アドレノメデュリン(AM)の炎症性腸疾患治療薬としての臨床応用

文献情報

文献番号
201114005A
報告書区分
総括
研究課題名
アドレノメデュリン(AM)の炎症性腸疾患治療薬としての臨床応用
課題番号
H21-トランス・一般-005
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
北村 和雄(宮崎大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 芦塚 伸也(宮崎大学 医学部)
  • 鶴田 敏博(宮崎大学 医学部)
  • 稲津 東彦(宮崎大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
27,878,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アドレノメデュリン(AM)は本研究代表者等が発見した強力な降圧作用を有する生理活性ペプチドであり、多彩な作用を有し、循環調節や循環器疾患の病態に極めて重要な役割を果たしている。一方、AMには強力な抗炎症作用や組織保護作用があることが明らかになり、炎症性腸疾患治療薬としても期待されている。本研究の目的は、炎症性腸疾患の治療薬としてのAMの有用性を基礎的および臨床的研究で明確にし、本研究終了時にはAMを炎症性腸疾患の治療薬として開発治験へ移行できる基盤を確立することである。研究期間3年のうち、前半は臨床研究を行うための基礎研究を行い、後半にAMの炎症性腸疾患治療薬としての有用性を証明するための探索的臨床研究を主に行う計画としている。
研究方法
平成23年度は最終年度であったため、主に炎症性腸疾患患者に対する探索的臨床研究を主に実施した。患者に投与する前段階の臨床研究として、AM 2.5pmol/kg/minを27時間投与する臨床研究を行い、循環動態への作用や有害事象を検討した。これらの成果をもとに、炎症性腸疾患患者に対して、AM 2.5pmol/kg/minを一日8時間、最長14日間投与する探索的臨床研究を開始した。評価項目として、活動性と内視鏡所見および循環動態や有害事象を評価した。これまでに7例の難治性UC患者に対しAM持続静注療法を施行し、その有効性と有害事象に関し検討した。
結果と考察
ステロイド抵抗性の難治性潰瘍性大腸炎の患者にAMを2週間投与したところ、病態の顕著な改善が認められた。内視鏡所見からAM投与により炎症が抑えられるばかりではなく、粘膜上皮の修復が促進することが判明した。現在までに、7例の患者で行っているが有効性は80%以上ときわめて良好であり、有害事象は認めなかった。炎症性腸疾患については、高薬価の免疫抑制剤や生物製剤が臨床応用されているが、特に生物製剤は自家抗体の形成による有効性の減弱が見られるため、最終的には薬剤抵抗性が生じる。AMはこの点、ヒトの体内に存在する物質であり抗原性がなく、安全性も高い。そのため、薬害等の発生の可能性は低く、長期にわたり安全に使用できる可能性がある。
結論
炎症性腸疾患に対するAM投与の有用性が、動物実験に加えて、探索的臨床研究で証明されつつある。AMはヒトの体内に存在する物質であり抗原性がなく、安全性も高いことから、安心して使用できる有効な炎症性腸疾患治療薬になりうる可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2012-06-29
更新日
-

