マイクロポンプシステムを用いた分子シャペロンとして働く薬物投与による遺伝性難聴の革新的治療法の創生

文献情報

文献番号
201122029A
報告書区分
総括
研究課題名
マイクロポンプシステムを用いた分子シャペロンとして働く薬物投与による遺伝性難聴の革新的治療法の創生
課題番号
H21-感覚・一般-007
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
和田 仁(東北大学 大学院工学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 小林 俊光(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 宇佐美 真一(信州大学 医学部)
  • 池田 勝久(順天堂大学 大学院医学研究科)
  • 芳賀 洋一(東北大学 大学院医工学研究科)
  • 平澤 典保(東北大学 大学院薬学研究科)
  • 中村 浩之(学習院大学 理学部)
  • 津本 浩平(東京大学 大学院新領域創成科学研究科)
  • 石原 研治(茨城大学 教育学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
7,623,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本人の遺伝性難聴の主な原因の1つは,内耳に発現する膜タンパク質Pendrinの遺伝子変異により機能が低下するためであると考えられている.これまで我々は,Pendrinと相同性が高い膜タンパク質Prestinの研究を行ってきた.そして,変異Prestinがサリチル酸により機能が回復することを発見した.そこで,本研究では,変異Prestin同様,機能が低下した変異Pendrinの機能を回復させる薬剤を特定するとともに,薬剤を内耳に投与するための,埋め込み型ドラッグデリバリーシステムを開発し,遺伝性難聴の革新的治療法の開発を目指す.
研究方法
Pendrin遺伝子H723Rのノックインマウス2種類(マウス型・ヒト型)を作製し,ABR閾値を測定した.次に,それらの蝸牛形態を観察し,通常マウスと比較した.さらに,マウス型ノックインマウス蝸牛にサリチル酸を投与し,聴力の回復が見られるか調査した.マイクロポンプの開発では,生体適合する材料を選択し,マウス・ヒトに使用可能な小型化したマイクロポンプの作製を行った.また,変異Pendrinの機能回復に効果のある薬剤のスクリーニングのための細胞株樹立を試みた.
結果と考察
マウス型のノックインマウスでは,若い段階でABR閾値が高くなる聞こえの悪い個体群と20週齢以降もABR閾値が上昇しない聞こえが悪くならない個体群が見られた.ヒト型のノックインマウスでは,全ての個体でABR閾値が高く聞こえが悪くなっていた.蝸牛形態では,マウス型ノックインマウスは,通常マウスと大きな違いはなく,ヒトで見られるPendrin遺伝子の変異を表すモデルとなっている可能性がある.一方,ヒト型ノックインマウスは,通常マウスとは大きく異なり,圧迫変性していた.今後,変異による病理変化のメカニズム解明に貢献できると考えられる.また,マウス型ノックインマウスに,サリチル酸を投与したが,聴力の回復は見られなかった.マイクロポンプについては,ヒト及びマウスに継続投与できるものが完成した.さらに,定常発現株の樹立により,候補薬剤を迅速に選択できる系を確立した.
結論
作製したマウス型ノックインマウスは,ヒトで見られる変異を表すモデルとして期待でき,今後,治療候補薬剤の効果を判定するのに重要となる可能性が高い.また,ヒト及びマウスに薬剤を継続投与できるマイクロポンプが完成した.

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

文献情報

文献番号
201122029B
報告書区分
総合
研究課題名
マイクロポンプシステムを用いた分子シャペロンとして働く薬物投与による遺伝性難聴の革新的治療法の創生
課題番号
H21-感覚・一般-007
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
和田 仁(東北大学 大学院工学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 小林 俊光(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 宇佐美 真一(信州大学 医学部)
  • 池田 勝久(順天堂大学 大学院医学研究科)
  • 芳賀 洋一(東北大学 大学院医工学研究科)
  • 平澤 典保(東北大学 大学院薬学研究科)
  • 中村 浩之(学習院大学 理学部)
  • 津本 浩平(東京大学 大学院新領域創成科学研究科)
  • 石原 研治(茨城大学 教育学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本人の遺伝性難聴の主な原因の1つは,内耳に発現する膜タンパク質Pendrinの遺伝子変異により機能が低下するためであると考えられている.これまで我々は,Pendrinと相同性が高い膜タンパク質Prestinの研究を行ってきた.そして,変異Prestinがサリチル酸により機能が回復することを発見した.そこで,本研究では,変異Prestin同様,機能が低下した変異Pendrinの機能を回復させる薬剤を特定するとともに,薬剤を内耳に投与するための,埋め込み型ドラッグデリバリーシステムを開発し,遺伝性難聴の革新的治療法の開発を目指す.
研究方法
日本人で最も多い変異Pendrin H723RをHEK293細胞に発現させ,薬剤候補であるサリチル酸およびその誘導体が変異Pendrinの局在に与える影響を蛍光免疫染色法を用いて解析した.次に,変異Pendrin H723Rを発現するノックインマウスを作製し,ABR閾値を測定した.さらに,ノックインマウスの蝸牛内にサリチル酸を投与し,聴力の変化を検証した.また,治療薬を内耳投与する為の埋込み型ポンプを改良し,適切な量の送液が可能であるか検討を行った.
結果と考察
変異Pendrin H723Rを細胞膜に移行促進する薬剤としてサリチル酸およびその誘導体が効果的であることが明らかになった.また,ノックインマウスのABR閾値を測定し,蝸牛形態を観察した.マウス型の変異Pendrinを持つノックインマウスでは,若い段階で聞こえの悪くなる個体群と20週齢を超えても聞こえが悪くならない個体群の2種類の表現型が観察された.蝸牛形態では,通常マウスと大きな変化は無かった.一方,ヒト型のノックインマウスでは,全ての個体で聞こえが悪く,蝸牛の形態も通常マウスに比べ大きく変化していた.さらに,ヒト及びマウスの蝸牛に適切な量の送液が可能な生体適合型の小型マイクロポンプを作製した.
結論
作製したマウス型ノックインマウスは,ヒトで見られるPendrin遺伝子の変異を表すモデルとなっている可能性が高い.培養細胞においてPendrin変異体の機能回復に有効であることが示されたサリチル酸を聞こえの悪くなったマウス型ノックインマウスにサリチル酸を投与したが,聴力の回復は見られなかった.マイクロポンプについては,ヒト及びマウスに継続投与できるものが完成した.

