デバイス・ラグ解消に向けた海外規制の実態とその対策に係る調査研究

文献情報

文献番号
201203004A
報告書区分
総括
研究課題名
デバイス・ラグ解消に向けた海外規制の実態とその対策に係る調査研究
課題番号
H23-地球規模-指定-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
戸高 浩司(九州大学病院 ARO次世代医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 山本 晴子(国立循環器病研究センター 研究開発基盤センター 先進医療・治験推進部)
  • 池田 正行(長崎大学 大学院 医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
8,850,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
デバイスラグ、特に申請前ラグを生む多因子を同定・分析し、それぞれの規制との関わり・対策について明らかにする。
研究方法
(1) 治験に至る前の臨床試験制度、
(2) 保険償還制度、
(3) 国民性が医療機器開発に与える影響について欧米との比較調査
(a.日米英の添付文書中安全性記載の量、
b. 医療機器添付文書に対してテキストマイニング手法にてリスク・ベネフィット認知の日米間比較、
c. 日米英の3カ国においてリスク・ベネフィット認知の違いについて一般人を対象としたアンケート調査) を行いあわせて
(4) デバイスラグの集計(PMDA業務報告から臨床試験が添付されて承認された新医療機器のみを用いる)を実施した。
結果と考察
(1) 欧州における医療機器臨床試験制度が簡便であることが改めて裏付けられた。
(2) 米国において新医療機器は少数の例外(NCD, NTAPなど)を除いて薬事承認されると既存のDRG枠に当てはめて保険償還されるため、本邦のような半年ほどの保険収載までの遅れは生じないということになる。
(3) a. 日米英いずれでも承認されている189の薬剤の添付文書について安全性記述の割合は47%前後であり差が無かった。
b. 安全性関連単語のTF-IDFは米国において軽症のものも上位に入っていた。片方にしか出現しない特異語は米国の方が多かった。
c. リスク・ベネフィット認知には日米欧で系統的な差、大きな差が無かったが、厚生省を初めとする医療提供側への信頼、情報源に対する考え方に差があり、それらが日本における新規医療技術の受け容れを全体的に悪くしている事が示唆された。
(4) 実態により近い条件で日米デバイスラグの数値を集計すると公表されているものより大きくなった。

 医療機器の臨床試験の環境は簡便な欧州と大きな違いがありラグの下地となっている可能性がある。
 保険償還については各国とも複雑かつ開示されていない情報も多く詳細な調査は困難である。一般論として米国は原則薬事承認と同時に償還可能であり保険償還までの期間が最も短く、C区分でも半年ほどで償還可能となる日本がこれに次ぐ。欧州は国ごとに大きく異なるがHTAの評価が別途入る事が多く、最も遅いと考えられる。薬事承認の早さの違いとあわせると米英がほぼ同じくらいの時間で臨床使用可能となり日本が最も遅くなるということが実態と考えられる。
 リスク・ベネフィット認知の違いが国民の医療技術受容、ひいては規制当局の薬事承認の早さに影響しているとの仮説は薬剤添付文書安全性記述、医療機器添付文書テキストマイニング、一般人に対するアンケートのいずれの手法にても、リスク・ベネフィット認知そのものに日米英で大差がないという結果から、直接は支持されなかった。
 しかし厚生省に対する信頼、情報源に対する考え方に米英と日本の間で大きな差がある。コレスポンデンス分析の結果から日本人が「どちらでもない」を多く選ぶことに象徴されるように、結果として専門家の意見を受け容れず、医療技術の受容が全体的に悪い事に繋がっていると推測された。
 臨床試験添付の新医療機器申請のみを用いて日米の承認日の差をデバイスラグとして集計すると、製造所の変更などにより「新医療機器」区分となっている申請が除かれ、ラグの平均が公表されているものよりも大きくなった。
結論
 デバイスラグの原因は多因子であるが、古くから言われている臨床試験環境の違いは今回も確認された。保険償還については日米のラグの大きな原因とは考えられなかった。
 リスク・ベネフィット認知には疾患領域による差等、非系統的な差以外には大きな違いが証明できず、直接はラグの主原因になっていないと考えられた。しかし欧米との重要な差として、厚生省、医療業界全般に対する信頼度の違い、情報源の考え方の違いが個別事象のリスク・ベネフィット判断を難しくし、日本においては「どちらでもない」と曖昧な判断を導いて、リスクを取らない姿勢、全体として受け容れを悪くしている事が示唆された。
 有効性、安全性の分かり易い説明、リスクコミュニケーション等が医療技術の受容を改善し、ひいてはデバイスラグを短縮するのに重要と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201203004B
報告書区分
総合
研究課題名
デバイス・ラグ解消に向けた海外規制の実態とその対策に係る調査研究
課題番号
H23-地球規模-指定-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
戸高 浩司(九州大学病院 ARO次世代医療センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 デバイスラグの原因として言われてきた審査上の技術的な諸問題やPMDA審査員の数などはかなりの部分に対策が進んでいる。しかしながらその他の原因、特に申請そのものが遅れる原因(申請前ラグ)については調査・対策が殆どされていない。デバイスラグを解消し、また本邦からの革新的医療機器を創出する対策立案のために、障壁となっている多因子を同定・分析した。
(1) 国民性が医療機器開発に与える影響、
(2) 治験に至る前の臨床試験制度、
(3) 保険償還制度について欧米との比較調査を行いあわせて
(4) 実態に則したデバイスラグの集計分析を実施した。
研究方法
 H23年度
(1) 国民性が医療機器開発に与える影響調査
「国民性」(意識、リスク・ベネフィット認知などをここでは指す)の違いが医療技術の受容に影響を与えていないかを比較調査するため、日英のワクチンギャップについて調査した。又、日米英の3カ国においてリスク認知、ベネフィット認知の違いについて一般人を対象としたアンケート調査により明らかにした。質問票を班員内で回覧、数ヶ月をかけて推敲し最終版をもって外部委託。英訳、逆和訳を通じて比較し同一性を保持した。
(2) 治験に至る前の臨床試験に係る規制制度比較
METIS戦略会議において「未承認医療機器を用いた臨床研究の手引き」が編纂され、その内容について及び海外での同様な規制状況について文献考察を加えて比較した。
(3) 保険償還制度の違いが臨床応用に与える影響の比較
薬事承認後の保険償還までの遅延における米国との差異について調査した。主にDRG, CPTコードを用いた米国の保険償還体系、その運用の実際についての調査となった。

