シトリン欠損症の実態調査と診断方法および治療法の開発

文献情報

文献番号
201128064A
報告書区分
総括
研究課題名
シトリン欠損症の実態調査と診断方法および治療法の開発
課題番号
H22-難治・一般-103
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
岡野 善行(大阪市立大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 佐伯 武頼(熊本大学 生命資源研究センター)
  • 池田 修一(信州大学 大学院医学系研究科)
  • 浅川 明弘(鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科)
  • 大浦 敏博 (東北大学 医学部)
  • 玉置 知子(橋本 知子)(兵庫医科大学)
  • 塚原 宏一(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
11,304,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
シトリン欠損症は新生児肝内胆汁うつ滞症(NICCD)、幼児から青年の適応代償期、予後不良な成人発症II型シトルリン血症(CTLN2)と経年的に多様な症状を示す。本研究では、シトリン欠損症の出生から老年に至るまでの自然歴・生活歴を明らかにし、各年代に適した生活指導を含めた食事療法、薬物療法等の治療法を開発、治療指針を作成する。CTLN2の発症予防と発症後の肝移植の回避をはじめ、患者QOLの改善をはかる。
研究方法
1)NICCDの症状と治療法を検討するために、病歴・病態鯛査を行う。2)適応代償期患者の
PedsQL調査票にてQOL評価する。3)CTLN2患者の病態解析、臨床像の解明を行う。4)適応・代償期およびCTLN2患者でのピルビン酸ナトリウムの臨床試験を行う。代謝マーカ一、患者のQOL、食事評価でその有用性を検討する。5)迅速な遺伝子診断方法の開発。6)シトリン欠損症マウスにピルビン酸ナトリウム、アミノ酸、脂肪を投与し、食事療法の効果を検討する。7)シトリン欠損症の遺伝カウンセリングツールの開発を行う。
結果と考察
1)シトリン欠損症患者60名の新生児・乳児期のデータから、新生児胆汁うつ滞症にはMCTミルクの使用により、胆汁うつ滞および体重増加が改善し、NICCDに対して有効であった。
2) 適応代償期患者のピルビン酸ナトリウムの治療では穀物の摂取が可能となり、乳酸ピルビン酸比の改善、酸化ストレスマーカーの改善が認められた。体重減少などの著明な症状を示していた患者では、体重増加の回復とQOLの改善が認められた。
3) CTLN2患者の食事内容は適応代償期と同等で、高脂肪高蛋白食であった。
4) CTLN2患者へのピルビン酸ナトリウムと食事療法で、脳症発作が減少し、職場や社会復帰を可能とし、肝移植療法を回避できている。
5)シトリン欠損法の迅速診断では日本人で頻度の高い11種類の変異(95%の患者対立遺伝子)の検出が可能で、偽陽性を認めなかった。
6)シトリン欠損症マウスへのピルビン酸ナトリウム、アミノ酸(AlaとGlu)、MCTの投与は摂食量と体重の増加を来した。
結論
シトリン欠損症は新生児乳児期のNICCD,幼児青年期(適応代償期)の疲労、成育異常、成人でのCTLN2と各時期・各症状に応じた治療指針の作成が必要である。ピルピン酸ナトリウムと食事療法は患者QOLの改善とCTLN2の発症予防と治療が可能であり、肝移植を回避できる。これらの研究成果は、患者とその保護者に対して、学校生活、社会生活上でのQOLの向上に貢献できる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

文献情報

文献番号
201128064B
報告書区分
総合
研究課題名
シトリン欠損症の実態調査と診断方法および治療法の開発
課題番号
H22-難治・一般-103
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
岡野 善行(大阪市立大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 佐伯 武頼(熊本大学 生命資源研究支援センター)
  • 池田 修一(信州大学 大学院医学系研究科)
  • 浅川 明弘(鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科)
  • 大浦 敏博(東北大学 医学部)
  • 玉置 知子(橋本 知子)(兵庫医科大学)
  • 塚原 宏一(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
シトリン欠損症は新生児肝内胆汁うつ滞症(NICCD)、幼児から青年の適応代償期、予後不良な成人発症II型シトルリン血症(CTLN2)と経年的に多様な症状を示す。本研究では、シトリン欠損症の出生から老年に至るまでの自然歴・生活歴を明らかにし、各年代に適した生活指導を含めた食事療法、薬物療法等の治療法を開発、治療指針を作成する。CTLN2の発症予防と肝移植の回避をはじめ、患者QOLの改善をはかる。
研究方法
1)シトリン欠損症患者の病歴鯛査を行い、NICCD、適応代償期、CTLN2の病態解析、臨床像の解明を行う。2)適応代償期患者にPedsQL調査票で疲労およびQOLを評価する。3)ピルビン酸ナトリウムの臨床試験を適応・代償期およびCTLN2患者に行う。4) タンデムマス法による新生児マススクリーニングの有用性を検討し、迅速遺伝子診断法を開発する。6)シトリン欠損症マウスのメタボローム解析による病態解明と、ピルビン酸ナトリウムおよび食事療法の効果を検討する。7) シトリン欠損症の遺伝カウンセリングツールの開発を行う。

