未熟児網膜症の新規手術法開発後の治療プロトコールの標準化

文献情報

文献番号
201122026A
報告書区分
総括
研究課題名
未熟児網膜症の新規手術法開発後の治療プロトコールの標準化
課題番号
H21-感覚・一般-004
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
東 範行(独立行政法人 国立成育医療研究センター 外科系専門診療部 眼科)
研究分担者(所属機関)
  • 石橋 達朗(九州大学大学院 機能制御医学部門構造機能学講座 眼科学部門)
  • 日下 俊次(近畿大学 医学部堺病院 眼科)
  • 門之園 一明(公立大学法人 横浜市立大学附属市民総合医療センター)
  • 近藤 峰生(三重大学大学院 医学系研究科生命医科学専攻 神経感覚医学講座 )
  • 坂本 泰二(鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科先進治療科学専攻 感覚器病学講座 眼科学分野)
  • 白神 史雄(香川大学 医学部眼科学講座)
  • 飯田 知弘(東京女子医科大学 眼科学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
11,858,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は、未熟児網膜症(ROP)の重症型に対する早期硝子体手術を開発し、良好な予後を得ている。重症 ROP が増加している現在、この新規手術を標準化することを目的とする。併せて、手術の洗練化に資する研究も進める。
研究方法
Ⅰ.ROPに対する抗血管新生因子治療:1)抗血管新生因子薬bevacizmabの眼内投与前後のアバスチン、VEGFの血清濃度を検討した。2)ROP 3期中期から後期におけるbevacizmab眼内投与の有効性を検討した。3)抗血管新生因子薬の注射によって網膜での無灌流領域が拡大するかを網膜静脈分枝閉塞で検討した。
Ⅱ.手術技術の改善:1)小切開硝子体手術の有効性と安全性を検討した。2)硝子体手術の際に有用な手術補助剤の開発と臨床応用を行い、病期や病態の診断に有用な無侵襲の網膜酸素飽和度測定装置の開発を行った。3)硝子体手術に用いるトリアムシノロン眼内投与後に発生する無菌性眼内炎の臨床症状を調査し、そのメカニズムを培養細胞で調べた。
Ⅴ.予後評価の検査:治療予後を精密に評価する目的で、全身麻酔下での網膜の微細構造と機能の検査システムを構築した。

結果と考察
Ⅰ.1)眼内に投与されたbevacizmabは全身に移行し、投与後に血清中濃度は上昇、逆にVEGF濃度は低下、両者には負の相関があったので、抗血管新生因子治療では十分配慮すべきである。
2)光凝固を施行せず、新生血管は退縮し、網膜血管は周辺部まで伸び、牽引性網膜剥離に至らなかった。全身的にも局所的にも副作用は見られなかった。
3)無灌流領域の面積はbevacizmab眼内投与によって拡大しなかった。
Ⅱ.1)小切開硝子体手術の治療成績は良好であり、有効な術式である。
2)Brilliant BlueGは網膜内境界膜の染色に優れ、安全性も高い。無侵襲の網膜酸素飽和度測定装置は、病期や病態の診断に有用である。
3)無菌性眼内炎は、一時的に視力は低下するが、短期間には消退し、予後良好である。原因は製剤に含まれる添加剤に加え、トリアムシノロン顆粒による物理的刺激が誘因となることが示唆された。
4)広画角眼底カメラと蛍光眼底造影で眼底全体像と循環動態を、光干渉断層計で網膜の断面を観察し、網膜電図(全視野と黄斑局所)で機能を評価する。この検査法システムで、病態の微細構築と機能を理解できる。
結論
ROPに対する抗血管新生因子治療の有効性、全身移行、無灌流領域拡大を検討した。手術技術と予後評価の新たな技術・システムを開発した。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

