輸血用血液製剤に対する副作用を生じない病原体不活化技術の開発に関する研究

文献情報

文献番号
201132012A
報告書区分
総括
研究課題名
輸血用血液製剤に対する副作用を生じない病原体不活化技術の開発に関する研究
課題番号
H21-医薬・一般-014
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
山口 照英(国立医薬品食品衛生研究所 生物薬品部)
研究分担者(所属機関)
  • 遊佐 敬介(国立医薬品食品衛生研究所 生物薬品部)
  • 石井 明子(国立医薬品食品衛生研究所 生物薬品部)
  • 原園 景(国立医薬品食品衛生研究所 生物薬品部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
7,370,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
輸血用血液製剤のさらなる安全性向上のために開発が進められてきているウイルス等病原体不活化技術について、有効成分、及び、製剤成分への影響評価を行い、現在開発中の不活化法で課題となる点を明らかにする。また、ウイルス不活化能の評価に有用なモデルウイルスを調製し、その特性を明らかにする。
研究方法
有効成分として血液凝固第VIII因子、製剤成分としてIgGを選択し、不活化処理がこれらのタンパク質に与える影響を評価した。モデルウイルスとしてカリシウイルスを調製し、特性解析を行った。
結果と考察
1) 有効成分への影響評価:モデル血漿タンパク質としてFⅧを用い,還元アルキル化及びトリプシン消化後LC/MSを行い,アミノ酸配列のうち90%に相当するペプチド部分を確認した.FⅧに光増感剤及び光照射処理を行い,ペプチドマップで解析し,メチオニンの酸化が起こりやすい部位を確認した.光化学反応が有効成分へ及ぼす影響を評価するためには,分析操作中に生じる酸化を十分に抑制できる手法,並びに変化の程度を適切に評価することが必要である.
2) 製剤成分への影響評価:輸血用血液製剤の病原体不活化処理への導入が検討されているリボフラビン-UV処理時に生じうるIgGの酸化が,抗原およびFc受容体結合能,ならびにFcγ受容体活性化能に及ぼす影響について検討し,酸化によりIgGのFcγIIa活性化能が低下することを明らかにした.
3) ウイルス不活化能の評価に有用なモデルウイルスの調製と特性解析:物理・化学的な処理に比較的抵抗性である非エンベロープウイルスのモデルとしてカリシウイルスを取り上げ、 そのウイルスの感染宿主域ついて調べ、アフリカミドリザル腎由来細胞にも感染することを明らかにした。アフリカミドリザルの腎由来細胞はワクチン製造などにも多用される細胞であり、その点からもモデルウイルスの宿主域の解析は重要であると考えられる。FCVはノロウイルスと近縁であるため、ノロウイルスの代替ウイルスとして使われることがあるが、血液製剤や組換えタンパク質製造におけるモデルウイルスとしても有用であると考えられる。
結論
血漿製剤の有効成分である血液凝固第VIII因子、及び、血漿製剤、血小板製剤等に含まれるIgGに対する病原体不活化処理の影響について検討し、これらの血漿タンパク質の構造や機能が、不活化処理に伴い変化する可能性を見出した。また、病原体不活可能の評価に有用なモデルウイルとして、非エンベロープウイルスであるネコカリシウイルスを調製し、その宿主域を明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2012-06-11
更新日
-

