パーキンソン病に対する細胞移植治療確立のための霊長類を用いた前臨床研究

文献情報

文献番号
201106005A
報告書区分
総括
研究課題名
パーキンソン病に対する細胞移植治療確立のための霊長類を用いた前臨床研究
課題番号
H21-再生・一般-007
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 淳(京都大学 再生医科学研究所/iPS細胞研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 尾上 浩隆(理化学研究所 分子イメージング科学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究課題ではパーキンソン病に対する幹細胞移植治療実現化のための前臨床試験を最終目標とし、そのためにカニクイザル疾患モデルを用いて画像解析、行動解析、組織診断を行い、これらの関係性を明らかにすることを目的としている。
平成23年度はヒトES, iPS細胞から誘導した神経前駆細胞をカニクイザルパーキンソン病モデルに移植した結果の解析を行い、論文にまとめて報告した。
研究方法
1)腫瘍形成の同定と腫瘍形成抑制法の確立
細胞移植後にMRIやPETを行ない、腫瘍の有無を継時的に評価する。これらの結果をヒトES, iPS細胞からの神経前駆細胞誘導法や細胞選別法にフィードバックし、霊長類の系で腫瘍形成抑制法を確立する。
2)細胞生着の確認と機能解析
サルモデルへの移植後のPETやMRIの結果と行動解析や脳切片の免疫染色結果とを併せて検討することにより、より効果的な細胞移植を行うための諸条件の至適化を行う。また、ビデオ撮影による行動解析を行い移植細胞のドーパミン機能と運動機能の関連を解析することにより、客観的な指標を画像化する。
結果と考察
1)分化誘導日数が短く(14日間)未分化ヒトES細胞が残存している細胞では、サル脳内で神経系の良性腫瘍を形成していた。サイトカインを加え42日間分化誘導した細胞では腫瘍形成はみられず、移植3か月後から12か月後に渡り行動改善が認められた。PETでは移植片におけるFDOPA取り込みの上昇が確認された。1年後の脳切片の免疫染色では多くのドーパミン神経細胞の生着が確認された。
2)ヒトiPS細胞から、無血清培地を用いた浮遊細胞系で機能的なドーパミン神経細胞を誘導することに成功した。これらの細胞をパーキンソン病モデルカニクイザルの線条体に移植し6か月間の経過観察をおこなったところ、移植細胞が脳内でドーパミン神経細胞として機能していることが18F-DOPA、11C-DTBZ、 11C-PE2IによるPETにて確認しえた。脳切片の組織学的解析では腫瘍形成はみられず、多くのドーパミン神経細胞が生着していた。
結論
今回の実験で移植前に十分な神経分化をさせるとヒトES, iPS細胞の腫瘍形成は抑えられ、行動改善も期待しうることが明らかとなった。またMRIやPETなどの画像解析が細胞の増殖や機能を同定するのに有用であった。ES, iPS細胞の効果や安全性を検証するにはより多くのモデルやコントロールを用いた実験が必要であるが、これまでの研究を通して霊長類モデルを用いた細胞移植、画像解析、行動解析の評価系は確立しえたと思われる。

