食品中成分から生成されるアクリルアミドのリスク管理対策に関する研究

文献情報

文献番号
201131012A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中成分から生成されるアクリルアミドのリスク管理対策に関する研究
課題番号
H21-食品・一般-012
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
今井 俊夫(独立行政法人国立がん研究センター 研究所 動物実験支援施設)
研究分担者(所属機関)
  • 梅村 隆志(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
  • 本間 正充(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
10,993,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
加工食品に含まれるアクリルアミド(AA)は遺伝毒性発がん物質であり、そのヒトへのリスクが懸念されている。AAの発がん機序として、遺伝毒性のほか内分泌環境の変化や酸化的ストレスの関与の可能性が指摘され、疫学的にも食品からのAA摂取量と乳がん及び子宮内膜がんとの関連性を示す報告があるが、詳細は不明である。また、AAの職業暴露と膵がんとの関連性についての報告があるが、ラットでは膵管がんの発生はみられない。そこで本研究では、(1) 膵管発がん感受性を示すハムスターと非感受性のラットにおけるAAの発がん標的臓器及び内分泌環境に及ぼす影響の種差 (2) AAによる酸化的DNA損傷の発がんへの関与 (3) AAの遺伝毒性の発現機序について検討することにより、AAの発がん機序とヒトへの外挿性を明らかにし、リスク管理対策に寄与することを目的とする。
研究方法
(1) ハムスターの78週間発がん実験を終了し、ラットの2年間投与実験では乳腺組織における酸化的ストレスについて検討した。(2) gpt deltaマウスを用いた4週間投与実験を行い、肺及び肝臓における特異的DNA付加体量と酸化的ストレス応答因子Nrf2に転写制御を受ける遺伝子群の発現を検索した。(3) 幼若及び成熟gpt deltaマウスを用いた4週間投与実験を行い、赤血球pig-A/精巣gpt遺伝子突然変異とDNA付加体量を検索した。
結果と考察
(1) ハムスターにおいて前胃の乳頭腫/扁平上皮がんが誘発されたが、膵管がんは誘発されなかった。ラットを用いた実験では、乳腺組織中グルタチオン濃度に変化はなかった。(2) N7-GA-Gua量は、肺および肝臓で用量依存的に増加したが、Nrf2に転写制御を受ける遺伝子群は、肺で僅かに増加した程度に留まった。酸化的DNA損傷の指標である8-OHdGの上昇がみられなかった昨年度の結果を考慮すると、AAは酸化的ストレスを惹起するがDNAの酸化的傷害は誘発せず、AAの遺伝毒性に対する直接的なDNA損傷の関与が示唆された。(3) 赤血球pig-A遺伝子及び精巣gpt遺伝子突然変異は増加したが、幼若及び成熟動物間で差はみられず、精巣におけるDNA付加体量は幼若マウスで顕著に増加し、ライフステージによるAA代謝の違いに関連すると考えられた。
結論
AAの発がん機序として、酸化的ストレスの関与は乏しく、直接的なDNA損傷の影響が否定できないと考えられた。

公開日・更新日

公開日
2012-05-23
更新日
-

文献情報

文献番号
201131012B
報告書区分
総合
研究課題名
食品中成分から生成されるアクリルアミドのリスク管理対策に関する研究
課題番号
H21-食品・一般-012
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
今井 俊夫(独立行政法人国立がん研究センター 研究所 動物実験支援施設)
研究分担者(所属機関)
  • 梅村 隆志(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
  • 本間 正充(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
加工食品中に含まれるアクリルアミド(AA)は遺伝毒性発がん物質で、ヒトにおけるリスクが懸念される。その発がん機序として、実験的には遺伝毒性のほか内分泌環境の変化や酸化的ストレスの関与の可能性が指摘され、疫学的にも食品からのAA摂取量と乳がんや子宮内膜がん発生率との関連性を示す報告がある。また、AAの職業暴露と膵がんとの関連性についての報告があるが、マウス、ラットでは膵管がんの発生はみられない。従って、動物におけるAAの発がん機序およびヒトへの外挿性について更に詳細な検討が必要である。
研究方法
(1) 膵管発がん感受性のハムスターを用いたAAの78週間飲水投与実験により発がん標的臓器について、ラットの2年間投与実験では発がんに対する内分泌系と酸化的ストレスの関与について検討した。(2) gpt deltaマウスを用いた4週間投与実験にて、肺及び肝臓における遺伝子突然変異、8-OHdG量、特異的DNA付加体量と酸化的ストレス応答因子Nrf2に転写制御を受ける遺伝子群の発現を検索した。(3) 幼若及び成熟SDラット及びgpt deltaマウスを用いた4週間投与実験にて、各種遺伝毒性とDNA付加体量について比較検討した。
結果と考察
(1) ハムスターでは前胃腫瘍が誘発され、膵管がんは誘発されなかった。ラットでは、乳腺組織にて細胞増殖が活性化したが、内分泌環境と組織中グルタチオン濃度に変化はなかった。(2) 肺及び肝臓では遺伝子突然変異頻度が上昇、DNA付加体量は増加したが、Nrf2に転写制御を受ける遺伝子群は肺での僅かな増加に留まった。酸化的DNA損傷の指標である8-OHdGの上昇はなく、AAは酸化的ストレスを惹起するがDNAの酸化的傷害は誘発せず、その遺伝毒性に対する直接的なDNA損傷の関与が示唆された。(3)ラットでは末梢血、骨髄の小核、赤血球pig-A突然変異、肝臓のコメットは増加したが、幼若及び成熟動物で差はなかった。一方、精巣の小核とDNA付加体量は幼若ラットで増加した。マウスの精巣でも同様の結果が得られ、代謝の週齢差に関連するものと考えられた。マウスのpig-A突然変異や幼若期の精巣のDNA付加体量について用量反応性が顕著であった。
結論
AAの遺伝毒性および発がんメカニズムについて、直接的なDNA損傷の影響が示唆され、内分泌環境に対する影響あるいは酸化的ストレスが関与している可能性は低いと考えられた。

