内耳薬物投与システムを応用した感音難聴、耳鳴り治療技術の臨床応用

文献情報

文献番号
201122028A
報告書区分
総括
研究課題名
内耳薬物投与システムを応用した感音難聴、耳鳴り治療技術の臨床応用
課題番号
H21-感覚・一般-006
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
中川 隆之(京都大学 医学部医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 壽一(京都大学 医学部医学研究科)
  • 田畑 泰彦(京都大学 再生医科学研究所)
  • 暁 清文(愛媛大学 医学部)
  • 熊川 孝三(虎の門病院 耳鼻咽喉科聴覚センター)
  • 内藤 泰(神戸市立医療センター中央市民病院)
  • 宇佐美 真一(信州大学 医学部)
  • 欠畑 誠治(弘前大学 医学部(研究分担者 前任))
  • 佐々木 亮(弘前大学 医学部(研究分担者 後任))
  • 村上 信五(名古屋市立大学大学院 医学研究科)
  • 小宗 静男(九州大学大学院 医学研究科)
  • 田渕 経司(筑波大学 人間総合科学研究科)
  • 手良向 聡(京都大学 医学部附属病院)
  • 坂本 達則(京都大学 医学部附属病院)
  • 平海 晴一(京都大学 医学部附属病院)
  • 山本 典生(京都大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
13,680,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、生体吸収性材料を用いた内耳薬物投与システムを用いた感音難聴治療法の臨床応用を行い、感音難聴の治療・重症化防止に貢献することにある。本研究では、ゼラチンハイドロゲルを用いたインスリン様細胞成長因子1(IGF1)内耳投与の急性高度難聴に対する有効性の臨床研究および、内耳への薬物局所投与による感音難聴、耳鳴に対する新規治療法の開発を行う。
研究方法
ステロイド全身投与無効な急性高度難聴症例を対象としたゼラチンハイドロゲルによるIGF1内耳投与による純音聴力検査聴覚閾値変化に関する解析を行い、デキサメタゾン鼓室内投与を対照治療としたランダム化対照試験を多施設共同試験として実施した。基礎的研究として、IGF1の蝸牛感覚上皮に対する効果メカニズムの分子生物学的解析、プロスタグランディンE受容体EP4の聴覚機構での役割、ガンマセクレターゼ阻害薬による有毛細胞再生に関する動物実験を行った。
結果と考察
IGF1内耳投与による純音聴力検査閾値変化の解析では、有意の閾値改善が計測した5周波数すべてで認められ、特に低音域で著明な改善が認められることが分かった。同時に、主たる聴力回復は、投与後4週間で認められ、以後回復は鈍化することが明らかとなった。以上の結果から、本治療法の効果判定は、投与後4-12週の時点で効果判定が可能であることが分かった。ランダム化対照試験では、目標症例数120例に対して71例が登録、試験治療が行われ、重篤な有害事象の発生は認めていない。基礎的研究では、蝸牛感覚上皮におけるIGF1と関連する細胞内情報伝達系の活性化を確認し、各阻害薬を用いた実験にて複数の細胞内情報伝達系が有毛細胞保護に関与していることを明らかにした。EP4遺伝子欠損マウスを用いた解析から、EP4の聴覚維持機構への関与、音響外傷からの回復過程での役割が明らかとなった。ガンマセクレターゼ阻害薬による有毛細胞再生では、音響外傷後のモルモット蝸牛で蝸牛外有毛細胞の増加と聴覚改善が認められた。
結論
ゼラチンハイドロゲルを用いたIGF1内耳投与による急性高度難聴治療に関する臨床研究を行い、新規感音難聴治療法開発に関する基礎的研究を施行した。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

