進行性下顎頭吸収の診断基準策定とその治療に関する研究

文献情報

文献番号
201128117A
報告書区分
総括
研究課題名
進行性下顎頭吸収の診断基準策定とその治療に関する研究
課題番号
H22-難治・一般-157
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
丸岡 豊(国立国際医療研究センター 病院 歯科口腔外科)
研究分担者(所属機関)
  • 山本 健二(国立国際医療研究センター 研究所 山本副所長室)
  • 松島 綱治(東京大学大学院 医学系研究科 分子予防医学分野 )
  • 小村 健(東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 顎口腔外科学分野 )
  • 森山 啓司(東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 顎顔面矯正学分野 )
  • 飯村 忠浩(東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 口腔病理学分野 )
  • 桂川 陽三(国立国際医療研究センター 病院 整形外科)
  • 新保 卓郎(国立国際医療研究センター 研究所 国際臨床研究センター 医療情報解析研究部 )
  • 星野 昭芳(国立国際医療研究センター 研究所 山本副所長室)
  • 叶谷 文秀(国立国際医療研究センター 研究所 山本副所長室)
  • 今井 英樹(国立国際医療研究センター 研究所 山本副所長室)
  • 大塚 亮(国立国際医療研究センター 研究所 山本副所長室)
  • 上羽 悟史(東京大学大学院 医学系研究科 分子予防医学分野 )
  • 馬目 佳信(東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター DNA医学研究所 分子細胞生物学研究部 )
  • 藤岡 宏樹(東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター DNA医学研究所 分子細胞生物学研究部 )
  • 山崎 力(東京大学大学院 臨床疫学システム 臨床疫学 )
  • 三森 明夫(国立国際医療研究センター 病院 膠原病内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
進行性下顎頭吸収(PCR)は進行性の下顎頭の形態吸収変化とそれに伴う著明な同部の体積の減少と定義され、結果として咬合異常を呈する病態である。また国内外の症例を集め、解析する研究を進め、PCRという用語の改称も含めて合理的な再定義を提唱し、また発症のメカニズムを解明する端緒を作り、それぞれに対する治療法を提案し、かつ予見性を含めて広く議論を求めることを目的とした。
研究方法
引き続き患者から採取したサンプルの解析、および本症を担当した口腔外科、矯正歯科両専門医より詳細な症例に関する記載を加えた。一方、基礎研究の側面よりケモカイン受容体CCR5KOマウスの骨・軟骨組織の機能・形態学的解析、炎症性の骨形成不全という観点から骨芽細胞の分化抑制機構、および下顎頭の軟骨傷害という3つの異なる側面から詳細に検討した。
結果と考察
ケモカインリガンドであるRANTESはN数が増加しても健常群の値と比べて依然として高値を示した。TNF-αやβ2エストラジオール(β2-Est)については、PCR群は概して高い傾向を示した。PCR患者にスタビライゼーション型スプリントを用いた例では患者の主訴にあたる症状の改善がほぼ全員にみられた。経時的にRANTES値が測定できた2症例においては症状の軽減とともにその値の低下が観察された。CCR1とリガンドを共有するCCR5KOマウスでは、破骨細胞の機能低下が起こり、その数を減少させるだけでなく、軟骨の成熟過程に影響が及んでおり、軟骨内骨化の過程が障害され、骨・軟骨減少症と皮質骨の肥厚化を起こしていた。
結論
RANTESは非常に有力な疾患の予測マーカーではあるが、本症発症のメカニズムの中のいくつかの過程を反映していると考えるのが適切であると思われた。
 検査データや種々の症状から考えて、現時点では、複合概念であるPCRを
1. 低形成であるもの:
 RANTES値とβ2-Estが高い若年者に見られ、高い骨代謝回転型を示す
2. 自己免疫疾患や薬剤投与等による二次的な吸収変化:
RANTES値とTNF-αが高く、比較的高い年齢層に見られ、低い骨代謝回転型を示す
3. その他(関節円盤等の障害等に起因するもの):
RANTESが低い傾向にあり、顎関節痛や開口障害など自覚症状が強い。
 加えて、進行性かどうか疑わしい症例もあるため、特発性下顎頭吸収の名称の方が実態に即していると思われた。

