免疫抑制薬、抗悪性腫瘍薬によるB型肝炎ウイルス再活性化の実態解明と対策法の確立

文献情報

文献番号
201125002A
報告書区分
総括
研究課題名
免疫抑制薬、抗悪性腫瘍薬によるB型肝炎ウイルス再活性化の実態解明と対策法の確立
課題番号
H21-肝炎・一般-002
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
持田 智(埼玉医科大学 医学部 消化器内科・肝臓内科)
研究分担者(所属機関)
  • 楠本 茂(公立大学法人名古屋市立大学大学院医学研究科 腫瘍・免疫内科学分野 血液腫瘍内科学)
  • 井戸 章雄(鹿児島大学医歯学総合研究科 消化器疾患・生活習慣病学)
  • 池田 健次(虎の門病院肝臓センター 肝臓内科)
  • 市田 隆文(順天堂大学医学部附属静岡病院 消化器内科)
  • 金子 礼志((独)国立国際医療研究センター国府台病院 リウマチ・膠原病学、臨床免疫学)
  • 上田 佳秀(京都大学大学院医学研究科 消化器内科学)
  • 別所 正美(埼玉医科大学 医学部 血液内科)
  • 檀 和夫(日本医科大学 医学部 血液内科)
  • 鈴木 洋通(埼玉医科大学 医学部 腎臓内科)
  • 浦 信行(手稲渓仁会病院 総合内科)
  • 三村 俊英(埼玉医科大学 医学部 リウマチ膠原病科)
  • 山本 一彦(東京大学大学院 医学系研究科内科学専攻 アレルギーリウマチ学 東京大学医学部附属病院 アレルギーリウマチ内科)
  • 佐々木 康綱(埼玉医科大学 医学部 国際医療センター)
  • 藤井 博文(自治医科大学 医学部 臨床腫瘍科)
  • 小林 浩子(福島県立医科大学 医学部 消化器・リウマチ膠原病内科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
14,494,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HBs抗原陰性,HBc抗体ないしHBs抗体陽性のB型肝炎ウイルス(HBV)既往感染例は免疫抑制・化学療法を実施するとウイルス血症を生じ,重症肝炎を発症する場合がある。HBV再活性化はリツキシマブと副腎皮質ステロイドによる治療で高頻度に生じるが,他の免疫抑制・化学療法における実態は明らかでない。そこで,リツキシマブ以外の免疫抑制,化学療法によるHBV再活性化の実態を明らかにし,厚労省「坪内班」と「熊田班」による予防ガイドラインの有用性を検証するために,前向き研究を開始した。
研究方法
血液47,リウマチ・膠原病19,腎臓16,腫瘍内科19からなる計101診療科で組織を結成し,それぞれの領域における対象症例,治療法を決定した上で,HBV既往感染例およびキャリア例を登録,再活性化の実態を検討した。
結果と考察
322例が登録され,対象外4例を除く318例(血液129例,リウマチ・膠原病127例,腎臓13例,腫瘍内科49例)の経過を観察した。これらのうち,キャリ例は36例(血液9例,リウマチ・膠原病11例,腎臓2例,腫瘍内科14例),既往感染例は282例(血液120例,リウマチ・膠原病116例,腎臓11例,腫瘍内科35例)であり,観察期間は最長で30カ月であった。キャリア例は全例でエンテカビルの予防投与を行うことで,肝炎を発症せず免疫抑制・化学療法を遂行できている。一方,既往感染例では,初回スクリーニング時に血清HBV-DNA量が2.1 Log copy/mL未満であるが,「検出」された症例が6例(2.1%)存在し,また,12例(4.3%)でHBV再活性化を生じた。再活性化は副腎ステロイドないしはメトトレキサートの単独投与例および固形癌の化学療法実施例も認められたが,血清HBV-DNA量が2.1 Log copy/mL以上に上昇した時点でエンテカビル投与を開始することで,全例で肝炎の発症は予防できた。なお,血液領域の多剤併用化学療法実施例では3ヶ月の間に血清HBV-DNA量が6.4 Log copy/mLまで上昇した。
結論
リツキシマブ以外の免疫抑制,化学療法でもHBVの再活性化が生じることが明らかとなった。また,「坪内班」,「熊田班」のガイドラインは有用であるが,治療期間が長期に及ぶ免疫抑制療法の実施例における対応は,さらに検討を続ける必要があると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2012-05-08
更新日
-

