文献情報
文献番号
201208001A
報告書区分
総括
研究課題名
大動脈瘤治療薬開発を目指した基礎的・臨床的基盤研究
課題番号
H22-創薬総合-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 公雄(東北大学 大学院医学系研究科/高等教育開発推進センター)
研究分担者(所属機関)
- 下川 宏明(東北大学 大学院医学系研究科)
- 福本 義弘(東北大学 大学院医学系研究科)
- 高橋 潤(東北大学病院 循環器内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
9,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
動脈硬化や大動脈瘤は血管内皮機能、血管平滑筋細胞活性化、炎症細胞浸潤などが複雑に相互作用して進展し、最終的に破綻する。進展や破綻には、酸化ストレスが重要な促進因子として働いていると考えられているが、そのメカニズムは不明な点も多い。我々は、酸化ストレス下で血管平滑筋細胞より分泌される新規蛋白サイクロフィリンAを同定し、これが血管内皮障害・血管平滑筋細胞増殖・各種サイトカイン分泌・炎症細胞活性化の全てを制御する重要因子であり、動脈硬化性疾患の発症にはサイクロフィリンAが必須であることを論文発表した(Satoh K, et al. Nature med. 2009, J Exp Med. 2011, Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2011)。この発見を踏まえて、実際の臨床応用を目指したトランスレーショナル・リサーチを行った。具体的には、サイクロフィリンAをターゲットとした活動性大動脈瘤およびその基盤となる動脈硬化の早期発見およびその活動性制御法の臨床研究を行った。そして、あらゆる動脈硬化性疾患を有する患者でのバイオマーカーとして、非常に有用であることを確認し、特許申請(特願2012-239615)および論文報告を行った(Satoh K, Shimokawa H, et al. Circ J. 2013)。
研究方法
本研究は、サイクロフィリンAをターゲットとした活動性大動脈瘤の評価法開発および活動性制御を目指した実際の治療を視野にいれた詳細な研究を行う。研究方法としては、大動脈瘤手術サンプルを用いた解析に加え、血清濃度測定法(ELISA)の開発、in vivo イメージング(マウス)、PET(ヒト)による病変部位検出法の開発を行う。既に開発済みである当科独自の臓器特異的Rho-kinase遺伝子欠損マウス、臓器特異的Rho-kinase遺伝子過剰発現マウス、CyPA遺伝子欠損マウス、CyPA受容体遺伝子欠損マウス(ApoE欠損背景)を駆使した動物モデルの検討に加えて、当科が保有するヒト冠動脈硬化病変検体、心疾患ごとにライブラリー化を進めている患者血清を用いて、臨床的意義も平行して検討する。
結果と考察
遺伝子改変マウスを用いた基礎研究により、サイクロフィリンAが動脈硬化の進行にとって、重要な分子であることが確認され、論文報告を行った(Satoh K, et al. J Exp Med. 2011)。また、サイクロフィリンAが心筋でも酸化ストレス増幅の非常に重要な分子であることが確認され、心不全の進行を促進することを確認し、論文報告を行った(Satoh K, et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2011)。さらに、分泌蛋白であるサイクロフィリンAは採血で測定可能な診断用バイオマーカーとして有用であることを世界で初めて確認し、動脈硬化性疾患の発症前診断が可能なバイオマーカー(診断薬)として、特許申請を行った。また、ヒト冠動脈の動脈硬化病変ではサイクロフィリンAの発現が亢進していることを免疫染色で確認し、心筋梗塞発症の可能性の高い冠動脈疾患患者の血漿中サイクロフィリンA濃度が、疾患の重症度に応じて上昇していることについて、論文発表した (Satoh K, Shimokawa H, et al. Cir J. 2013)。
結論
サイクロフィリンAは、動脈硬化を進行させる重要蛋白であることが、動物実験で証明された。サイクロフィリンAは大動脈瘤発症・動脈硬化破綻の必須蛋白であることを確認し、論文報告を行った。さらに、血漿サイクロフィリンA濃度はその早期発見や活動性評価に有効であることを証明し、論文報告を行った。血漿サイクロフィリンAは、心筋梗塞や大動脈瘤破裂の発症前予測が可能な新しいバイオマーカーとして有用であり、急増するメタボリック症候群(脳梗塞・心筋梗塞・大動脈瘤予備軍)の中から、積極的治療介入すべき患者をより効率的に発見するのに有用であると考える。また、サイクロフィリンAの分泌抑制もしくは細胞外受容体阻害に着目した治療薬の開発も期待でき、動脈性疾患治療薬開発に繋がる可能性がある。
血漿サイクロフィリンA濃度測定により、心筋梗塞や大動脈瘤破裂を発症前から予測可能である。本研究助成により特許申請を行い、複数の企業からの共同開発の提案申し込みがあった。今後は、医師主導治験(臨床性能試験)とさらなる海外展開を目指した研究開発を進め、心筋梗塞や大動脈瘤などの動脈硬化性疾患が発症する前に、どこでも安全に発症前診断が可能な迅速診断キットの開発を実現する。
血漿サイクロフィリンA濃度測定により、心筋梗塞や大動脈瘤破裂を発症前から予測可能である。本研究助成により特許申請を行い、複数の企業からの共同開発の提案申し込みがあった。今後は、医師主導治験(臨床性能試験)とさらなる海外展開を目指した研究開発を進め、心筋梗塞や大動脈瘤などの動脈硬化性疾患が発症する前に、どこでも安全に発症前診断が可能な迅速診断キットの開発を実現する。
公開日・更新日
公開日
2013-07-11
更新日
-