インフルエンザ脳症など重症インフルエンザの発症機序の解明とそれに基づく治療法・予防法の確立に関する研究

文献情報

文献番号
201123010A
報告書区分
総括
研究課題名
インフルエンザ脳症など重症インフルエンザの発症機序の解明とそれに基づく治療法・予防法の確立に関する研究
課題番号
H21-新興・一般-010
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
森島 恒雄(国立大学法人 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 岡部 信彦(国立感染症研究所 その他部局等)
  • 莚田 泰誠(理化学研究所 ゲノム医科学研究センター)
  • 河岡 義裕(東京大学 医科学研究所)
  • 山口 清次(島根大学 医学部)
  • 水口 雅(東京大学 大学院 医学系研究科)
  • 市山 高志(山口大学 大学院医学系研究科)
  • 長谷川 秀樹(国立感染症研究所 その他部局等)
  • 奥村 彰久(順天堂大学 医学部)
  • 伊藤 嘉規(名古屋大学 医学部附属病院 小児科)
  • 河島 尚志(東京医科大学 医学部)
  • 新矢 恭子(神戸大学 大学院医学研究科)
  • 塚原 宏一(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
44,545,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
AH1N12009pdm以下「新型」を含むインフルエンザ脳症と重症肺炎の臨床像及び病態を明らかにし、侵入が危惧される高病原性インフルエンザのパンデミックの対策につなげることを本年度の研究目的とした。
研究方法
多面的な方法により解析を行った(結果と考察の項参照)。以下の研究は、倫理委員会の承認および患者家族の同意の下実施した。
結果と考察
疫学・臨床像
2010/2011シーズンのインフルエンザの流行は「新型」インフルエンザが主流であり、インフルエンザ脳症の報告数は80例であり、ワクチン未接種では予後が不良であった。AST高値と高血糖は有意に予後不良因子であった。「新型」インフルエンザによって死亡した小児例の死因は予期せぬ心肺停止と急性脳症が多かった。「新型」インフルエンザ脳症の剖検例では高感度PCR法でもウイルスゲノムは検出されなかった。
病態・ウイルス学
インフルエンザ脳症における血清中のサイトカインなどの動態の検討では、血清中のアナフィラトキシンの濃度は重症度別に有意差はなかった。C5aとIL-2、C4aとIL-1ra・Eotaxin・MCP-1などC3aとIFN-γの間に相関を認めた。一方、インフルエンザ感染によるサイトカイン産生では、気道上皮細胞に対する「新型」インフルエンザ感染は季節性にくらべて、IL-1β、IL-6 mRNA発現は少なく、培養上清IL-8濃度は高値であった。気管支喘息モデルマウスでは、新型インフルエンザ感染によって、BAL中のIL-6,IL-10,TNF-αの産生が増加した。
宿主側遺伝子発現の解析
脳症のSNPs解析では、Naチャネルに関連するSCN1A遺伝子変更を数%に認め、急性脳症の危険因子の一つであることを示した。脳症患者で高発現を示した遺伝子のSNPs解析では、全ゲノム解析(GWAS)を行なったが、発症リスクとの有意な関連はなかった。しかし、CPT2変異の頻度が高いことを示唆する報告もあり、今後の継続した検討が必要である。一方、中枢神経症状を認めたインフルエンザとロタウイルス胃腸炎では、DNAマイクロアレイ法を用いて急性期の遺伝子発現で両者に宿主免疫応答の違いがあることが示され、今後後者の治療法の検討上重要な結果であった。
結論
2009pdm脳症及び重症肺炎について疫学・病態・宿主側因子について検討し、有用な成果を得ることができた。

