未破裂脳動脈瘤の治療の評価技術の開発に関する研究

文献情報

文献番号
201114015A
報告書区分
総括
研究課題名
未破裂脳動脈瘤の治療の評価技術の開発に関する研究
課題番号
H21-臨床研究・一般-008
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
野崎 和彦(滋賀医科大学 医学部脳神経外科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 中山 健夫(京都大学大学院 医学研究科健康情報学)
  • 上島 弘嗣(滋賀医科大学 医学部生活習慣病予防センター)
  • 森田 明夫(NTT東日本関東病院 脳神経外科)
  • 宝金 清博(北海道大学 医学部脳神経外科)
  • 塩川 芳昭(杏林大学 医学部脳神経外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
8,585,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
これまで我々は、未破裂脳動脈瘤のリスク情報と治療に伴うリスク情報の整備を行ない、医師と患者によるshared decision makingのためのサポートツールを開発してきた。脳動脈瘤側、患者側、医療者側リスク情報の整備を行い、現存治療法のリスクと効果の把握と新たな治療法の可能性を探ることを目的として、複数の臨床研究を通して、脳動脈瘤治療法の評価を行い、それに基づいて臨床医と患者間のコミュニケーションの視点からの新たな知見を得るために当研究を計画した。
研究方法
1)脳動脈瘤の危険因子情報、未破裂動脈瘤への予防的介入が対象者のQOLに与える影響、介入の費用効果・効用分析に関する臨床研究(UCAS II)を継続遂行し、2)医療者側の治療決定療の過程と現状、治療効果を解析し(u-TREAT)、現行治療の妥当性を評価し、本邦と諸外国との相違点を明らかにし、さらに、初年度から2年間において、3)現行の治療法以外の新たな治療法開発とその評価に向けて非外科的治療法の可能性を探るための臨床データ構築を行い、後半2年間では、4)薬物治療による脳動脈瘤のリスク軽減の可能性を証明する臨床研究(UCAS III)を計画・準備する。
結果と考察
UCAS Japanの解析途中のデータでは、5,720例(6,697個)の平均21ヶ月の経過観察期間において111例の既存脳動脈瘤の破裂が認められた。総合の未破裂脳動脈瘤破裂率は0.95%/年となる見込みである。UCAS IIでは1年間で1059例のうち破裂が10 例に発生し、高齢者・内頚動脈―後交通動脈瘤が多かった。治療のリスクは高次機能の悪化例を含めると、UCAS Japanの検討よりも悪化しているが重篤合併症率は5.3%であり、欧米で報告されている15%よりはるかに良好であった。症例群として脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血患者、対照群として未破裂脳動脈瘤を有する患者による症例・対照比較試験では、スタチン服用が独立して有意にくも膜下出血のリスクを軽減する可能性が示された。
結論
臨床研究を推進することにより、未破裂脳動脈瘤に対するリスク情報の整備、新たな治療法の開発、医師と患者間でのコニュニケーションの現場への適正な情報提供が可能となり、患者視点を取り入れた新たな未破裂脳動脈瘤の治療指針の基盤作りとともに、治療選択の適正化と標準化が進むと思われる。

公開日・更新日

公開日
2012-07-09
更新日
-

文献情報

文献番号
201114015B
報告書区分
総合
研究課題名
未破裂脳動脈瘤の治療の評価技術の開発に関する研究
課題番号
H21-臨床研究・一般-008
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
野崎 和彦(滋賀医科大学 医学部脳神経外科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 中山 健夫(京都大学大学院 医学研究科健康情報学)
  • 上島 弘嗣(滋賀医科大学 医学部生活習慣病予防センター)
  • 森田 明夫(NTT東日本関東病院 脳神経外科)
  • 宝金 清博(北海道大学大学院 医学研究科脳神経外科)
  • 塩川 芳昭(杏林大学医学部 脳神経外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本で特に多く発生するくも膜下出血による社会の疾病負担を軽減し本邦における最新画像診断を含めた確かなエビデンス構築を進め、医師患者間の情報共有を通して不適正な医療を是正していくために、脳動脈瘤側、患者側、医療者側リスク情報の整備を行い、現存治療法のリスクと効果の把握と新たな治療法の可能性をことを目的として、複数の臨床研究を通して、脳動脈瘤治療法の評価を行い、それに基づいて臨床医と患者間のコミュニケーションの視点からの新たな知見を得るために当研究を計画した。
研究方法
1)脳動脈瘤の危険因子情報、未破裂動脈瘤への予防的介入が対象者のQOLに与える影響、介入の費用効果・効用分析に関する臨床研究(UCAS II)を継続遂行し、2)医療者側の治療決定療の過程と現状、治療効果を解析し(u-TREAT)、現行治療の妥当性を評価し、本邦と諸外国との相違点を明らかにし、さらに、初年度から2年間において、3)現行の治療法以外の新たな治療法開発とその評価に向けて非外科的治療法の可能性を探るための臨床データ構築を行い、後半2年間では、4)薬物治療による脳動脈瘤のリスク軽減の可能性を証明する臨床研究(UCAS III)を計画・準備する。
結果と考察
未破裂脳動脈瘤の大規模疫学調査:未破裂脳動脈瘤の治療指針を構築するため、日本発の大規模疫学調査を継続し、日本における未破裂脳動脈瘤の自然歴・治療リスクおよびそれに関与する因子を検証した。ガイドラインでは、大きな動脈瘤は破裂の可能性が高く治療をすべきとあるが、巨大動脈瘤に対する治療方針決定において、合併症の確率などを考慮するためか、経過観察をする医師が多いという実態を明らかにした。スタチン服用はくも膜下出血発症リスクを軽減する可能性が示唆された。治療を希望した患者と経過観察を希望した患者との精神的健康度を比較することで、受療満足度を維持しつつ、治療適応の個別的決定に関する因子(患者が決断しやすい条件)を抽出できる可能性があることが判明した。
結論
治療法選択に関するリスク情報の整備と意思決定支援のためのツールを作成し、患者、医療者双方にとって有用な新たな治療指針のための基盤作りを行うことを目指すべきと考えられた。

