ニューロパチーの病態におけるプロテオグリカンの役割の解明と新規治療法の開発

文献情報

文献番号
201122013A
報告書区分
総括
研究課題名
ニューロパチーの病態におけるプロテオグリカンの役割の解明と新規治療法の開発
課題番号
H21-こころ・一般-012
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
楠 進(近畿大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 門松 健治(名古屋大学大学院 医学系研究科)
  • 岡 昌吾(京都大学大学院 医学研究科)
  • 北川 裕之(神戸薬科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
12,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
プロテオグリカンはニューロパチーの病態や治療による回復過程に大きく影響すると考えられるが、ニューロパチーにおけるプロテオグリカンの役割については従来ほとんど検討されてこなかった。本研究はその役割を解明し、新たな治療ストラテジーの構築につなげることを目的とする。
研究方法
プロテオグリカンの糖鎖改変マウス(C6ST-KO, C6ST-Tg, KS-KO)に、免疫性神経疾患の動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を誘導して、神経免疫疾患の病態におけるコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)およびケラタン硫酸プロテオグリカン(KSPG)の関与を検証した。ラット実験的自己免疫性神経炎(EAN)におけるケラタン硫酸(KS))の挙動を解析した。ヒトのニューロパチーとの関連が報告されているコンドロイチン硫酸(CS)糖鎖の合成制御機構を検討した。
結果と考察
C6ST1-KOでのEAEの症状は野生型(WT)に比べてより重篤であった。Adoptive transfer-EAEでも同様であり、recall responseでは差がなかったことから、C6ST1は中枢神経内での病原性リンパ球による神経細胞への攻撃に対して防御的に働いている可能性が示唆された。しかしC6ST1を強制発現させたC6ST-Tgでは、EAEスコアはWTと有意差を認めなかった。一方、KS-KOではWTと比べてEAEは軽症であり、KS-KO由来のリンパ球はWT由来のリンパ球よりも細胞増殖反応が軽度であった。Western blot の結果、未処置の脊髄ではKSPGの発現が確認されたがEANによる麻痺発症後には消失した。CSPGについては発現の変化はなかった。組織染色では、正常でKSPGを発現している脊髄の細胞はミクログリアであり、その発現がEANでは消失することがわかった。C4ST-2をL細胞で過剰発現およびノックダウンした細胞を構築し、細胞が産生したCS鎖の総量および鎖長を解析した結果、C4ST-2の発現量とコンドロイチン硫酸鎖の本数および総量が相関していることが明らかとなった。
結論
CSPGおよびKSPGは神経免疫疾患の病態に関与しており、新たな治療ターゲットとして期待される。EANの病態進行と脊髄ミクログリアのKSPGの発現の間に強い逆相関があることが明らかになり、ミクログリア上のKSPGがEANの病態において機能分子である可能性が示された。ニューロパチーとの関連が疑われているCS鎖の本数の制御には、ChGn-1ばかりでなくC4ST-2も関与しており、その二つの酵素は共同して作用していることが明らかになった。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

