幹細胞制御によるがん治療法開発のための基盤研究

文献情報

文献番号
201118001A
報告書区分
総括
研究課題名
幹細胞制御によるがん治療法開発のための基盤研究
課題番号
H21-3次がん・一般-001
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
落谷 孝広(独立行政法人国立がん研究センター研究所 分子細胞治療研究分野)
研究分担者(所属機関)
  • 森 正樹(大阪大学 大学院 消化器がん)
  • 北村 俊雄(東京大学医科学研究所)
  • 岡本 康司(独立行政法人国立がん研究センター研究所 がん分化制御分野)
  • 横山 明彦(独立行政法人国立がん研究センター研究所  造血器腫瘍研究分野)
  • 金子 周一(金沢大学医薬保健研究域医学系)
  • 大河内 仁志(国立国際医療センター研究所 国際臨床研究センター 細胞組織再生医学研究部)
  • 畑田 出穂(群馬大学)
  • 大岡 静衣(独立行政法人国立がん研究センター研究所 がん幹細胞研究分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
68,166,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
癌の発生・進展・転移・再発・治療抵抗性の全ての段階に関与する「がん幹細胞」の生物学的特徴の解明を通して幹細胞の制御をもとにした新たながん治療法の創出につなげる研究を推進する。
研究方法
本研究班では、乳がん、大腸がん、肝細胞がんなどのがん幹細胞の性状をin vitroおよびin vivoでの多面的なアッセイ系で検証するとともに、特に乳がんのRPN2に関しては、大型動物であるイヌを用いた自然発症がんの治療研究を実施し、実際の臨床への応用に極めて近づいた研究方法を採用する。
結果と考察
1)本主任研究者の所属する国立がん研究センターが、厚労省による早期・探索的臨床試験の拠点の1 つとして選定され、本研究成果であるRPN2核酸医薬によるトリプルネガティブ乳がんの治療が正式に採用された。
2)dCSCが低酸素ニッチの中に存在し、抗癌剤耐性であることを明らかにした。さらに次世代の段階として現行の抗癌剤放射線療法で残存するdCSCに特化して標的化できる新しい療法の確立を目指して基盤を整備する。
3)dUTPaseがWntによって調節されているなど、がんの核酸代謝調節が発生シグナルによって直接制御を受けている事から、dUTPaseを用いた肝細胞がん外科切除例の予後予測、術後のアジュバント化学療法における治療薬選択に有用な情報を提供できる。
4)大腸がん幹細胞のmiR-493は大腸がん肝転移を抑制するのみならず、ヒト肝転移症例でその発現が低下しており、大腸がん肝転移の診断、治療の双方で臨床応用につながる。
5)MLLやMLL融合タンパク質が幹細胞性を維持する知見は、将来的に造血幹細胞や白血病幹細胞の活性を制御する手法の開発に役立つ。MLLによる幹細胞制御を完全に損なう事なくMLL融合タンパク質の活性を抑制する方法の開発が必要である。
6)がん幹細胞維持に重要な有糸分裂期に作用する薬剤が、がん幹細胞標的薬の最有力候補であること推測された。in vitro培養系の樹立により、今後の大腸がん幹細胞の解析が容易になる。
結論
がん幹細胞の生物学的特性を制御する分子であるRPN2、CD13, CD90, EpCAM等の分子やそれらの標的分子の機能解明を進めるとともに、核酸医薬の前臨床試験を開始するなど、本研究から2件が臨床試験へ向けた準備に入る等の成果を上げた。今後,がん幹細胞の総合的理解と検証が,医療応用へ大きく貢献する可能性を示した。

