脊髄損傷後の歩行機能回復のための新たなニューロリハビリテーション方法の開発

文献情報

文献番号
201122035A
報告書区分
総括
研究課題名
脊髄損傷後の歩行機能回復のための新たなニューロリハビリテーション方法の開発
課題番号
H21-障害・一般-005
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
赤居 正美(国立障害者リハビリテーションセンター 病院)
研究分担者(所属機関)
  • 緒方 徹(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所)
  • 中澤 公孝(東京大学大学院総合文化研究科)
  • 飛松 好子(国立障害者リハビリテーションセンター 病院)
  • 神作 憲司(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所)
  • 梅崎 多美(国立障害者リハビリテーションセンター 学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
4,180,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
体重免荷によるトレッドミル歩行は「正常な歩行動作を再現することにより種々の求心性感覚入力を脊髄パターン発生器(CPG)に与え、その活動を改善する」と考えられているが、その歩行機能の再獲得に至る神経生理学的機序は未だ明らかではない。本研究では、歩行機能再獲得の鍵と目される脊髄CPGに着目し、その活動を励起させる神経生理学的機序を検索し、それを基に新たな神経リハビリテーション方法を開発する。
研究方法
本研究では、麻痺領域に発現する歩行様筋活動の変化に着目し、各種感覚情報(荷重、股関節求心系など)との関連、重畳的な神経情報との関連を調べる。具体的には、動力型歩行補助装置(Lokomat)による外的な歩行キネマティクスの形成を軸として、歩行運動出力を促通すると考えられる種々の末梢性感覚情報、異なる体肢からの神経情報、脳からの随意神経指令などを組みあわせた新たな手法を検討する。最終年度にあたる平成23年度には2年間の結果を踏まえ、Lokomatを用いた歩行訓練に、適度な荷重・上肢運動の追加・随意的な歩行努力の3要素を加えたプロトコールを作成した。実際に不全脊髄損傷患者に対し、週3回のLokomatトレーニングを12週間行い、その効果を前後の測定によって検証することとした。3ヶ月のトレーニング実験を研究期間終了までに10名終了する予定であったが、東日本大震災により一時期実験中断を余儀なくされ、23年度末までに、7名の実験完了となった。
結果と考察
いずれの被験者においても、歩行速度の改善、静止立位姿勢中の重心動揺特性の変化が認められた。皮質脊髄路興奮性を反映する経頭蓋磁気刺激を用いた運動誘発電位は、6名中3名においてトレーニング当初は発現しなかった前脛骨筋の応答がトレーニング後で発現するなど、中枢神経の可塑的変化を支持する結果が得られた。また、歩行中の下肢筋活動に関して、体重支持・抗重力的に働く大腿直筋の活動がトレーニング経過に伴って増加する傾向、さらに伸張反射感受性の過剰亢進によって生じると思われる遊脚期後半の一過性の大腿二頭筋の活動がトレーニング後に減弱する傾向を認めるとともに、下肢筋群全般にわたって痙性麻痺の減少を示唆する変化を認めた。
結論
上記の歩行機能回復を示す実験結果は、① 動力歩行装具による受動歩行中の繰り返しの求心性感覚情報が脊髄歩行中枢の活動を喚起したことに起因するもの、② 脊髄歩行中枢による歩行のリズム生成は、歩行運動を構成する基本的要素であり、随意運動出力の改善とあいまって、歩行動作の改善と安定性をもたらしたもの、と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