公開日・更新日

公開日
2012-05-31
更新日
-

文献情報

文献番号
201123010B
報告書区分
総合
研究課題名
インフルエンザ脳症など重症インフルエンザの発症機序の解明とそれに基づく治療法・予防法の確立に関する研究
課題番号
H21-新興・一般-010
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
森島 恒雄(国立大学法人 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 岡部 信彦(国立感染症研究所 その他部局等)
  • 莚田 泰誠(理化学研究所 ゲノム医科学研究センター)
  • 河岡 義裕(東京大学 医科学研究所)
  • 山口 清次(島根大学 医学部)
  • 水口 雅(東京大学 大学院 医学系研究科)
  • 市山 高志(山口大学 大学院医学系研究科)
  • 長谷川 秀樹(国立感染症研究所 その他部局等)
  • 奥村 彰久(順天堂大学 医学部)
  • 伊籐 嘉規(名古屋大学 医学部附属病院)
  • 河島 尚志(東京医科大学 医学部)
  • 新矢 恭子(神戸大学 大学院医学研究科)
  • 塚原 宏一(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
インフルエンザ脳症の予後は悪く、病態解明を通じた有効な治療法の確立が喫緊の課題である。 宿主側の発症因子の解明とそれに基づく発症前診断・早期治療の重要性が増している。本症の病態(サイトカイン・ケモカインによる脳障害および多臓器不全・重症肺炎)をさらに解明を進めることで、より有効な予防法・治療法を確立することを目的とした。
研究方法
新型インフルエンザ(2009pdm)脳症の全国アンケート調査を実施し、季節性インフルエンザ脳症との違いを明らかにした。また、小児で多発した同重症肺炎の病態も併せて検討した。
2009pdmの小児死亡全41例の詳細な調査を実施した。宿主因子の解明として(1)SNPs解析、(2)急性期遺伝子発現のマイクロアレイ解析、(3)脳症、重症肺炎におけるサイトカイン・ケモカインの動態を検討した。
結果と考察
本研究班において2009年9月「インフルエンザ脳症ガイドライン改訂版」を作成し、公開した。また、全国調査の結果から2009pdm脳症は季節性脳症に比較し、年長児に多くけいれんより異常行動の頻度が高いなどの特徴を示した。2009pdmによる日本の小児死亡全41例の調査結果では急死例(CPA)と脳症が多く、諸外国に比べ重症肺障害の頻度は低かった。重症肺炎ではTh2サイトカインが優位に増加していた。GWASを用いた解析では発症リスクと関連する有意なSNPは認められなかった。一方、別の解析ではCPT2の熱感受性多型やADORA2A遺伝子多型の異常を示唆する結果もあり、今後の継続した解析が重要と思われた。DNAマイクロアレイ解析では2009pdm肺炎と脳症の急性期において、それぞれ異なる宿主側遺伝子の発現が認められ、脳症と肺炎の発症機序は異なることが示唆された。これらは治療法の確立の上で非常に重要な成果と考えられた。
結論
2009pdm脳症及び重症肺炎について全国調査、病態、宿主側因子、ウイルス学的解析を実施し、重要な結果を得ることができた。また、2009年9月2009pdmの国内パンデミック早期に「インフルエンザ脳症ガイドライン改訂版」を公表し、広く国内に普及している。これらの成果は「新型インフルエンザ対策」として行政施策に反映された。

公開日・更新日

公開日
2012-05-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201123010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
インフルエンザ脳症特に2009pdm脳症の臨床的特徴、病態、宿主側因子の解明が進んだ。特に病態解明が進み、インフルエンザ脳症と2009pdm肺炎(小児で特徴的であった)の治療法確立に繋がった。
宿主側因子の解明については、SNP解析では最終的な結果は得られていないが、一方、脳症群と肺炎群では急性期発現する遺伝子群が異なっており、これらからそれぞれ治療法の確立に有用な情報が得られた。2013年中国で流行したAH7N9についてウイルス学的検討を実施した。
臨床的観点からの成果
2009pdm重症肺炎及び脳症の病態解析の結果から、ガイドラインを作成し有効な治療法を提示することができた。2009pdm脳症の予後は季節性インフルエンザ脳症の予後に比べ、致命率は差が認められなかったが有意に後遺症を軽減することができた。AH7N9ウイルスは、肺で増殖し重篤な肺炎(ARDS含む)を起こしており、また抗インフルエンザ薬の効果も低い可能性を示した。このため、AH7N9の国内侵入に備え、治療・診療体制整備が重要となることを示した。
ガイドライン等の開発
2009pdmの国内でのパンデミック直前に(2009年9月)、本研究班からインフルエンザ脳症ガイドライン改訂版を出すことができた。本改訂版は全国的に広く用いられ、予後の改善に繋がった。
AH7N9などの重症インフルエンザの国内侵入に備え、本研究班と厚生労働省大石班が共同で関連学会に対して、診療ガイドラインの作成及びECMOを含む診療体制整備について共同で進めていくことを提案し、4回の会議の後現在ガイドライン整備が進んでいる。
その他行政的観点からの成果
2009pdmの小児死亡全41例の詳細な調査を実施し、急性期の自宅における死亡と脳症による死亡が多くを占める実態が明らかになった。同時に、諸外国に比較し(米国における18歳未満小児死亡1200例-CDC報告-)重症肺炎による死亡が極めて少ない現状が示され、今後のわが国の小児のインフルエンザ対策上重要な成果と思われた。より重症化が危惧されるAH7N9などの重症インフルエンザに対して、小児・成人に対応する治療法・診療体制整備を進めることができた。
その他のインパクト
主任研究者森島、班員河岡・岡部などわが国におけるインフルエンザ(新型を含む)対策について、NHKを含むTV出演や各新聞における情報公開などを行った。また、日本学術会議主催の新型インフルエンザ市民公開講座など多数の市民公開講座に出席し、情報を公開した。また、2013年NHKを含む多くのメディアを通じてAH7N9や2013年再流行したA2009pdm耐性株などについての注意喚起を促した。その後、2015/16シーズンに流行したH1N1pdmにおいて小児の重症肺炎が多発したが、本研究結果が役立った。

