エーラスダンロス症候群(主に血管型および新型)の実態把握および診療指針の確立

文献情報

文献番号
201128137A
報告書区分
総括
研究課題名
エーラスダンロス症候群(主に血管型および新型)の実態把握および診療指針の確立
課題番号
H22-難治・一般-178
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
古庄 知己(国立大学法人 信州大学 医学部附属病院遺伝子診療部)
研究分担者(所属機関)
  • 福嶋 義光(国立大学法人 信州大学医学部 遺伝医学・予防医学講座)
  • 籏持 淳(獨協医科大学皮膚科 皮膚科学)
  • 渡邉 淳(日本医科大学附属病院遺伝診療科、生化学・分子生物学 分子遺伝学)
  • 松本 直通(横浜市立大学大学院医学研究科遺伝学 人類遺伝学)
  • 森崎 裕子(国立循環器病研究センター研究所分子生物学部 分子遺伝学)
  • 三宅 紀子(横浜市立大学大学院医学研究科遺伝学 人類遺伝学)
  • 鳴海 洋子(国立大学法人 信州大学医学部 遺伝医学・予防医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
Ehlers-Danlos症候群(EDS)は、皮膚・関節の過伸展性など結合組織の脆弱性を持つ先天性疾患であり、6つの主病型に分類されている。推定頻度は約1/5000人とされるが、本邦におけるEDSの実態は不明な点が多く、病型に合った診療指針も確立されていない。本研究の目的は、(1)血管型EDSにおける診療実態の解明、診療指針の構築。従来の皮膚線維芽細胞ベースの生化学分析・遺伝子解析よりも非侵襲的で精度の高い末梢血由来ゲノムDNAベースの解析法の開発。(2)我々が見出し原因遺伝子を単離した、顔貌上の特徴、先天性多発関節拘縮、進行性の結合組織脆弱性(皮膚弛緩、関節弛緩・変形、巨大皮下血腫など)を呈する新型EDSのさらなる病態解明および診療指針の構築。
研究方法
血管型EDS:確定診断例の収集を継続、動脈病変に関する二次調査を実施。高解像度融解曲線分析(hrMCA)法に基づく末梢血由来ゲノムDNAを用いたCOL3A1遺伝子変異スクリーニングの有効性に関する検討を継続。これらをふまえて診療指針を構築。
新型EDS:CHST14遺伝子解析による症例収集を継続、診療指針を構築。病理学・糖鎖医学的分析による病態解析、疾患モデルの作製。
結果と考察
血管型EDS:58家系66人を確認、2人がceliprololの投与を、14人が侵襲的治療(血管内治療、外科的治療)を受けていた。hrMCA法により新規スプライス変異を同定した。
新型EDS:報告例、自験例を含め24家系34人を見出した(本邦16家系18人)。患者尿中のデルマタン硫酸消失、真皮におけるデコリン/コラーゲン細線維の構造異常を示した。iPS細胞を樹立し、ノックアウトマウスの作製を進めた。
結論
血管型EDSの診療指針:早期生化学または遺伝子診断の後、動脈病変のスクリーニングを行い、celiprolol投与により予防。進行性動脈病変に対しては、血管内治療を考慮、血管内治療では対応できない病変に対しては、細心の注意を払い手術を考慮。
新型EDS:新生児期、特徴的顔貌と骨格症状から疑いCHST14遺伝子解析により確定診断。乳幼児期、内反足に対する整形外科治療や運動発達遅滞に対する理学療法などを考慮。その後、眼科、耳鼻科、泌尿器科、循環器科を含めた包括的な健康管理を行うとともに、巨大皮下血腫に対するDDAVP点鼻療法などの外傷予防対策を実施。

