食品由来感染症調査における分子疫学手法に関する研究

文献情報

文献番号
201123003A
報告書区分
総括
研究課題名
食品由来感染症調査における分子疫学手法に関する研究
課題番号
H21-新興・一般-003
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
寺嶋 淳(国立感染症研究所 細菌第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 清水俊一(北海道立衛生研究所 微生物部)
  • 甲斐明美(東京健康安全研究センター 微生物部)
  • 松本昌門(愛知県衛生研究所 微生物部)
  • 勢戸和子(大阪府立公衆衛生研究所 細菌課)
  • 中嶋 洋(岡山県環境保健センター 細菌科)
  • 堀川和美(福岡県保健環境研究所 病理細菌課)
  • 伊豫田 淳(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 片山和彦(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 岡智一郎(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 染谷雄一(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 三瀬敬治(札幌医科大学医学部 衛生学講座)
  • 田中智之(堺市衛生研究所 微生物グループ)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
43,680,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食品由来感染症の原因病原体となるウイルスや細菌の遺伝学的解析方法について検討し、原因解明のために解析結果を共有して当該感染症の予防や制御に資する情報ネットワークを構築することを目的とする。原因病原体の解析データと疫学情報を含むデータベースをオンラインで利用することにより、食品由来感染症の発生に即応できる情報を提供できる体制を構築する。
研究方法
1) BioNumerics(BN)とBN serverによるPFGE菌株解析情報データベース(DB)の更新とサーバ利用による情報掲示板機能の充実及びIS-printing system(ISPS)のDB構築を行う。PFGE及びISPSの精度管理を継続し、MLVAによる解析手法を検討する。
2) 近年流行したノロウイルス(NoV)株の全塩基配列の決定によるデータの蓄積を行う。構造蛋白質P-domainの結晶構造解析による病原性発現機序における役割を解析する。河川水中におけるSaVの存在状況をRT-PCR法により調査し、構造タンパク質領域約2.5 kbを増幅し、塩基配列を決定する。カリシウェブ内の遺伝子データベースを更新する。SaVの各種genotypeクラスターに対するモノクローナル抗体の作成およびICキットの構築を行う。
結果と考察
食品由来感染症を惹起する病原体の解析情報DBとして、ウイルスではカリシウェブ、細菌ではパルスネットの構築を進めた。BN serverを利用したPFGE及びMultilocus variable-number tandem repeat analysis (MLVA)のDBとともに、腸管出血性大腸菌(EHEC)O157の解析では、ISPS法による解析結果のDB化を開始した。NoVの病原性解析から、ORF1に細胞毒性を有する非構造タンパク質がコードされていることが明らかになった。NoVおよびSaVの分子疫学的情報を網羅的に取り扱うカリシウェブが構築され、海外からのアクセスが多いナショナルDBとして稼働している。さらに、ロタウイルスのデータを加え、下痢症ウイルスの総合DBとして本格的に稼働する準備が整いつつある。
結論
病原体解析情報のDBをネットワーク上で共有・利用することにより、食品由来感染症の探知・感染源究明に利用できるシステムが構築されつつある。ウイルスのカリシウェブ、細菌のパルスネットにおいて、解析情報の正確さを保持するための精度管理と解析情報の更新が継続されている。今後も、分子遺伝学的手法に基づいた病原体解析手法を継続的に評価して利用することが、有用なDB構築に必要だと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2012-05-31
更新日
-