H24年度
(1)
前年度末に実施のアンケート結果をコレスポンデンス分析などで詳細に解析した。日米英の添付文書中安全性記載について調査した。同じく添付文書に対してテキストマイニング手法にてリスク・ベネフィット認知の日米間比較を試みた。
(2)
医療機器臨床開発環境の違いを日米欧で比較調査した。
(3)
薬事承認後の保険償還までの遅延における米国との差異について調査した。主にDRGの例外となるNCDなどの調査となった。
(4) デバイスラグ統計
PMDA業務報告から臨床試験が添付されて承認された新医療機器のみを用いてデバイスラグを集計した。
結果と考察
(1) リスク・ベネフィット認知の違いが国民の医療技術受容、ひいては規制当局の薬事承認の早さに影響しているとの仮説は薬剤添付文書安全性記述、医療機器添付文書テキストマイニング、一般人に対するアンケートのいずれの手法にても、リスク・ベネフィット認知そのものに日米英で系統的な差、大差がないという結果から、直接は支持されなかった。しかし日、米、英のアンケート調査の結果では、日本の受容が全体的に悪かった。厚生省を初めとする医療提供側への信頼や情報源に対する考え方に差があり、それらが日本における医療技術の受け容れを悪くしている事が示唆された。
(2) 米国では治験以外の医療機器臨床試験でもFDAにIDEを届け出る必要があるが、欧州には治験ですらそのような仕組みはなく企業、研究者が安全性を自ら担保して試験開始となる。日本には研究者が行う臨床研究に関してそのような制度はなく、機器の提供について薬事法に抵触するかどうかも必ずしも明らかでなかったが2010年3月医薬食品局長通知により、提供可能である旨とその要件が示された。
(3) 米国Medicare(国民の約15%加入)については2008年にDRGに移行しており、診断名、治療法に対する報酬であるため、機器ごとの保険適応ではない。従って実質的には薬事承認後に直ちに保険償還されることになる。ただ、薬事承認後どのDRGに分類されるか、あるいは新たなDRGを作る可能性など不確定要素がある。米国における薬事承認から保険償還までの期間はNCD(平均8.6ヶ月)やNTAPなどの少数の例外を除いて、日本(C区分で平均6ヶ月)より短いと考えられラグへの影響は限定的であった。
(4) 実態により近い条件で日米デバイスラグの数値を集計すると公表されているものより大きくなった。
結論
 臨床試験を初めとする規制制度の違いを埋める努力は今後も必要であるが、根幹となる新規医療機器の社会的受容についてはリスクコミュニケーションなど十分な相互理解を深める新たな施策が必要と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201203004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
デバイスラグの根幹原因候補としてリスク・ベネフィット認知を欧米と比較した。薬剤・医療機器の添付文書安全性記述比較、テキストマイニング、一般人アンケートのいずれの手法にても、リスク・ベネフィット認知そのものに日米英で系統的な差がないという結果であった。しかしアンケート調査においてあらゆるリスクレベルで日本の受容が悪く、コレスポンデンス分析にて厚生省・医師への信頼度と強く関連していた。欧米と比較して日本では厚生省等への信頼が低いことが新医療技術の受け容れを悪くしている事が示唆された。
臨床的観点からの成果
本研究は直接臨床に関連するものではない。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
臨床試験を初めとする規制制度の違いを埋める努力は今後も必要であるが、根幹となる新規医療機器の社会的受容についてはリスクコミュニケーションなど十分な相互理解を深める新たな施策が必要と考えられる。
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
戸高浩司、岸本淳司、池田正行他
リスク・ベネフィット認知と医療技術受容の国際比較
レギュラトリーサイエンス学会誌 , 2 (Suppl 2012) , 58-  (2012)
原著論文2
戸高浩司、岸本淳司、池田正行他
リスク・ベネフィット認知が医療技術受容に与える影響の国際比較―コレスポンデンス分析による検討―
臨床薬理 , 43 (Suppl 2012) , S247-  (2012)

公開日・更新日

公開日
2018-11-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
201203004Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
11,500,000円
(2)補助金確定額
11,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,209,142円
人件費・謝金 0円
旅費 2,445,830円
その他 5,195,028円
間接経費 2,650,000円
合計 11,500,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-