公開日・更新日

公開日
2013-03-10
更新日
-

文献情報

文献番号
201128137B
報告書区分
総合
研究課題名
エーラスダンロス症候群(主に血管型および新型)の実態把握および診療指針の確立
課題番号
H22-難治・一般-178
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
古庄 知己(国立大学法人 信州大学 医学部附属病院遺伝子診療部)
研究分担者(所属機関)
  • 福嶋 義光(国立大学法人 信州大学 医学部遺伝医学・予防医学講座)
  • 籏持 淳(獨協医科大学 皮膚科)
  • 渡邉 淳(日本医科大学 附属病院遺伝診療科)
  • 松本 直通(横浜市立大学 大学院医学研究科 遺伝学)
  • 森崎 裕子(国立循環器病研究センター 研究所分子生物学部)
  • 三宅 紀子(横浜市立大学 大学院医学研究科 遺伝学)
  • 鳴海 洋子(国立大学法人 信州大学医学部 遺伝医学・予防医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
Ehlers-Danlos症候群(EDS)は、皮膚・関節の過伸展性など結合組織の脆弱性を持つ先天性疾患であり、6つの主病型に分類されている。推定頻度は約1/5000人であるが、本邦におけるEDSの実態は不明な点が多く、病型に合った診療指針も確立されていない。本研究の目的は、(1)血管型EDSにおける診療実態の解明、診療指針の構築。従来の皮膚線維芽細胞ベースの生化学・遺伝子解析よりも非侵襲的で精度の高い末梢血由来ゲノムDNAベースの解析法の開発。(2)我々が見出した、顔貌上の特徴、先天性多発関節拘縮、進行性の結合組織脆弱性(皮膚弛緩、関節弛緩・変形、巨大皮下血腫)を示す新型EDSの原因遺伝子探索、病態解明、診療指針の構築。
研究方法
血管型:一次調査、生化学・遺伝子解析による確定診断例の収集。二次調査、動脈病変に関する質問紙調査。高解像度融解曲線分析(hrMCA)法に基づく末梢血由来ゲノムDNAを用いたCOL3A1遺伝子変異スクリーニングの有効性に関する検討。以上から診療指針を構築。
新型:連鎖解析による原因遺伝子の単離。遺伝子解析による症例収集、診療指針の構築。病理学・糖鎖医学的分析による病態解析、疾患モデルの作製。
結果と考察
血管型:58家系66人を確認、2人にceliprolol投与、14人に侵襲的治療(血管内治療、外科的治療)。hrMCA法により従来法では検出困難な変異を同定。
新型:原因遺伝子がデルマタン4-O-硫酸基転移酵素-1(D4ST1)をコードするCHST14であること、全身性D4ST1欠損によりデコリンに付加するデルマタン硫酸が消失、デコリンを介するコラーゲン細線維のassembly不全に至る、という病態を提唱。疾患モデルとしてiPS細胞を樹立、ノックアウトマウスの作製に着手。報告例、自験例を含め24家系34人(本邦16家系18人)。
結論
血管型の診療指針:早期生化学・遺伝子診断の後、動脈病変のスクリーニング、celiprolol投与による予防。進行性動脈病変に対して血管内治療を考慮、対応できない病変に対しては細心の注意を払い手術を考慮。
新型の診療指針:新生児期、特徴的顔貌と骨格症状から疑いCHST14遺伝子解析により診断。乳幼児期、内反足に対する整形外科治療。以後、眼科、泌尿器科、循環器科を含めた包括的な健康管理および巨大皮下血腫に対するDDAVP点鼻療法などの外傷予防対策。

