難治性神経因性疼痛に対する大脳一次運動野刺激の多施設共同研究:継続的反復的経頭蓋磁気刺激による効果判定とメカニズム解析

文献情報

文献番号
201127003A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性神経因性疼痛に対する大脳一次運動野刺激の多施設共同研究:継続的反復的経頭蓋磁気刺激による効果判定とメカニズム解析
課題番号
H23-痛み・一般-003
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
齋藤 洋一(大阪大学 産学連携本部 共同研究部門)
研究分担者(所属機関)
  • 片山 容一(日本大学医学部 脳神経外科学系 神経外科学分野)
  • 山本 隆充(日本大学医学部 先端医学系 応用システム神経科学分野)
  • 中村 雄作(近畿大学医学部 堺病院 神経内科)
  • 宇川 義一(福島県立医科大学 神経内科学講座)
  • 生駒 一憲(北海道大学 リハビリテーション科)
  • 杉山 憲嗣(浜松医科大学 脳神経外科)
  • 柿木 隆介(自然科学研究機構 生理学研究所 統合生理研究系)
  • 魚住 武則(産業医科大学 神経内科)
  • 下川 敏雄(山梨大学大学院 工業総合研究部 )
  • 下瀬川 恵久(大阪大学 医学系研究科 核医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 慢性の痛み対策研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
16,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
難治性神経因性疼痛(InNP)に対して、反復的経頭蓋磁気刺激(rTMS)によるM1刺激を、阪大附属病院で単回rTMSによる150例以上のInNPに臨床研究を施行したところ、安全性には問題はなく、一時的な有効性(1日程度)を示した。そこで今回、InNPに対する継続的rTMSの治療効果を多施設共同研究で検証した。
研究方法
プロトコールとして2週間の連日rTMS(5Hz、500回、安静時運動閾値の90%)を施行し、有効性と安全性を検証した。患者はシャム刺激と本刺激のクロスオーバー試験を受けた。
結果と考察
「結果」1.臨床研究としてUMIN登録を行った(UMIN-CTR R000003048)。各施設での承認取得後、結果として61例(男性39例、女性22例)が臨床研究を終えることができた。エントリーの大多数が脳卒中後疼痛であった。rTMSによる問題となる有害事象はなかった。rTMS前後の短期効果では終了直後、60分後ともに疼痛尺度、マギル疼痛質問表ともに本刺激で有意な除痛効果が見られた。有意な除痛効果がみられた割合は20%であった。2週間の一連の治療中、除痛効果の持越しが見られたが、治療後に有意な持越し効果は見られなかった。PGICスコアは本刺激中、有意に改善が見られ、フォロー中は有意差がなかった。ベックうつスケールには有意な変化がなかった。有効因子解析では、有意差はないが、60歳以下、レンズ核病変で、治療反応性が良い傾向が見られた。
2.引き抜き損傷後疼痛では、周期性激痛よりも幻肢痛に近い持続痛に対して一次運動野(M1)刺激の有効性が高いことを見出した。つまり、M1刺激は脳での疼痛認知機構を制御している可能性が高いことを示唆している(Neurosurg, 2011)。
「考察」本研究は連日刺激による有意な短期の除痛効果を示した最初の前向き試験である。今回の報告は規模が最大で、InNPに限っているのが特徴である。今回の除痛効果の検討では、過去の報告と比べて、有効性がマイルドであるが、理由としては高齢者が多く、脳卒中後疼痛が多いのが原因と考えている。除痛効果のメカニズムとしては、運動野を刺激することで、脳内の疼痛認知機構が変化すると推測される。
痛みの性状として、持続痛のタイプに対してrTMSの有効性が高いことが示されたことは、これまで一次運動野刺激の有効性が50%程度であったことの一因かもしれないと考えられた。
結論
1.多施設共同研究ではrTMSがInNPに有意な除痛効果が示された。
2.周期性激痛にはrTMSは有効性が見込めない。

