食品添加物等における遺伝毒性・発がん性の短期包括的試験法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
201131011A
報告書区分
総括
研究課題名
食品添加物等における遺伝毒性・発がん性の短期包括的試験法の開発に関する研究
課題番号
H21-食品・一般-011
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
鰐渕 英機(大阪市立大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 今井田 克己(香川大学 医学部)
  • 辻内 俊文(近畿大学理工学部)
  • 魏 民(大阪市立大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、がんの一次予防を最終目標とし、食品中の化学物質、特に食品添加物等の遺伝毒性と発がん性を短期的かつ包括的に検出できる新しい発がんリスク評価法の開発を目的とする。
研究方法
ラット肝発がん物質であるダンマル樹脂、IQおよびコウジ酸を用いて、in vivo変異原性が検索可能なF344系gpt deltaおよびF344ラットを用いた18週間多臓器発がん性試験法の開発を行った。また、ラット腎発がんおよびマウス肺発がんの新規前がん病変マーカーの同定を行った。さらに、C57BL/6J系gpt deltaマウスにおけるダンマル樹脂およびIQの変異原性を検討した。
結果と考察
F344ラットを用いたコウジ酸およびIQの18週間多臓器発がん性試験では、これまでの長期発がん性試験の報告と同様に、IQの大腸発がん促進作用およびコウジ酸の甲状腺発がん促進作用が認められた。また、昨年度ではダンマル樹脂、コウジ酸およびIQの肝発がん促進作用も確認されていることから、本試験法は多臓器発がん性試験法として有用であることが明らかとなった。さらに、gpt deltaラットを用いた32週間多臓器発がん性試験で、18週と同様にダンマル樹脂の肝発がん促進作用が認められたことから、より短期間の18週間多臓器発がん性試験の妥当性が確認された。gpt deltaラットを用いた変異原性試験では、これまでに遺伝毒性の有無が明らかではないコウジ酸が変異原性を有しないことを明らかにした。
 ラット腎発がんの新規前がん病変マーカーの開発では、EHEN誘発腎腫瘍に高発現するGBP2蛋白の同定に成功した。また、マウス肺扁平上皮がんモデルにおいて、細胞増殖能及び扁平上皮分化能を有する気管支肺胞幹細胞 (BASC)の存在が認められたことにより発がん過程早期においてBASCの関与が明らかとなった。早期検出のマーカーとして、BASCにおけるRev1蛋白の過剰発現が指標となる可能性が示唆された。これらの結果が新しい発がんリスク評価法の開発に寄与すると考えられた。
 C57BL/6J 系gpt deltaマウスを用いてダンマル樹脂の変異原性を検討した結果、ダンマル樹脂はマウスにおいても変異原性を有さないことが明らかとなった。

結論
gpt deltaおよびF344ラットを用いた18週間多臓器発がん性試験法では、食品添加物等の発がん性の評価とin vivo変異原性の検討を合わせて実施できると同時に、化学食品添加物の発がん性に対する遺伝毒性の寄与についても検討することが可能で、新しい発がんリスク評価法であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2012-05-31
更新日
-