文献情報

文献番号
201122013B
報告書区分
総合
研究課題名
ニューロパチーの病態におけるプロテオグリカンの役割の解明と新規治療法の開発
課題番号
H21-こころ・一般-012
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
楠 進(近畿大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 門松 健治(名古屋大学大学院 医学系研究科)
  • 岡 昌吾(京都大学大学院 医学研究科)
  • 北川 裕之(神戸薬科大学 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
プロテオグリカン(PG)はニューロパチーの病態や治療による回復過程に大きく影響すると考えられるが、ニューロパチーにおけるPGの役割については従来ほとんど検討されてこなかった。本研究はニューロパチーの病態におけるPGのはたす役割を解明し、新たな治療ストラテジーの構築につなげることを目的とする。
研究方法
1)ニューロパチー症例についてコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)の合成に関与する糖転移酵素の一つであるChGn-1遺伝子の解析を行った。2)PGの糖鎖改変マウスに、免疫性神経疾患の動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を誘導して、神経免疫疾患の病態におけるPGの関与を検証した。3)ラット実験的自己免疫性神経炎(EAN)におけるPGの挙動を解析した。4)PGの一種であるフォスファカンに対する慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)患者血中の自己抗体上昇の有無を検討した。5)コンドロイチン硫酸(CS)糖鎖の合成制御機構を検討した。
結果と考察
何らかのニューロパチー148例中23例のChGn-1遺伝子にアミノ酸置換を伴う一塩基変異がみられ、うち14例の変異は著明な酵素活性の低下を伴った。一方疾患対照でも一部に同様の所見がみられたが頻度はニューロパチーより低かった。また2部位の変異はニューロパチーにのみ認められた。糖鎖改変マウスのうちC6ST1-KOではEAEは野生型(WT)に比べて重症化した。一方、KS-KOではWTと比べてEAEは軽症であった。ケラタン硫酸プロテオグリカン(KSPG)に特異的な抗体によるWestern blot の結果、未処置の脊髄ではKSPGの発現が確認されたがEANによる麻痺発症後には消失した。正常でKSPGを発現している脊髄の細胞はミクログリアであり、その発現がEANでは消失した。CIDPの一部において抗フォスファカン抗体陽性例が見出され、陽性例は運動失調を呈した。ChGn-1 とC4ST-2がCS鎖の本数を制御することが明らかとなった。
結論
PGの糖鎖遺伝子の解析により、ニューロパチーの発症リスクを評価できる可能性がある。CSPGおよびKSPGは神経免疫疾患の病態に関与しており、新たな治療ターゲットとして期待される。ミクログリア上のKSPGがEANの病態において機能分子である可能性が示された。CIDPの一部で、フォスファカンは標的抗原のひとつであり、抗フォスファカン抗体と運動失調との関連が示唆される。ニューロパチーとの関連が疑われているCS鎖の本数の制御には、ChGn-1とC4ST-2が関与している。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201122013C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1) 酵素活性をほぼ消失させるChGn-1遺伝子の変異を見出した。従来ヒトでこのような変異は知られておらず、学術的に重要な成果である。2) プロテオグリカン糖鎖合成の制御について新規知見がえられた。3) 炎症性ニューロパチーにおける脊髄ミクログリア上のケラタン硫酸の変化が明らかとなった。4) プロテオグリカンの糖鎖の変化が、免疫性神経疾患の病態に影響を与えることがわかった。5) 標的分子が明らかでなかったCIDPの一部で新たな標的分子が同定された。
臨床的観点からの成果
1) プロテオグリカンの糖鎖遺伝子の解析により、ニューロパチーの発症リスクを評価できる可能性がある。2) プロテオグリカンの糖鎖の発現が免疫性ニューロパチーに伴って変化すること、また糖鎖の変化が免疫性神経疾患の病態に作用することが示され、プロテオグリカンの糖鎖がニューロパチーの新たな治療標的となる可能性が示された。3) CIDPの一部で新たな標的分子が同定されたことは、診断や治療戦略構築に有用である。
ガイドライン等の開発
ガイドライン策定までには至らなかったが、ニューロパチーの発症リスクの評価や、ニューロパチーの診断に役に立つ知見が得られたことは、今後のガイドライン作成に有用と考えられる。
その他行政的観点からの成果
プロテオグリカンの糖鎖合成酵素遺伝子に酵素活性をほぼ消失させる変異の存在が明らかになったことは、ニューロパチーの発症リスク評価ならびに炎症性ニューロパチーの発症予防などにも応用できる可能性があり、行政的に有用な成果である。またプロテオグリカンの糖鎖の制御が免疫性神経疾患の新しい治療につながり医療福祉に貢献する可能性が示された。
その他のインパクト
免疫性ニューロパチーにおける糖鎖に対する抗体検査の有用性が認識され、近畿大学神経内科への全国の医療施設からの抗体測定の依頼件数は月に200件以上となっている。抗体検査については、近畿大学医学部神経内科ホームページ上に案内を掲示している。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
54件
その他論文(和文)
19件
その他論文(英文等)
8件
学会発表(国内学会)
61件
学会発表(国際学会等)
28件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Saigoh K, Izumikawa T, Koike T, et al.
Chondroitin beta-1,4-N-acetylgalactosaminyltransferase-1 (ChGn-1) missense mutations are associated with neuropathies.
J Hum Genet , 56 , 143-146  (2011)
原著論文2
Moriguchi K, Miyamoto K, Takada K, et al.
Four cases of anti-ganglioside antibody-positive neuralgic amyotrophy with good response to intravenous immunoglobulin infusion therapy.
J Neuroimmunol , 238 , 107-109  (2011)
原著論文3
Izumikawa T, Okuura Y, Koike T, et al.
Chondroitin 4-O-sulfotransferase-1 regulates the chain length of chondroitin sulfate in cooperation with chondroitin N-acetylgalactosaminyl- transferase-2.
Biochem J , 434 , 321-331  (2011)
原著論文4
Nakagawa N, Izumikawa T, Kitagawa H, et al.
Sulfation of glucuronic acid in the linkage tetrasaccharide by HNK-1 sulfotransferase is an inhibitory signal for the expression of a chondroitin sulfate chain on thrombomodulin.
Biochem Biophys Res Commun , 415 , 109-113  (2011)
原著論文5
Kouno T, Kizuka Y, Nakagawa N, et al.
Specific Enzyme Complex of Beta-1, 4-galactosyltransferase-II and GlcAT-P Facilitates Biosynthesis of N-linked HNK-1 Carbohydrate
J Biol Chem , 286 , 31337-31346  (2011)
原著論文6
Imagama S, Sakamoto K, Tauchi R, et al.
Keratan sulfate restricts neural plasticity after spinal cord injury.
J Neurosci , 31 , 17091-17102  (2011)
原著論文7
Izumikawa T, Koike T, Kitagawa H.
Chondroitin 4-O-sulfotransferase-2 regulates the number of chondroitin sulfate chains initiated by chondroitin N-acetylgalactosaminyltransferase-1.
Biochem J , 441 , 697-705  (2012)
原著論文8
Tauchi R, Imagama S, Natori T, et al.
The endogenous proteoglycan-degrading enzyme ADAMTS-4 promotes functional recovery after spinal cord injury.
J Neuroinflammation , 9 , 53-53  (2012)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
2017-05-23

収支報告書

文献番号
201122013Z