癌治療薬の市販後全例調査資料の有効利用によるエビデンス創出に関する研究

文献情報

文献番号
201114050A
報告書区分
総括
研究課題名
癌治療薬の市販後全例調査資料の有効利用によるエビデンス創出に関する研究
課題番号
H23-臨研推・指定-012
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
赤座 英之(東京大学 先端科学技術研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 樋之津 史郎(京都大学大学院医学 研究科薬剤疫学分野)
  • 内藤 誠二(九州大学大学院医学 研究院泌尿器科学分野)
  • 大園 誠一郎(浜松医科大学 泌尿器科学講座)
  • 河原 ノリエ(東京大学 先端科学技術研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究推進研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
米国FDAにおける抗悪性腫瘍薬の市販後調査の法規制と調査の実際とを比較しつつ、日本の市販後全例調査の課題を探ることを目的とした。その上で、日本の全例調査のプロトコールについて、進行腎細胞癌の分子標的薬2剤を例にその改善を提案する。改善プロトコールに基づく調査資料の解析結果が、従来のものと比べてどの程度科学的な改善を見たかを検討し、今後の市販後全例調査システムの有効利用について考察する。
研究方法
FDAを訪問し、市販後調査の現状を調査。進行腎細胞癌に対する分子標的薬2剤 (Sorafenib, Sunitinib) 開発各企業の全例調査プロトコール作成に腎細胞癌の臨床専門医が関与し、科学的(臨床医学的)に有用な調査項目を追加するよう助言した。調査結果の解析についても、副作用と効果の両側面からBenefit/Risk バランスの観点を重視した解析をするよう助言した。
結果と考察
全例調査は日本独自の市販後調査であることが判明した。プロトコールに効果判定のため、抗腫瘍効果、progression-free survival, overall survival 等を調査項目として加えることにより、日本人独自のエビデンスが得られた。また、副作用に関しても欧米人とは異なる独自のパターンが明らかになった。薬剤の投与量と効果や副作用の関係や、前治療の種類や有する転移臓器の種類や数と効果との関連も明らかになり、有効なRPMの策定に寄与するのみならず、科学的にも新しい重要な情報が有られた。
今回得られた情報は、新たなエビデンスの創出であり、今後の安全かつ有効な薬剤の使用法の提案に有用であると考えられた。また、これ等の情報は、科学的にも貴重なエビデンスになるものと考えられた。しかし一方で、多くの課題も明らかになった。それは、実際に調査を行う企業と臨床医にかかる負担である。また、プロトコール作成や、結果の解析法に関するガイドラインの必要性が示唆された。
結論
上記課題を解決できれば、日本独自の市販後使用成績調査(全例調査)は、世界に類を見ない、日本独自のシステムとして高く評価され得るものになると考えられた。また、この方式を、FDA の早期承認の条件である市販後義務調査 (Post Marketing Requirement; PMR)と位置づければ、日本の臨床治験の課題である新薬開発における Drug Lag の解消に大きく貢献すると考えられた。さらに、このPMR は、一定の条件下で厳密に行われるため、副作用に関する管理が充実し、新薬承認直後にみられる予期せぬ副作用の問題も回避することが可能である。

公開日・更新日

公開日
2012-08-13
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201114050C

成果

専門的・学術的観点からの成果
市販後全例調査の有効利用に関する検討を行った。進行性腎細胞癌に対する2つの分子標的薬に関する市販後全例調査の調査計画書の作成から結果解析までの過程を検討材料とした。その結果現行の調査は、副作用面の調査のみに重点が置かれているが、効果の判定にも重点を置いた調査にすれば、新薬の利益/不利益が明快に判断でき、有用なRMPが作成できることのみでなく学術的にも寄与することが判明した。さらに、米国FDAのPMRのように市販後全例試験を位置づけることができればDrug Lagの解消にも役立つ可能性が示唆された
臨床的観点からの成果
市販後全例調査は、他国には類を見ないシステムである。臨床的には、実際、臨床現場の医師、研究者には、多大な負担をかけるのは事実である。一方、本研究の結果、副作用のみではなく、効果の検討を同時に行えば、無作為割り付けによる前向きの臨床試験では、得難い実臨床データが得られる。すなわち、実際の臨床に直接、役立つ、効果予測因子や予後予測因子が明らかにされる可能性がある。もちろん、副作用に関しても実臨床上のデータが得られ、治療の benefit/ risk の評価が可能となる。
ガイドライン等の開発
1年間の研究期間での結果が、直接ガイドライン等の開発に関係することはなかったが、このように全例調査で、benefit/ risk 評価がなされれば、今後の治療ガイドラインの作成には大きく寄与するものと考えられる。
その他行政的観点からの成果
平成24年4月付の厚生労働省2課長通知でも重要性が指摘されているRisk Management Plan (RMP) 策定上重要な資料になり得る。また、市販後全例調査システムを米国FDA のPMR (Post marketing Requirement)として位置付けることが出来れば、治験期間を短縮することが可能となり、Drug lag の短縮につながる。
その他のインパクト
第13回抗悪性腫瘍薬開発フォーラム(平成24年6月16日)の主題に取り上げ、産官学の出席者により、本研究課題と成果に関して論議した。この内容は「腫瘍内科」誌Vol.11(1)に掲載されている(平成25年1月発行)。また、レギュラトリーサイエンス学会、第2回学術大会シンポジウムにて、成果を報告した(平成24年4月27日)。エベロリムスについては、結果を平成26年度の日本癌治療学会にて発表予定。スーテントとソラフェニブの市販後調査については、平成26年度に英文誌に掲載予定。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
14件
その他論文(和文)
13件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
8件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Akaza H, Naito S, Ueno N,et al
Real-world use of sunitinib in Japanese patients with advanced renal cell carcinoma: efficacy, safety and biomarker analyses in 1689 consecutive patients.
Jpn J Clin Oncol , 45 (6) , 576-583  (2015)
10.1093/jjco/hyv045
原著論文2
Akaza H, Oya M, Iijima M,et al
A large-scale prospective registration study of the safety and efficacy of sorafenib tosylate in unresectable or metastatic renal cell carcinoma in Japan: results of over 3200 consecutive cases in post-marketing all-patient surveillance.
Jpn J Clin Oncol , 45 (10) , 953-962  (2015)
10.1093/jjco/hyv099

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
2016-01-28

収支報告書

文献番号
201114050Z