麻薬・向精神・指定薬物等の乱用防止に関する研究 国際的調和を踏まえた麻薬代替としての薬用植物等に関する研究

文献情報

文献番号
201132021A
報告書区分
総括
研究課題名
麻薬・向精神・指定薬物等の乱用防止に関する研究 国際的調和を踏まえた麻薬代替としての薬用植物等に関する研究
課題番号
H21-医薬・一般-029
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
佐竹 元吉(お茶の水女子大学 生活環境教育研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 長野 哲雄(東京大学大学院薬学系研究科・分子薬学・生物有機化学(薬品代謝化学教室))
  • 関田 節子(徳島文理大学 生薬・天然物化学(香川薬学部))
  • 高上馬 希重(北海道医療大学薬学部・生薬学薬用植物・分子生物学(薬学部生薬学研究室))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
東南アジア諸国における麻薬代替薬用植物栽培推進による伝統医療振興と生活環境向上や覚醒剤原料物質規制や大麻の生物学的鑑定に役立つ化学情報の取得を目指した。
研究方法
ミャンマーの伝統医療普及に役立つ生薬局方を作成する為、保健省の研修生に技術指導を行った。チン州でラン等野生薬用植物調査と栽培指導を行った。Emde法で密造された覚醒剤に含有されるクロル中間体のLC/MSによる検出法を確立した。従来の密造法に関する化学情報に、新たなキー不純物を加え考察した。生育地の異なる3種類の麻黄の安定同位体比測定をした。インドネシア法化学者に安定同位体分析等による覚醒剤プロファイリング研修を行った。ミャンマーのチークの木葉の新規成分の構造を解明し、抗リーシュマニア活性試験を行った。大麻の植物学的鑑定の効率化に役立つ形態的特徴、THC含有率、THCA生合成酵素遺伝子型に関する情報のデータベース化を行った。
結果と考察
野生薬用植物の試験栽培で、漢方原料植物の生育条件に関する種々知見が得られ、今後大量栽培移行が可能となった。伝統医療で使用している生薬20種の規格作成に成功した。タケバチの薬効成分の構造決定ができた。覚醒剤の新たなキー不純物を加えたプロファイリングで、より正確な合成法推定が可能となった。ミャンマーのチークノキ葉中の新規成分と他の植物Bistorta sp.の根のエキスに抗リーシュマニア活性を見出した。大麻の植物学的鑑定で、作成したデータベース化は植物的鑑定で有効な手段となった。
結論
新政府により出されたミャンマーの少数民族の経済支援に、代替薬用植物栽培の推進と伝統薬の活用によるランを含む薬用植物や果樹栽培が役立ち、今後は日本向け漢方原料植物栽培指導で、日本の製薬会社と経済交流で有用植物の大量栽培への進展が期待できる。ミャンマーのチークの木葉からリーシュマニア治療薬開発を可能とする成分の発見は新薬への期待がもたれる。多面的な覚せい剤の安定同位体分析や有機不純物分析によるプロファイリング手法は、押収される覚せい剤の化学情報蓄積に役立っている。原料物質の規制対策担当者が薬物の化学情報を活用し、日本に密輸入される覚せい剤のプロファイリング情報を適切な形で公開し、国際的な対策に役立てることを期待する。アサの生物学的データベース化は大麻関連事犯の鑑定作業に役立てることを期待する。