文献情報

文献番号
201131011B
報告書区分
総合
研究課題名
食品添加物等における遺伝毒性・発がん性の短期包括的試験法の開発に関する研究
課題番号
H21-食品・一般-011
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
鰐渕 英機(大阪市立大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 今井田 克己(香川大学 医学部)
  • 辻内 俊文(近畿大学理工学部)
  • 魏 民(大阪市立大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食品中の化学物質、特に食品添加物等の発がん性と遺伝毒性を短期間かつ包括的に検出できる新しい発がんリスク評価法の開発を行った。また、発がん性評価のための新規前がん病変マーカーの同定を行った。
研究方法
in vivo変異原性が検索可能なgpt deltaラットを用いて、二段階発がん性試験である短期多臓器発がん性試験法の開発を行った。イニシエーション群では被験物質の発がん性を短期に検索でき、非イニシエーション群では被験物質のin vivo変異原性を評価できるシステムの開発を目的とした。被検物質として、肝発がん性を示す3物質で、変異原性陰性のダンマル樹脂、変異原性陽性のIQ、そしてin vitro変異原性偽陽性であるコウジ酸を用いた。加えて、B6C3F1マウスを用いて新規マウス発がんリスク評価試験法の開発も合わせて行った。さらに、ラット腎発がんおよびマウス肺発がんの新規前がん病変マーカーの同定を行った。
結果と考察
gpt deltaラットあるいはF344ラットを用いた18週間多臓器発がん性試験では、ダンマル樹脂、IQ、およびコウジ酸いずれも肝発がん促進作用陽性であるが、gpt deltaラットを用いたin vivo変異原性試験では、それぞれ陰性、陽性、陰性となりこれまでの試験では変異原性偽陽性であったコウジ酸のin vivo変異原性陰性が明らかになり、コウジ酸が非遺伝毒性であることを初めて明らかにし、この試験法は肝発がん性および変異原性の包括的評価試験法としての有用性を証明した。さらに、gpt deltaラットを用いた32週間多臓器発がん性試験では、18週と同様にダンマル樹脂投与群で肝発がん促進作用が認められたことから、18週間多臓器発がん性試験の試験期間の妥当性が確認された。
B6C3F1マウスを用いて肝発がん物質を検出するには肝部分切除→イニシエーション→被検物質の投与が有用であることが明らかとなった。
S100A11 およびGBP2がラット腎発がんの新規前がん病変マーカーとなりうることを示した。また、Rev1蛋白過剰発現を示す気管支肺胞幹細胞(BASC Rev+)がマウス肺扁平上皮がんの前がん病変マーカーとなる可能性が示された。
結論
in vivo変異原性を検索できるgpt deltaおよびF344ラットを用いて、発がん性と遺伝毒性を包括的に検出できる新規発がんリスク評価法の開発に成功した。また、B6C3F1マウスを用いた新規マウス肝発がん試験法を開発した。さらに、S100A11 、GBP2およびBASC Rev+が新規発がん性試験法の開発に有用である可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2012-05-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201131011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は、感度、特異度ともに優れる前がん病変マーカーを用いて、食品中の化学物質の発がん性を短期間に検出できる発がん性試験と、 gpt deltaラットを用いたin vivo変異原性試験を組み合わせて、遺伝毒性・発がん性を短期間に包括的に評価できる新規試験法を開発した。
臨床的観点からの成果
なし
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
これまで、化学物質の発がん性評価は、in vitroの遺伝毒性試験のスクリーニングの後、長期発がん性試験で決定されてきた。しかし、長期発がん性試験には検索できる物質数に限りがあり、ほとんどの食品中化学物質の発がん性評価は行えていないのが現状である。本研究における成果を基にして、これらの食品および食品添加物の発がん性評価を含めた安全性評価システムを確立することは、食品の安全・安心につながるリスク評価に大いに貢献する。
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
60件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
112件
学会発表(国際学会等)
12件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yokohira M, Hashimoto N, Yamakawa K, et al
Lack of modifying effects of intratracheal instillation of quartz or dextran sulfate sodium (DSS) in drinking water on lung tumor development initiated with 4-(methylnitrosamino)-1-(3- pyridyl)-1-butanone (NNK) in female A/J mice
J. Toxicol. Pathol. , 22 , 179-185  (2009)
10.1293/tox.22.179.
原著論文2
Matsuda Y, Takeuchi H, Yokohira M, et al
Enhancing effects of a high fat diet on 2-amino-3,8-dimethylimidazo [4,5-f]quinoxaline (MeIQx) induced lung tumorigenesis in female A/J mice
Molecular Medicine Reports, , 2 , 701-706  (2009)
10.3892/mmr_00000159.
原著論文3
Takeuchi H, Saoo K, Matsuda Y, et al
8-Methoxy-psoralen, a potent human CYP2A6 inhibitor, inhibits lung adenocarcinoma development induced by 4-(methyl-nitrosamino)- 1-(3-pyridyl)-1-butanone (NNK) in female A/J mice
Molecular Medicine Reports , 2 , 585-588  (2009)
10.3892/mmr_00000141.
原著論文4
Yokohira M, Mastuda Y, Suzuki S, et al
Equivocal colonic carcinogenicity of Aloe arborescens Miller var. natalensis Berger at high dose level in a Wistar Hannover rat 2-year Study
J. Food Sci. , 74 (2) , 24-30  (2009)
10.1111/j.1750-3841.2009.01070.x.
原著論文5
Doi K, Sakai K, Tanaka R, et al
Chemopreventive effects of 13alpha, 14alpha- epoxy-3beta-methoxyserratan-21beta-ol (PJJ-34), a serratane-type triterpenoid, in a rat multi-organ carcinogenesis bioassay
Cancer Lett. , 289 , 161-169  (2010)
10.1016/j.canlet.2009.08.011.
原著論文6
Kuno T, Hirose Y, Yamada Y, et al
Chemoprevention of 1,2-dimethyl-hydrazine-induced colonic preneoplastic lesions in Fischer rats by 6-methylsulfinylhexyl isothiocyanate, a wasabi derivative