文献情報

文献番号
201132012B
報告書区分
総合
研究課題名
輸血用血液製剤に対する副作用を生じない病原体不活化技術の開発に関する研究
課題番号
H21-医薬・一般-014
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
山口 照英(国立医薬品食品衛生研究所 生物薬品部)
研究分担者(所属機関)
  • 川崎 ナナ(国立医薬品食品衛生研究所 生物薬品部)
  • 遊佐 敬介(国立医薬品食品衛生研究所 生物薬品部)
  • 石井 明子(国立医薬品食品衛生研究所 生物薬品部)
  • 原園 景(国立医薬品食品衛生研究所 生物薬品部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
輸血用血液製剤の病原体不活化技術について、有効成分、及び、製剤成分への影響を明らかにする。また、ウイルス不活化能の評価に有用なモデルウイルスを調製し、その特性を明らかにする。
研究方法
有効成分として血液凝固第VIII因子、製剤成分としてIgGを選択し、不活化処理がこれらのタンパク質に与える影響を評価した。モデルウイルスを調製し、特性解析を行った。
結果と考察
1) 有効成分への影響評価: 光化学反応を利用した新規ウイルス不活化法が血漿製剤の血液凝固因子活性の低下を引き起こすことが知られている. LC/MSを用いて遺伝子組換え血液凝固第八因子のペプチドマッピングを行い,19カ所分のN結合型糖鎖及び22カ所分のO結合型糖鎖付加したペプチドを含め,約90%のアミノ酸配列を確認した.次に,モデルペプチドを用いて,メチレンブルー/光照射及びリボフラビン/照射を行ったところ,認められた主な影響は,メチオニンの酸化体の形成であった.また、血液凝固第八因子で酸化を受けやすいメチオニン残基を確認した。
2) 製剤成分への影響評価:輸血用血液製剤投与後に生じる有害作用には、製剤成分に含まれるIgGが関与する場合があることが知られているため、リボフラビン-UV処理がヒトIgGの機能に与える影響を検討した。リボフラビン-UV処理によりIgGのFcγRIIaへの結合性が亢進する傾向が示され、不活化処理により製剤中IgGの機能変化が生じる可能性が示唆された。酸化処理したIgGではFcγ受容体活性化能が減弱していたことから、リボフラビン-UV処理では、酸化以外の構造変化が生じていると考えられた。
3)モデルウイルスの調製と特性解析:ヒトレトロウイルスのモデルウイルスとして、多様な組み合わせのアミノ酸変異をエンベロープタンパク質に導入したウイルスライブラリーを作製した。次に、非エンベロープウイルスのモデルとしてネコカリシウイルスを取り上げ,感染宿主域を調べた。ネコカリシウイルスは、ヒト細胞には感染しなかったが、アフリカミドリザルの腎由来細胞に感染した。アフリカミドリザル腎由来細胞はワクチン製造等にも用いられる細胞であり、調製したネコカリシウイルスは組換えタンパク質製造におけるモデルウイルスとしても有用であると考えられる。
結論
病原体不活化技術導入の検討に際しては、適切なモデルウイルスを用いた不活化能の評価を行うと共に、本研究により見出されたような不活化処理による製剤成分の構造や機能変化も踏まえて、安全性上の問題がないことを明らかにしていくことが必要と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2012-06-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201132012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究の成果、すなわち、病原体不活化処理により生じる血漿成分の構造変化に関する解析手法の確立や、病原体不活化処理による血小板やIgG等の製剤成分の機能変化の解明は、適切なウイルス不活化技術の選択につながるものであり、ウイルス不活化技術導入への科学的根拠を提供することになる。また、モデルウイルスの感染宿主域に関する解析結果は、不活化処理によるウイルス不活化の定量評価系構築において、有効活用されるものであり、ひいては新たな不活化技術の開発に貢献し得るものと考えられる。
臨床的観点からの成果
輸血用血液製剤には、赤血球製剤、血漿製剤、血小板製剤、全血製剤があり、これらは、種々の重篤な疾患の治療や緊急時に使用される医薬品であるため、その有効性・安全性確保は全ての国民の保健衛生の向上につながる。本研究は、輸血用血液製剤の安全性のさらなる向上に有用であることから、緊急時医療等の安全性向上に貢献するものである。
ガイドライン等の開発
本研究の成果を関連する調査会や部会等に提出するには至っていないが、得られた情報を基に審議におけるコメントの参考とした。不活化特に血漿成分等への影響をどのように捕らえるかが重要であるという視点が得られたことは有用であった。
その他行政的観点からの成果
研究代表者は、薬事・食品衛生審議会血液事業部会の委員を務めており、本研究の成果は、部会でのコメントを通じて、輸血用血液製剤の品質安全性の向上に反映されている。
その他のインパクト
薬事・食品衛生審議会血液事業部会の審議内容・審議録は、厚生労働省のホームページで公開されており、本研究の成果の一部は、部会での審議に活用されていることから、国民の保健衛生の向上、延いては、国民生活の安心・安全の確保に貢献している。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
山口照英,石井明子
早期臨床開発段階でのバイオ医薬品の品質・安全性確保
臨床評価 , 36 , 611-627  (2009)
原著論文2
橋井則貴,原園 景,川崎ナナ
バイオ医薬品の品質・安全性評価シリーズ(第1回)バイオ医薬品の物理的化学的性質解析の現状
ファームテクジャパン , 27 (13) , 2633-2638  (2011)
原著論文3
Maeda, Y., Yusa, K., Nakano, Y.,et al.
Involvement of inhibitory factors in the inefficient entry of HIV-1 into the human CD4 positive HUT78 cell line.
Virus Res. , 155 , 368-371  (2011)
原著論文4
Yuan, Y., Maeda, Y.,Yusa, K.et al.
A Combination of Polymorphic Mutations in V3 Loop of HIV-1 gp120 Can Confer Noncompetitive Resistance to Maraviroc.
Virology , 413 , 293-299  (2011)
原著論文5
Maeda, Y., Yoshimura, K., Yusa, K. et al.
In vitro and In vivo Resistance to Human Immunodeficiency Virus Type 1 Entry Inhibitors.
J. AIDS Clin. Res. , 2  (2011)
原著論文6
遊佐敬介, 山口照英, 川崎ナナ
ヒトに感染が疑われているレトロウイルスとウイルス安全性
医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス , 42 , 444-447  (2011)
原著論文7
遊佐敬介, 新見伸吾, 橋井則貴
バイオ医薬品の外来性感染物質について
Pharm. Tech. Jpn  (2012)

公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
-

収支報告書

文献番号
201132012Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,370,000円
(2)補助金確定額
7,370,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 6,115,757円
人件費・謝金 70,500円
旅費 151,300円
その他 1,033,696円
間接経費 0円
合計 7,371,253円

備考

備考
預金利息

公開日・更新日

公開日
2017-05-30
更新日
-