文献情報

文献番号
201123003B
報告書区分
総合
研究課題名
食品由来感染症調査における分子疫学手法に関する研究
課題番号
H21-新興・一般-003
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
寺嶋 淳(国立感染症研究所 細菌第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 清水 俊一(北海道立衛生研究所 )
  • 甲斐明美(東京都健康安全研究センター)
  • 松本昌門(愛知県衛生研究所)
  • 勢戸和子(大阪府立公衆衛生研究所)
  • 中嶋洋(岡山県環境保健センター)
  • 堀川和美(福岡県保健環境研究所)
  • 渡辺治雄(国立感染症研究所)
  • 伊豫田 淳(国立感染症研究所)
  • 片山和彦(国立感染症研究所)
  • 岡智一郎(国立感染症研究所)
  • 染谷雄一(国立感染症研究所)
  • 田中智之(堺市衛生研究所)
  • 三瀬敬治(札幌医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食品由来感染症の原因病原体となるウイルスや細菌の遺伝学的解析方法について検討し、原因解明のために解析結果を共有して当該感染症の予防や制御に資する情報ネットワークを構築することを目的とする。原因病原体の解析データと疫学情報を含むデータベースをオンラインで利用することにより、食品由来感染症の発生に即応できる情報を提供できる体制を構築する。
研究方法
1) パルスネットにおいては、BioNumerics(BN)及びBN serverを利用した菌株解析情報データベース(DB)のオンラインシステムを構築しデータベースの更新を進める。サーバ利用による情報掲示板機能の充実及びIS-printing system(ISPS)のDB構築を行う。PFGE及びISPSの精度管理を継続し、MLVAによる解析手法を検討する。2) 近年流行したノロウイルス(NoV)株の全塩基配列を決定し、情報を蓄積する。ウイルスゲノム情報と疫学を連結させて解析するためのカリシウェブを整備・更新する。NoVの病原性発現機序におけるORF1及びORF2,3の役割について調べる。河川水中のSaV存在状況を調査し、構造タンパク質領域約2.5 kbの塩基配列決定を行う。SaVの各種genotypeに対するモノクローナル抗体およびICキットの作出を行う。
結果と考察
食品由来感染症を惹起する病原体の解析情報DBとして、ウイルスではカリシウェブ、細菌ではパルスネットの構築を進めた。BNを利用したPFGE及びMLVAのDBとともに、腸管出血性大腸菌(EHEC)O157の解析では、ISPS法による解析結果のDB化を開始した。NoVの病原性解析から、ORF1に細胞毒性を有する非構造タンパク質がコードされていることが明らかになった。NoVおよびSaVの分子疫学的情報を網羅的に取り扱うカリシウェブが構築され、海外からのアクセスが多いナショナルDBとして稼働している。さらに、ロタウイルスのデータを加え、下痢症ウイルスの総合DBとして本格的に稼働する準備が整いつつある。
結論
食品由来感染症の原因病原体を迅速に検出しその解析情報を共有化することは、感染源の解明や感染症の拡大を阻止するうえで重要である。ウイルスや細菌等の病原体解析情報のDBをネットワーク上で利用できるシステムが構築されつつある。ウイルスのカリシウェブ、細菌のパルスネットにおいて、解析情報の正確さを保持するための精度管理と解析情報の更新が継続されている。今後も、分子遺伝学的手法に基づいた病原体解析手法を継続的に評価して利用することが、有用なDB構築に必要だと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2012-05-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201123003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
食品由来感染症の原因細菌・ウイルスを迅速かつ正確に探知するために、遺伝学的解析手法が汎用され、得られた病原体解析情報および疫学情報を関係機関で広く共有するためは、情報ネットワーク構築が重要である。本研究班においては、細菌の解析にはPFGEに基づく解析結果のデータベース(DB)化とMLVAが導入され、されにO157に関しては、IS-printing systemのDB化により迅速性が確保された。また、ノロウイルス、サポウイルスに関しては、カリシウェブが構築され、世界的なDBとして利用されつつある。
臨床的観点からの成果
細菌感染症においては重症化する腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症の広域における迅速な探知に有用であり、ノロウイルス等のウイルス感染症においては流行株の把握・予想に有用な情報を提供できるシステムが構築された。
ガイドライン等の開発
EHEC感染症においては、EHEC感染が原因と考えられる重篤な症例(溶血性尿毒症症候群:HUS)が起こることがあり、HUS患者血清中の抗大腸菌抗体価を測定することでEHEC感染症の確定診断が可能である。本研究では、2011年に発生した焼き肉チェーン店におけるO111による集団発生事例を受け、HUS患者血清中の抗大腸菌抗体価のプロトコールを策定し、本研究班の分担研究者を通じて全国に伝達した。
その他行政的観点からの成果
EHECによる食中毒事例において原因食の生レバー由来株と患者由来株のEHEC O157が同じ遺伝子型であることを明らかにし、その他にも同じ感染源による散発事例が発生している可能性を示唆した。平成24年3月30日の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会 乳肉水産食品部会において、委員の発言として上記を紹介した。
その他のインパクト
食品由来感染症の探知ネットワークとして、地方衛生研究所と国立感染症研究所からなるパルスネットの概要等について、公衆衛生学会、食品微生物学会等において本研究班の成果をシンポジストとして発表した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
15件
その他論文(和文)
27件
その他論文(英文等)
32件
学会発表(国内学会)
32件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Masakado Matsumoto, Masahiro Suzuki, Kaoru Hirose et al
