我が国社会保障の水準に関する総合研究

文献情報

文献番号
199800032A
報告書区分
総括
研究課題名
我が国社会保障の水準に関する総合研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
尾形 裕也(国立社会保障・人口問題研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 高山憲之(一橋大学経済研究所)
  • 寺崎康博(東京理科大学)
  • 勝又幸子(国立社会保障・人口問題研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
12,475,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国では、急速な少子・高齢化の進行により社会保障費用が増大する一方、経済成長は低迷を続けており、社会保障費用を賄う租税・社会保険料等の負担の一層の増大が確実視されている。こうした状況の下で、社会保障はもとより、経済、財政といった領域でも、現在の社会保障制度の評価や今後の在り方等について様々な議論が行われているところである。
本研究では、厚生行政の進展、社会経済の変化や国民の要望等を踏まえつつ拡充が図られてきたわが国の社会保障について、国民経済レベルと家計レベルの双方から分析し、国際比較を行うことによって社会保障の機能を再確認し、今後の社会保障の方向性を考えるための基礎を提供することを目的とする。
研究方法
本研究では、まず社会保障による所得再分配機能の実証分析を行った。次に租税・社会保険料の負担の程度を測るため、わが国と主要国との間で家計構造の国際比較を行った。また、社会保障の給付と負担の水準をマクロレベルで検証するため、社会保障給付費の分析の他、社会保障の周辺部分(自治体単独事業、企業の福利厚生)の分析を行った。
結果と考察
社会保障による所得再分配機能の実証研究では、世帯及び個人ごとの当初所得、拠出(租税(直接税)、社会保険料)と受給(社会保障給付(現物・現金))、再分配所得の実態を分析することにより、家計レベルで見た世代内及び世代間の所得再分配の状況を明らかにした。年齢階層別の所得の動きをみると、所得所得は29歳まではいったん上昇するものの、その後30歳代後半にかけて低下する。そして40歳以降は再び上昇し、50歳代後半でピークをうつた後、60歳以降になると急降下する。一方、再分配後の1人あたり所得(再分配所得)を見ると、50歳代までは当初所得と同様の傾向であるが、60歳以上では再分配所得の水準自体は若干低下するものの依然として全年齢平均を上回っていることが分かった。これは、年金や医療の現物給付等によって高年齢層の再分配所得が当初所得に比べて大きく上昇することによる。他方、30-49歳層の1人あたり再分配所得は全年齢平均を下回る結果となっている。
家計レベルの租税・社会保険料負担の国際比較研究では、主な国(日本、米国、英国、ドイツ)の家計に関する統計を利用した。分析に当たっては、家計の収入及び支出項目の調整を行った。家計の収入構造、支出構造の国際比較をアメリカ合衆国、イギリス、ドイツおよび日本について行った。まず、すべての世帯平均の収入構成ではアメリカと日本が類似しており、勤め先収入が約4分の3、年金収入が1割前後を占めている。イギリスとドイツは年金受取とその他の公的給付を合わせると2割近い。消費支出の構成については日本では「その他の消費支出」の割合が高い。日本以外の国では交通・通信が大きな割合を占めている。直接税や社会保険料が含まれる非消費支出について見ると、イギリスとドイツでは支出に占める割合が高く、特にドイツでは支出の3割近くを占める。しかし、わが国は2割程度である。収支バランスについては日本の黒字率が20%近い値となっており、高いことが目立つ。ドイツも15%であり、同様に高い。
社会保障給付費の規模及び負担の評価に関する研究では、国立社会保障・人口問題研究所「社会保障給付費」等の各種統計資料等を用いた。社会保障費給付費の規模については、給付の国際比較を対国民所得・対GDP・米ドル換算で行った。歳入構造において「間接税」の割合が高い国(例えばスウェーデン)では国民所得比を用いたほうがGDP比を用いた場合より値が小さくなる。しかし、諸国間の順位には変わりがない。社会保障収入についても同様である。なお、1人あたり給付費の動向における国際比較では、対国民所得比の結果と同様の結果を得たが、1970年を基準として1人あたり給付費の伸びをみると、日本が諸外国を凌ぐ速度で増加してきた。
結論
わが国の社会保障は現役世代から高齢者世代への所得再分配機能がよく働いている。また、我が国の社会保障の水準は相当の水準に達しているとみることができるが、家計レベル、マクロレベルでの負担の大きさは諸外国と比較して低い。
近年、社会保障に関する議論が盛んであり、中には負担面に着目した議論も少なくない。しかし、社会保障については、それが給付面において国民生活をどのように支えているかという視点と、その財源を国民がどう負担しているかという視点の両方をもつことが大切であり、また、社会保障には、生産波及効果や雇用効果があることにも留意する必要がある。いずれにしても、社会保障の持つ目的、機能を正確に認識した上で、今後の社会保障の給付と負担の在り方、制度の仕組み方等を考える必要があるだろう。

公開日・更新日

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