文献情報

文献番号
201122026B
報告書区分
総合
研究課題名
未熟児網膜症の新規手術法開発後の治療プロトコールの標準化
課題番号
H21-感覚・一般-004
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
東 範行(独立行政法人 国立成育医療研究センター 外科系専門診療部 眼科)
研究分担者(所属機関)
  • 石橋 達朗(九州大学大学院 機能制御医学部門構造機能学講座 眼科学分野)
  • 日下 俊次(近畿大学 医学部堺病院 眼科)
  • 門之園 一明(公立大学法人 横浜市立大学附属市民総合医療センター 眼科)
  • 近藤 峰生(三重大学大学院 医学系研究科生命医科学専攻 神経感覚医学講座)
  • 坂本 泰二(鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科先進治療科学専攻 感覚器病学講座 眼科学分野)
  • 白神 史雄(香川大学 医学部眼科学講座)
  • 飯田 知弘(福島県立医科大学 眼科学教室)
  • 不二門 尚(大阪大学大学院 医学系研究科 感覚機能形成学分野)
  • 佐藤 美穂(浜松医科大学 眼科学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は、未熟児網膜症(ROP)の重症型に対する早期硝子体手術を開発し、良好な予後を得ている。重症 ROP が増加している現在、この新規手術を標準化することを目的とする。併せて、手術の洗練化に資する研究も進める。
研究方法
Ⅰ.早期手術を行える全国拠点施設の構築
Ⅱ.早期手術の効果の判定
Ⅲ.未熟児網膜症に対する抗血管新生因子治療
Ⅳ.手術技術の改善
Ⅴ.予後評価の検査
結果と考察
Ⅰ.手術を行える拠点施設を東京、神奈川、大阪、名古屋、東北、東海、中国・四国、九州に設けた。
Ⅱ.1)術後早期に活動性が強く抑制され、本手術の有効性が証明された。2)統計解析を行い、術前に網膜有血管領域まで光凝固を行った項目のみ、有意に術後に網膜症の再発が起こらなかった。
Ⅲ.1)bevacizumab硝子体内投与は、stage 3 ROPでは新生血管が退縮したが、一部は網膜剥離が進み硝子体手術を行った。Stage 4 では進行が停止し、stage 4Bに至る前に硝子体手術を施行した。副作用に慎重する必要があるが、光凝固に反応不良あるいは施行困難例には試みても良い。2)抗VEGF治療によって無灌流領域面積は拡大しない。3)錐体系網膜電図によって、およその眼内の虚血程度とVEGF濃度を予測できる。4)bevacizmab硝子体内投与後に血清濃度は上昇、VEGF濃度は低下するので配慮すべきである。5)非ステロイド性抗炎鎮痛薬 (NSAIDs)投与で、新生血管が縮小し、ROPを含む酸化ストレス疾患に有用な可能性がある。
Ⅳ.1)小切開硝子体手術は有効な術式である。2)手術補助剤として、網膜内境界膜の染色にBrilliant Blue Gを開発した。3)硝子体手術のトリアムシノロン眼内投与後の無菌性眼内炎は、短期間で消退し、視力予後は良好である。添加剤やトリアムシノロン顆粒による物理的刺激が誘因となる。4)超音波照射によって眼内フィブリンの分解が促進される。
Ⅴ.1)対光反射のビデオ撮影、Teller Acuity Card、視運動眼振の併用で、生後6カ月以上の乳幼児で視覚の早期評価が可能である。2)眼圧測定は手持ち眼圧計が非接触型眼圧計より適している。3)診断に有用な無侵襲の網膜酸素飽和度測定装置を開発した。4)黄斑部層別機能解析のために局所網膜電図の記録プロトコールを作成した。5)光干渉断層計や網膜電図を用いた、網膜の構造と機能の詳細な評価システムを構築した。
結論
重症ROPの早期手術を行える全国拠点施設の構築し、早期手術の効果判定、抗血管新生因子治療、手術技術の改善、予後評価の検査を開発した。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2013-01-17
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201122026C

成果

専門的・学術的観点からの成果
新規の早期硝子体手術によって、90%の治癒率で疾患が鎮静化し、日常に支障がない良好な視力が得られることが判明した。また、重症型の病態や抗血管新生因子治療の検討、手術・検査技術の改善によってプロトコールを改訂し、予後をさらに改善することが期待できる。現在この手術は、国内外で広く行われるようになった。
臨床的観点からの成果
重症未熟児網膜症に対する新規の早期硝子体手術を行う拠点を全国に構築するとともに、手術技術や評価の方法を改善した。日常生活に支障ない良好な視力を得ることができ、本疾患の予後改善に寄与することが期待された。現在この手術は、国内外で広く行われるようになり、重症未熟児網膜症の予後は大きく改善されてきている。ここ数年で、小児の失明原因における未熟児網膜症の割合は大きく減少しているが、本手術が広く行われるようになった成果である。
ガイドライン等の開発
重症未熟児網膜症における光凝固治療、新規の早期硝子体手術の適応・方法について提言した。
その他行政的観点からの成果
未熟児網膜症は、厚生省が世界に先駆けて病期分類を完成させ、光凝固治療が我が国で初めて行われた疾患である。本新規手術が全国各地で行えるようになり、重症患児に無理な移動を強いることなく、早期治療が可能となった。また、厚生労働行政から見ても、世界へ新たな情報を発信する点から重要な意義を持つ。
その他のインパクト
手術の成果は、新聞・テレビ・ラジオを含むマスコミに多くとりあげられた。わが国の眼科・小児科の学会や講演会のみならず、米国・欧州・韓国・台湾・東南アジア諸国で、招待講演を行った。