公開日・更新日

公開日
2013-03-27
更新日
-

文献情報

文献番号
201128117B
報告書区分
総合
研究課題名
進行性下顎頭吸収の診断基準策定とその治療に関する研究
課題番号
H22-難治・一般-157
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
丸岡 豊(国立国際医療研究センター 病院 歯科口腔外科)
研究分担者(所属機関)
  • 山本 健二(国立国際医療研究センター 研究所 山本副所長室)
  • 松島 綱治(東京大学大学院 医学系研究科 分子予防医学分野 )
  • 小村 健(東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 顎口腔外科学分野)
  • 森山 啓司(東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 顎顔面矯正学分野 )
  • 飯村 忠浩(東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 口腔病理学分野 )
  • 桂川 陽三(国立国際医療研究センター 病院 整形外科)
  • 新保 卓郎(国立国際医療研究センター 研究所 国際臨床研究センター 医療情報解析研究部 )
  • 星野 昭芳(国立国際医療研究センター 研究所 山本副所長室)
  • 叶谷 文秀(国立国際医療研究センター 研究所 山本副所長室)
  • 今井 英樹(国立国際医療研究センター 研究所 山本副所長室)
  • 大塚 亮(国立国際医療研究センター 研究所 山本副所長室)
  • 上羽 悟史(東京大学大学院 医学系研究科 分子予防医学分野 )
  • 馬目 佳信(東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター DNA医学研究所 分子細胞生物学研究部 )
  • 藤岡 宏樹(東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター DNA医学研究所 分子細胞生物学研究部 )
  • 山崎 力(東京大学大学院 臨床疫学システム 臨床疫学 )
  • 三森 明夫(国立国際医療研究センター 病院 膠原病内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
進行性下顎頭吸収(PCR)は進行性の下顎頭の形態吸収変化とそれに伴う著明な同部の体積の減少と定義され、結果として咬合異常を呈する病態である。国内外の症例を解析する研究を進め、発症のメカニズムを解明する端緒を作り、その治療法を提案することを目的とした。
研究方法
全国実態調査を行った。血液・尿サンプルを採取し、骨代謝マーカー等を測定・解析し、症例の詳細を記載した。一方、基礎研究面よりケモカイン受容体CCR5KO, CCR1KOマウスをはじめとする疾患モデル動物を検討した。
結果と考察
多くは女性であり、年齢分布は20代が最も多く、次いで10代、30代となり、40代では少ないが50代以上は再び増加する二相性の分布を示した。検体検査ではケモカインリガンドのRANTES値、その他骨吸収マーカーやTNF-αやβ2エストラジオール(β2-Est)が高値を示した。
KOマウスの解析からCCR1は骨代謝において重要な破骨細胞ならびに骨芽細胞の両細胞の分化に重要な機能を有し、CCR5は軟骨の成熟過程に影響をもつことがわかった。両マウスの下顎頭において異常を認め、モデル動物としての有用性が示唆された。またGVHDモデルマウスの解析よりPCRの発症には炎症性疾患の関与も疑われた。
結論
本研究は、ケモカインと骨軟骨代謝という新たなカテゴリーを導入することに成功し、PCRにおいては血中RANTES濃度が病態を認識するマーカーとして有力であるとの知見を得た。これはマウスのin vivoの結果と一致する画期的な発見であったが、サンプル解析数の増加に伴って、いくつかのパターンに分類した方が説明し易いことがわかってきた。すなわち、
1. 低形成であるもの:
 RANTES値とβ2-Estが高い若年者に見られ、高い骨代謝回転型を示す
2. 自己免疫疾患や薬剤投与等による二次的な吸収変化:
RANTES値とTNF-αが高く、比較的高い年齢層に見られ、低い骨代謝回転型を示す
3. その他(関節円盤等の障害等に起因するもの):
RANTESが低い傾向にあり、顎関節痛や開口障害など自覚症状が強い
の3型に分類することができると考える。
しかし、「移行型」や「併存型」などが存在している可能性もある。我々はあえて「進行性」という文字を外し、特発性下顎頭吸収の名称をあらためてここに提案する。

