免疫修飾薬による多発性硬化症の治療成績向上を実現する探索的研究

文献情報

文献番号
201128006A
報告書区分
総括
研究課題名
免疫修飾薬による多発性硬化症の治療成績向上を実現する探索的研究
課題番号
H21-難治・一般-217
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
山村 隆(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 神経研究所免疫研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 小川雅文(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター病院神経内科)
  • 佐藤典子(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター病院放射線診療部)
  • 中林哲夫(独立行政法人国立精神・神経医療研究センタートランスレーショナルメディカルセンター臨床研究支援室)
  • 三宅幸子(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部)
  • 岩渕和也(北里大学医学部免疫学免疫学教室)
  • 大木伸司(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部)
  • 荒浪利昌(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部)
  • 佐藤準一(明治薬科大学薬学部生命創薬科学科バイオインフォマティクス)
  • 案浦洋一(アスビオファーマ株式会社生物医学研究所創薬化学研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
292,308,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、国産のMS治療薬OCHを多発性硬化症(MS)の新規経口薬として開発することである。OCHは申請者らが発見した糖脂質医薬で、NKT細胞の免疫修飾効果を誘導する機序を有する。
研究方法
1) 細胞内サイトカイン染色により、Th1、Th2、Th17、NK1、NK2細胞の頻度を6色フローサイトメーター解析により測定した。
2) 雄カニクイザルに破傷風トキソイド(TTx)を感作し、21日後に遅延型過敏症(Delayed-type hypersensitivity response: DTH)を誘導した。OCH (100 mg/kg)を連日経口投与し,一般状態、体重への影響について調べた。末梢血単核球細胞をTTx存在下に培養し、増殖反応、サイトカイン(IL-2, IL-4, IL-5, IL-6,TNF-α, IFN-γ)をELISA法にて測定した。
3)MRI解析:軸位断のFLAIRとT2強調画像から自動的に容積を測定できるソフトQbrainを用い、MS患者の脳容積、脳脊髄液の容積、T2高信号域の容積を定量的に求めた。
結果と考察
1) マルチカラー解析によってTh1/Th2/Th17細胞それぞれの頻度を測定する方法、NK1/NK2細胞頻度を測定する方法を確立した。
2) カニクイザルを用いて、OCH投与量、投与プロトコールと、免疫パラメーターの関連について検討した。OCH連日投与を受けたサルの一般状態は良好で、体重変化もなかった。72時間後における発赤面積において、OCH投与群でDTHの有意な低下が確認された。
3) MS病態の解析におけるQbrainの有用性が確認された。
4)MS患者を対象とするFirst in Human試験をNCNPで実施するために、OCH治験薬概要書作成、治験プロトコール原案作成、プロトコール検討委員会設立などを進め、医薬品機構(PMDA)の薬事戦略相談(対面助言)で早期探索的臨床試験の試験計画概要について合意を得る手続きを進めた、対面助言は24年2月28日に終了し、プロトコール案が大枠で承認された。
結論
OCHのFirst in human試験(医師主導治験)を平成24年度に開始するために、さまざまなレベルで準備が進められた。PMDAの理解を得ることができたので、治験実施は目前に迫ったと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2013-03-28
更新日
-