文献情報

文献番号
201122028B
報告書区分
総合
研究課題名
内耳薬物投与システムを応用した感音難聴、耳鳴り治療技術の臨床応用
課題番号
H21-感覚・一般-006
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
中川 隆之(京都大学 医学部医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 壽一(京都大学 医学部医学研究科)
  • 田畑 泰彦(京都大学 再生医科学研究所)
  • 暁 清文(愛媛大学 医学部)
  • 熊川 孝三(虎の門病院 耳鼻咽喉科聴覚センター)
  • 内藤 泰(神戸市立医療センター中央市民病院)
  • 宇佐美 真一(信州大学 医学部)
  • 欠畑 誠治(弘前大学 医学部)
  • 佐々木 亮(弘前大学 医学部)
  • 村上 信五(名古屋市立大学大学院 医学研究科)
  • 小宗 静男(九州大学大学院 医学研究科)
  • 田渕 経司(筑波大学 人間総合科学研究科)
  • 手良向 聡(京都大学 医学部附属病院)
  • 坂本 達則(京都大学 医学部附属病院)
  • 平海 晴一(京都大学 医学部附属病院)
  • 山本 典生(京都大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、生体吸収性材料を用いた内耳薬物投与システムを用いた感音難聴治療法の臨床応用を行い、感音難聴の治療・重症化防止に貢献することにある。本研究では、ゼラチンハイドロゲルを用いたインスリン様細胞成長因子1(IGF1)内耳投与の急性高度難聴に対する有効性の臨床研究および、内耳への薬物局所投与による感音難聴、耳鳴に対する新規治療法の開発を行う。
研究方法
ゼラチンハイドロゲルによるIGF1内耳投与によるステロイド全身投与無効急性高度難聴治療に関する臨床試験を実施し、統計学的解析を行い、結果に基づき、ランダム化対照試験のデザイン、臨床試験を施行した。感音難聴、耳鳴りに対する新規治療法開発に関する基礎的研究として、IGF1の効果機序に関する解析、ポリグリコール乳酸パーティクルによるリドカイン内耳投与による耳鳴り治療、プロスタグランディンE受容体特異的作動薬の内耳局所投与による急性高度難聴治療、ステルス型ナノパーティクルを用いたステロイド内耳徐放、ガンマセクレターゼ阻害薬による有毛細胞再生研究等を施行した。
結果と考察
ゼラチンハイドロゲルによるIGF1内耳投与によるステロイド全身投与無効急性高度難聴治療に関する臨床研究では、ヒストリカルコントロールとした高気圧酸素療法と比較して、統計学的に有意な聴覚改善が認められることが明らかとなった。この結果に基づき、デキサメタゾン鼓室内投与を対照治療としたランダム化対照試験のデザインを行い、IGF1投与60例、デキサメタゾン投与60例を目標症例数とし、合計71例に対して試験治療を施行した。基礎的研究では、IGF1による細胞内情報伝達系活性化の詳細を解明し、ポリグリコール乳酸パーティクルによるリドカイン内耳投与による内有毛細胞遠心性神経終末の変化誘導、EP4による聴覚機構恒常性維持、蝸牛保護効果、ステロイドによる聴覚保護効果のステルス型ナノパーティクル化により向上、音響外傷後のガンマセクレターゼ阻害薬投与による蝸牛外有毛細胞増加、聴力改善を明らかとした。
結論
ゼラチンハイドロゲルを用いたIGF1内耳投与による急性高度難聴治療に関する臨床研究を行い、その臨床的有用性を示し、基礎的研究により、新規感音難聴、耳鳴り治療に関するシーズとなる知見を得た。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201122028C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では、感音難聴に対する新しい治療法としてゼラチンハイドロゲルを用いたインスリン様細胞増殖因子1の内耳局所投与の有効性を検証する臨床試験を施行し、有効性を示唆する結果を得た。これまで、基礎的研究から、実際に臨床研究へのトランスレーションを実現した研究は、本分野では例がなく、画期的な研究成果といえる。また、新規治療のシーズ開発と位置づけられる基礎的研究でも臨床応用が期待できる研究成果が得られており、今後の発展が期待できる。
臨床的観点からの成果
これまで科学的根拠に立脚する治療法がほとんど存在しなかった感音難聴治療の分野において、基礎的研究成果の背景をもち、専門家によりデザインされた難病の一つである突発性難聴の難治例を対象とした臨床試験を行い、有効性を示唆する結果が得られたことの臨床的な意義は大きく、現在施行中のランダム化対照試験は世界に注目されるところであり、今後の急性高度難聴治療の治療方法の一つとして広く用いられる可能性がある。
ガイドライン等の開発
感音難聴および耳鳴り治療について、現在明確なガイドラインは存在しない。急性高度難聴についても同様であり、ステロイド内服は、世界的にも急性高度難聴治療の第1選択とされているが、糖尿病などが併存する場合など行うべきかどうかの議論がある。併存症等を考慮した初期治療のガイドライン策定、ステロイド内服無効の場合のセカンドライン策定に本研究成果は貢献するものと考える。
その他行政的観点からの成果
本研究成果は、難治性疾患である突発性難聴に対する治療法開発が中心となるものであるが、広く聴覚障害に応用できる可能性がある成果が得られており、聴覚障害者数の抑制等感覚器障害対策に一定の貢献が期待できる。また、本領域おいて施行された前向き臨床研究はきわめて限られており、本研究により示される難治性突発性難聴の臨床像は、予後、副作用の把握に有用な知見をもたらすものであり、今後の新たな臨床研究の礎となり、感覚器障害対策に貢献するものといえる。
その他のインパクト
本事業で得られた研究成果は、ゼラチンハイドロゲルを用いたインスリン様細胞増殖因子1の内耳局所投与臨床試験に関して、平成21年11月27日日経新聞、平成22年12月1日毎日、京都新聞、2日読売、日経新聞、平成23年3月2日、8日日経新聞にて報道された。また、web上では、Biomed CentralにてFeatured articlesとして紹介され、BMC Medicine誌のHighly accessed articleとなり、世界の耳目を集め、海外のweb siteでも数多く紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
17件
原著論文(英文等)
46件
その他論文(和文)
13件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
112件
学会発表(国際学会等)
49件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nakagawa T, Ogino-Nishimura E, Hiraumi H, et al.
Audiometric outcomes of topical igf1 treatment for sudden deafness refractory to systemic steroids.
Otol Neurotol , 33 (6) , 941-946  (2012)
原著論文2
Hamaguchi K, Yamamoto N, Nakagawa T,et al.