Variation in M protein production among Streptococcus pyogenes strains according to emm genotype.
Microbiol Immunol. , 55 , 379-387  (2011)
原著論文2
Masaaki Minami, Mariko Ichikawa, Hideyuki Matsui et al
Prevalence of a Streptococcal Inhibitor of a Complement-Mediated Cell lysis-like Gene (sicG) in Streptococcus Dysgalactiae subsp. Equisimilis.
Current Microbiology , 62 , 884-887  (2011)
原著論文3
Kanki M, Seto K, Harada T et al
Comparison of four enrichment broths for the detection of non-O157 Shiga-toxin-producing Escherichia coli O91, O103, O111, O119, O121, O145 and O165 from pure culture and food samples.
Lett. Appl. Microbiol. , 53 , 167-173  (2011)
原著論文4
Harada T, Sakata J, Kanki M et al
Molecular epidemiological investigation of a diffuse outbreak caused by Salmonella enterica serotype Montevideo isolated in Osaka prefecture, Japan.
Foodborne Pathog. Dis. , 8 , 1083-1088  (2011)
原著論文5
Murakami K, Suzuki S, Aoki N et al
Binding of Norovirus virus-like particles (VLPs) to human intestinal Caco-2 cells and the suppressive effect of pasteurized bovine colostrum on this VLP binding.
Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry. , 74 , 541-547  (2010)
原著論文6
Sharp, T. M., Guix, S., Katayama K et al
Inhibition of Cellular Protein Secretion by Norwalk Virus Nonstructural Protein p22 Requires a Mimic of an Endoplasmic Reticulum Export Signal.
PLoS ONE , 5 , 13130-  (2010)
原著論文7
Oka, T., Takagi, H., Tohya, Y et al
Bioluminescence technologies to detect calicivirus protease activity in cell-free system and in infected cells.
Antiviral Res. , 90 , 9-16  (2011)
原著論文8
Oka, T., Murakami, K., Wakita, T et al
Comparative site-directed mutagenesis in the catalytic amino acid triad in calicivirus proteases.
Microbiol Immunol. , 55 , 108-114  (2011)
原著論文9
Kitajima M, Oka T, Haramoto E et al
Genetic Diversity of Genogroup IV Noroviruses in Wastewater in Japan.
Lett Appl Microbiol. , 52 , 181-184  (2011)
原著論文10
Hansman, G. S., Biertumpfel, C., Georgiev et al
Crystal structures of GII.10 and GII.12 norovirus protruding domains in complex with histo-blood group antigens reveal details for a potential site of vulnerability.
J of Virol. , 85 , 6687-6701  (2011)
原著論文11
Hansman, G. S., Shahzad-Ul-Hussan, S., McLellan, J. S. et al
Structural basis for norovirus inhibition and fucose mimicry by citrate.
J of Virol. , 86 , 284-294  (2012)
原著論文12
Matsuhira, T. Kaji, C. Murakami, S. et al
Evaluation of four antiseptics using a novel murine norovirus.
Exp Anim. , 61 , 35-40  (2012)
原著論文13
Y. Someya, H. Shirato, K. Hasegawa, T. et al
Assembly of Homogeneous Norovirus-like Particles Accomplished by Amino Acid Substitution.
J. Gen. Virol. , 92 , 2320-2323  (2011)
原著論文14
Oka T, Mori K, Iritani N et al
Human sapovirus classification based on complete capsid nucleotide sequences.
Arch Virol. , 157 , 349-352  (2012)

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
2016-05-26

収支報告書

文献番号
201123003Z