文献情報

文献番号
201125002B
報告書区分
総合
研究課題名
免疫抑制薬、抗悪性腫瘍薬によるB型肝炎ウイルス再活性化の実態解明と対策法の確立
課題番号
H21-肝炎・一般-002
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
持田 智(埼玉医科大学 医学部 消化器内科・肝臓内科)
研究分担者(所属機関)
  • 楠本 茂(公立大学法人名古屋市立大学大学院医学研究科 腫瘍・免疫内科学分野 血液腫瘍内科学)
  • 井戸 章雄(鹿児島大学医歯学総合研究科 消化器疾患・生活習慣病学)
  • 池田 健次(虎の門病院肝臓病センター 肝臓内科)
  • 市田 隆文(順天堂大学医学部附属静岡病院 消化器内科)
  • 金子 礼志(独立行政法人国立国際医療研究センター国府台病院 リウマチ・膠原病学、臨床免疫学)
  • 上田 佳秀(京都大学大学院医学研究科 消化器内科学)
  • 別所 正美(埼玉医科大学 医学部 血液内科)
  • 檀 和夫(日本医科大学 医学部 血液内科)
  • 鈴木 洋通(埼玉医科大学 医学部 腎臓内科)
  • 浦 信行(医療法人渓仁会 手稲渓仁会病院 総合内科)
  • 三村 俊英(埼玉医科大学 医学部 リウマチ膠原病内科)
  • 山本 一彦(東京大学大学院 医学系研究科 内科学専攻アレルギーリウマチ学 東京大学医学部附属病院 アレルギーリウマチ内科)
  • 佐々木 康綱(埼玉医科大学 医学部 国際医療センター 腫瘍内科)
  • 藤井 博文(自治医科大学 医学部 臨床腫瘍科)
  • 小林 浩子(福島県立医科大学 医学部 消化器・リウマチ膠原病内科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HBs抗原陰性,HBc抗体ないしHBs抗体陽性のB型肝炎ウイルス(HBV)既往感染例は免疫抑制・化学療法を実施するとウイルス血症を生じ,重症肝炎を発症する場合がある。HBV再活性化はリツキシマブと副腎皮質ステロイドによる治療で高頻度に生じるが,他の免疫抑制・化学療法における実態は明らかでない。そこで,リツキシマブ以外の免疫抑制,化学療法によるHBV再活性化の実態を明らかにし,厚労省「坪内班」と「熊田班」による予防ガイドラインの有用性を検証するために,前向き研究を開始した。
研究方法
血液47,リウマチ・膠原病19,腎臓16,腫瘍内科19からなる計101診療科で組織を結成し,それぞれの領域における対象症例,治療法を決定した上で,HBV既往感染例およびキャリア例を登録,再活性化の実態を検討した。
結果と考察
322例が登録され,対象外4例を除く318例(血液129例,リウマチ・膠原病127例,腎臓13例,腫瘍内科49例)の経過を観察した。これらのうち,キャリ例は36例(血液9例,リウマチ・膠原病11例,腎臓2例,腫瘍内科14例),既往感染例は282例(血液120例,リウマチ・膠原病116例,腎臓11例,腫瘍内科35例)であり,観察期間は最長で30カ月であった。キャリア例は全例でエンテカビルの予防投与を行うことで,肝炎を発症せず免疫抑制・化学療法を遂行できている。一方,既往感染例では,初回スクリーニング時に血清HBV-DNA量が2.1 Log copy/mL未満であるが,「検出」された症例が6例(2.1%)存在し,また,12例(4.3%)でHBV再活性化を生じた。再活性化は副腎ステロイドないしはメトトレキサートの単独投与例および固形癌の化学療法実施例も認められたが,血清HBV-DNA量が2.1 Log copy/mL以上に上昇した時点でエンテカビル投与を開始することで,全例で肝炎の発症は予防できた。なお,血液領域の多剤併用化学療法実施例では3ヶ月の間に血清HBV-DNA量が6.4 Log copy/mLまで上昇した。
結論
リツキシマブ以外の免疫抑制,化学療法でもHBVの再活性化が生じることが明らかとなった。また,「坪内班」,「熊田班」のガイドラインは有用であるが,治療期間が長期に及ぶ免疫抑制療法の実施例における対応は,さらに検討を続ける必要があると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2012-05-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2012-11-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201125002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
リツキマブ以外の免疫抑制・化学療法でも,HBV既往感染例の再活性化は生じるが,毎月HBV-DNAを測定し,2.1 Log copy/mL以上の時点でエンテカビルを投与すれば,肝炎発症は予防できることを明らかにした。なお,既往感染例には治療前からHBV-DNA陽性例が存在するが,再活性化は一過性感染による既往感染例でも,これら症例と同様に生じることを見出した。また,HBs抗原陽性のキャリア例はエンテカビルの予防投与することで,肝炎を発症せず免疫抑制・化学療法を遂行できることも確認した。
臨床的観点からの成果
HBV再活性化の予防には,厚労省「坪内班」と「熊田班」が合同で作成したガイドラインが利用されているが,これはリツキシマブ以外の免疫抑制・化学療法を実施する症例を対象とした場合も有用であることを明らかにした。また,HBV再活性化は副腎ステロイドないしはメトトレキサートの単独投与例および固形癌の化学療法実施例も認められことを明らかにし,すべての診療科で留意すべき問題であることを明確にした。また,HBV再活性化の予防のために適切なモニタリングの間隔,エンテカビルの投与開始基準も明確にした。
ガイドライン等の開発
2009年発表のガイドラインでは,免疫抑制・化学療法を実施する際には「HBs抗原,HBs抗体,HBc抗体」を同時測定することを推奨していたが,2011年9月のガイドラインでは、先ずHBs抗体を測定して,陰性の場合は「HBs抗体,HBc抗体」を測定すべきと変更された。2013年4月発表の日本肝臓学会編『B型肝炎治療ガイドライン』では、核酸アナログ製剤の開始基準がHBV-DNAが2.1 log copies/ml以上となり、治療内容に応じてHBV-DNAのモニタリングの間隔が1-3ヶ月と改訂された。
その他行政的観点からの成果
本研究班の成果に基づいて,厚労省は平成23年9月16日と9月22日に疑義解釈を発表し,HBV再活性化の予防に際して,(1)HBs抗原およびHBs抗体とHBc抗体を測定するスクリーニング検査を実施すること,(2)既往感染例ではHBV-DNA測定によるモニタリングを月1回実施すること,(3)再活性化例ではエンテカビルによる治療を行うこと,の3項目が保険診療で可能になった。
その他のインパクト
本研究班の成果は,平成23年9月8日に読売新聞の第1面で取り上げられた。同日にはNHKのニュースでも報道され,翌日以降,朝日新聞を初めてとして多数の新聞紙面で記事が掲載された。また,週間朝日は10月に2号にわたって,本研究班の成果を記事として掲載した。また,平成21年度以降,全国各地で本研究班の成果を発表する講演会が開催されている。