Role of PGE-type receptor 4 in auditory function and noise-induced hearing loss in mice.
Neuropharmacology , 62 , 1841-1847  (2012)
原著論文3
Nakagawa T
Roles of prostaglandin E2 in the cochlea
Hear Res , 76 , 27-33  (2011)
原著論文4
Nakagawa T, Ito J.
Local drug delivery to the inner ear using biodegradable materials.
Therapeutic Delivery , 2 (6) , 807-814  (2011)
原著論文5
Hori R, Nakagawa T, Yamamoto N, et al.
Role of prostaglandin e receptor subtypes EP2 and EP4 in autocrine and paracrine functions of vascular endothelial growth factor in the inner ear.
BMC Neurosci , 11 , 35-  (2010)
原著論文6
Yoshida A, Kitajiri S, Nakagawa T, et al.
Adipose tissue-derived stromal cells protect hair cells from aminoglycoside.
Laryngoscope , 121 , 1281-1286  (2011)
原著論文7
Angunsri N, Taura A, Nakagawa T, et al.
Insulin-like growth factor 1 protects vestibular hair cells from aminoglycosides.
Neuroreport , 22 , 38-43  (2011)
原著論文8
Horie RT, Sakamoto T, Nakagawa T, et al.
Stealth-nanoparticle strategy for enhancing the efficacy of steroids in mice with noise-induced hearing loss.
Nanomedicine (London) , 5 , 1331-1340  (2010)
原著論文9
16. Nakagawa T, Sakamoto T, Hiraumi H, et al.
Topical insulin-like growth factor-1 treatment using gelatin hydrogels for glucocorticoid-resistant sudden sensorineural hearing loss: a prospective clinical trial.
BMC Med , 8 , 76-  (2010)
原著論文10
Sakamoto T, Nakagawa T, Horie RT, et al.
Inner ear drug delivery system from the clinical point of view.
Acta otolaryngol , 130 , 101-104  (2010)
原著論文11
Ogita H, Nakagawa T, Sakamoto T, et al.
Transplantation of bone marrow-derived neurospheres into guinea pig cochlea.
Laryngoscope , 120 , 576-581  (2010)
原著論文12
Horie RT, Sakamoto T, Nakagawa T,
Sustained delivery of lidocaine into the cochlea using PLGA microparticles.
Laryngoscope , 120 , 377-383  (2010)
原著論文13
Ono K, Nakagawa T, Kojima K, et al.
Silencing p27 reverses post-mitotic state of supporting cells in neonatal mouse cochleae.
Mol Cell Neurosci , 42 , 391-398  (2009)
原著論文14
Kikkawa YS, Nakagawa T, Tsubouchi H, et al.
Hepatocyte growth factor protects auditory hair cells from aminoglycosides.
Laryngoscope , 119 , 2027-2031  (2009)
原著論文15
Hori R, Nakagawa T, Sugimoto Y, et al.
Prostaglandin E receptor subtype EP4 agonist protects auditory hair cells against noise-induced trauma.
Neuroscience , 160 , 813-819  (2009)
原著論文16
Kikkawa YS, Nakagawa T, Horie RT, et al.
Hydrogen protects auditory hair cells from free radicals.
Neuroreport , 20 , 689-694  (2009)
原著論文17
Kada S, Nakagawa T, Ito J.
A mouse model for degeneration of the spiral ligament.
J Assoc Res Otolaryngol , 10 , 161-172  (2009)
原著論文18
Hiraumi H, Nakagawa T, Ito J.
Efficiency of a transtympanic approach to the round window membrane using a microendoscope.
Eur Arch Otorhinolaryngol , 266 , 367-371  (2009)
原著論文19
Inaoka T, Nakagawa T, Kikkawa YS, et al.
Local application of hepatocyte growth factor using gelatin hydrogels attenuates noise-induced hearing loss in guinea pigs.
Acta Otolaryngol , 129 , 453-457  (2009)
原著論文20
6. Hori R, Nakagawa T, Yamamoto N, et al.
Prostaglandin E receptor subtype EP4 agonist serves better to protect cochlea than prostaglandin E1.
Auris Nasus Larynx , 40 , 539-542  (2013)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
2017-05-23

収支報告書

文献番号
201122028Z