文献情報

文献番号
201114005B
報告書区分
総合
研究課題名
アドレノメデュリン(AM)の炎症性腸疾患治療薬としての臨床応用
課題番号
H21-トランス・一般-005
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
北村 和雄(宮崎大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 芦塚 伸也(宮崎大学 医学部)
  • 鶴田 敏博(宮崎大学 医学部)
  • 北 俊弘(宮崎大学 医学部)
  • 稲津 東彦(宮崎大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アドレノメデュリン(AM)は本研究代表者等が発見した強力な降圧作用を有する生理活性ペプチドであり、多彩な作用を有し、循環調節や循環器疾患の病態に極めて重要な役割を果たしている。一方、AMには強力な抗炎症作用や組織保護作用があることが明らかになり、炎症性腸疾患治療薬としても期待されている。本研究の目的は、炎症性腸疾患の治療薬としてのAMの有用性を基礎的および臨床的研究で明確にすることである。研究期間3年のうち、前半は臨床研究を行うための基礎研究を行い、後半にAMの炎症性腸疾患治療薬としての有用性を証明するための探索的臨床研究を主に行う計画とした。
研究方法
炎症性腸疾患のモデル動物であるDSS腸炎やTNBS腸炎モデル動物を用いて、AMが炎症性腸疾患を改善する機序の検討を実施した。また、これらのモデル動物に経静脈投与での有用性と量の設定を検討した。患者に投与する前段階の臨床研究として、AM 2.5pmol/kg/minを27時間投与する臨床研究を行い、循環動態への作用や有害事象を検討した。これらの成果をもとに、炎症性腸疾患患者に対して、AM 2.5pmol/kg/minを一日8時間、最長14日間投与する探索的臨床研究を実施した。評価項目として、活動性と内視鏡所見および循環動態や有害事象を評価した。
結果と考察
AM はサイトカイン制御による抗炎症作用および抗菌作用、さらには上皮バリアの構築に不可欠な分子であるジャンクション分子の発現亢進などを示すことにより、有効な腸炎治療薬になりうる可能性が示された。また、AMは経静脈投与した場合も有効であることが明らかとなった。健常人へのAM投与の安全性を確認した後、ステロイド抵抗性の難治性潰瘍性大腸炎の患者にAMを2週間投与したところ、病態の顕著な改善が認められた。内視鏡所見からAM投与により炎症が抑えられるばかりではなく、粘膜上皮の修復が促進することが判明した。現在までに、7例の患者で行っているが有効性は80%以上ときわめて良好であり、有害事象は認めなかった。AMはヒト体内に存在する物質であり抗原性がなく、安全性も高い。そのため、薬害等の発生の可能性は低く、長期にわたり安全に使用できる可能性がある。
結論
炎症性腸疾患に対するAM投与の有用性が、動物実験に加えて、探索的臨床研究で証明された。AMはヒトの体内に存在する物質であり抗原性がなく、安全性が高い有効な炎症性腸疾患治療薬になりうる可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2012-06-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201114005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
アドレノメデュリン(AM)は重要な循環調節因子であるとともに、強力な抗炎症作用があることが明らかになり、炎症性腸疾患(IBD)治療薬としても期待されている。本研究では、動物モデル実験で最適な投与法や投与量を検討した後に、探索的臨床研究を実施した。その結果、難治性潰瘍性大腸炎の患者に投与した時に、病状の改善が認められ、内視鏡所見より、AMの作用として炎症を抑えるだけでなく既存薬にはない粘膜上皮修復作用があることが明らかになった。
臨床的観点からの成果
AM投与量が多すぎるとAMの抗炎症効果や抗潰瘍効果が減弱することが明らかになった。そのため、急性心筋梗塞治療で用いる用量より少ない量で、血圧が下がらない用量で臨床研究を開始した。その結果、難治性潰瘍性大腸炎患者でもAM投与の有用性が証明されつつある。AMはヒトの体内に存在する物質であり抗原性がなく、安全性も高いことから、安心して使用できる有効な炎症性腸疾患治療薬になりうる可能性が示された。
ガイドライン等の開発
基礎研究と探索的臨床研究であったため、ガイドライン等の開発までは貢献できなかった。炎症性腸疾患については、高薬価の免疫抑制剤や生物製剤が臨床応用されているが、特に生物製剤は自家抗体の形成による有効性の減弱が見られるため、最終的には薬剤抵抗性が生じる。AMはこの点、ヒトの体内に存在する物質であり抗原性がなく、安全性も高い。そのため、薬害等の発生の可能性は低く、長期にわたり安全に使用できる医薬品となる可能性がある。
その他行政的観点からの成果
炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)は原因が不明の難治性疾患であり、現時点では根本的治療はなく、様々な治療法の工夫にもかかわらず、治療に難渋し、入院を繰り返す症例も多い。また、食生活の欧米化により、近年我が国では炎症性腸疾患の患者数の急速な増加がみられており、患者数は10万人に達したとされており、今後さらに増加が懸念されている。そのため、炎症性腸疾患に対しての、新たな治療法の開発が強く求められており、強力な抗炎症作用を有するAMによる治療で新たな展開が期待できる。
その他のインパクト
アドレノメデュリンの研究に対して、平成23年度日本心血管内分泌代謝学会の高峰譲吉賞および平成24年度の文部科学大臣表彰(科学省)を受賞した。平成24年12月10日にPMDAで個別面談を受けた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
21件
その他論文(和文)
7件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
18件
学会発表(国際学会等)
11件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
1件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
Adrenomedullin
詳細情報
分類:
特許番号: 米特許5639855号
発明者名: Kazuo Kitamura, Kenji Kangawa, Hisayuki Matsuo, Tanenao Eto.
権利者名: Shionogi & Co., Ltd.; Kenji Kangawa.
出願年月日: 19940426
国内外の別: 国外
特許の名称
非細菌性の炎症性疾患の予防又は治療剤
詳細情報
分類:
特許番号: 特許4830093号
発明者名: 北村和雄、稲津東彦、加藤丈司、石川直人、山家純一、江藤胤尚、芦塚伸也
権利者名: 国立大学法人 宮崎大学
出願年月日: 20050408
取得年月日: 20110930
