新規開発マルチカラー化チャネルロドプシン遺伝子を用いた視覚再生研究

文献情報

文献番号
201122030A
報告書区分
総括
研究課題名
新規開発マルチカラー化チャネルロドプシン遺伝子を用いた視覚再生研究
課題番号
H21-感覚・一般-008
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
富田 浩史(東北大学 国際高等研究教育機構)
研究分担者(所属機関)
  • 玉井 信(東北大学大学院医学系研究科)
  • 石塚 徹(東北大学大学院生命科学研究科)
  • 菅野 江里子(東北大学 国際高等研究教育機構 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
5,633,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
網膜色素変性症に対して、薬剤や遺伝子治療によって、変性を遅延させる方法が研究されているが、現時点では、有効な治療法は確立されていない。また、一旦失明に至ると、その視機能を再建する方法はない。我々は、緑藻類クラミドモナスが持つ光受容イオンチャネル遺伝子(Channelrhodopsin-2: ChR2)を利用した独自の遺伝子導入による視覚再生法を検討している。これまでの研究で、ChR2の遺伝子導入によって、ChR2の感受波長である青色に限定すると、高度な視機能が作られることが明らかになっている。しかしながら、波長感受性が青色領域に限定されるため、540nm以上の波長は感受できない。一方、ボルボックス由来チャネルロドプシン1(VChR1)は、クラミドモナス由来ChR2と同様に光受容陽イオンチャネルとして機能し、その感受波長域はChR2と異なり、感受波長ピークは550nm付近であることが知られている。我々は、このVChR1遺伝子を改変し、哺乳類細胞で機能する改変型VChR1(mVChR1)を作製し、550nmに波長感受性を持つことを示している。
本年度は、mVChR1の遺伝子導入後、mVChR1が長期間、安定して機能するかどうかの安全性研究とmVChR1とChR2の機能的な差異を調べた。
研究方法
昨年度、報告した赤方型チャネルロドプシン(mVChR1:現在JST外国特許出願支援制度によりPCT出願中)を視細胞変性を来たす変性症ラット(RCSラット)の網膜細胞に導入した。導入後、経時的に視覚誘発電位を測定し、回復した視機能が保持されているかを調べた。また、デジタルオプトモーターを用いて、行動学的に視機能の回復を調べ、青型ChRとmVChR1(赤型ChR)の視機能を比較した。また、遺伝子導入後、経時的に視覚誘発電位を記録し、回復した視機能が長期間維持されるかどうかを調べた。
結果と考察
回復した視機能は測定期間を通して減弱することなく長期間維持されていた。また、オプトモーターを用いた行動解析で、mVChR1を導入したラットでは、青-黒の縞模様だけでなく、緑-黒、および白-黒の縞模様の回転に応答し、縞模様の回転に追従する行動を示した。
結論
以上の研究から、mVChR1遺伝子、1つを導入するのみで幅広い波長の光を見ることができる可能性が示された。mVChR1は、遺伝子治療による視覚再生に有用な遺伝子となりえる。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

文献情報

文献番号
201122030B
報告書区分
総合
研究課題名
新規開発マルチカラー化チャネルロドプシン遺伝子を用いた視覚再生研究
課題番号
H21-感覚・一般-008
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
富田 浩史(東北大学 国際高等研究教育機構)
研究分担者(所属機関)
  • 玉井 信(東北大学大学院医学系研究科)
  • 松坂 義哉(東北大学大学院医学系研究科)
  • 石塚 徹(東北大学大学院生命科学研究科)
  • 菅野 江里子(東北大学 国際高等研究教育機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
緑藻類より単離したチャネルロドプシン-2(ChR2)遺伝子の網膜への導入による視覚再生を検討してきた。現在までに、遺伝盲ラットの光反応性を回復させることに成功し、行動学実験から実際に見えていることを確認している。しかし、ChR2の遺伝子導入によってどの程度の視力が得られるかや緑藻由来の遺伝子を眼内で発現させた場合の副作用、安全性について不明であり、ヒトへの応用に向けて、これらの点を明らかにする必要がある。
本研究では、ChR2の遺伝子導入によって得られる視覚特性を明らかにすること、ならびに遺伝子導入による副作用を調べ、臨床応用の可能性を明らかにすることを目的とする。
研究方法
以下の3点を主要研究課題とし、研究を行った。
1.ChR2によって得られる視覚特性
ChR2を恒常的に神経節細胞に発現するトランスジェニック(TG)ラットを用いてChR2によって作られる視覚の空間周波数特性、コントラスト感度を行動学的に調べた。
2.遺伝子導入によって引き起こされる副作用
遺伝盲ラットへのChR2遺伝子の導入後、継時的に採血を行い、リンパ球の変動、炎症反応、AAVおよびChR2に対する抗体価を測定した。
3.波長感受性の異なるChRによって得られる視覚
改変型ボルボックスチャネルロドプシン1の波長感受性をパッチクランプ法で調べ、光反応性について、RCSラットへ遺伝子導入し行動学的に調べた。
結果と考察
視細胞を変性させたChR2-TGラットでは、空間周波数特性は野生型と同等であったのに対し、コントラスト感度は顕著に上昇した。ChR2遺伝子導入による副作用と思われる所見は認められなかった。また、回復した視機能は減弱することなく長期間維持されることが判明した。改変型ChR1は、パッチクランプ法および行動解析で幅広い波長光に応答することが明らかとなった。
結論
緑藻類クラミドモナス、およびボルボックス由来の光活性化遺伝子を利用することによって、視覚機能を回復できることが示された。特に、改変型ボルボックス由来チャネルロドプシンは、幅広い波長域に感受性を持ち、単一の分子で可視光全域を感受できると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201122030C