発表件数

原著論文(和文)
28件
原著論文(英文等)
155件
その他論文(和文)
85件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
120件
学会発表(国際学会等)
45件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
telemedicineの検討
その他成果(普及・啓発活動)
15件
米国・欧州・韓国・台湾・東南アジアでの招待講演、新聞報道等

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Azuma N, YokoiT, Kobayashi Y et al.
Evaluation of scleral buckling for stage 4A retinopathy of prematurity by fluorescein angiography.
Am J Ophthalmol. , 148 , 544-550  (2009)
原著論文2
Azuma N, Yokoi T, Hiraoka M et al.
Vascular abnormalities in aggressive posterior retinopathy of prematurity detected by fluorescein angiography.
Ophthalmology , 116 , 1377-1382  (2009)
原著論文3
Azuma N, Nishina S, Yokoi T et al.
Effect of early vitreous surgery for aggressive posterior retinopathy of prematurity detected by fluorescein angiography.
Ophthalmology , 116 , 2442-2447  (2009)
原著論文4
Azuma N, Yokoi T, Suzuki Y et al.
Congenital rotated macula with good vision and binocularity.
Jpn J Ophthalmol , 53 , 452-454  (2009)
原著論文5
Sato T, Kusaka S, Fujikado T et al.
Vitreous Levels of Erythropoietin and Vascular Endothelial Growth Factor in Eyes with Retinopathy of Prematurity.
Ophthalmology , 116 , 1599-1603  (2009)
原著論文6
Sakamoto T et al.
Visualizing vitreous in vitrectomy by triamcinolone.
Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. , 247 (9) , 1153-1163  (2009)
原著論文7
Nonobe NI, Kachi S, Kondo M et al.
Concentration of vascular endothelial growth factor in aqueous humor of eyes with advanced retinopathy of prematurity before and after intravitreal injection of bevacizumab
Retina , 29 , 579-585  (2009)
原著論文8
Fukuda K, Hirooka K, Shiraga F et al.
Neuroprotection Against Retinal Ischemia-Reperfusion Injury by Blocking the Angiotensin II Type 1 Receptor.
Invest Ophthalmol Vis Sci , 51 , 3629-3638  (2010)
原著論文9
Kadonosono K
Achieving a Wide-angle View During Vitreous Surgery; High-resolution images and wide-angle views of the fundus can contribute to a successful vitrectomy.
Retina Today , 1 , 43-45  (2011)
原著論文10
Azuma N, Yokoi T, Kobayashi Y et al.
Risk factors for recurrent fibrovascular proliferation in aggressive posterior retinopathy of prematurity after early vitreous surgery
Am J. Ophthalmol , 150 , 10-15  (2010)
原著論文11
Sato T, Shima C, Kusaka S
Vitreous Levels of Angiopoietin-1 and Angiopoietin-2 in Eyes with Retinopathy of Prematurity
Am J. Ophthalmol , 151 , 353-357  (2011)
原著論文12
Kondo M, Hood DC, Bach M et al.
ISCEV standard for clinical multifocal electroretinography (mfERG) (2011 edition)
Doc Ophthalmol  (2011)
原著論文13
Yamane S, Kadonosono K, Inoue M et al.
Effect of intravitreal gas tamponade for sutureless vitrectomy wounds: three-dimensional corneal and anterior segment optical coherence tomography study
Retina , 31 (4) , 702-706  (2011)
原著論文14
Seko Y, Azuma N, Umezawa A et al.
Identification of factors determining human photoreceptor cell fate
PLos ONE  (2011)
原著論文15
Azuma N, Nishina S, Suzuki Y
Clinical features of congenital retinal folds
Am J Ophthalmol , 153 (1) , 81-87  (2012)
原著論文16
Azuma N, Kobayashi Y, Yokoi T et al.
Fluorescein staining of the vitreous during vitrectomy for retinopathy of prematurity
Retina , 31 , 1717-1719  (2011)
原著論文17
Iida T, Sekiryu T, Oguchi Y et al.
Autofluorescence of the cells in human subretinal fluid
Invest Ophthalmol Vis Sci , 52 , 8534-8541  (2011)
原著論文18
東 範行, 平岡美依奈
未熟児網膜症眼底アトラス
未熟児網膜症眼底アトラス  (2009)
原著論文19
東 範行
未熟児網膜症の最新の医療
医療 , 62  (2010)
原著論文20
東 範行
II型/Aggressive Posterior ROPに対する硝子体手術の適応と時期
あたらしい眼科 , 26 , 473-480  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
2017-05-23

収支報告書

文献番号
201122026Z