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ashizuka S, Kita T, Inatsu H, et al.
Adrenomedullin: A novel therapy for intractable ulcerative colitis.
Inflamm Bowel Dis. , 19 (2) , 26-27  (2013)
10.1002/ibd.22891
原著論文2
Hikosaka T, Tsuruda T, Nagata S, et al.
Adrenomedullin production is increased in colorectal adenocarcinomas; its relation to matrix metalloproteinase-9.
Peptides , 32 , 1825-1831  (2011)
原著論文3
Kuwasako K, Kitamura K, Nagata S, et al.
Structure-function analysis of helix 8 of human calcitonin receptor-like receptor within the adrenomedullin 1 receptor.
Peptides , 32 , 144-149  (2011)
原著論文4
Kuwasako K, Kitamura K, Nagata S, et al.
Shared and separate functions of the RAMP-based adrenomedullin receptors.
Peptides , 32 , 1540-1550  (2011)
原著論文5
Tsuruda T, Kitamura K.
Adrenomedullin: Roles for structure and function in cardiac or vascular tissues.
Current Hypertension Reviews. , 7 (4) , 268-272  (2011)
原著論文6
Kita T, Suzuki Y, Kitamura K.
Hemodynamic and hormonal effects of exogenous adrenomedullin administration in humans, and relationship to insulin resistance.
Hypertens Res. , 33 , 314-319  (2010)
原著論文7
Tsuruda T, Imamura T, Hatakeyama K, et al.
Stromal cell biology-a way to understand the evolution of cardiovascular diseases.
Circ J. , 74 , 1042-1050  (2010)
原著論文8
Kita T, Tokashiki M, Kitamura K.
Aldosterone antisecretagogue and antihypertensive actions of adrenomedullin in patients with primary aldosteronism.
Hypertens Res. , 33 , 374-379  (2010)
原著論文9
Ashizuka S, Inagaki-Ohara K, Kuwasako K, et al.
Adrenomedullin treatment reduces intestinal inflammation and maintains epithelial barrier function in mice administered dextran sulphate sodium.
Microbiol Immunol. , 53 , 573-581  (2009)
原著論文10
Baba A, Fujimoto S, Kikuchi M, et al.
Effects of uroguanylin on natriuresis in experimental nephrotic rats.
Nephrology (Carlton) , 14 , 80-85  (2009)
原著論文11
Kuwasako K, Kitamura K, Nagata S, et al.
Flow cytometric analysis of the calcitonin receptor-like receptor domains responsible for cell-surface translocation of receptor activity-modifying proteins.
Biochem Biophys Res Commun. , 384 , 249-254  (2009)
原著論文12
Masuyama H, Tsuruda T, Sekita Y, et al.
Pressure-independent effects of pharmacological stimulation of soluble guanylate cyclase on fibrosis in pressure-overloaded rat heart.
Hypertens Res. , 32 , 597-603  (2009)
原著論文13
Nomura I, Kato J, Tokashiki M, et al.
Increased plasma levels of the mature and intermediate forms of adrenomedullin in obesity.
Regul Pept. , 158 , 127-131  (2009)
原著論文14
Petersen KA, Birk S, Kitamura K, et al.
Effect of adrenomedullin on the cerebral circulation: relevance to primary headache disorders.
Cephalalgia. , 29 , 23-30  (2009)
原著論文15
Tsuruda T, Hatakeyama K, Masuyama H, et al.
Pharmacological stimulation of soluble guanylate cyclase modulates hypoxia-inducible factor-1alpha in rat heart.
Am J Physiol Heart Circ Physiol. , 297 , 1274-1280  (2009)
原著論文16
Ashizuka S, Inatsu H, Kitamura K, et al.
Adrenomedullin as a Potential Therapeutic Agent for Inflammatory Bowel Disease
Current Protein and Peptide Science.  (2013)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
2019-06-18

収支報告書

文献番号
201114005Z