公開日・更新日

公開日
2012-06-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2013-01-17
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201127003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は反復経頭蓋磁気刺激による運動野刺激が、連日刺激による有意な短期除痛効果を示した最初の前向き試験であり、最大規模で、難治性神経障害性疼痛に限っているのが特徴である。除痛効果の検討では、過去の報告と比べて有効性がマイルドであるが、理由としては高齢者が多く、脳卒中後疼痛が多いのが原因と考えている。除痛のメカニズムとしては脳内の疼痛認知機構が変化すると推測される。持続痛に対して有効性が高いことが示されたことは、これまで運動野刺激の有効性が50%程度であったことの一因かもしれないと考えられた。
臨床的観点からの成果
本研究は神経障害性疼痛において反復経頭蓋磁気刺激による運動野刺激の連日刺激による有意な短期除痛効果を示した最初の前向き試験である。重大な有害事象はなかった。2週間の治療中、除痛効果の持越しがみられたが、治療後に有意な持越しはなかった。PGICスコアは本刺激中、有意に改善が見られ、フォロー中は有意差がなかった。有効因子解析では有意差はないが、60歳以下、レンズ核病変で、治療反応性が良い傾向が見られた。
引き抜き損傷後疼痛では、周期性激痛よりも持続痛に対して運動野刺激の有効性が高いことを見出した。
ガイドライン等の開発
我々は在宅用反復経頭蓋磁気刺激装置の開発を帝人ファーマと共同で進めている。今回の研究のうち、多施設共同研究に関しては、現在、国際誌に投稿中であるが、来年度、医療機器として医薬品医療機器総合機構に申請する予定になっている。その際に、治験が必要となろうが、重要な参考資料となると考えられる。また、その後に予定される保険適応取得に関しても、重要な参考資料となると考えられる。
その他行政的観点からの成果
難治性神経障害性疼痛の治療としては、2010年にプレガバリンが認可され、2012年にデュロキセチンが認可された。しかし、中枢性神経障害性疼痛に限るとグローバルにも有効な薬剤が無い状態である。本研究はエントリーの約80%が中枢性脳卒中後疼痛であり、有効性が示されたことは患者にとって大きな福音である。現在進行している在宅用反復経頭蓋磁気刺激装置の開発にも本研究結果はプラスであり、日本が苦手とする医療機器開発にも弾みをつける研究結果となった。
その他のインパクト
2009年6月8日 日本経済新聞 経頭蓋磁気刺激による難治性神経障害性疼痛治療のこころみが紹介された。
2010年4月1日 読売新聞 多施設共同研究が紹介された。
2011年3月25日 メディカルトリビューンに平成22年度厚生労働科学研究障害者対策総合(神経分野)研究成果発表会での中間報告が掲載された。
2012年2月27日 日本経済新聞 反復経頭蓋磁気刺激がパーキンソン病治療にも有効であることが掲載された。

発表件数

原著論文(和文)
20件
原著論文(英文等)
23件
その他論文(和文)
36件
その他論文(英文等)
19件
学会発表(国内学会)
97件
学会発表(国際学会等)
30件
その他成果(特許の出願)
3件
「出願」「取得」計3件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Setsu Nakatani-Enomoto, Ritstuko Hanajima, Yoshikazu Ugawa, et al.
Bidirectional modulation of sensory cortical excitability by quadripulse transcranial magnetic stimulation (QPS) in humans.
Clinical Neurophysiology , 123 (7) , 1415-1421  (2012)
原著論文2
Maruo T, Saitoh Y, Hosomi K, et al.
Deep brain stimulation of the subthalamic nucleus improves temperature sensation in patients with Parkinson's disease.
Pain , 152 (4) , 860-865  (2011)
原著論文3
Yanagisawa T, Hirata M, Saitoh Y, et al.
Real-time control of a prosthetic hand using human electrocorticography signals.
J Neurosurg , 114 , 1715-1722  (2011)
原著論文4
Takufumi Yanagisawa, Masayuki Hirata, Youichi Saitoh, et al.
Electrocorticographic control of a prosthetic arm in paralyzed patients
Annals of Neurology , 71 (3) , 353-361  (2012)
原著論文5
Koichi Hosomi, Ben Seymour, Youichi Saitoh
Modulating the pain network-neurostimulation for central poststroke pain
Nat Rev Neurol , 11 (5) , 290-299  (2015)
10.1038/nrneurol.2015.58.

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

収支報告書

文献番号
201127003Z