公開日・更新日

公開日
2015-05-19
更新日
-

文献情報

文献番号
201118001B
報告書区分
総合
研究課題名
幹細胞制御によるがん治療法開発のための基盤研究
課題番号
H21-3次がん・一般-001
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
落谷 孝広(独立行政法人国立がん研究センター研究所 分子細胞治療研究分野)
研究分担者(所属機関)
  • 森 正樹(大阪大学 大学院 消化器がん)
  • 北村 俊雄(東京大学医科学研究所)
  • 岡本 康司(独立行政法人国立がん研究センター研究所 がん分化制御分野)
  • 横山 明彦(独立行政法人国立がん研究センター研究所  造血器腫瘍研究分野)
  • 金子 周一(金沢大学医薬保健研究域医学系)
  • 大河内 仁志(国立国際医療センター研究所 国際臨床研究センター 細胞組織再生医学研究部)
  • 畑田 出穂(群馬大学)
  • 大岡 静衣(独立行政法人国立がん研究センター研究所 がん幹細胞研究分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
癌の発生・進展・転移・再発・治療抵抗性の全ての段階に関与する「がん幹細胞」の生物学的特徴の解明を通して幹細胞の制御をもとにした新たながん治療法の創出につなげる研究を推進する事を目的とした。
研究方法
乳がん、大腸がん、肝細胞がんなどのがん幹細胞の性状を多面的なアッセイ系で検証するとともに、その分子制御機構を徹底的に解明し、特に乳がんのRPN2に関しては、大型動物であるイヌを用いた自然発症がんの治療研究を実施し、実際の臨床への応用に極めて近づいた研究方法を採用する。
結果と考察
がん幹細胞の制御分子であるRPN2、CD13, CD90, EpCAM等やそれらの標的分子の機能解明を進めた。RPN2に関しては、前臨床試験として大型動物のイヌの自然発生乳腺腫瘍症例での治療実験を4例実施した。さらに、核酸医薬合成に関する情報を収集し、前臨床試験に必要な準GLP規格での核酸合成に適合する化学合成プラントを有する企業の選定などに時間を要した。またトリプルネガティブ乳がん患者124症例を検討した結果、RPN2/mtp53発現が予後不良と相関する事を見いだした。森らは細胞表面抗原を詳細に解析することにより、細胞周期静止期にある癌幹細胞(dCSC)と増殖期にある癌幹細胞(aCSC)に峻別できることを明らかにした。特に細胞周期静止期にある癌幹細胞におけるDNA損傷修復を研究し、従来の抗癌剤による増殖盛んな癌細胞のDNA損傷誘導を作用点とした治療法では、dCSCにおいて相同組み替え型より末端結合型損傷修復が相対的に優位に働き、変異は発生し易いことを明らかにした。またCD13蛋白質機能はROSを低く保つように作用し、そのために転移細胞が生存し続けることから、dCSCを治療標的化する重要性が示された。さらに肝臓癌を対象として従来の5-FU/IFNによる殺細胞治療に加えて、CD13機能阻害効果があるUbenimexを加える臨床治験を開始するために倫理委員会の申請等必要な手続き中である。
結論
本研究事業から2件が臨床試験へ向けた準備に入る事が確定するなど、がん幹細胞を標的とした医療戦略の開発へ大きく貢献するする成果を上げた。

