在宅重度障害者に対する効果的な支援技術の適用に関する研究

文献情報

文献番号
201122038A
報告書区分
総括
研究課題名
在宅重度障害者に対する効果的な支援技術の適用に関する研究
課題番号
H21-障害・一般-008
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
森 浩一(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 剛伸(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
2,508,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
重度身体障害者の生活の質(QOL)の改善には、コミュニケーションの確保と自立度を高めることが重要である。「脳インターフェース」(BCI/BMI)は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの重度障害者とその家族・支援者の期待が高い。本研究は(1)脳インターフェースの開発を現場に即して行い、(2)その実用化・普及に必要な要件を明らかにすることを目的とした。
研究方法
(1)視覚性事象関連誘発反応によるBCI試用実験を継続し、累計で11名のALS患者の実験を行った。この内,10名は人工呼吸器を使用しており、1名が一時入院をしていた以外は在宅患者であった。実験実施場所は,2名が会議室,1名が病院で,他はすべて自宅であった。目標とする文字が点滅する回数を数える課題を課した。文字毎に回数を報告してもらうために、大多数の被験者では1文字毎に止めて加算回数の報告を求めた。
(2)全国の意思伝達装置の販売店等に、サポート状況のアンケート調査を実施した。また、支援者向けの集会において、BCIの講習・実演を実施した。介助者向けマニュアルを改訂した。
結果と考察
(1)ALS患者の脳波は多様であり、健常者よりも視覚性P300が出にくいか不安定な者が多かった。眼球運動が制限されている者では、視覚性BCIを構成する際、すべての文字が直視できる範囲にあることを確認する必要があった。刺激呈示周期が短いと(健常者と同じ175 msか200 ms)数え落としが多いため、呈示周期を延長したところ(300 msまで)、基準以上となる者が増えた。長期試行では、パラメータが必ずしも安定せず、脳波の反応が変化する可能性が示唆された。視覚性BCIが使えない場合は音声のBCIを実用化する必要がある。
(2)意思伝達装置の給付のためには、給付決定前に機器を貸し出して練習を行い、給付後も変化する病状に合わせて自宅に出張して適合を反復する必要がある。しかしこれらにかかる費用を回収するのは困難な実態があり、現行の給付制度のみでは在宅重度身体障害者の意思伝達装置の十分なサポートの維持が困難な現状が見られた。
結論
視覚性BCIは約7割のALS患者が在宅環境で使うことができ、一定の有用性があるが、スイッチ操作が安定して行える場合はその方が速い。視覚性BCIが使えない者にはさらなる技術開発が必要である。サポートのためには介助者の講習と実技指導が必要であり、現状の意思伝達装置のサポート体制以上のものを構築する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

文献情報

文献番号
201122038B
報告書区分
総合
研究課題名
在宅重度障害者に対する効果的な支援技術の適用に関する研究
課題番号
H21-障害・一般-008
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
森 浩一(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 剛伸(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
重度身体障害者の生活の質(QOL)の改善には、コミュニケーションの確保と自立度を高めることが重要である。近年「脳インターフェース」(BCI等)が現実になり、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの重度障害者とその家族・支援者の期待が高い。このような最先端機器が普及するには、研究と介護現場とのギャップを埋める必要があるが、本研究はこれを解決するため(1)開発を現場に即して行い、(2)その実用化・普及に必要な要件を明らかにすることを目的とした。
研究方法
(1)市販の小型脳波計とノートPCに、BCI2000(Wadsworth Center)を導入し、視覚性事象関連誘発反応を利用したBCI装置を構成した。デジタル周波数フィルターによって電源誘導雑音を除去した。本人の意図した文字を脳波から推定する精度が70%以上を実用可能と判定した。健常被験者で性能を確認し、その後、11名のALS患者(10名は人工呼吸器使用、1名以外は在宅)で試用した。
(2)意思伝達装置のサポートを行っている団体等を訪問して実態調査を実施した。全国の意思伝達装置の販売店等にアンケート調査を実施した。
(3)セミナーや支援者団体の集会等において、BCIの講習・実演会を実施し、介助者向けマニュアルを作成した。
結果と考察
(1)脳波は電源雑音の100分の1程度以下であったが、信号処理で一般住宅や会議室で脳波を記録することが可能になった。健常被験者では基準以上の推定精度になった者は8割である。テレビ操作等も可能であった。ALS患者では1回目では基準を超えないことが多く、加算回数を健常者より増やし、刺激間隔を延長し、11名中7名で基準以上となった。長期的な試行では、誘発脳波が必ずしも安定せず、海外の結果と異なった。眼球運動の制限によって目標文字を直視できないと使えないことも明らかになった。視覚によるBCIが使えない場合は音声のBCIを開発するなどの対応が必要と考えられる。
(2)公的制度のみでは在宅重度身体障害者の意思伝達装置の十分なサポートが困難な現状が見られた。
結論
BCIを市販品によって構成し、重度障害者の在宅環境等で試用して有用性を評価した。7割近くのALS患者が使うことができ、一定の有用性があるが、スイッチ操作が安定して行える場合はその方が速い。視覚性BCIが使えない者にはさらなる技術開発が必要である。サポートのためには介助者の講習と実技指導が必要であり、現状の意思伝達装置のサポート体制以上のものを構築する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201122038C