文献情報

文献番号
201128006B
報告書区分
総合
研究課題名
免疫修飾薬による多発性硬化症の治療成績向上を実現する探索的研究
課題番号
H21-難治・一般-217
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
山村 隆(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 神経研究所免疫研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 小川雅文(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター病院神経内科)
  • 佐藤典子(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター病院放射線診療部)
  • 中林哲夫(独立行政法人国立精神・神経医療研究センタートランスレーショナルメディカルセンター臨床研究支援室)
  • 三宅幸子(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部)
  • 岩渕和也(北里大学医学部免疫学免疫学教室)
  • 大木伸司(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部)
  • 荒浪利昌(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部)
  • 佐藤準一(明治薬科大学薬学部生命創薬科学科、バイオインフォマティクス)
  • 案浦洋一(アスビオファーマ株式会社生物医学研究所創薬化学研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
MSは若年で発症する慢性難治疾患である。本研究の目的は、国産のMS治療薬OCHをMSの新規経口薬として開発することである。OCHは、申請者らが発見した糖脂質医薬で、NKT細胞の免疫修飾効果を誘導する機序をもった経口薬である(Nature 413:531)。
研究方法
末梢血リンパをPMAとIonomycinでモネンシン存在下4時間刺激し、細胞内サイトカイン染色により、Th1、Th2、Th17、NK1、NK2細胞の頻度を6色フローサイトメーター解析によって測定した。GMP原薬の合成、製剤化、安全性試験については、外部に委託した。
結果と考察
1) GMP原薬合成: OCHのGMP原薬として1.5 kgの製造を実施し規格値に適合していることを確認した。
2) OCH製剤化:溶解度および吸収効率に優れる顆粒製剤の製造法を確立した。
3) 臨床試験体制整備:治験関連業務の担当が決定し、治験担当医師の人事も発令した。
4) 非臨床試験:理化学試験、安全性薬理試験、毒性試験、薬効薬理試験、薬物動態試験、バリデーション試験など、臨床治験実施に必要な試験を実施した。
5) 霊長類モデルにおける薬効試験:OCH投与量、プロトコール、免疫パラメーターの関連について、カニクイザルを用いた検討を実施した。OCH連日経口投与により大きな変化はなかった。
6) OCH臨床試験に有用なバイオマーカー探索:
T細胞の発現する転写因子NR4A2がMS活動性の指標になる可能性を明らかにした。末梢血リンパ球の変動を明らかにするために、高速フローサイトメーターを導入した。4種類のケモカイン受容体の発現プロフィルによってリンパ球亜分画の変化を評価する方法、細胞内サイトカイン染色によってTh1/Th2/Th17細胞それぞれの頻度を測定する方法、NK1/NK2細胞頻度を測定する方法を確立した。
結論
本研究の成果をもとにOCHのFirst in human試験(医師主導治験)の実施可能性について医薬品機構と薬事相談を行い、NCNPで医師主導治験を実施するプロトコール原案が完成した。当初の目標は達成され、来年度以降は臨床治験を推進する。