発表件数

原著論文(和文)
10件
原著論文(英文等)
15件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
重症インフルエンザのガイドライン作成及び診療体制の整備が進んだ。
その他成果(普及・啓発活動)
1件
AH7N9やA2009pdm耐性株などの重要性について広く社会に啓発活動を行った。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Wada T, Morishima T, Okumura A,et al
Differences in clinical manifestations of influenza-associated encephalopathy by age
Microbiology and Immunology , 53 (2) , 83-88  (2009)
原著論文2
Purevsuren J, Kobayashi H, Hasegawa Y, et al
A Novel Molecular Aspect of Japanese Patients with Medium Chain Acyl-CoA Dehydrogenase Deficiency (MCADD): 449-452delCTGA is a Common Mutation in Japanese Patients with MCADD
Molecular Genetics and Metabolism , 96 , 77-79  (2009)
原著論文3
Okumura A, Mizuguchi M, Kidokoro H, et al.
Outcome of acute necrotizing encephalopathy in relation to treatment with corticosteroids and gammaglobulin
Brain Dev , 31 , 221-227  (2009)
原著論文4
Okumura A, Abe S, Kidokoro H, et al.
Acute necrotizing encephalopathy: a comparison between influenza and non-influenza cases
Microbiol Immunol , 53 , 277-280  (2009)
原著論文5
・Okumura A, Kidokoro H, Tsuji T, et al.
Differences of clinical manifestations according to the patterns of brain lesions in acute encephalopathy with reduced diffusion in the bilateral hemispheres
American Journal of Neuroradiology , 30 , 825-830  (2009)
原著論文6
Kawashima H, Yamanaka G, Ishii C, et al.
Nitrite and nitrate as a new target of treatments in influenza-associated encephalopathy J
Pediatr Infect Diseases , 5 , 171-176  (2010)
原著論文7
Tadokoro R, Okumura A, Nakazawa T,et al.
Acute encephalopathy with biphasic seizures and late reduced diffusion associated with hemophagocytic syndrome
Brain Dev , 32 , 477-481  (2010)
原著論文8
Tsuge M, Yasui K, Ichiyawa T, et al.
Increase of tumor necrosis factor-alpha in the blood induces early activation of matrix metalloproteinase-9 in the brain
Microbiol Immunol , 54 , 417-424  (2010)
原著論文9
Ichiyama T.
Acute encephalopathy/encephalitis in childhood: a relatively common and potentially devastating clinical syndrome
Brain Dev , 32 , 433-434  (2010)
原著論文10
Kawashima H, Go S, Kashiwagi Y,et al.
Cytokine profiles of suction pulmonary secretions from children infected with pandemic influenza A(H1N1) 2009
Crit Care , 14 , 411-411  (2010)
原著論文11
Okumura A, Morishima T et al.
Deaths Associated with Pandemic (H1N1) 2009 among Children, Japan, 2009-2010
Emerg Infect Dis , 17 , 1993-2000  (2011)
原著論文12
Ito Y, Morishima T et al.
Increased levels of cytokines and high-mobility group box 1 are associated with the development of severe pneumonia, but not acute encephalopathy, in 2009 H1N1nfluenza-infected children
Cytckine , 56 , 180-187  (2011)
原著論文13
Shinya K, Makino A, Hatta M, et al.
Subclinical Brain Injury Caused by H5N1 Influenza Virus Infection
J Virol , 85 , 5202-5207  (2011)
原著論文14
Suzuki T, Hasegawa H et al.
A novel function of the N-terminal domain of PA in assembly of influenza A virus RNA polymerase
Biochem Biophys Res Commun , 141 , 719-726  (2011)
原著論文15
Nakajima N, Sato Y, Katano H, et al.
Histopathological and immunohistochemical findings of 20 autopsy cases with 2009 H1N1 virus infection
Mod Pathol  (2011)

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
2016-06-27

収支報告書

文献番号
201123010Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
57,757,000円
(2)補助金確定額
57,757,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 42,806,722円
人件費・謝金 978,859円
旅費 769,410円
その他 0円
間接経費 13,212,000円
合計 57,766,991円

備考

備考
利息 113円
自己資金 9878円

公開日・更新日

公開日
2016-05-26
更新日
-