ナノマテリアルの健康影響評価手法の総合的開発および体内動態を含む基礎的有害性情報の集積に関する研究

文献情報

文献番号
201133008A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアルの健康影響評価手法の総合的開発および体内動態を含む基礎的有害性情報の集積に関する研究
課題番号
H21-化学・一般-008
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 総合評価研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 津田 洋幸(公立大学法人名古屋市立大学)
  • 西村 哲治(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部 衛生化学)
  • 本間 正充(国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センター 変異遺伝部 )
  • 樋野 興夫(順天堂大学 医学部)
  • 佐藤 薫(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 薬理部)
  • 奥  直人(静岡県立大学 薬学部 医薬生命化学教室)
  • 最上 知子(国立医薬品食品衛生研究所 機能生化学部)
  • 宮澤 薫一(独立行政法人 物質・材料研究機構先端的共通技術部門先端材料ユニット フラーレン工学グループ)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
52,060,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では産業用ナノマテリアルの慢性影響を標的とした評価法開発研究と、国際貢献としてのOECDスポンサーシッププログラムに対応するための基礎的な有害性情報収集の実施を行うことを目的としている。
研究方法
23年度は慢性影響評価研究として、前年度より引き続きカーボン繊維状粒子による中皮腫誘発の形状依存性とメソセリンの発現解析、気管内投与発がんプロモーション作用に関する研究を行った。基礎的有害性情報の収集として、水酸化フラーレンの分析手法の開発、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)による発生毒性と、in vivo遺伝毒性の検討、in vitro細胞系による有害性メカニズムの検討を行った。
結果と考察
慢性影響研究では、長さの異なる焼結型のカーボンナノウィスカを腹腔内投与後1年間経過観察の慢性実験を行ったが、長尺および短尺両群の生存率に対照群と有意な差は認められなかった。またラットにおけるMWCNT腹腔内投与による中皮過形成の発生と進展が血清メソセリン濃度と相関することや繊維サイズ依存することが示唆された。一方、C60 腹腔内投与は他の原因による腎障害性を増強する可能性が示された。気管内投与による研究ではナノサイズ酸化亜鉛(nZnO)単独投与が可逆的な肺病変を誘発すること、アナターゼ二酸化チタニウムがマクロファージ誘導能、肺癌細胞増殖能等においてルチル型より弱いことが示された。基礎的有害性情報の収集では、妊娠マウスへのMWCNT腹腔内投与および気管内投与によって催奇形を示すことを明らかにした。MWCNTのin vivo遺伝毒性試験ではgpt-delta トランスジェニックラッットを用いた遺伝毒性試験は陰性の結果であった。MCNT超音波懸濁上清液によるin vitroミクログリア毒性には溶出金属だけではなくμmサイズのCNTによっても生じていることが示唆された。さらに、高濃度のCNT暴露は、細胞の脂質二分子膜を直接的傷害する可能性が示されるとともに、細胞内の炎症反応にはNLRP3分子が関与することが示唆された。
結論
繊維サイズ依存した中皮腫誘発性について間接的な手法による検証は確認できたが、直接的検証にはより強固なカーボン繊維の作成が必要であることが判明した。さらに、MWCNTが催奇形性を持つ可能性を示唆した。細胞内での異物処理関連分子が繊維状粒子による炎症反応にとって重要な因子であることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2012-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
201133008B
報告書区分
総合
研究課題名
ナノマテリアルの健康影響評価手法の総合的開発および体内動態を含む基礎的有害性情報の集積に関する研究
課題番号
H21-化学・一般-008
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 総合評価研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所 毒性部 )
  • 津田 洋幸(名古屋市立大学 津田特任教授研究室)
  • 西村 哲治(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
  • 本間 正充(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
  • 樋野 興夫(順天堂大学 医学部)
  • 佐藤 薫(静岡県立大学薬学部 医薬生命科学教室)
  • 最上 知子(国立医薬品食品衛生研究所 機能生化学部)
  • 宮澤 薫一(独立行政法人物質・材料研究機構 先端材料プロセスユニット フラーレン工学グループ)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
産業用ナノマテリアルの物理化学的特性を考慮した慢性影響評価研究とOECDスポンサーシッププログラムに対応する基礎的な有害性情報収集の実施を行うことを目的としている。
研究方法
慢性影響評価研究として、カーボンナノチューブ(CNT)などの繊維状粒子による中皮腫誘発の形状依存性、気管内投与による発がんプロモーション作用と動脈硬化促進作用に関する研究を行った。基礎的有害性情報の収集としてフラーレン(C60)など分析感度の向上、CNTを用いた皮膚刺激性試験と皮膚感作性試験、遺伝毒性や発生毒性試験、in vitro細胞試験系による有害反応メカニズムの検討を行った。
結果と考察
ラットへのMWCNT腹腔内投与による中皮過形成の発生と進展が、血清メソセリン濃度と相関することや繊維サイズに依存することが示唆されたが、長さの異なる焼結型のカーボンナノウィスカを用いた腹腔内投与の慢性実験では、長さによる有意な違いを観察できなかった。一方、C60 腹腔内投与は他の原因による腎障害性を増強する可能性が示された。気管内投与による研究では、MWCNTは動脈硬化促進作用を示さず、MWCNTと酸化亜鉛は肺発がんプロモーション作用を示さなかった。発がんプロモーション活性のある二酸化チタンはアナターゼ型がマクロファージ誘導能、肺癌細胞増殖能等においてルチル型より弱いことが示された。体内動態解析手法研究では、C60の検出感度の向上と水酸化C60の測定法を確立し、静脈内投与したC60の腎臓と脳での減少の速度が顕著であることを明らかにした。CNTの皮膚刺激性試験と皮膚感作性試験は陰性の結果であったが、妊娠マウスへのMWCNTの腹腔内または気管内投与によって催奇形が示された。In vitro遺伝毒性試験では外径の大きいMWCNTが染色体倍数性の誘発能のあることを示したが、In vivo遺伝毒性試験ではC60 およびMWCNTともに陰性の結果であった。さらに、in vitro研究で高濃度のCNTが細胞の脂質二分子膜を直接的傷害するメカニズムが示されるとともに、細胞内の炎症反応にはNLRP3分子の関与が示唆された。