公開日・更新日

公開日
2013-03-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2013-01-17
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
国内で開発された新規治療薬OCHの多発性硬化症患者を対象とする医師主導治験 (First in Human試験)を開始し、健常者15名を対象とするSTEP1試験を完了した。OCHはNKT細胞を刺激する経口薬であるが、本研究期間中に物質特許や製造法特許が内外で成立し、安全性や動物モデルにおける有効性が確認された。本研究で磨かれた技術は、早期探索的臨床研究やヒト神経免疫疾患の研究で大きな威力を発揮するもので、学術的にも意義がある。その後、患者対象試験についても進捗が見られている。
臨床的観点からの成果
研究の主目標はOCHの医師主導治験を実施するための基盤整備を進める研究であるが、高速フローサイトメーター技術を多発性硬化症や視神経脊髄炎(NMO)に応用するための基盤整備を行う中で、それぞれの疾患に固有の免疫異常を明らかにすることができた。NMOで見られたプラズマブラスト異常増殖については、同細胞を標的とする臨床試験(抗IL-6受容体抗体によるNMO治療)へと発展しており、臨床サイドからも注目されている。
ガイドライン等の開発
本研究は診断ガイドライン作成に関与するものではなく、該当事例はない。
その他行政的観点からの成果
本研究では、ナショナルセンター研究所で得られたシーズをもとに、厚生労働科学研究費の予算で前臨床試験を実施し、特許を確保し、さらにナショナルセンター病院で医師主導のFirst in Human試験を実施した。これは厚生労働科学研究費による成功例として、行政的観点から、今後の施策に大きな示唆を与えるものである。
その他のインパクト
本研究の波及的な成果である、視神経脊髄炎(NMO)の病態におけるプラズマブラストの重要性については、読売新聞、日本経済新聞、共同通信などによって報道され、多発性硬化症やNMOへの関心を喚起する上でインパクトを及ぼした。また、国立精神・神経医療研究センターとNPO法人MSキャビンの合同公開シンポジウムを六本木ヒルズで毎年一回開催し、MS新薬の重要性、本研究のねらいなどを400人以上の患者、医療関係者に語りかけ、厚生労働科学研究に対する一般社会の理解の向上に貢献した。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
10件
その他論文(和文)
30件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
35件
学会発表(国際学会等)
18件
その他成果(特許の出願)
1件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Satoh JI, Tabunoki H, Yamamura T
Molecular network of the comprehensive multiple sclerosis brain lesion proteome
Multiple Sclerosis Journal , 15 , 531-541  (2009)
原著論文2
Klemann C, Raveney BJE, Klemann AK et al.
ynthetic retinoid AM80 inhibits Th17 cells and ameliorates EAE
Am. J. Pathol , 174 (6) , 2234-2245  (2009)
原著論文3
Theil MM, Miyake S, Mizuno M et al.
Suppression of experimental autoimmune encephalomyelitis by Ghrelin
J. Immunol. , 183 , 2859-2866  (2009)
原著論文4
Fujita M, Otsuka T, Mizuno M et al.
Carcinoembryonic antigen-related cell adhesion molecule 1 modulates experimental autoimmune encephalomyelitis via iNKT cell-dependent mechanism
Am. J. Pathol. , 175 , 1123-1163  (2009)
原著論文5
Chihara N, Aranami T, Sato W et al.
Interleukin 6 signaling promotes anti-aquaporin 4 autoantibody production from plasmablasts in neuromyelitis optica
PNAS , 108 , 3701-3706  (2011)
原著論文6
Sanvito L, Tomita A, Chihara N, et al.
Increase of Ki-67+ natural killer cells in multiple sclerosis patients treated with interferon-β and interferon-β combined with low-dose oral steroids
J. Neuroimmunol. , 236 , 111-117  (2011)
原著論文7
Miyazaki Y, Miyake S, Chiba A et al.
Mucosal-associated invariant T cells regulate T helper type 1 response in multiple sclerosis.
Int. Immunol. , 23 , 332-337  (2011)
原著論文8
Ichikawa D, Mizuno M, Yamamura T, et al.
GRAIL (gene related to anergy in lymphocytes) regulates cytoskeletal reorganization through ubiquitination and degradation of Arp2/3 subunit 5 and coronin 1A
J. Biol. Chem. , 286 , 43465-43474  (2011)
原著論文9
Chiba A, Tajima R, Tomi C et al.
Mucosal-associated invariant T cells promote inflammation and exacerbate disease in murine models of arthritis
Arthritis Rheum. , 64 , 153-161  (2011)
原著論文10
Chiba A, Mizuno M, Tomi C et al.
A 4-trifluomethyl analogue analogue of celecoxib inhibits arthritis by suppressing innate immune cell activation
Arthritis Res Ther , 17 , 9-15  (2012)
原著論文11
Toba T, Murata K, Futamura J et al.
Synthesis and biological evaluation of truncated α-galactosylceramide derivatives focusing on cytokine induction profile
Bioorganic & Med Chem , 20 , 2850-2859  (2012)
原著論文12
Satoh J, Obayashi S, Misawa T et al.
Protein microarray analysis identifies human cellular prion protein interactors
Neuropathology and Applied Neurobiology , 35 (1) , 16-35  (2009)
原著論文13
Shioya M, Obayashi S, Tabunoki H et al.
Aberrant microRNA expression in the brains of neurodegenerative diseases: miR-29a decreased in Alzheimer disease brains targets neuron navigator-3
Neuropathology and Applied Neurobiology , 36 (4) , 320-330  (2010)
原著論文14
Yoshino T, Tabunoki H, Sugiyama S et al.
Non-phosphorylated FTY720 induces apoptosis of human microglia by activating SREBP2.
Cellular and Molecular Neurobiology , 31 (7) , 1009-1020  (2011)
原著論文15
Numasawa Y, Yamaura C, Ishihara S et al.
Nasu-Hakola disease with a splicing mutation of TREM2 in a Japanese family
European Journal of Neurology , 18 (9) , 1179-1183  (2011)
原著論文16
Sato, W., A. Tomita, D. Ichikawa et al.
CCR2+CCR5+ T cells produce matrix metalloproteinase-p and osteopontin in the pathogenesis of multiple sclerosis
J. Immunol. , 189 , 5057-5065  (2012)
原著論文17
Ayzeberg, I., I. Kleiter, A. Schroder, K. Hellwig, A. Chan, T. Yamamura, and R. Gold
Interleukin-6 receptor blockade in neuromyelitis optica patients non-responsive to anti-CD20 therapy
JAMA Neurol , 70 , 394-397  (2013)
原著論文18
Chihara, N. et al.
Plasmablasts as migratory IgG producing cells in the pathogenesis of neuromyelitis optica
PLOS One , 8 (12) , e83036-  (2013)

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2016-06-13

収支報告書

文献番号
201128006Z