公開日・更新日

公開日
2012-06-15
更新日
-

文献情報

文献番号
201132021B
報告書区分
総合
研究課題名
麻薬・向精神・指定薬物等の乱用防止に関する研究 国際的調和を踏まえた麻薬代替としての薬用植物等に関する研究
課題番号
H21-医薬・一般-029
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
佐竹 元吉(お茶の水女子大学 生活環境教育研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 長野 哲雄(東京大学大学院 薬学系研究科・分子薬学・生物有機化学(薬品代謝化学教室))
  • 関田 節子(徳島文理大学 生薬・天然物化学(香川薬学部))
  • 高上馬 希重(北海道医療大学 薬学部・生薬学薬用植物・分子生物学(薬学部生薬学研究室))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬物密造原料植物栽培や原料物質流通防止に役立つテーマで、関係国と連携して伝統医療振興等のためケシ代替薬用植物栽培や原料物質規制情報収集を推進した。
研究方法
ミャンマーの伝統薬普及のため、薬用植物や栽培環境調査をし、アセアン会議で伝統薬規格の重要性を示した。覚醒剤原料植物起源解析に役立つ、安定同位体比分析、キー不純物エフェドリン類の高感度検出を検討した。ミャンマー産植物のリーシュマニア症の治療薬開発用植物探索をした。アサの葉、茎、種子の形態的特徴やTHC含有率、THCA生合成酵素遺伝子型を調べデータベース化した。大麻の生葉、乾燥葉、種子を試料としてDNA分析手法の開発を行った。
結果と考察
ミャンマーで、漢方薬原料植物の大量生産計画が進められるようになった。保健省の生薬局方作りを支援し20品種の規格を完成させた。覚せい剤原料の起源推定を容易に、関係国とのデータ交換で密造原料の起源の傾向をとらえた。クロル中間体及びエフェドリン類の高感度検出法を確立し、キー不純物情報から密造法推定を可能とした。異なる3地域の麻黄の安定同位体比を測定し、起源解析に役立つ特徴的な差異を見出した。抗リーシュマニア活性を有し、新薬の候補化合物となるミャンマー産植物を発見した。その根には抗腫瘍性に関連する活性現象も観察された。THCA生合成酵素遺伝子の配列は、THCの含有率で2タイプに分かれた。大麻の生葉、乾燥葉、種子の検体で3種類の全てでrbcL遺伝子、ドラッグタイプ型THCA生合成酵素遺伝子の2領域の検出が可能となった
結論
ミャンマーの少数民族の経済支援のための伝統薬栽培と漢方原料植物及び薬用果樹栽培の継続で、多数の薬用植物の栽培候補を見出した。新政府により海外との経済交流が可能となり、日本の製薬会社等による大量栽培が開始できたことは大きな前進である。抗リーシュマニア活性を有する成分の発見は、有用性が確定された際には、種の多様性条約の利益分配の面から重要な植物となることが期待できる。アサの生物学的情報のデータベース化は、大麻鑑定作業に有用な手法といえる。覚せい剤の密造地がグローバルに拡散し、原料規制対策に化学情報の重要性が認識されている。本研究がリードしてきた多面的な覚せい剤の安定同位体分析や有機不純物分析によるプロファイリング手法での蓄積情報を、今後の国際的な原料規制に役立てていく努力を期待する。