公開日・更新日

公開日
2013-03-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128117C

成果

専門的・学術的観点からの成果
免疫系に機能を有するとみられていたケモカインが骨代謝においても重要な機能を果たすことを初めて明らかにすると共にマウスin vivoの結果をヒトPCRの病態に関連づけ、PCR発症患者の血液検査においてRANTES等ケモカインの発現が上昇することを発見し、本病態を判定する有力なバイオマーカーとなり得るとの知見を得た。また疫学調査において得られた二相性の分布を骨形成・骨吸収マーカーの解析によりほぼ再現し得た。
臨床的観点からの成果
わが国で初めて実施した実態調査において、PCRと認識される病態については臨床医においても様々な解釈が混在し認知度も必ずしも高くないこと、本症に対し系統的な診断や治療がなされていないこと、単なる顎関節症・顎変形症と診断され不適切な治療を受けている国民が少なくないこと等を明らかにした。また二相性の分布、すなわち若年症例における特発性と、50代以降の症例における自己免疫疾患等との併発との混在という本疾患の病態を把握する上で重要な知見を得た。
ガイドライン等の開発
得られたデータと分析すると、複合概念であるPCRを

1.低形成であるもの:RANTES値とβ2-Estが高い若年者に見られ、高い骨代謝回転型を示す。
2.自己免疫疾患や薬剤投与等による二次的な吸収変化: RANTES値とTNF-αが高く、比較的高い年齢層に見られ、低い骨代謝回転型を示す。
3.その他(関節円盤等の障害等に起因するもの):RANTESが低い傾向にあり、顎関節痛などの自覚症状が強い。
の3型に分類することができる。
その他行政的観点からの成果
世界的にも本疾患に対する診断・治療法は明確なエビデンスをもって示されていない。われわれの調査でも白色人種の調査にて報告されていたPCRの病態と類似の結果を黄色人種においても得た。またわれわれをネットワークの中心として、米国・欧州等国外の複数の研究機関と研究協力する体制を確立させた。本研究によって示されたデータを基に、PCRはわが国から再定義・再発信された新たな疾患概念として国際的に認知されつつあることは、国際的意義が大きいと考える。
その他のインパクト
本研究にて得られた知見を第55回日本口腔外科学会総会学術大会にて発表し、優秀口演賞を獲得した。また第21回日本顎変形症学会、および30周年記念国際シンポジウムにてシンポジストとして招聘を受け、邦題「ケモカイン受容体異常に起因する骨軟骨代謝異常と進行性下顎頭吸収に関する研究」の演題のもと発表し、大きな反響を得た。次いで第20回国際口腔顎顔面外科学会にても発表を行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Akiyoshi Hoshino, Tadahiro Iimura, Satoshi Ueha, et al.
Deficiency of chemokine receptor CCR1 causes osteopenia due to impaired functions of osteoclasts and osteoblasts
Journal of Biological Chemistry , 285 (37) , 28826-28837  (2010)
原著論文2
Yutaka MARUOKA, Fumihide KANAYA, Akiyoshi HOSHINO,et al.
Study of osteo-/chondropenia caused by impaired chemokine receptor and for progressive/ idiopathic condylar resorption.
Jpn. J.Jaw Deform , 22 (suppl) , S15-S22  (2012)

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2016-06-29

収支報告書

文献番号
201128117Z