ナノ・テクノロジーを用いたプロピオン酸血症の新規治療法の開発

文献情報

文献番号
201128069A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノ・テクノロジーを用いたプロピオン酸血症の新規治療法の開発
課題番号
H22-難治・一般-108
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
宮崎 徹(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 山口 清次(島根大学医学部小児科)
  • 片岡 一則(東京大学 大学院工学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
7,692,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
プロピオン酸血症(PA)に対し、ナノ・ミセルを用い、患者胎児の肝臓に欠損しているPCC遺伝子を補填する胎児治療法を提案し、その効果と安全性についてモデルマウスで実証することを目的とする。既にPCC遺伝子ノックアウトによりPAのモデルは確立している。今年度の具体的な研究目的は①注入量・速度などによる胎児肝臓へのナノ・ミセルデリバリー効率・補填した酵素遺伝子の発現継続性上昇の検討②PCC-/-胎児へのPCC遺伝子デリバリーの施行・効果の検討③食餌療法との併用効果の検討を行う。
研究方法
①ナノ・ミセル型遺伝子ベクター作製と最適化:DNAとポリエチレング
リコールの量比、コンドロイチン硫酸(細胞取り込み効率を上昇すると言われている)の必要性、他の親水性外殻の使用の検討など本使用目的への最適化を行う。
②GFP発現ベクターを用いた胎児肝臓での発現に関する予備実験:低毒性で、出生時に十分な発現があり、多くの肝細胞で長期間にわたり発現する条件を決定し、プロトコールを最適化する。
③PCC-/-マウスの胎児治療法確立:研究方法②によって最適化された条件により、PCC-/-マウス胎児にPCC発現ベクターを封入したナノ・ミセルを導入し、PAの治療効果を判定する。なお、発現解析、組織学的解析から治療効果解析の結果から、PA胎児治療の最適プロトコールを確立する。
結果と考察
GFP発現DNAを包埋したナノ・ミセルベクターの、羊膜上血管からの注入する量は100~150μl、速度は150~200μl/分が、デリバリー効率と導入した遺伝子の発現持続性への効果と、およびレシピエント胎児に対するダメージの少なさの面で、最適であることが確認された。また、PCC酵素活性を補填することが可能であることは、今回の実験で明らかになったので、今後その補填効率を上昇させる必要がある。可能性としては、(1)現在のE17より早期、まだ肝細胞の増殖が強い時期に注入し、ナノ・ミセルの取り込み率を向上できないか、(2)α鎖だけでなくβ鎖の発現ベクターも同時に移入して酵素活性を向上できないか、(3)発現ベクターのプロモーターを変更する必要はないか、(4)新生児期に全身性に静注し発現にブーストをかけられないか、など検討する余地が残っている。
結論
本年度は、ナノ・ミセルの胎児肝臓導入法の最適化を昨年に続き行い、PAのモデルマウスに対して胎児治療を試みた。残念ながら致死率改善までは到達できなかったが、PCC酵素活性の補填にある程度成功することが出来た。今後さらに検討を重ね、補填効率を高め、PAの胎児治療法完成を目指したい。

