文献情報
文献番号
201205035A
報告書区分
総括
研究課題名
造血幹細胞移植の制度に関する国際比較分析
課題番号
H24-特別・指定-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
小寺 良尚(愛知医科大学医学部造血細胞移植振興寄附講座)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
6,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
我が国の造血幹細胞移植の普及率は世界的にもトップクラスにあると言われているが、今なお潜在需要を満たすには程遠い。「移植に用いる造血幹細胞の適切な提供の推進に関する法律」の執行を前に、造血幹細胞移植の諸外国の制度の特徴や、 諸外国政府の政策的・経済的関与の現状を知ることにより、我が国の造血幹細胞移植制度・政策に関する基準等に反映することが必要である。本研究は、我が国で初めて、 諸外国における造血幹細胞移植の位置づけや、国の関与、費用の分配方法、あっせんの方法や移植成績等を比較検討することによって、我が国における造血幹細胞移植のさらなる発展と、国際協力を推進するにあたっての諸課題について検討しようとするものである。
研究方法
本研究は、造血幹細胞移植に関連し、先進国並びに新興国を対象として国内及び諸外国の造血幹細胞移植における文献、及び必要に応じて諸外国の関連学会・関連団体等に対して調査を行い、可能な限り詳細に現状を把握するために以下の研究を行う。1)APBMT/WBMT/WHOを介した、造血細胞移植に関わる情報収集、2)患者・ドナーの安全性や臨床成績に関するデータの、世界規模での集計と解析、を行う。
結果と考察
APBMT/WBMT/WHOを介した、造血細胞移植に関わる情報収集に関しては、WBMTのそれまでの造血細胞移植世界サーベイに加え、同機構として初めての世界アンケートを実施、発送先が世界ほぼすべての地域に及んだこと、回答率はともかくも一つの領域における世界レベルでの比較的迅速な情報収集の仕組みが作動することが確認できたことは、本研究が世界レベルで評価されても良い成果である。そしてアジアを含めた諸外国における、造血細胞移植療法の普及率、骨髄・末梢血バンク、臍帯血バンクの在り方と公費による助成の実態、法律施行後の実情等がある程度明らかになった。2)米国等においては造血細胞移植関連法案が一部施行されているが、特に日本と造血幹細胞移植の相互協力が進んでいる米国について識者の招聘と現地調査を行ったが、米国法がそれまで存在したCIBMTRとNMDPをそのまま認定し法の保護と規制を与えた点が印象的である。従ってCIBMTRは今もウイスコンシン大学に属し、データセンター作業者は同大学の教官でもあり続けているわけであるが、そしてそのためにCIBMTRのアカデミックアクティビティーが維持され、発展し続けているわけである。3)招聘・視察事業によりもう一つ明らかになったのは、骨髄バンク、臍帯血バンクの関係とSPA/OPAの実態である。米国法は、その当初から既に多く存在していた民間臍帯血バンクの統合をNMDPに嫁している。わが国でも使用者にとって使い勝手の良いバンク機構にするように米国の実態を参考にしつつ作業を進めることが必要であろう。4)WHOが他領域のモデルと考えている造血幹細胞移植世界調査(サーベイとレジストリ)の精度を上げるには、新法に基づく我が国の造血細胞移植データセンターの機能を向上させ、データ収集・解析機能をさらに向上させることが、国内のみではなく、アジアレベル、世界レベルでも重要である。5)患者・ドナーの安全性や臨床成績に関するデータの、 世界規模での集計と解析に関しては、2013年度APBMT, WBMTサーベイを実施した。アジア地区で造血幹細胞移植累計数が10万例、世界全体で100万例をそれぞれ突破したことが明らかになるとともに、更に全ての地域で増加の一途をたどっていることが示された。APBMT / WBMTが保有している患者データ、またドナーデータについて、比較検討できる形式への変換に関しては、米国、欧州、アジアでの共通項目を設定し(Outcome Registry Form, Minimum Essential Data ase), APBMTとして初めて、アジア人における移植後生存曲線を描いた。6)世界の非血縁ボランティアドナーの安全性担保状況は、我が国の骨髄移植推進財団もそのメンバー組織の一つであるWBMTによって補足されており、特に緊急有害事象を世界レベルで発信しているSEAR/SPEARシステムは有用である。我が国でこれまで日本造血細胞移植学会(血縁ドナー)/骨髄移植推進財団(非血縁ドナー)のドナー安全補足システムは血縁ドナーをも対象としている点、一日の長があるが、国際標準であるSEAR/SPEARとの整合性を取り、そこへの情報提供をしてゆく必要があろう。
結論
造血幹細胞移植の制度に関する国際比較分析のために主として世界造血細胞移植ネットワーク(WBMT)を介して行った国際情報収集・解析並びに国際意見交換は、我が国で新たに制定・施行される”造血幹細胞移植推進法(略称)”の実践に有意な情報をもたらした。
公開日・更新日
公開日
2015-06-10
更新日
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