長期抗HIV療法に適う新規エイズ治療薬 Reverse Transcriptase associated RNase H活性阻害剤の実用化開発

文献情報

文献番号
201108009A
報告書区分
総括
研究課題名
長期抗HIV療法に適う新規エイズ治療薬 Reverse Transcriptase associated RNase H活性阻害剤の実用化開発
課題番号
H21-政策創薬・一般-010
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
星野 忠次(国立大学法人 千葉大学 大学院薬学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 駒野 淳(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
  • 岩谷 靖雅(国立病院機構 名古屋医療センター 臨床研究センター)
  • 村上 努(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
  • 沖本 憲明(理化学研究所 生命システム研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬総合研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
25,764,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
既存薬と作用機序が異なる新規抗HIV薬の開発は、薬剤耐性ウイルスを抑制する有効かつ現実的な対策である。本研究班では、HIV逆転写酵素に内在するRNaseH活性を標的とする抗HIV薬の開発を行った。
研究方法
Ⅰ.計算機設計、Ⅱ.有機合成、Ⅲ.活性測定、Ⅳ.毒性評価、Ⅴ.変異パターンの分子疫学解析、の項目を立てて、研究組織内で分担して項目毎の研究を進めた。
結果と考察
結果として、IC50値で16.5μMの先導化合物を有していたが、本年度は1.4μMの活性化合物を得ることに成功した。Ⅰ.計算機設計では、分子動力学計算により、合成した化合物が標的酵素部位に安定に結合し得ることを確認した。Ⅱ.有機合成では、ニトロフラン骨格構造を持つ誘導体化合物を中心に合成展開し、ニトロフランフェニルエステル構造が高い阻害活性を示すことを明らかにした。前年度までの合成物と合わせて、合計220種類の新規の合成物を得ることができた。合成化合物と精製したHIV逆転写酵素との共結晶を作成し、X線構造解析を試みた。タンパク質部分については十分な分解能で構造が得られた。Ⅲ.活性測定では、新規に化学合成した誘導体についてRNase H阻害剤としての評価を行い、これまでの結果と整合性の良い構造活性相関が得られた。本年度は59種類の小分子化合物のRNase H阻害活性を評価し、新たに12種類の誘導体をRNase H阻害剤として同定した。リード化合物よりも高いRNase H阻害効果を有する化合物を同定することができた。これらの構造・機能の相関解析を基盤として、より高い活性を持つ誘導体を合成展開してさらに強力なRNaseH阻害剤の開発が期待される。Ⅳ.毒性評価では、阻害活性の高い合成化合物には、顕著な細胞毒性を示すものがないことを示した。これは化合物群の基本骨格が医薬品として有望であることを示している。Ⅴ.変異パターンの分子疫学解析では、臨床検体における HIV-1 RNaseH 遺伝子配列を解析した結果、RNase H反応活性部位にはアミノ酸変異が入り難いことが明確になった。臨床で見られるRNase H領域の変異の全ては、RNase H活性ポケットとは離れており、現在、臨床で見られる変異体にはRNase H阻害剤が有効であることが示唆された。
結論
以上より、今後の化合物構造の最適化において、有効な薬物創出につながる知見が得られた。

公開日・更新日

公開日
2012-07-02
更新日
-

文献情報

文献番号
201108009B
報告書区分
総合
研究課題名
長期抗HIV療法に適う新規エイズ治療薬 Reverse Transcriptase associated RNase H活性阻害剤の実用化開発
課題番号
H21-政策創薬・一般-010
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
星野 忠次(国立大学法人 千葉大学 大学院薬学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 駒野 淳(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
  • 岩谷 靖雅(国立病院機構 名古屋医療センター 臨床研究センター)
  • 村上 努(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
  • 沖本 憲明(理化学研究所 生命システム研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬総合研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
既存薬と作用機序が異なる新規抗HIV薬の開発は、薬剤耐性ウイルスを抑制する有効かつ現実的な対策である。本研究では、HIV逆転写酵素に内在するRNase H活性を標的とする抗HIV薬の開発を行った。
研究方法
研究当初に既に、ニトロフランを分子骨格とするRNase H阻害剤の先導化合物を見出しており、その誘導体を合成展開した。研究では総計281種類の小分子化合物のRNase H阻害活性を評価し、新たに83種類の誘導体をRNase H阻害剤として同定することに成功した。量子化学計算に基づく計算機解析により、合成した化合物の標的酵素部位への安定な結合構造を明らかにした。活性の認められた合成化合物については、細胞毒性をMT-4細胞と293T細胞の両方の細胞で、MTT法にて測定した。
結果と考察
本研究の遂行により、先導化合物に比べて強い阻害活性を持つ化合物を得ることができた。先導化合物はIC50値で16.5μMの薬理活性を示すが、本研究で1.4μMの活性化合物を得た。またニトロフランを中心とするRNase H活性阻害剤の骨格構造そのものはほとんど細胞毒性を示さないことが判明し、この骨格構造はRNase H活性阻害剤医薬物質として適しているとの結論を得た。臨床検体における HIV-1 RNaseH 遺伝子配列を解析し、RNase H領域で見られるアミノ酸変異ならびに治療により生じる二次変異を明確にした。遺伝子解析において認められた遺伝的多型のいずれも、RNaseH の構造上、核酸認識面には認められなかった。このことから、RNaseH の酵素活性中心および核酸認識部位は非常に保存され、安定した薬剤ターゲット領域であることが示唆された。
結論
本研究の成果である構造・機能の相関解析、細胞毒性の測定、遺伝子変異の解析を基盤として、今後、より高い活性を持つ誘導体を合成展開してさらに強力なRNase H阻害剤の開発が期待できる。また薬物の毒性や特異性を調べ副作用のリスク要因を明確にして、実用性の高いRNase H活性阻害化合物の創製を試みる。本研究においては、200種を超える新規化合物の合成に成功し、いずれも反応活性部位に2価金属を含有する酵素を阻害するため、HIVのRNaseH活性阻害剤のみならず、インフルエンザウイルスやB型肝炎ウイルスの阻害剤探索にも利用できる化合物群のライブラリーが構築できた。