公開日・更新日

公開日
2015-05-19
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2017-09-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201118001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
がん幹細胞の分子標的化をはじめ、がん幹細胞の分子及び細胞生物学的特徴の把握を、消化器がん、乳がん、肺がん、白血病を中心に明らかにしたことから、がん幹細胞を直接・間接に攻撃することにより現行のがん治療成績の向上に寄与することが期待できる。本研究によって、抗癌剤開発を従来の癌細胞を標的とするものではなく癌幹細胞を標的とする方向へ大きく転換させることが期待でき、これまで治療が困難であった消化器がんをはじめ、白血病や薬剤耐性の乳がん、肺がんなどの癌治療成績の格段の向上へと貢献できる。
臨床的観点からの成果
本研究の目的はがんの治療抵抗性を説明しうるがん幹細胞の性状を明らかにし、新たながん治療の方法の開発を実現する事にある。3年間の研究の結果、乳がん、大腸がん、肝細胞がんのがん幹細胞の生物学的特性を制御する分子であるRPN2、CD13, CD90, EpCAM等の分子やそれらの標的分子の機能を解明するとともに、核酸医薬の前臨床試験を開始するなど、本研究事業から2件が臨床試験へ向けた準備に入る事が確定した。以上,医療応用へ大きく前進する成果を上げたことから、本研究の目的を十分に達成した。
ガイドライン等の開発
特に無し
その他行政的観点からの成果
特に無し
その他のインパクト
本研究課題の社会的インパクトは大きい。研究班構成員の成果は,3年間で,新聞報道,雑誌報道、テレビ等の報道を合わせて24件に上る他,各班員は国内外の学会でレクシャーやシンポジウム等の招待講演を行った。さらに国内の商業科学雑誌の特集記事等に紹介されたり、幹細胞の特集号を企画,執筆するなど、若手の研究者、医療従事者にインパクトを与えた。また市民公開講座等での講演で,一般国民への理解普及に努めた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
95件
学会発表(国内学会)
111件
学会発表(国際学会等)
25件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計9件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Osaki M, Takeshita F, Sugimoto Y 他
MicroRNA-143 regulates human osteosarcoma metastasis by regulating matrix metalloprotease-13 expression.
Mol Ther , 19 , 1123-1130  (2011)
原著論文2
Takahashi RU, Takeshita F, Fujiwara T 他
Cancer stem cells in breast cancer.
Cancers , 3 , 1311-1328  (2011)
原著論文3
Yamamoto Y, Yoshioka Y, Minoura K 他
An integrative genomic analysis revealed the relevance of microRNA and gene expression for drug-resistance in human breast cancer cells.
Mol Cancer , 10 , 135-  (2011)
原著論文4
K. Okamoto, T. Ishiguro, Y. Midorikawa 他
miR-493 induction during carcinogenesis blocks metastatic settlement of colon cancer cells in liver.
EMBO J , 28 (7) , 1752-1763  (2012)
原著論文5
N. Tsuchiya, M. Izumiya, H. Ogata-Kawata 他
Tumor-suppressor miR-22 determines p53-dependent cellular fate through post-transcriptional regulation of p21.
Cancer Res , 71 , 4628-4639  (2011)
原著論文6
Yokoyama A, Lin M, Naresh A 他
A higher-order complex containing AF4- and ENL-family proteins with P-TEFb facilitates oncogenic and physiologic MLL-dependent transcription.
Cancer Cell , 17 , 198-212  (2010)
原著論文7
Kosaka N, Iguchi H, Yoshioka Y 他
Secretory mechanisms and intercellular transfer of microRNAs in living cells.
J Biol Chem , 4 , 17442-17452  (2010)
原著論文8
Ochiya T, Yamamoto Y, Banas A
Commitment of stem cells into functional hepatocytes.
Differentiation , 79 , 65-73  (2010)
原著論文9
Takeshita F, Patrawala L, Osaki M 他
Systemic delivery of synthetic microRNA-16 inhibits the growth of metastatic prostate tumors via downregulation of multiple cell-cycle genes.
Mol Ther , 18 , 181-187  (2010)
原著論文10
Adachi S,et.al
Effects of ghrelin administration after total gastrectomy: a prospective, randomized, placebo-controlled phase II study.
Gastroenterology , 38 , 1312-1320  (2010)
原著論文11
Miyoshi N,et.al
Defined factors induce reprogramming of gastrointestinal cancer cells.
Proc Natl Acad Sci , 107 (1) , 40-45  (2010)
原著論文12
Uemura M,et.al
Jumonji domain containing 1A is a novel prognostic marker for colorectal cancer: in vivo identification from hypoxic tumor cells.
Clin Cancer Res , 16 (18) , 4636-4646  (2010)
原著論文13
Yamashita T. et al.
Oncostatin m renders epithelial cell adhesion molecule-positive liver cancer stem cells sensitive to 5-Fluorouracil by inducing hepatocytic differentiation.
Cancer Res , 70 , 4687-4697  (2010)
原著論文14
Adachi S, Takiguchi S, Okada K 他
Effects of ghrelin administration after total gastrectomy. A prospective randomized placebo-controlled phase II study.
Gastroenterology , 138 , 1312-1320  (2010)
原著論文15
Konno M, Hamazaki TS, Okochi H 他
Efficiently differentiating vascular endothelial cells from adipose tissue-derived mesenchymal stem cells in serum-free culture.
Biochem Biophys Res Commun , 400 , 461-465  (2010)
原著論文16
Yamashita T. et al.
EpCAM-positive hepatocellular carcinoma cells are tumor-initiating cells with stem/progenitor cell features.
Gastroenterology , 136 , 1012-1024  (2009)
原著論文17
Morita S, Hara A, Kojima I 他
Dicer is required for maintaining adult pancreas.
PLoS One , 4 (1) , 4212-  (2009)
原著論文18
Kato M, Okamoto K, Tobinai K 他
Frequent inactivation of A20 in B-cell lymphomas.
Nature , 459 , 712-716  (2009)
原著論文19
Yamashita T. et al
Molecular mechanisms of hepatocarcinogenesis in chronic hepatitis C virus infection.
J Gastroenterol Hepatol , 26 , 960-964  (2011)
原著論文20
Konno M, Masui S, Okochi H 他
Intracellular reactivation of transcription factors fused with protein transduction domain.
J Biotechnol , 154 , 298-303  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
-

収支報告書

文献番号
201118001Z