結果と考察
1)NICCDにはMCTミルクが胆汁うつ滞と体重増加の改善に対して有効であった。
2)適応代償期の患者においてもQOLは低下し、疲労倦怠感が非常に強い。ピルビン酸ナトリウムの臨床試験では穀物の摂取が可能となり、乳酸ピルビン酸比の改善、酸化ストレスマーカーの改善が認められた。
3) CTLN2患者の初発症状は精神症状と脂肪肝が全例に、27%に膵炎、8%で肝癌を認め、食事内容は適応代償期と同じく高脂肪高蛋白食であった。ピルビン酸ナトリウムと食事療法で、脳症の減少、職場や社会復帰、肝移植療法の回避が可能であった。
4)シトルリン測定による新生児スクリーニングは偽陰性が多い。また、迅速遺伝子診断では日本人患者の90%の診断が可能で、偽陽性を認めなかった。
5) シトリン欠損症マウスのメタポローム解析では糖質負荷により肝内glycerol-3-Pの増加、解糖系阻害、尿素合成の異常が認められた。ピルビン酸ナトリウム、アミノ酸、MCTの投与は摂食量と体重の増加を来し、治療効果が期待できた。

結論
シトリン欠損症は新生児乳児期のNICCD,幼児青年期(適応代償期)の疲労、成育異常、成人でのCTLN2と各時期・各症状に応じた治療指針の作成が必要である。ピルピン酸ナトリウムと食事療法は患者QOLの改善とCTLN2の発症予防と治療が可能であり、肝移植を回避できる。これらの研究成果は、患者とその保護者に対して、学校生活、社会生活上でのQOLの向上に貢献できる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128064C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究でなされた病歴調査、QOL、食事環境、酸化ストレス、生化学生理学検査、疾患モデルマウスでの研究は本症の病態を飛躍的に明らかにし、ミトコンドリア内膜に存在するAspartate-Glutamate Carrier蛋白の機能不全の結果、ミトコンドリアへのエネルギー供給の低下、糖新生の障害、尿素回路の障害の病態から、多様な症状が年令依存的に発症するという病態を明らかにした。ミトコンドリア異常の1疾患として、ピルビン酸療法の有効性を確立するとともに、食事療法、生活療法の重要性を指摘した。
臨床的観点からの成果
シトリン欠損症は新生児肝内胆汁うつ滞症(NICCD)、幼児から青年の適応代償期、予後不良な成人発症II型シトルリン血症(CTLN2)と経年的に多様な症状を示す。本研究によりシトリン欠損症の自然歴と病態が明らかにされ、治療法の開発がなされた。1) NICCDのMCTミルク有用性、2) 臨床研究によるピルビン酸ナトリウムと食事療法の有用性により、適応・代償期の治療とCTLN2発症予防、そして成人でのCTLN2治療と肝移植の回避が可能となった。患者QOLの改善をもたらした。
ガイドライン等の開発
本疾患は1999年に原因遺伝子が同定された比較的新しい疾患であり、1)新生児乳児期のNICCD,2)幼児青年期(適応代償期)の疲労、成育異常、3)成人でのCTLN2、と各時期・各症状に応じた診断基準、治療指針の作成が必要である。本研究により、1)生化学、アミノグラム、シトリン蛋白による評価とともに迅速遺伝子診断の確立、2) NICCDにおけるMCTミルクの有用性、3) ピルビン酸ナトリウムと食事療法の有用性、4) 禁忌事項の確定がなされ、ガイドライン作成に向けて大きく貢献できた。
その他行政的観点からの成果
シトリン欠損症が認知されるにつれて、CTLN2の肝移植実施数は増加し、現在までに国内で45例以上行われている。本研究によるNICCDの治療法の確立、幼児期以降の生活指導と食事療法、薬物療法によるCTLN2の発症予防、発症後の薬物治療の開発を行うことで、肝移植が回避されつつある。生命の危険を伴う治療法の回避とともに、社会全体として医療費の軽減化がはかられる。患者の学校生活、社会生活上でのQOLの向上に貢献し、社会全体で疾患の認識と理解を深める事ができた。

その他のインパクト
本事業の成果は、日本学術振興会のアジア・アフリカ学術基盤形成事業の一環として、シトリン欠損症の好発地域である東、東南アジア諸国において、疾患概念の浸透と診断技術の指導が行われた。学術団体においても本疾患の注目度が高く、第1回アジア先天代謝異常学会(福岡)、第9回アジア環太平洋人類遺伝学会(香港)でシンポジウムが開催され、当研究班班員が中心となり報告を行った。国際シンポジウムを2011年10月に信州松本で開催した。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
17件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
2件
Gene Reviewsに掲載
学会発表(国内学会)
17件
学会発表(国際学会等)
18件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
北京、長春、成都にてセミナーを開催

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kobayashi K, Okano Y, Hohashi N.
Reliability and validity of the PedsQL™ Multidimensional Fatigue Scale in Japan.
Qual Life Res. , 20 , 1091-1102  (2011)
原著論文2
Saheki T, Inoue K, Ono H, et al.
Metabolomic analysis reveals hepatic metabolite perturbations in citrin/mitochondrial glycerol-3-phosphate dehydrogenase double-knockout mice, a model of human citrin deficiency.
Mol Genet Metab. , 104 , 492-500  (2011)
原著論文3
Nakamura M, Yazaki M, Kobayashi Y, et al.
The characteristics of food intake in patients with type II citrullinemia.
J Nutr Sci Vitaminol. , 57 , 239-245  (2011)
原著論文4
Kikuchi A, Arai-Ichinoi N, Sakamoto O, et al.
Simple and rapid genetic testing for citrin deficiency by screening 11 prevalent mutations in SLC25A13.
Mol Genet Metab. , 105 , 553-558  (2012)

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
-

収支報告書

文献番号
201128064Z