鮮血からのHb精製は90%以上の収率で可能。HbVの調製も支障無かった。ヒトHbVと比べて酸素親和度や酸化速度に若干の違いがあるが、同等の酸素運搬機能を確認した。6)ラット切断下肢灌流試験を行い、常温保存の限界とされた4時間を超える8時間保存後の再接合術が可能であった。7)臨床研究実施の可能性に備え「HbVを用いた治療抵抗性の悪性胸壁腫瘍に対する放射線照射による抗腫瘍効果の増強」のプロトコルを草案した。8)PMDAの事前面談を受けて製剤の検査法、安全性試験に関する質問に対し、助言を得た。9)カニクイザルにHbVを単回大量投与、血漿中濃度推移を解析し、ヒトでの半減期は約5~6日程度と予測された。10)ラットにHbV溶液を投与した後の一過性T細胞増殖抑制効果は循環血液量の2%投与でも傾向が認められた。L-NMMA内包liposomeの投与で軽減し、またarginine内包liposomeは若干の増強効果が認められた。増殖抑制効果はある程度調節が可能であることを示唆する。11)プリオン対策については血液製剤での対策を参考にすることが現実的であろうと考える。我国に於ける献血由来の白血球除去済みの赤血球を原料としている限り、特性生物由来製品とみなされるHbVは、vCJD感染予防に関しての十分な安全性を保証することができると考えている。
結論
今年度、製造工程の簡略化や、滅菌法、滅菌化工程に関する進展が見られた。輸血代替としての安全性は、カニクイザル大量投与後の一般毒性・血中半減期を明らかにするとともに、RES捕捉に関する先見的研究として、脾T細胞の一過性増殖抑制について投与量との相関やiNOSの寄与を解明した。臓器保存液の可能性を示唆する新たな結果も得られた。製造工程や検査法の課題が極めて明確になっていたので、その課題に焦点を充てて研究を進めている。Non-GLP製剤は定常的に製造し、これをもとに先見的な動物投与試験を実施し、安全性・有効性を実証している。実施企業への円滑な技術移転・GLP/GMP製造、非臨床/臨床試験の移行に備えている。

公開日・更新日

公開日
2013-07-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201208035Z