幹細胞による次世代の低侵襲軟骨再生治療の開発と臨床応用

文献情報

文献番号
201206003A
報告書区分
総括
研究課題名
幹細胞による次世代の低侵襲軟骨再生治療の開発と臨床応用
課題番号
H23-再生-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
関矢 一郎(東京医科歯科大学 医歯学総合研究科 )
研究分担者(所属機関)
  • 宗田 大(東京医科歯科大学 医歯学総合研究科 )
  • 森尾 友宏(東京医科歯科大学 医歯学総合研究科 )
  • 清水 則夫(東京医科歯科大学 難治疾患研究所)
  • 赤澤 智宏(東京医科歯科大学 医歯学総合研究科 )
  • 淺原 弘嗣(東京医科歯科大学 医歯学総合研究科 )
  • 齋藤 知行(横浜市立大学院医学研究科)
  • 赤木 將男(近畿大学 医学部整形外科学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本学では膝関節の軟骨欠損に対して、滑膜由来間葉系幹細胞を浮遊液の状態で軟骨欠損部に10分間静置し、細胞を移植する再生医療をすでに実施している。より操作性が高く、細胞接着の効率を改善するため、hanging drop法を用いて滑膜間葉系幹細胞から多数の集合体を作成し、表面張力を用いて軟骨欠損部に接着させる方法を検討する。本年度の計画は(1)滑膜間葉系幹細胞集合体の特性を解析することである。また細胞治療の安全性を評価するため(2)変異細胞評価、(3)感染症検査を検討する。さらに(4)iPS細胞による軟骨再生医療の開発を目指す。同時に(5)臨床応用するため、ヒト幹指針の了承を目標とする。
研究方法
1)ヒト及びウサギの滑膜から間葉系幹細胞を採取した。2.5x105細胞を35μlのPBSに浮遊させ、hanging drop法で、3日間培養し、集合体を作成した。ヒト滑膜間葉幹細胞を集合体とする前後で遺伝子プロファイルを比較した。またin vitroで軟骨分化能を比較した。ウサギの膝に軟骨欠損を作成し、自己滑膜間葉幹細胞集合体を、それぞれ、5、10、20、40、80個移植し4、12週後に評価した。(2)DNA損傷修復応答検出系として、滑膜間葉系幹細胞集合体の切片を作成し、ATM, P53のリン酸化特異的抗体を用いて染色した。Activation Induced Deaminase(AID)は免染とPCRで評価した。p16メチル化アッセイは、陽性及び陰性コントロールを用いて定量化した。通常のkaryotypingとnude miceへの移植系を用いて腫瘍化の検証を行った。(3)手術患者の組織を採取し、組織や培養細胞のウイルス・マイコプラズマ検査を施行した。(4) Nanogプロモータ制御下にEGFP を、2型コラーゲンプロモーターにmCherryを導入し、未分化な状態では緑色、軟骨分化すると赤色にシフトするDual color iPS 細胞の樹立を目指した。
結果と考察
(1)滑膜間葉系幹細胞を集合体にすると、BMP2、SOX5,6,9などの軟骨分化関連遺伝子や、TSG6、STC1などの抗炎症遺伝子の発現が上昇した。集合体は、容易に軟骨欠損部へ接着し、移植翌日にすべてが軟骨欠損部に残ったことを確認した。比較的低密度である10個の集合体を移植した群で、移植4・12週後に最も良好な軟骨の再生が得られた。臨床応用の際には移植細胞数が限られるため、このことは望ましい結果であった。(2)滑膜間葉系幹細胞集合体の10検体はいずれもATM、p53のリン酸化が軽微であった。AIDを免疫染色とリアルタイムPCRで評価し、すべての滑膜間葉系細胞集合体で陰性であった。p16のメチル化は検出限界以下であった。培養滑膜間葉系幹細胞のkaryotypingは正常で、ヌードマウスへ移植しても腫瘤を形成しなかった。(3) 合計58検体に対して、17種類のウイルスの検査を実施し、滑膜組織1検体、骨髄液1検体、血液1検体の合計3検体からEBウイルスが、骨髄1検体から帯状疱疹ウイルスが、滑膜組織2検体、骨髄細胞1検体、骨髄液1検体、骨組織3検体の計7検体からパルボ B19ウイルスが検出された。滑膜間葉系幹細胞集合体からウイルスは検出されなかった。上記の合計58検体いずれからもマイコプラズマは検出されなかった。(4)分化前は緑色、軟骨分化後に赤色に蛍光が変化するシステムを確立した。 (5) 2012年12月にヒト幹指針に課題名「滑膜幹細胞の集合体による軟骨再生」を申請した。
結論
(1)滑膜間葉系幹細胞を集合体にすることにより、移植操作が容易となり、効率よく軟骨欠損部に接着させることが可能となり、軟骨分化能が増した。(2)変異細胞前段階検出法(ATM, p53リン酸化アッセイ、AID発現アッセイ、p16メチル化アッセイ、染色体分析、ヌードマウス移植系)を検討し、培養操作によるDNAへの損傷は最小限で、最終培養産物に腫瘍細胞は検出されなかった。 (3)開発したウィルス・マイコプラズマ検査系で58検体の検査を実施し、滑膜組織3検体、骨髄5検体、骨組織3検体の合計11検体からEBウイルスとパルボB19ウイルスが検出されたが、滑膜幹細胞集合体からウイルスは検出されなかった。マイコプラズマに関してはすべての検体が陰性だった。(4)未分化なiPS 細胞では緑色、軟骨細胞に終末分化した細胞では赤色に蛍光タンパク質がシフトするシステムを確立した。(5)臨床研究を実施するため、2012年12月にヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針に課題名「滑膜幹細胞の集合体による軟骨再生」を申請し、大動物実験の検証が求められた。

公開日・更新日

公開日
2013-09-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201206003Z