人工水耕栽培システムにより生産した甘草等漢方薬原料生薬の実用化に向けた実証的研究

文献情報

文献番号
201208033A
報告書区分
総括
研究課題名
人工水耕栽培システムにより生産した甘草等漢方薬原料生薬の実用化に向けた実証的研究
課題番号
H24-創薬総合-一般-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
吉松 嘉代(独立行政法人医薬基盤研究所 薬用植物資源研究センター 筑波研究部 育種生理研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 川原 信夫(独立行政法人医薬基盤研究所 薬用植物資源研究センター センター長)
  • 河野 徳昭(独立行政法人医薬基盤研究所 薬用植物資源研究センター 筑波研究部 主任研究員)
  • 穐山 浩(国立医薬品食品衛生研究所 食品添加物部 部長)
  • 工藤 善(鹿島建設株式会社 技術研究所 上席研究員)
  • 小松 かつ子(富山大学和漢医薬学総合研究所 資源開発研究部門・生薬資源科学分野 教授)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
社会の超高齢化に伴い需要が急増している日本独自の医薬品「漢方薬」の安定供給及びその基原植物資源の戦略的確保のため、産学官連携の研究成果である「甘草の人工水耕栽培システム」の着実な実用化を推進する。また、生薬の国内生産基盤構築と推進モデル実証のため、地域企業との連携によりブランド生薬を開発する。
研究方法
人工水耕栽培は圃場栽培に比べてコスト高であり、また、生薬原料の植物資源の多くは国外の野生種で良品の入手が困難なため、本研究では、経済性、汎用性を考慮した、1)「甘草」等の種苗生産システムの構築、2)ハイテク「甘草」等生産システムの構築を行う。また、人工水耕栽培で生産した生薬の製品化事例はなく、そのような生薬に対しての潜在的不安が存在するため、3)生薬「甘草」等の評価(安全性・有効性)を行い、水耕生薬の有効性・安全性を担保し、優位性を確認する。4)ブランド生薬の開発は、国内栽培の推進が強く望まれている芍薬(シャクヤク)、大黄(ダイオウ)、刺五加(エゾウコギ)について実施する。
結果と考察
「甘草」等の種苗生産システムの構築:遺伝子配列を利用したウラルカンゾウ優良株選抜法を考案し新規優良株を育成した。また、既出の優良株のDNA配列情報を利用した識別法を開発した。さらに、水耕栽培した優良株の根よりESTライブラリーを構築し、二次代謝関連遺伝子の解析を行った。本システムの確実な実用化に必須な優良株の大量生産のため、水耕栽培株の地上茎を材料とする挿し木増殖法を発明し、栽培試験用の苗を生産した。ハイテク「甘草」等生産システムの構築:ウラルカンゾウ優良株を種々人工栽培環境下で養液栽培し、生育に適した光環境と培養液温度を明らかにするとともに、白色LEDの使用により、生育促進、二次代謝物含量増加が可能であることを明らかにした。また、収穫前のUV-B照射や低培養液温度、収穫後の貯蔵温度、乾燥温度によって、根の主要な薬用成分濃度を高められることを明らかとした。さらに、ウラルカンゾウ優良株を温室環境(太陽光)下で栽培し、収穫適期が7月頃から12月までであることを明らかとした。生薬「甘草」等の評価(安全性・有効性):水耕甘草の有効性と安全性評価のため、水耕甘草の液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS/MS)、日本薬局方試験(日局試験)、復帰突然変異試験(Ames test)、ICP-MSによるヒ素(As)及び有害重金属(Pb、Cd、Hg)分析を行い、甘草市場流通品(野生品)と比較した。LC-MS/MSデータによる多変量解析では、水耕甘草に特有な成分が観測されたが、全イオン電流(TIC)クロマトグラムでは両甘草の違いはほとんど認められなかった。水耕甘草の日局試験では、グリチルリチン酸含量が規定値2.5%に満たない検体も存在したが、適合した検体(2.5%以上)は、その他の全ての項目について規格に適合した。Ames testにおいては、両甘草とも遺伝子突然変異誘発性は認められなかった。水耕甘草のICP-MS分析では、As、Cd及びHgは検出限界以下または定量下限以下であり、As及びCdの定量値が得られた検体が存在する市場流通品より、安全性が高いと考えられた。Pbは両甘草とも定量値に有意差はなく、日局、食品添加物公定書の基準値の1/10以下の濃度であった。甘草の有効性評価のため、アレルギーモデルマウスを用いた2つの抗アレルギー評価系を構築中であり、うち一つの接触性皮膚炎の症状を呈する遅延型アレルギーマウスモデル評価系は構築が完了した。ブランド生薬の開発:ダイオウについては、国内3ヶ所において、圃場栽培が可能でかつ品質良好な系統を明らかにし、栽培年数を決定した。優良系統はSennoside Aの含量が日局の基準を満たした。根茎中のSennoside A局在部位を明らかにし、加工法への示唆が得られた。ダイオウの網羅的成分分析のための条件を設定した。シャクヤクについては、生薬の赤芍または白芍(芍薬)として使用可能と考えられる園芸品種をそれぞれ3品種選抜し、国内2ヶ所での圃場栽培試験の結果から、含有成分の組成及び含量には遺伝的要因の他、環境要因も関与することを明らかにした。エゾウコギについては、従来約1年の未熟胚の成熟期間を約3ヶ月に短縮する後熟促進処理方法を決定した。
結論
甘草(ウラルカンゾウ)に関し、確実な実用化に必須な優良苗の育成と苗の供給体制を確立し、太陽光及び人工光での薬用成分増加のための条件を明らかにした。重金属の面からは、水耕甘草が市場流通品に比べてより安全性が高いことを明らかとした。ブランド生薬(ダイオウ、シャクヤク、エゾウコギ)開発のための基盤となる成果(植物系統・品種、収穫時期、栽培地、発芽促進条件)を得た。

公開日・更新日

公開日
2013-09-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201208033Z