成果

専門的・学術的観点からの成果
視覚性事象関連誘発反応を使用した脳インターフェースを在宅の進行したALS患者に試用し、健常者と異なる特性を明らかにした。従来、視覚性反応は眼球運動が不十分でも問題ないとされていたが、目標文字が直視できない場合には良好な反応が得られず、視覚性事象関連誘発反応によるBCIには限界があることが示された。ALS患者ではP300成分が誘発される者の割合が健常者より少なく、また、誘発される場合も潜時や振幅の安定度が低かった。
臨床的観点からの成果
人工呼吸をしている進行したALS患者でも視覚性事象関連誘発反応を使用した脳インターフェースの使用が可能である者が7割近くいることが示されたが、スイッチが安定して使える場合にはその方が文字を選択する速度が速いことが多かった。ただし、スイッチが使えなくなってから脳インターフェースの使用を開始するとコミュニケーションが取りにくいとされており、適合にも困難が生じやすいと思われる。実試用のためには脳波電極の装着と脳インターフェース用ソフトウェアの操作が行える援助者が必要である。
ガイドライン等の開発
視覚性事象関連誘発反応を使用した脳インターフェースの構成方法と介助者による操作方法をマニュアル化した。これに使用したハードウェア(USBインターフェースの脳波計、脳波電極、脳波キャップ、電極糊、ラップトップPC、液晶ディスプレー)はすべて市販品である。ソフトウェア(BCI2000)は米国NIHの補助金によって開発されたものであるため、商業目的でなければ無料で使用ライセンスが得られ、日本語文字の表示は改造なしに可能である。このため、多少の知識がある援助者による再現は比較的容易であると考えられる。
その他行政的観点からの成果
補装具として給付される意思伝達装置のサポートについて調査し、現在サポートの中心を担っている販売店のほとんどではサポート費用(出張旅費を含む)が販売益のみではカバーできず、他の事業ないし自治体の補助金等で補填されていることが判明した。また、医療専門職が関与せずに販売店のみでALS等の患者の身体機能の変化に合わせて適切にスイッチ類を適合するのは難しい様子もうかがわれた。在宅で移動が容易ではない重度身体障害者が使用する意思伝達装置については、他の補装具とは異なる扱いが必要な部分もあると考えられた。
その他のインパクト
身障者ITサポートNPO等の集会で講習と実演を行った(東京、北海道、鹿児島)。
ITサポートのための支援者向け講習会(NPO団体等主催)にて講習を行った。
「ITパラリンピック(日本ALS協会等主催、一般公開、秋葉原)」に参加し、脳インターフェースのデモンストレーションを行った。
南日本放送の番組「どーんと鹿児島『難病・ALSと生きる』」(平成23年6月29日放送)に採り上げられた。その後、岡山、静岡、長野県でも平成23年8月8日に放送された。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
1件
井上剛伸「ブレイン・コンピュータ・インターフェースについて」福祉介護機器テクノプラス, 3(11):9-14, 2010
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
日本社会福祉学会2011年度関東部会研究集会,福祉情報工学研究会
学会発表(国際学会等)
3件
The Fourth International Brain-Computer Interface Meeting, Asilomar, 2010. Neuro-J 2011. RESNA 2011.
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
9件
支援者・支援団体向け実演講習会、講演会、実演会の実施 南日本放送テレビ出演2011-06-29他に放送

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Inoue, T., Otowa, Y., Nihei, M., et al.
EEG respondence to auditory stimuli with Japanese letters of an ALS-TLS patient
RESNA, RP5-69563 , 1-3  (2011)
原著論文2
岡さち子, 森浩一, 丸岡稔典, 他
重度身体障害者の在宅脳インターフェイス(BCI)試験
電子情報通信学会技術研究報告(福祉情報工学) , 109 (467) , 27-30  (2010)
原著論文3
森浩一, 岡田美苗, 岡さち子, 他
脳インターフェースは誰が使うのか
電子情報通信学会技術研究報告(福祉情報工学) , 110 (164) , 25-30  (2010)
原著論文4
丸岡稔典, 森浩一, 井上剛伸
重度障害者用意思伝達装置の利用支援体制に関する研究:支援団体に焦点を当てて
電子情報通信学会技術研究報告(福祉情報工学) , 111 (472) , 45-50  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201122038Z