公開日・更新日

公開日
2012-06-15
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201132021C

成果

専門的・学術的観点からの成果
東南アジアの乱用薬物拡散防止の一翼を担う成果を得た。インドシナ半島でのケシ栽培は減少の傾向にある。ミャンマーのケシ栽培中心の少数民族は新政府と平和協定が進み、我々の10年に渡る研究成果が効果を挙げてきた。覚せい剤(ATS)の原料物質等に関する研究では、東南アジアでの流通品の分析から覚せい剤プロファイリングを作成した。流通ルートが鮮明になると思われる。ミャンマーでは少数民族の健康増進のための生薬局方を作成した。またミャンマーで新しい治療薬候補の植物を発見した。大麻の遺伝子解明も成功した。
臨床的観点からの成果
乱用薬物の国内への不正流通が、減少する傾向が見られる。インドシナ半島の生産地域では、代替植物の導入により、経済基盤が変化しつつある。政治体制の変革により、少数民族とミャンマー政府の交流の一つに、麻薬代替植物の栽培実績が効果を挙げている。反政府勢力のカチン族やカレン族から薬用植物による経済自立の相談があり、置き薬プロジェクトと農園作りを行う計画がある。乱用薬物プロファイルは現状の押収品の分析から不正ルートの解明が進むと思われる。チークの葉が難病(リューシュマニア症)の治療に有効であった。
ガイドライン等の開発
乱用薬物対策として、薬用資源植物の利用と保護保存をアセアン伝統薬会議の運用に助言し各国の伝統薬のハーバル薬局方を作成している。資源保護として、昨年、日本で薬用植物の保護に関すガイドライン会議を行った。置き薬プロジェクトは日本財団と共同でタイ、ミャンマー、カンボジア、ラオス、ベトナムで実行されている。乱用薬物プロファイル作りは、覚せい剤の微量の中間体をLC/MSにより検出し密造ルートの解明が可能になった。ミャンマー食品安全分析センター創立に寄与し、食品の輸出入が安全に行われるようになった。
その他行政的観点からの成果
乱用薬物の中継基地撲滅の研究を2002年から2014年のケシ栽培撲滅をミャンマー政府の宣言が実現できるよう活動してきた。2015年には少数民族との和平が見えてきた。2016年にはミャンマー新政府が発足した。新政府の薬品・食品行政への助言を川西徹国立医薬品・食品衛生研究所長と共に行った。新政権が少数民族支援を強く打ち出している。薬用植物栽培技術がこれらの人々へ浸透し、経済作物となる計画がシャン州及びカヤイン州で始まっている。
その他のインパクト
本研究はミャンマー政府の信頼が深く、薬用植物や農業作物の振興を通しての、経済復興に支援できる研究成果がある。日本政府の迅速な技術及び経済的支援が大切である。厚生労働省としては、医薬品の安定供給のための流通ルートの確立と医薬品行政化の指導を行うことにより、乱用薬物防止にも寄与できると思われる。ASEANの伝統薬振興には、日本の技術支援が不可欠である。乱用薬物流通防止は困難な道ではあるが、地道な努力で作られた技術と人脈があれば可能である。本年度は最も大切な時期になったと思う。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
13件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Makino Yukiko
Simple HPLC method for detection of trace ephedrine and pseudoephedrine in high-purity methamphetamine
Biomedical Chromatography ,  (26) , 327-330  (2012)
原著論文2
Rangel, M; Cabrera, M. P. S.; Kazuma K.; Ando et al
Chemical and biological characterization of four new linear cationic α-helical peptides from the venoms of two solitary eumenine wasps
Toxicon ,  (57) , 1081-1092  (2011)
原著論文3
Asahina, H., Shinozaki, J., Masuda et al
Identification of medicinal Dendrobium species by phylogenetic analyses using matK and rbcL sequences
Journal of Natural Medicines ,  (64) , 133-138  (2010)
原著論文4
佐竹元吉
インドシナ半島のケシ代替植物プロジェクト
Pharmashia ,  (46) , 845-850  (2010)
原著論文5
N. Kurashima, Y. Makino, Y. Urano et al
Use of stable isotope ratios for profiling of industrial ephedrine samples: Application of hydrogen isotope ratios in combination with carbon and nitrogen
Forensic Sci. Int. ,  (189) , 14-18  (2009)
原著論文6
佐竹元吉
薬用植物とその保存
Techno Innovation ,  (19) , 50-60  (2009)
原著論文7
Kanami Mori-Yasumoto, Ryoko Izumoto, Hiroyuki Fuchino et al.
Leishmanicidal activities and cytotoxicities of bisnaphthoquinone analogues and naphthol derivatives from Burman Diospyros burmanica
Bioorganic & Medicinal Chemistry ,  (20) , 5215-5219  (2012)
原著論文8
Osamu Shirota, Jennifer M. Oribello, Setsuko Sekita et al.
Sesquiterpenes from Blumea balsamifera
J. Nat. Prod. ,  (74) , 470-476  (2011)

公開日・更新日

公開日
2014-05-27
更新日
2017-05-30

収支報告書

文献番号
201132021Z