結論
炭素系繊維状粒子の繊維長に依存する中皮腫誘発性の違いは示唆されたが、直接的な証明にはさらなる検討が必要であった。また、新たな有害性として催奇形性を持つ可能性も示唆された。繊維状粒子の有害性において細胞内での異物処理関連分子が炎症反応にとって重要な因子であることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2012-05-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201133008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
アスベスト様の形状の繊維状粒子を含む多層カーボンナノチューブによる中皮腫誘発性に関して、用量依存的に低用量でも誘発することに加え、その誘発能は線維サイズに依存すること示唆する知見も得た。また、メソセリンやMIP-1 alphaが腫瘍マーカとして有用であることも示した。さらに、妊娠マウスへのMWCNTの単回腹腔内投与および単回気管内投与によって催奇性を示すことを明らかにした。
臨床的観点からの成果
本研究は臨床を対象とした研究ではないが、ナノマテリアルを含めて微粒子を吸入したことによる肺癌など腫瘍性病態に対する早期診断等に有用な分子マーカを提示することができたと考えられる。
ガイドライン等の開発
本研究の目的の一つであるOECD産業用ナノマテリアル作業グループにおけるスポンサーシッププログラムに対して、刺激性や感作性試験データなどの提供を行うと共に、それらを取り纏めてOECDに提出する文書(ドシェ)の作成に協力した。OECDではこの文書を評価した後に、必要に応じてOECDの安全性試験ガイドライン等の改訂を行う予定である。
その他行政的観点からの成果
妊娠マウスを用いたMWCNTの単回腹腔内投与および単回気管内投与により、催奇形性が確認されたため、厚生労働省健康危機管理調整官宛に健康危険情報通報(グレードB:情報提供、経過注視)を行った(平成23年12月19日)。
その他のインパクト
平成21年の日本トキシコロジー学会学術年会ではシンポジウム「ナノマテリアルの毒性学」を企画し、平成22年と平成24年の薬学会におけるシンポジウムでも研究成果の紹介を行った。平成22年2月6日の朝日新聞夕刊における「ナノ材料の安全性調査」のカラムで本研究班の成果が取り上げられた。平成 24 年 2月 17日に行われた「化学物質の安全管理に関するシンポジウム:新しい化学物質等のリスク問題へのアプローチ」において本研究班の成果を紹介した。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
25件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
53件
学会発表(国際学会等)
30件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
久保田領志 田原麻衣子 清水久美子 et al.
高速液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法による生物試料中フラーレンの分析法の開発
国立衛研報 ,  (127) , 65-68  (2009)
原著論文2
Sakamoto Y Nakae D Hagiwara Y et al.
Serum level of expressed in renal carcinoma (ERC)/ mesothelin in rats with mesothelial proliferative lesions induced by multi-wall carbon nanotube (MWCNT)
J. Toxicol Sci. , 35 , 265-270  (2010)
原著論文3
Wako, K. Kotani, Y. Hirose, A et al.
Effects of preparation methods for multi-wall carbon nanotube (MWCNT) suspensions on MWCNT induced rat pulmonary toxicity.
J. Toxicol. Sci. , 35 , 437-446  (2010)
原著論文4
Xu J Futakuchi M Iigo M et al.
Involvement of macrophage inflammation protein 1{alpha} (MIP1{alpha}) in promotion of rat lung and mammary carcinogenic activity of nano-scale titanium dioxide particles administered by intra-pulmonary spraying. 
Carcinogenesis. , 31 (5) , 927-935  (2010)
原著論文5
Fujitani T Ohyama K Hirose A et al.
Teratogenicity of multi-wall carbon nanotube (MWCNT) in ICR mice
J. Toxicol. Sci. , 37 , 81-89  (2012)
原著論文6
Horibata, K. Ukai, A. Koyama, N. et al.
Fullerene (C60) is negative in the in vitro pig-A gene mutation assay.
Genes and Environment , 33 , 27-31  (2011)
原著論文7
Kubota, R. Tahara, M. Shimizu, K. et al.
Time-dependent variation in the biodistribution of C60 in rats determined by liquid chromatography–tandem mass spectrometry.
Toxicol. Lett. , 206 , 172-177  (2011)
原著論文8
Sagawa, Y. Futakuchi, M. Xu, J. et al.
A. Lack of promoting effect of titanium dioxide particles on chemically-induced skin carcinogenesis in rats and mice.
J Toxicol Sci, , 37 , 317-327  (2012)
原著論文9
Xu, J. Sagawa, Y. Futakuchi, M. et al.
Lack of promoting effect of titanium dioxide particles on ultraviolet B-initiated skin carcinogenesis in rats.
Food Chem Toxicol , 49 , 1298-1302  (2011)
原著論文10
Yamaguchi A, Fujitani T, Ohyama K, et al.
Effects of sustained stimulation with multi-wall carbon nanotubes on immune and inflammatory responses in mice.
J. Toxicol. Sci. , 37 , 177-189  (2012)

公開日・更新日

公開日
2016-06-09
更新日
2016-06-13

収支報告書

文献番号
201133008Z