文献情報
文献番号
201122023A
報告書区分
総括
研究課題名
難聴者自立支援のための埋め込み型骨導補聴器の開発
課題番号
H21-感覚・一般-001
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
羽藤 直人(愛媛大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
- 小池 卓二(電気通信大学 電気通信学部)
- 神崎 晶(慶應義塾大学 医学部)
- 立入 哉(愛媛大学 教育学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
12,071,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
1983年、世界に先駆け本邦で開発されたリオン社の「圧電素子で耳小骨を駆動する」人工中耳は、対象の限定性や圧電素子の性能の低さから広く普及するには至らず、2005年に製造中止となった。これに対しスウェーデンで開発された埋め込み型骨導補聴器(BAHA®)は欧米で普及が進み、骨導による聞こえの語音明瞭度が良好なことが分かってきた。これに後れを取らず、先進性の高いメイド・イン・ジャパンの埋め込み型骨導人工中耳(GMM-BAHA)を開発することが本研究の目的である。新型人工中耳の鍵は、圧電素子の約1000倍の駆動力を有する超磁歪素子にある。超磁歪素子は近年日本のメーカーが量産化に成功した磁力で高速に伸縮する合金で、骨振動に十分なパワーと広い周波数応答性を有する。本研究で作製したプロトタイプの性能は優秀で、混合難聴だけでなく感音難聴、老人性難聴にも適応があるなど応用範囲は極めて広いことが分かった。本デバイスは聴覚障害による障害者への就労支援や雇用対策の画期的ツールと成り得ると考える。これらの特徴は全て革新的であり、既に国内および国際特許の申請を行った。
研究方法
システムは体外ユニットで集音プロセッシング後、コイルで音情報を体内ユニットに送信し、磁力で超磁歪振動子を駆動させる。体外ユニット(マイク、プロセッサ、コイル)はパナソニックヘルスケア社と共同で開発を行った。超磁歪素子の埋め込み振動子を中心とした体内ユニットは、数種類作成し側頭骨モデル、ヒトご遺体、モルモットでそれぞれ振動特性の検証を行った。
結果と考察
これまでの実験結果では、振動子は高周波域で高い出力を持ち、特に一点固定で良好な直線性を有していることが示された。また不十分であった低音域は、受信用マグネットの振動を利用するハイブリッドタイプで補うことができた。モルモットの研究では明らかな有害事象なくABRで良好な聴覚反応が得られた。また臨床試験でも従来の埋め込み型骨導補聴器と比較し良好な聴覚特性が得られた。このように高音域で十分な利得を持つ超磁歪素子の特性からは、従来の気導補聴器では十分な聴覚補聴が困難な、高度感音難聴患者にも適応拡大できると考えている。今後さらなる改良を加え、臨床応用へ向けた最終段階の試作機を今後完成していく予定である。
結論
体内および体外ユニットの開発研究の結果、試作した補聴装置は十分な出カ特性を有し、高度難聴者にも補聴効果が期待できることが明らかとなった。聴覚障害は社会参加を阻む重大かつ高頻度な障害であるが、その補聴具や補聴医療には技術的な問題が多い。本邦で補聴が必要な難聴者1250万人の内、補聴器を使用しているのは150万人のみである。理由は、現行の補聴器には外耳道の閉塞感、ハウリング、高音域の補聴不良等の問題があるためである。聴覚障害による身体障害者27万6千人に限れば、その7割が補聴具を使用しているにも関わらず、就労者は5万9千人のみである。特に、通常の気導型補聴器の装用が困難な、外耳道閉鎖や耳漏を伴う中耳炎難聴者にとっては、今回開発する埋め込み型骨導人工中耳が就労支援の画期的ツールと成り得る。さらに、本邦にて700万人と推定される老人性難聴者の内、高度難聴者の多くは従来の気導補聴器では十分な音圧利得が得られず、社会復帰を阻んでいた。新開発する補聴システムは高度難聴にも適応可能なハイパワーな骨導型であるため、高度感音難聴者の雇用の促進に寄与できると考える。なお、あらゆる難聴者に良好なコミュニケーションを提供する本補聴システムの開発は、障害者福祉や雇用対策のみならず耳科医療においてもインパクトは大きい。デバイスの価格は安く抑える予定であり、今後予想される高齢化社会において、難聴者の自立を導き社会及び経済活動への参加を促す革新的デバイスとなると考える。また、本機器開発は日本オリジナルな医療機器の創出、新規産業育成の一助ともなり得る。
公開日・更新日
公開日
2015-05-20
更新日
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