文献情報

文献番号
201122035B
報告書区分
総合
研究課題名
脊髄損傷後の歩行機能回復のための新たなニューロリハビリテーション方法の開発
課題番号
H21-障害・一般-005
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
赤居 正美(国立障害者リハビリテーションセンター 病院)
研究分担者(所属機関)
  • 緒方 徹(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所)
  • 中澤 公孝(東京大学大学院総合文化研究科)
  • 飛松 好子(国立障害者リハビリテーションセンター 病院 )
  • 神作 憲司(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所 )
  • 梅崎 多美(国立障害者リハビリテーションセンター 学院 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
体重免荷によるトレッドミル歩行は「正常な歩行動作を再現することにより種々の求心性感覚入力を脊髄パターン発生器(CPG)に与え、その活動を改善する」と考えられているが、その歩行機能の再獲得に至る神経生理学的機序は未だ明らかではない。本研究では、歩行機能再獲得の鍵と目される脊髄CPGに着目し、その活動を励起させる神経生理学的機序を検索し、それを基に新たな神経リハビリテーション方法を開発する。
研究方法
麻痺領域に発現する歩行様筋活動の変化に着目し、荷重や股関節からの求心系情報など各種感覚入力との関連、上肢運動といった重畳的な神経情報との関連を調べる。最終年度には過去2年の結果を踏まえて、Lokomatを用いた歩行訓練に当たって、適度な荷重・上肢運動の追加・随意的な歩行努力の3要素を加えたプロトコールを作成した。週3回のLokomatトレーニングを3ヶ月(12週間)行い、その効果を前後の測定によって検証することとした。
3か月のトレーニング実験を研究期間終了までに10名終了する予定であったが、東日本大震災により一時期実験中断を余儀なくされ、23年度末までに、7名の実験完了となった。
結果と考察
いずれの被験者にも、歩行速度の改善、静止立位姿勢中の重心動揺特性の改善が認められた。皮質脊髄路興奮性を反映する運動誘発電位は、6名中3名においてトレーニング当初は発現しなかった前脛骨筋の応答がトレーニング後で発現するなど、中枢神経の可塑的変化を支持する結果が得られた。これらより、CPGの賦活には随意的な歩行努力を取り入れたactive assistive訓練が重要なことが判った。
また、歩行中の下肢筋活動に関して、体重支持・抗重力的に働く大腿直筋の活動がトレーニング経過に伴って増加する傾向、さらに遊脚期後半の一過性の大腿二頭筋の活動がトレーニング後に減弱する傾向を認めるとともに、下肢筋群全般にわたって痙性麻痺の減少を示唆する変化を認めた。すなわち、抗重力支持に働く筋活動の改善、過剰な伸張反射抑制による痙性抑制といった機序が機能改善に結びついていた。
結論
近年注目されている免荷式歩行トレーニングを含む新たな歩行リハビリテーションは、専門的な知識と高度に習熟した技術が必要で、広く訓練方法を普及させる際には大きな障害となる。Lokomatは簡便な操作方法のもと、対象を選ばず正常な歩行動作の再現が可能である。本研究を通して歩行機能再獲得の神経機序の解明と、効果的に歩行再獲得を促す方法が開発されれば、多くの運動機能障害者が効果的な歩行リハビリテーションを行う環境を整備することになろう。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201122035C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究の結果は、脊髄歩行中枢(central pattern generator)の活性化を基盤とした歩行再獲得の神経機序についての仮説を支持する重要な根拠となり、脊髄損傷者に代表される中枢性運動機能障害者の歩行機能回復のための、効果的なリハビリテーションプログラムを立案するための貴重な知見となるものと考える。当面は不全損傷が対象であるが、再生医療との結びつきで完全損傷への道も開かれよう。
臨床的観点からの成果
本研究を通して歩行機能再獲得の神経機序の解明と、効果的に歩行再獲得を促す具体的方法についての知見が得られた。今後は、本研究の成果を発展させ、脊髄損傷者の歩行機能再獲得のために具体的な方法論の普及を図っていく必要がある。また脊髄における組織破壊に由来する微量物質(バイオマーカー)を指標に組織損傷の程度を推測し、臨床的機能予後と推測できれば、きわめて有用と考えられる。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
本研究では動力式歩行補助装置(Lokomat)を用いた歩行訓練を行ったが、受傷後1年以上経過した症例で得られた知見は、免荷装置を用いたトレッドミル歩行、各種歩行リハビリ機器での歩行リハビリ訓練にも十分に一般化可能と思われる。セラピストへの研修などでも取り上げてもらい、上下肢の連関や患者自身による能動的な歩行努力の重要性につき、知識の周知を図っていく。
その他のインパクト
該当なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
9件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ogata H, Higuchi Y, Ogata T, et al
Pressor response to passive walking-like exercise in spinal cord-injured humans.
Clinical Autonomic Research , 19 , 113-122  (2009)
原著論文2
Kamibayashi K, Nakajima T, Takahashi M, et al
Facilitation of corticospinal excitability in the tibialis anterior muscle during robot-assisted passive stepping in humans.
European Journal of Neuroscience , 30 , 100-109  (2009)
原著論文3
Obata H, Kawashima N, Akai M, et al
Age-related changes of the stretchreflex excitability in human ankle muscles.
Journal of Electromyography and Kinesiology , 20 , 55-60  (2010)
原著論文4
Kamibayashi K, Nakajima T, Fujita M, et al
Effect of sensory inputs on the soleus H-reflex amplitude during robotic passive stepping in humans.
Experimental Brain Research , 202 , 385-395  (2010)
原著論文5
Abe MO, Masani K, Nozaki D, et al
Temporal correlations in center of body mass fluctuations during standing and walking.
Human Movement Science , 29 , 556-566  (2010)
原著論文6
Sayenko DG, Alekhina MI, Masani K, et al
Positive effect of balance training with visual feedback on standing balance abilities in people with incomplete spinal cord injury.
Spinal Cord , 48 , 886-893  (2010)
原著論文7
Ueno T, Ohori Y, Ito J, et al
Hyperphosphorylated neurofilament NF-H as a biomarker of the efficacy of minocycline therapy for spinal cord injury.
Spinal Cord , 49 , 333-336  (2011)
原著論文8
Nakajima T, Kitamura T, Kamibayashi K,et al
Robotic-assisted stepping modulates monosynaptic reflexes in forearm muscles in the human.
Journal of Neurophysiology , 106 , 1679-1687  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201122035Z