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201122029C

成果

専門的・学術的観点からの成果
日本人で最も多く見られる変異Pendrin H723Rを持つプラスミドを作製し,数種のサリチル酸誘導体によって機能回復させることに成功した.そのうち1種類は細胞毒性がなく,難聴治療の薬剤としての効果も高かった.また,変異Pendrin H723Rを持つ2種類のノックインマウスの作製に成功し,マウス型で聞こえが悪くなる個体群とならない個体群の表現型が現れることを見出し,聞こえない個体群に,細胞実験で効果のあった薬剤を投与し,経過観察を行った.今後,聴力の回復が見られるか実験を重ねる.

臨床的観点からの成果
遺伝性難聴のうち,ペンドレッド症候群の原因となっているPendrin遺伝子の変異の機能を回復させる薬剤を見出したことから,この薬剤を元にした治療薬の開発が期待できる.マウス型のノックインマウスは,蝸牛の形態が通常マウスと大きな違いが無く,聞こえが悪くなる個体群とならない個体群が見られ,ヒトの症状と似ている可能性が大きく,今後の臨床に役立つモデルマウスとなる.また,この研究で開発したマイクロポンプは,蝸牛への薬剤投与を可能とし,臨床的に意義が高い.
ガイドライン等の開発
特に無し.
その他行政的観点からの成果
我々が提案する遺伝性難聴の治療法が実現すれば,患者の遺伝子を操作せずに治療を行うことが可能となるため,臨床応用に適しており,難聴患者のQOLを向上させる革新的なものとなり得る.遺伝性疾患は不治の病であり,子孫に影響を及ぼすとの認識から,患者との接触や結婚が敬遠される傾向にあるが,本研究の達成により,遺伝性疾患も他の病気と同様に完治する病気であるという認識を浸透させることができれば,行政的観点からも意義が高い.
その他のインパクト
特に無し.

発表件数

原著論文(和文)
6件
原著論文(英文等)
28件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
19件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
2件
その他成果(特許の取得)
1件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
含ホウ素ポルフィリン誘導体
詳細情報
分類:
発明者名: 中村浩之, El-Zaria, M. E., 潘鉉承
権利者名: 中村浩之, El-Zaria, M. E., 潘鉉承
出願年月日: 20090810
国内外の別: 国内
特許の名称
体内埋込型液体ポンプシステム
詳細情報
分類:
発明者名: 芳賀洋一, 松永忠雄,須田信一郎,和田仁
権利者名: 芳賀洋一, 松永忠雄,須田信一郎,和田仁
出願年月日: 20130418
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ishihara, K., Okuyama, S., Wada, H., et al.
Salicylate restores transport function and anion exchanger activity of missense pendrin mutations
Hear. Res. , 270 , 110-118  (2010)
原著論文2
Kumano, S., Iida, K., Wada, H., et al.
Salicylate-induced translocation of prestin having mutation in the GTSRH sequence to the plasma membrane
FEBS Lett. , 584 , 2327-2332  (2010)
原著論文3
Kumano, S., Murakoshi, M., Wada, H., et al.
Atomic force microscopy imaging of the structure of the motor protein prestin reconstituted into an artificial lipid bilayer
FEBS Lett. , 584 , 2872-2876  (2010)
原著論文4
Kumano, S., Tan, X., Wada, H., et al.
Mutation-induced reinforcement of prestin-expressing cells
Biochem. Biophys. Res. Commun. , 389 , 569-574  (2009)
原著論文5
Murakoshi, M., Iida, K., Wada, H., et al.
Immune atomic force microscopy of prestin-transfected CHO cells using quantum dots
Pflugers Arch. , 457 , 885-898  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
2017-05-23

収支報告書

文献番号
201122029Z