発表件数

原著論文(和文)
1件
我が国における「急性肝不全」の概念,診断基準の確立:厚生労働省科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班,ワーキンググループ-1,研究報告
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
12件
治療のピットフォール:de novoのB型劇症肝炎他
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
10件
HBV再活性化症例の長期予後に関する検討. 第46回日本肝臓学会総会,山形,2010年6月.他
学会発表(国際学会等)
2件
AASLD 2012 Annual Meeting. AASLD 2015 Annual Meeting.
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
厚生労働省:疑義解釈(2011年9月16日,22日発表),2013年4月 日本肝臓学会編『B型肝炎治療ガイドライン』
その他成果(普及・啓発活動)
52件
HBV再活性化に関する講演会(持田 智):( 2009年1回,2010年13回,2011年16回,2012年7回, 2013年7回,2014年8回)

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Mochida S, Takikawa Y, Nakayama N et al.
Diagnostic Criteria of Acute Liver Failure: A Report by the tractable Hepato-Biliary Diseases Study Group of Japan.
Hepatol Res , 41 , 805-812  (2011)
原著論文2
持田 智,滝川康裕,中山伸朗 他
我が国における「急性肝不全」の概念,診断基準の確立:厚生労働省科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班,ワーキンググループ-1,研究報告
肝臓 , 52 , 393-398  (2011)
原著論文3
Sugawara K, Nakayama N, Mochida S, et al.
Acute Liver failure in Japan:Definition, Classification, and Prediction of the Outcome.
J Gastroenterol , 47 , 849-861  (2012)
原著論文4
Harigai M, Mochida S, Mimura T, et al.
A proposal for Management of RHeumatic Disease Patients with Hepatitis B virus Infection Receiving Immuno-suppressive Therapy.
Mod Rheumatol , 24 , 1-7  (2014)
原著論文5
持田 智, 滝川 康裕, 中山 伸朗, 他
急性肝不全の成因分類
肝臓 , 55 , 132-135  (2014)
原著論文6
Nakayama N, Oketani M, Mochida S, et al
The Algorithm to Determine the Outcome of Patients with Acute Liver Failure; a Data Mining Analysis Using Decision Trees.
J Gastroenterol , 47 , 664-677  (2012)
原著論文7
Mochida S, Nakao M, Nakayama N, et al.
Nationwide prospective and retrospective surveys for hepatitis B virus reactivation during immunosuppressive therapies
J Gastroenterol  (2016)

公開日・更新日

公開日
2016-05-23
更新日
2017-01-20

収支報告書

文献番号
201125002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
18,841,000円
(2)補助金確定額
18,841,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,707,440円
人件費・謝金 0円
旅費 1,152,750円
その他 5,633,810円
間接経費 4,347,000円
合計 12,841,000円

備考

備考
差異分の6000千円については、15名の研究分担者にそれぞれ配分している。

公開日・更新日

公開日
2017-01-20
更新日
-