公開日・更新日

公開日
2012-05-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201131012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
加工食品中に含まれるアクリルアミド(AA)は遺伝毒性発がん物質であり、ヒトにおけるリスクが懸念される。一方、その発がん機序として、実験的には遺伝毒性のほか内分泌環境の変化や酸化的ストレスの関与の可能性が指摘され、動物におけるAAの発がん機序およびヒトへの外挿性についての解明は重要な研究課題である。本研究においてはその知見が蓄積され、リスク評価・管理に貢献できる成果が得られた。また、研究計画に対して着実に成果を出し、それらは専門雑誌にて査読を受けて掲載されており、一定の評価を受けたと判断される。
臨床的観点からの成果
疫学的に食品からのAA摂取量と乳がんとの関連性を示す報告があり、本研究で得られたラット乳腺における細胞増殖活性の亢進とその分子機構に関する知見については、疫学研究の結果を考察する上で有用な基礎データとなり得る。
ガイドライン等の開発
AAの遺伝毒性と発がん性について用量相関性を示し、低用量域でのリスク管理に有用なデータが蓄積された。
その他行政的観点からの成果
第72回JECFA(2010年2月、ローマ)におけるAAの再評価において、本研究で得られた成果が3編引用され、また資料の作成に寄与した。
内閣府食品安全委員会において、「加熱時に生じるアクリルアミド」の評価書が取りまとめられ(2016年4月)、本研究で得られた成果が6編引用され、また評価書の取りまとめに寄与した。
その他のインパクト
該当なし。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
8件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Cho YM, Imai T, Hasumura M et al.
Increased H-ras mutation frequency in mammary tumors of rats initiated with N-methyl-N-nitroso- urea (MNU) and treated with acrylamide.
J Toxicol Sci , 34 (4) , 407-412  (2009)
原著論文2
Takami S, Imai T, Cho YM et al.
Juvenile rats do not exhibit elevated sensitivity to acrylamide toxicity after oral administration for 12 weeks.
J Appl Toxicol , 32 (12) , 959-967  (2012)
原著論文3
Koyama N, Imai T, Honma M, et al.
Acrylamide genotoxicity in young vs. adult gpt delta male rats.
Mutagenesis , 26 (4) , 545-549  (2011)
原著論文4
Koyama N, Yasui M, Honma M, et al.
Genotoxicity of acrylamide in vitro: Acrylamide is not metabolically activated in standard in vitro systems.
Environ Mol Mutagen , 52 (1) , 12-19  (2011)
原著論文5
Takahashi M, Inoue K, Honma M, et al.
Life stage-related differences in susceptibility to acrylamide-induced neural and testicular toxicity.
Arch Toxicol , 85 , 1109-1120  (2011)
原著論文6
Takami S, Imai T, Nishikawa A, et al.
Lack of modifying effects of prepubertal exposure to acrylamide (AA) on N-methyl-N-nitrosourea (MNU)-induced multi-organ carcinogenesis in F344 rats.
J Toxicol Sci , 35 (1) , 57-68  (2010)
原著論文7
Imai T, Kitahashi T
A 13-week toxicity study of acrylamide administered in drinking water to hamsters.
J Appl Toxicol , 34 (1) , 57-65  (2013)
原著論文8
Ishii Y, Matsushita K, Kuroda K, Yokoo Y, Kijima A, Takasu S, Kodama Y, Nishikawa A, Umemura T
Acrylamide induces specific DNA adduct formation and gene mutations in a carcinogenic target site, the mouse lung
Mutagenesis , 30 (2) , 227-235  (2015)

公開日・更新日

公開日
2016-06-10
更新日
-

収支報告書

文献番号
201131012Z