公開日・更新日

公開日
2012-06-29
更新日
-

文献情報

文献番号
201106005B
報告書区分
総合
研究課題名
パーキンソン病に対する細胞移植治療確立のための霊長類を用いた前臨床研究
課題番号
H21-再生・一般-007
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 淳(京都大学 再生医科学研究所/iPS細胞研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 尾上 浩隆(理化学研究所 分子イメージング科学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究課題ではパーキンソン病に対する幹細胞移植治療実現化のための前臨床試験を最終目標とし、そのためにカニクイザル疾患モデルを用いて画像解析、行動解析、組織診断を行い、霊長類を用いた前臨床試験での評価系の確立を目的として以下の実験を行った。
研究方法
1)腫瘍形成の同定と腫瘍形成抑制法の確立
細胞移植後にMRIやPETを行ない、腫瘍の有無を継時的に評価する。これらの結果をヒトES, iPS細胞からの神経前駆細胞誘導法や細胞選別法にフィードバックし、霊長類の系で腫瘍形成抑制法を確立する。
2)細胞生着の確認と機能解析
サルモデルへの移植後のPETやMRIの結果と行動解析や脳切片の免疫染色結果とを併せて検討することにより、より効果的な細胞移植を行うための諸条件の至適化を行う。また、ビデオ撮影による行動解析を行い移植細胞のドーパミン機能と運動機能の関連を解析することにより、客観的な指標を画像化する。
結果と考察
1)分化誘導日数が短く(14日間)未分化ヒトES細胞が残存している細胞では、サル脳内で神経系の良性腫瘍を形成していた。サイトカインを加え42日間分化誘導した細胞では腫瘍形成はみられず、移植3か月後から12か月後に渡り行動改善が認められた。PETでは移植片におけるFDOPA取り込みの上昇が確認された。1年後の脳切片の免疫染色では多くのドーパミン神経細胞の生着が確認された。
2)ヒトiPS細胞から、無血清培地を用いた浮遊細胞系で機能的なドーパミン神経細胞を誘導することに成功した。これらの細胞をパーキンソン病モデルカニクイザルの線条体に移植し6か月間の経過観察をおこなったところ、移植細胞が脳内でドーパミン神経細胞として機能していることが18F-DOPA、11C-DTBZ、 11C-PE2IによるPETにて確認しえた。脳切片の組織学的解析では腫瘍形成はみられず、多くのドーパミン神経細胞が生着していた。
結論
今回の実験で移植前に十分な神経分化をさせるとヒトES, iPS細胞の腫瘍形成は抑えられ、行動改善も期待しうることが明らかとなった。またMRIやPETなどの画像解析が細胞の増殖や機能を同定するのに有用であった。ES, iPS細胞の効果や安全性を検証するにはより多くのモデルやコントロールを用いた実験が必要であるが、これまでの研究を通して霊長類モデルを用いた細胞移植、画像解析、行動解析の評価系は確立しえたと思われる。

公開日・更新日

公開日
2012-06-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201106005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1)FLT-PETで移植細胞の増殖、FDOPA-PETで移植細胞のドーパミン神経細胞としての機能を評価することができた。2)MRIで移植片の大きさを経時的に計測し、移植細胞の分化程度と脳内での増殖の関係を明らかにした。3)神経症状のスコア化、ビデオ撮影による自動運動解析によって、移植後の行動変化を定量的に評価した。4)これらの評価系を用いてヒトES細胞由来神経前駆細胞移植によるカニクイザルパーキンソン病モデルの行動改善を証明し、論文として発表した。
臨床的観点からの成果
ES細胞、iPS細胞を用いたパーキンソン病治療の実現化に向けて、霊長類疾患モデルを用いた細胞移植、画像解析、行動解析の評価系を確立し、ヒトES細胞由来神経前駆細胞移植によるカニクイザルパーキンソン病モデルの行動改善に世界に先駆けて成功した。パーキンソン病に対する多能性幹細胞移植の有効性を示唆する重要な成果である。その後、この成果を発展させ、ヒトiPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞の製造プロトコルを完成させた。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
特になし。
その他のインパクト
下記、2本の論文とも新聞、テレビのニュースで取り上げられました。その後、この成果を発展させ、ヒトiPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞の製造プロトコルを完成させた際も新聞やTVニュースで取り上げられました。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
19件
学会発表(国際学会等)
9件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
市民講座

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kikuchi T, Morizane A, Doi D, et al.
Survival of human induced pluripotent stem cell–derived midbrain dopaminergic neurons in the brain of a primate model of Parkinson's disease.
Journal of Parkinson's Disease , 1 , 395-412  (2011)
原著論文2
Doi D, Morizane A, Kikuchi T, et al.
Prolonged maturation culture favors a reduction in the tumorigenicity and the dopaminergic function of human ESC-derived neural cells in a primate model of Parkinson’s disease.
Stem Cells , 30 (5) , 935-945  (2012)

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
2017-06-20

収支報告書

文献番号
201106005Z