公開日・更新日

公開日
2012-06-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201114015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本邦における大規模コホート研究による未破裂脳動脈瘤のリスク把握と治療予後解析、本邦、諸外国における現行治療の選択状況と有効性の検証、患者―医師間のコミュニケーションの乖離の検証、新たな非外科的治療法の開発のための臨床データ蓄積が行われ、現治療法の妥当性を評価するための基礎データ集積が行われ、また新たな治療法の可能性が示唆された。
臨床的観点からの成果
本邦における未破裂脳動脈瘤の破裂リスクは年間1%弱で、脳動脈瘤の大きさ・場所などで異なること、医師の治療選択には治療リスクを回避する傾向が見られること、患者医師間のコミュニケーションは必ずしも十分でないこと、未破裂脳動脈瘤治療により、診断時の心理的障害が改善すること、未破裂脳動脈瘤の治療選択肢として薬物治療の可能性があること、などが示され、一部の成果が欧米有数雑誌に掲載され(N E J M 366:2474-2482, 2012)、薬物治療の臨床研究が1件終了、1件が進行中である。
ガイドライン等の開発
脳卒中治療ガイドライン2009(2009年11月30日発行)に関わる班員が、2012年以降に発行予定の新たなガイドライン策定に向けた基礎データを収集し、脳卒中治療ガイドライン2015(2015年6月25日発行)の改訂に関わった。
その他行政的観点からの成果
本研究対象は、脳卒中対策、生活習慣病対策に含まれ、脳動脈瘤患者側に直接還元され医療の適正化に貢献し脳卒中治療の向上につながるだけでなく、治療選択を迫られる他疾患における治療指針作成のための雛形ともなりうる。
その他のインパクト
中山健夫、野崎和彦:患者さんとご家族のための生活ガイド 破裂していない脳動脈瘤(未破裂脳動脈瘤)の手引き(ヘルスサービスR&Dセンター 2010年11月1日改訂)として患者向け手引書の作成を行った。 

発表件数

原著論文(和文)
30件
原著論文(英文等)
14件
脳卒中ガイドラインの基礎資料となった
その他論文(和文)
5件
脳卒中ガイドラインの基礎資料となった
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
21件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
地域の脳卒中行政への提言を行っている。
その他成果(普及・啓発活動)
3件
患者向けの治療説明リーフレットを作成した。DVDの配布を継続して行っている。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yoshimura Y, Murakami Y, Saitoh M, et al
Statin use and risk of cerebral aneurysm rupture: a hospital-based case-control study in Japan
J Stroke Cereb Vasc Dis , 23 (2) , 343-348  (2014)
原著論文2
Saito M, Takahashi Y, Yoshimura Y, et al
Inadequate communication between patients with unruptured cerebral aneurysms and neurosurgeons
Medico Neurochirurugica , 52 , 873-877  (2012)
原著論文3
UCAS Japan Research Group
The Natural Course of Unruptured Cerebral Aneurysms in a Japanese Cohort
N Engl J Med , 366 , 2474-2482  (2012)
原著論文4
塩川芳昭
小型の無症候性未破裂脳動脈瘤に対する治療適応と外科治療の現状
脳神経外科ジャーナル , 20 (7) , 491-497  (2011)
原著論文5
森田明夫
未破裂脳動脈瘤の自然史
医学のあゆみ , 236 , 101-106  (2011)
原著論文6
中山若樹,宝金清博
数々の条件に応じた治療適応判断
医学のあゆみ , 236 , 116-123  (2011)
原著論文7
森田明夫
UCAS JapanとSUAVe study Japan:5mm未満の小型未破裂脳動脈瘤の治療選択
分子脳血管病 , 10 , 183-187  (2011)
原著論文8
Akiyama Y, Houkin K, Nozaki K, et al.
Practical Decision-Making in the Treatment of Unruptured Cerebral Aneurysm in Japan: The U-CARE Study.
Cerebrovasc Dis , 30 (5) , 107-115  (2011)
原著論文9
森田明夫、橋本信夫, 福原俊一,他
UCASIIにおける未破裂脳動脈瘤治療成績:中間報告 ―日本における未破裂脳動脈瘤治療の現況とスタンダードの追求ー
脳神経外科ジャーナル , 20 (7) , 484-490  (2011)
原著論文10
横井俊浩、青木友浩、齋藤実、他
脳動脈瘤の発生増大のメカニズム
医学のあゆみ , 236 (9) , 107-7115  (2011)
原著論文11
栗田浩樹、佐藤栄志、塩川芳昭
重症破裂動脈瘤急性期の実際とその成績について
脳神経外科ジャーナル , 19 , 126-132  (2010)
原著論文12
Morita A, Kimura T, Shojima M, et al.
Unruptured intracranial aneurysms: current perspectives on the origin and natural course, and quest for standards in the management strategy.
Neurol Med Chir (Tokyo) , 50 (9) , 777-787  (2010)
原著論文13
横山葉子、野崎和彦、中山健夫、他
未破裂脳動脈瘤の治療選択における意思決定支援ツールの開発と評価
脳卒中の外科 , 38 , 142-147  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
2017-06-20

収支報告書

文献番号
201114015Z