公開日・更新日

公開日
2012-07-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201108009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
標的となるRNaseHについては、発現精製したタンパク質が純度高く得られるようになった。結晶を作成する実験を進め、結晶条件の検討を行った。X線測定に持ち込めるレベルのタンパク質結晶が作出できる実験条件が見つかった。作出したタンパク質結晶に、X線を照射し、X線回折像が得られることを確認した。作出できたRNaseHのタンパク質結晶は、化合物が含まれていない状態である。そこで各化合物とタンパク質との複合体構造を解明するため、ソーキングの手法で化合物を導入し、X線構造解析用のサンプルを準備した。
臨床的観点からの成果
臨床で見られる逆転写酵素のRNase H活性部位の変異に関して遺伝子配列を解析した結果、インテグラーゼ阻害剤のラルテグラビル耐性獲得と RNase H 領域への二次変異発生との相関が認められず、ラルテグラビル 投与によるRNase H の二次的な変異誘導は起こらないと結論した。これらの変異情報はHIV感染症治療において有用である。現在、化学的に安定で分解しにくい薬物を合成できたことで、薬物投与時における体内動態の面からも有利な化合物となった。
ガイドライン等の開発
研究の性格上、ガイドライン等の開発は行っていない。
その他行政的観点からの成果
新規作用機序を持つ抗レトロウイルス薬の開発は、薬剤耐性ウイルスの対処法として、依然、重要な研究課題である。HIVのRNase H部位を標的とした薬物は、現在、多くの研究機関で開発が進められているが、実用となる有望な薬物が見つかっていない。今回開発を進めている化学的に安定な阻害剤化合物は、新たなRNase H阻害剤の骨格構造の一つであるため、新規の抗レトロウイルス薬開発の基盤となり得る。
その他のインパクト
他の研究機関の研究者との協同研究を進め、ハイスループット評価系により、これまで合成蓄積した700種ほどの化合物の活性再評価が行われた。その結果、RNase H阻害活性が再確認された上、構造活性相関が明確になった。この協同研究による活性再評価の結果をもとに、10種類程の化合物を選定した。選定した各化合物とタンパク質との複合体構造を解明するため、RNase Hとの共結晶を準備し、X線構造解析解析を行う準備が整った。結合複合体に関する結晶構造が得られれば、活性の高い誘導体を設計創出することができる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
10件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
12件
学会発表(国内学会)
24件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Matsuyama S., Aydan A., Hoshino T., et al.
Structural and Energetic Analysis on the Complexes of Clinically-isolated Subtype C HIV-1 Proteases and Approved Inhibitors by Molecular Dynamics Simulation
J. Phys. Chem. B , 114 (1) , 521-530  (2010)
原著論文2
Yanagita H., Urano E., Hoshino T., et al.
Structural and Biochemical Study on the Inhibitory Activity of Derivatives of 5-nitro-furan-2-carboxylic acid for RNase H Function of HIV-1 Reverse Transcriptase
Bioorg. Med. Chem. , 19 (2) , 816-825  (2011)
原著論文3
Yanagita H., Yamamoto N., Hoshino T., et al.
Mechanism of drug resistance of hemagglutinin of influenza virus and potent scaffolds inhibiting its function
ACS Chem. Biol. , 7 (3) , 552-562  (2012)
原著論文4
Yanagita H., Fudo S., Hoshino T., et al.
Structural Modulation Study of Inhibitory Compounds for RNase H Activity of HIV-1 Reverse Transcriptase
Chem. Pharm. Bull. , 60 (6)  (2012)
原著論文5
Urano E., Ichikawa R., Komano J., et al.
T cell-based functional cDNA library screening identified SEC14-like 1a carboxy-terminal domain as a negative regulator of human immunodeficiency virus replication
Vaccine , 28 (2) , 68-74  (2010)
原著論文6
Aoki T., Shimizu S., Komano J., et al.
Improvement of lentiviral vector-mediated gene transduction by genetic engineering of the structural protein Pr55Gag
Gene Therapy , 17 (9) , 1124-1133  (2010)
原著論文7
Aoki T., Miyauchi K., Komano J., et al.
Protein transduction by pseudotyped lentivirus-like nanoparticles
Gene Therapy , 18 (9) , 936-941  (2011)
原著論文8
Watanabe T., Urano E., Komano J., et al.
The hematopoietic cell-specific Rho GTPase inhibitor ARHGDIB/D4GDI limits HIV-1 replication
AIDS Res. Hum. Retroviruses  (2012)
原著論文9
Kitamura S., Ode H., Iwatani, Y.
Structural features of antiviral APOBEC3 proteins are linked to their functional activities
Frontiers in Microbiol. , 2 , 258-  (2011)
原著論文10
Murakami T, Kumakura S, Yamamoto N., et al.
The Novel CXCR4 Antagonist, KRH-3955 Is an Orally Bioavailable and Extremely Potent Inhibitor of Human Immunodeficiency Virus Type 1 Infection: Comparative Studies with AMD3100
Antimicro. Agents. Chemother. , 53 (7) , 2940-2948  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
2017-06-20

収支報告書

文献番号
201108009Z