ヒト由来幹細胞の安全性薬理試験への応用可能性のための調査研究

文献情報

文献番号
201132068A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト由来幹細胞の安全性薬理試験への応用可能性のための調査研究
課題番号
H23-医薬・指定-019
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
関野 祐子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験センター・薬理部)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤薫(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験センター・薬理部)
  • 五嶋良郎( 横浜市立大学大学院医学研究)
  • 白尾智明(群馬大学大学院医学系研究科)
  • 杉山篤(東邦大学医学部薬理学)
  • 諫田泰成(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験センター・薬理部)
  • 石田誠一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験センター・薬理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
オールジャパン体制でのヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)研究への取り組みの中、研究成果の出口としてヒトiPS細胞の創薬応用に対する関心が高まっている。本研究の目的は、ヒト由来幹細胞から分化誘導された心筋細胞、中枢神経細胞、肝実質細胞の実用化にむけて、安全性薬理試験の標本としての利用は可能であるかについて、産学官の専門家からの情報収集や実験により科学的に検討することにある。また、インビトロ試験法が安全性と毒性の評価系として確立していない中枢神経系に関しては、利用可能性のあるインビトロ実験系を提案する。
研究方法
班会議の開催、関連学会への参加等により、ヒト由来幹細胞を用いた薬理実験を行っている企業から情報収集を行った。本年度の調査研究に協力した企業は、製薬会社4社、受託試験会社2社、生理機能計測機器会社1社、さらに、ヒトiPS細胞分化細胞の国内販売を行う輸入商社1社であった。また、スーパー特区「ヒトiPS細胞を用いた新規in vitro毒性評価系の構築」プロジェクトに参加している分担研究者(国立医薬品食品衛生研究所・薬理部)からヒトiPS細胞を用いた薬理実験データの再現性を担保するのに必要な実験条件に関して情報収集を行った。
結果と考察
ヒトiPS細胞を用いた薬理試験法を確立するためには、iPS細胞株、株の継代数、分化誘導法、分化後の培養日数などについての基準を設定して標準化し、試験データの再現性を保証する必要がある。安定した品質の分化誘導細胞標本を得るためには、たとえば心筋細胞の場合、心筋細胞に分化しやすいiPS株を選定し標準化されたプロトコールにしたがって分化誘導し、得られた分化心筋細胞の中から拍動数などの条件を満たす細胞を選択することにより、品質をそろえることが可能である。臓器特性を反映する分化細胞が安定して供給されることが望ましい。
結論
臓器特性を反映するヒトiPS細胞分化細胞が安定して供給されるようになれば、薬理試験法の開発が期待される。今後ヒト由来幹細胞を薬事申請に利用可能な試験法の開発につなげていくためには、未分化iPS細胞の維持管理にかかる膨大なコスト、iPS株ごとに最適化されている分化誘導プロトコールの標準化、安定した標本作製に必要な技術者の確保、薬理試験項目の選定、薬効の計測システムの選定、ハイスループット化のための技術開発等の種々の課題を総合的に解決していく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2015-06-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201132068C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ヒトiPS細胞の産業実用化については、再生医療応用だけではなく創薬プロセスへの応用も重要な研究課題である。ヒトiPS細胞から分化した細胞を用いた試験法は、分子レベルの試験法と動物を用いた機能試験法の中間に位置づけられると考えられており、非臨床試験から臨床試験への移行を促進するものと期待されている。分化細胞が薬理試験の標本として有用性であることを科学的に検証するためには、まず分化誘導の様々なステップでの実験操作を標準化し、細胞特性の基準を策定していく必要があることが明らかとなった。
臨床的観点からの成果
QT延長症候群などの患者より得られたiPS細胞から分化誘導した心筋細胞が疾患の特徴を有することが報告された。その他、ラミン心筋症患者から作製したiPS細胞からも病態の特徴を有する心筋細胞が誘導された。このような疾患iPS細胞の利用が今後可能になれば、医薬品の安全性の評価ばかりでなく、有効性の評価にも有用なモデルが開発されることとなり、非臨床試験から臨床試験への移行が円滑となる。
ガイドライン等の開発
これまで海外で流通していたヒトiPS由来心筋細胞、ヒトiPS由来神経細胞が平成23年度に国内販売され、これを用いた研究がすでに複数個所でなされていることが分かった。しかし、薬理試験プロトコールが統一されていないことが判明したので、まずは実験プロトコ―ルを標準化する。実験プロトコールの標準化と同時にガイドライン草案に着手する予定である。同じ特性を示す標本に対して標準的実験プロトコ―ルをつかって、同じ試験物質に対する試験結果を比較する多施設間バリデーションを開始して、ガイドライン開発を行う。
その他行政的観点からの成果
ヒトiPS細胞の創薬分野での実用化には、再生医療応用とは全く異なる行政的関与が求められている。新薬の承認申請に利用する薬理試験法としての有用性を、科学的に検証する必要があり、そのためにはまず多施設間で試験結果をバリデーションできる試験プロトコールを整備しなくてはならない。現状では自然発生的には標準的プロトコールができないと考えられ、ガイドライン策定のためには行政的にある程度方向性を定めるために厚生労働科研費による研究支援が有用な手段となる。
その他のインパクト
公開シンポジウム「ヒトiPS細胞を用いた安全性薬理試験へのロードマップ」を2012年2月25日に東京にて開催した。大学関係者、製薬関連企業から約150人参加した。会場はほぼ満員で、大盛況でああったことから、産官学を通じての関心の高さが明らかとなった。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
11件
学会発表(国内学会)
45件
学会発表(国際学会等)
9件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1


公開日・更新日

公開日
2015-06-29
更新日
-

収支報告書

文献番号
201132068Z