Oncology Letters , 1 , 273-278  (2010)
原著論文7
Yamakawa K, Kuno T, Hashimoto N, et al
Molecular analysis of carcinogen induced rodent lung tumors-Invovement of microRNA expression and Kras or EGFR mutation
Molecular Medicine Reports , 3 , 141-147  (2010)
10.3892/mmr_00000231.
原著論文8
Suzuki S, Yokohira M, Hashimoto N, et al
Different threshold levels for 2-amino-3,8 dimethylimidazo[4,5-f]quinoxaline (MelQx) initiation of lung and colon carcinogenesis and the effects of an additional initiation by 4 (methylnitrosamino)-1-(3-pyridyl)-1-butanone (NNK) in A/J mice.
Molecular Medicine Reports , 3 , 301-307  (2010)
10.3892/mmr_00000255
原著論文9
Okabe K, Hayashi M, Yamawaki Y, et al
Possible involvement of lysophosphatidic acid receptor-5 gene in the aquisition of growth advantage of rat tumor cells.
Mol Carcinog. , 50 , 635-642  (2011)
10.1002/mc.20750.
原著論文10
Okabe K, Kato K, Teranishi M, et al
Induction of lysophosphatidic acid receptor-3 by 12-O-tertadecanolphorbol-13 -acetate stimulates cell migration of rat liver cells
Cancer Lett. , 309 , 236-242  (2011)
10.1016/j.canlet.2011.06.020.
原著論文11
Ishii N, Wei M, Kakehashi A, et al
Enhanced urinary bladder, liver and colon carcinogenesis in Zucker diabetic fatty rats in a mulri-organ carcinogenesis: Evidence for mechanisms involving activation of PI3K signaling and impairment of p53 on urinary bladder carcinogenesis
J Toxicol Pathol. , 24 , 1-12  (2011)
10.1293/tox.24.25.
原著論文12
Kakehashi A, Ishii N, Shibata T, et al
Mitochondrial prohibitins and septin 9 are implicated in the onset of rat hepatocarcinogenesis
Toxicol Sci. , 119 , 61-72  (2011)
10.1093/toxsci/kfq307.
原著論文13
Okabe K, Hayashi M, Yoshida I,et al
Distinct DNA methylation patterns of lysophosphatidic acid receptor genes during rat hepatocarcinogenesis induced by a choline deficient L-amino acid defined diet
Arch Toxicol. , 85 , 1303-1310  (2011)
10.1007/s00204-011-0656-7
原著論文14
Wei M, Kakehashi A, Wanibuchi H, et al
Lack of Hepatocarcinogenicity of Combinations of Low Doses of 2-amino-3, 8-dimethylimidazo[4,5- f ]quinoxaline and Diethylnitrosamine in Rats: Indication for the Existence of a Threshold for Genotoxic Carcinogens.
J Toxicol Pathol , 25 , 209-214  (2012)
10.1293/tox.25.209
原著論文15
Xie XL, Wei M, Wanibuchi H, et al
Long-term treatment with l-isoleucine or l-leucine in AIN-93G diet has promoting effects on rat bladder carcinogenesis.
Food Chem Toxicol , 50 , 3934-3940  (2012)
10.1016/j.fct.2012.07.063.
原著論文16
Xie XL, Wei M, Wanibuchi H, et al
Dammar resin, a non-mutagen, inducts oxidative stress and metabolic enzymes in the liver of gpt delta transgenic mouse which is different from a mutagen, 2-amino-3-methylimidazo[4,5-f]quinoline.
Mutat Res , 748 , 29-35  (2012)
10.1016/j.mrgentox.2012.06.005.
原著論文17
Xie XL, Wei M, Kakehashi A, et al
2-Amino-3-methylimidazo[4,5-f]quinoline (IQ) promotes mouse hepatocarcinogenesis by activating transforming growth factor-beta and Wnt/beta-catenin signaling pathways
Toxicol Sci. , 125 , 392-400  (2012)
10.1093/toxsci/kfr314.
原著論文18
Hayashi M, Okabe K, Kato K, et al
Different function of lysophosphatidic acid receptors in cell proliferation and migration of neuroblastoma cells
Cancer Lett. , 316 , 91-96  (2012)
10.1016/j.canlet.2011.10.030.
原著論文19
Yamada T, Wei M, Wanibuchi H, et al
Inhibitory effect of raphanobrassica on Helicobacter pylori-induced gastritis in Mongolian gerbils.
Food Chem Toxicol , 70 , 107-113  (2014)
10.1016/j.fct.2014.04.037.
原著論文20
Kakehashi A,Wei M, Wanibuchi H, et al
Valerian inhibits rat hepatocarcinogenesis by activating GABA(A) receptor-mediated signaling.
PLoS One , 9 , e113610-  (2014)
10.1371/journal.pone.0113610.

公開日・更新日

公開日
2016-06-10
更新日
-

収支報告書

文献番号
201131011Z