公開日・更新日

公開日
2013-03-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128137C

成果

専門的・学術的観点からの成果
血管型EDSでは、末梢血DNAベースの高解像度融解曲線分析(hrMCA)法により新規スプライス変異を同定し、本法の有用性を示した。
デルマタン4-O-硫酸基転移酵素-1(D4ST1)の欠損に基づく新型EDSでは、尿中デルマタン硫酸の消失からD4ST1欠損が全身性であり全身性のデルマタン硫酸欠乏状態であることを、また皮膚標本のデコリン染色異常からコラーゲン細線維とデコリンとの相互構造異常が生じていることを世界で初めて示した。iPS細胞、ノックアウトマウスを作製、遺伝子治療研究に着手した。
臨床的観点からの成果
血管型:これまでに58家系66人を確認、2人がceliprolol投与、14人が侵襲的治療(血管内治療、外科的治療)を受けた。患者の状態、病変部位・程度によってはこれらの侵襲的治療が有効である可能性が示され、エビデンスのあるceliprololとともに治療の選択肢を広げられた。
新型:報告例、自験例を含め30家系41人を確認、自然歴に関する豊富な情報を集積しえた。巨大皮下血腫に伴う広範性皮膚壊死に対して自家培養表皮シート移植療法を含めた形成外科的治療の有用性が示された。
ガイドライン等の開発
血管型:hrMCA法を含めた解析法により早期に生化学・遺伝子診断し、血管病変スクリーニングの後、celiprololの予防投与を行う。進行性動脈病変に対しては血管内治療を考慮し、対応できない病変には慎重な手術を考慮。
新型:新生児期、特徴的顔貌と骨格症状から疑いCHST14遺伝子解析により診断。乳幼児期、内反足などに対する整形外科治療や運動発達遅滞に対する理学療法を行う。その後、眼科、循環器科など包括的な健康管理を行うとともに、巨大皮下血腫に対するDDAVP点鼻療法などの外傷予防対策を行う。
その他行政的観点からの成果
研究代表者、分担者が原著論文に加え、積極的に国内専門誌に総説を寄稿することで、臨床医がEDSを目にする機会は格段に増えている。実際、代表者、分担者が全国の内科、外科、小児科から診断、治療上の相談を受けることが増えている。総説による普及と個々の医療アドバイスの積み重ねにより、以前よりはるかに多くのEDS患者が確定診断を受けられ、病態に適した治療を受けられるようになった。これにより、診療各科や救急医療の負担軽減につながっていると思われ、厚生労働行政上の効果もあったと推測される。
その他のインパクト
研究代表者は新型EDSの発見により、平成23年11月11日、日本人類遺伝学会奨励賞を受賞、同月12日の信濃毎日新聞に取り上げられた。同年11月20日(東京)、12月10日(大阪)、EDS、Loeys-Dietz症候群、Marfan症候群など遺伝性結合組織病の市民公開セミナーが開催され、代表者、分担者で参加(講演、医療相談)した。難病指定なく、医療現場での認知度も低い遺伝性結合組織病について患者家族と専門家で意見交換がなされ、共同してよりよい医療、研究を進めていくことを確認する画期的な会となった。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
26件
その他論文(和文)
14件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
25件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計4件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Omori H, Hatamochi A, Koike M et al.
Sigmoid colon perforation induced by the vascular type of Ehlers-Danlos syndrome: report of a case.
Surg Today , 41 (5) , 733-736  (2011)
原著論文2
Shimizu K, Okamoto N, Miyake N et al.
Delineation of Dermatan 4-O-sulfotransferase 1 Deficient Ehlers-Danlos Syndrome: Observation of Two Additional Patients and Comprehensive Review of 20 Reported Patients.
Am J Med Genet Part A , 155 (8) , 1949-1958  (2011)
原著論文3
古庄知己
デルマタン4-O-硫酸基転移酵素-1欠損に基づく新型エーラスダンロス症候群の発見と疾患概念の確立
信州医学雑誌 , 59 (5) , 305-319  (2011)
原著論文4
Wakabayashi Y, Yamazaki K, Narumi Y et al.
Implantable Cardioverter Defibrillator for Progressive Hypertrophic Cardiomyopathy in a Patient with LEOPARD Syndrome and a Novel PTPN11 Mutation Gln510His.
Am J Med Genet Part A , 155 (10) , 2529-2533  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
2016-06-29

収支報告書

文献番号
201128137Z