公開日・更新日

公開日
2013-03-28
更新日
-

文献情報

文献番号
201128069B
報告書区分
総合
研究課題名
ナノ・テクノロジーを用いたプロピオン酸血症の新規治療法の開発
課題番号
H22-難治・一般-108
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
宮崎 徹(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 山口 清次(島根大学医学部小児科)
  • 片岡 一則(東京大学 大学院工学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
非ウイルス性のナノ・ミセルを用い、患者胎児の肝臓にPCC遺伝子をデリバリーする胎児治療法を提案し、その効果と安全性についてモデルマウスを用い実証する。具体的には、(1)胎児治療による酵素補填の効率、(2)ナノ・ミセルにより補填した酵素遺伝子の発現持続性の検討、(3)生存率、PA症状、臨床データーの改善効果の検討・判定、(4)毒性等考えられる副作用の解析と安全性の検討、(5)出生後の遺伝子デリバリー(経門脈など)の可能性の検討(6)食餌療法との併用効果の検討。
研究方法
①ナノ・ミセル型遺伝子ベクターの作製と最適化:DNAとポリエチレングリコールの量比、コンドロイチン硫酸(細胞取り込み効率を上昇すると言われている)の必要性、他の親水性外殻の使用の検討など本使用目的への最適化を行う。②GFP発現ベクターを用いた胎児肝臓での発現に関する予備実験:低毒性で、出生時に十分な発現があり、多くの肝細胞で長期間にわたり発現する条件を決定し、プロトコールを最適化する。③PCC-/-マウスの胎児治療法確立:最適化された条件により、PCC-/-マウス胎児にPCC発現ベクターを封入したナノ・ミセルを導入し、PAの治療効果を判定する。
結果と考察
(1)羊膜上血管よりナノ・ミセルを注入すると、効率よく胎児肝臓に集積させることができること、(2)注入後1日で、すでにナノ・ミセルで包埋したベクターからのタンパク質発現が起こること。すなわち、出生前遅くとも一日前に注入処置を行えば治療目的に使用可能であること、(3)ナノ・ミセル由来のタンパク質発現は、本来のナノ・ミセルベクターの特徴である“徐放性”を反映し、長期に渡って認められること、(4)ナノ・ミセル注入による副作用(胎児の死亡や肝臓障害、母体への影響など)は現在のところ認められないこと、が明らかになり、PCC発現ベクターDNAを包埋したナノ・ミセルはPA治療に応用可能であることが示唆された。実際にPCC-/-の胎児でPCC酵素活性の補填を試みたが、正常の内在性酵素活性の10%という目標には届かず、結果、2.3%まで補填できた新生児が通常のPCC-/-より12時間前後長く生存したが、致死率を改善するには至らなかった。そのため、研究期間内に治療効果解析を遂行するまでに至らなかった。
結論
ナノ・ミセルを用いた、胎児肝臓に対する遺伝子デリバリーの条件検討を中心に基礎的な予備実験によって移入条件の最適化を行い、PAのモデルマウスに対して胎児治療を試みた。残念ながら致死率改善までは到達できなかったが、PCC酵素活性の補填にある程度成功することが出来た。

公開日・更新日

公開日
2013-03-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128069C

成果

専門的・学術的観点からの成果
学術的観点からは以下の成果があげられた。(1)先天性代謝異常症に対する遺伝子導入に関して、従来のものとは異なる新しい方法論を確立した。(2)羊膜上血管からの導入により、効率よく胎児肝臓に遺伝子を導入できることを提示した。(3)胎児期に導入した遺伝子の発現が、本法によれば出生後長期にわたって持続することを提示した。
臨床的観点からの成果
今回の研究では、欠損酵素の十分な活性回復を果たせなかったため。生存率の改善を得るに至らなかったが、わずかな活性補てんにより生存期間の延長は認めることができた。また、ナノ・ミセルを胎児期に肝臓に導入しても毒性など明らかな副作用は認められなかった。これらのことから、さらなる導入効率の改善を行えば、十分臨床応用可能な方法であることが示唆されたと考える。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
該当なし
その他のインパクト
先天代謝異常症の子供をもつ親の会で2回にわたって講演を行った。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
29件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Iwamura Y, Mori M, et al.
Apoptosis Inhibitor of Macrophage (AIM) diminishes lipid droplet-coating proteins leading to lipolysis in adipocytes.
Biochem. Biophys. Res.Commun  (2012)
原著論文2
Miyazaki T, Kurokawa J, et al.
AIMing at Metabolic Syndrome-Towards the Development of Novel Therapies for Metabolic Diseases via Apoptosis Inhibitor of Macrophage (AIM)-
Circulation Journal , 75 , 2522-2531  (2011)
原著論文3
Kurokawa J, Nagano H, et al.
Apoptosis inhibitor of macrophage (AIM) in required for obesity-associated recruitment of inflammatory macrophages into adipose tissue.
PNAS , 108 , 12072-12077  (2011)
原著論文4
Mori M, Kitazume M, et al.
Death effector domain-containing protein (DEDD) is required for uterine decidualization during early pregnancy in mice.
J. Clin. Invest. , 121 , 318-327  (2011)
原著論文5
Kurokawa J, Arai S, et al.
Macrophage-derived AIM is endocytosed into adipocytes and decreases lipid droplets via inhibition of fatty acid synthase activity.
Cell Metab , 11 , 479-492  (2010)
原著論文6
Kurabe N, Mori M, et al.
The death effector domain-containing DEDD forms a complex with Akt and Hsp90, and support their stability.
Biochem. Biophys. Res. Commun. , 391 , 1708-1713  (2010)
原著論文7
Matsushima H, Ogawa Y, et al.
Intravital imaging of IL-1beta production in skin.
J. Invest. Dermatol. , 130 , 1571-1580  (2010)
原著論文8
新井郷子, 宮崎徹
メタボリック症候群におけるAIMの機能
病理と臨床 , 28 (9) , 932-939  (2010)
原著論文9
新井郷子, 宮崎徹
脂肪融解タンパク質AIMの機能
細胞工学 , 29 (8) , 753-758  (2010)

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2016-06-29

収支報告書

文献番号
201128069Z