成果

専門的・学術的観点からの成果
一旦失明に至ると視機能を再建する治療法はない。唯一の視覚再生法として、人工網膜が研究され、その有効性が明らかになりつつある。それと同時に高い解像度が期待できないなど問題点も指摘されている。本研究によって、遺伝子導入による視覚再生法は、高度な視機能を提供できる可能性があることが示されるとともに、より高機能の光活性化イオンチャネル遺伝子を創出することができた。
臨床的観点からの成果
緑藻類クラミドモナス由来の光活性化イオンチャネル遺伝子(ChR2)を失明した網膜に導入することによって、視機能を回復できることが明らかとなった。また、ラットを用いた研究で、その効果は減弱することなく長期間維持されること、免疫学的な副作用も見られないことが明らかとなった。以上の結果から、緑藻類由来遺伝子を利用した視覚再生のための遺伝子治療の臨床応用への可能性が開かれた。
ガイドライン等の開発
該当なし。
その他行政的観点からの成果
該当なし。
その他のインパクト
一般科学雑誌NEWTON(2010年2月号)、医学雑誌MedicalBio(2010年9月号)、河北新報(2009年11月6日)、朝日新聞「脳を動かす光のスイッチ」の紹介記事の中で、実用化に向けた研究として紹介される。NHK ラジオ第2放送 2010 年2 月8 日【国内向け英語放送】番組名:「Japan &
World Update」14:00?14:30(後半10 分間)【海外向け短波ラジオ放送】英、仏、中国、アラビアなど17 言語で放送。シンポジウム、招待講演23件。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
17件
その他論文(和文)
2件
冨田浩史ら、チャネルロドプシンを用いた視覚再生、日本の眼科、82巻12号2011 年
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
16件
学会発表(国際学会等)
44件
その他成果(特許の出願)
1件
「出願」 計1件特願2009-185455、「発現効率が改善された光受容チャネルロドプシン」
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
11件
日本網膜色素変性症協会医療講演会

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Isago H, Sugano E,Wang Z,et al.
Age-Dependent Differences in Recovered Visual Responses in Royal College of Surgeons Rats Transduced with the the Channelrhodopsin-2 gene.
J Mol Neurosci , 46 (2) , 393-400  (2012)
doi: 10.1007/s12031-011-9599-y
原著論文2
Wang Z, Sugano E, Isago H,et al.
Notch signaling pathway regulates proliferation and differentiation of immortalized Müller cells under hypoxic conditions in vitro.
Neurosci. , 214 , 171-180  (2012)
doi: 10.1016/j.neuroscience.2012.04.025
原著論文3
Wang Z, Sugano E, Isago H,et al.
Differentiation of neuronal cells from NIH/3T3 fibroblasts under defined conditions
Development Growth and Differentiation , 53 (3) , 357-365  (2011)
doi: 10.1111/j.1440-169X.2010.01235.x
原著論文4
Sugano E, Isago H, Wang Z,et al
Immune responses to adeno-associated virus type 2 encoding channelrhodopsin-2 in a genetically blind rat model for gene
Gene Therapy , 18 (3) , 266-274  (2010)
doi: 10.1038/gt.2010.140
原著論文5
Tomita H, Sugano E, Isago H,et al.
Channelrhodopsin-2 Gene Transduced into Retinal Ganglion Cells Restores Functional Vision in Geneticall y Blind Rats
Exp. Eye Res , 90 , 426-436  (2010)
doi: 10.1016/j.exer.2009.12.006
原著論文6
Tomita H, Sugano E, Fukazawa Y,et al.
Visual Properties of Transgenic Rats Harboring the Channelrhodopsin-2 Gene regulated by the Thy-1.2 Promoter.
PLoS ONE , 4 (11) , 7679-  (2009)
doi: 10.1371/journal.pone.0007679

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

収支報告書

文献番号
201122030Z