文献情報
文献番号
201035011A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質による神経伝達物質受容体を介した精神毒性発現機序の解明および行動評価方法の開発に関する研究
課題番号
H20-化学・一般-011
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
鍋島 俊隆(名城大学 薬学部)
研究分担者(所属機関)
- 山田 清文(名古屋大学 医学部附属病院)
- 野田 幸裕(名城大学 薬学部)
- 永井 拓(名古屋大学 医学部附属病院)
- 間宮 隆吉(名城大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
21,290,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
脳神経系の発達がダイナミックに起こる周産期は化学物質に対して脆弱である。我々は、昨年度までに簡便かつ安価であるにも関わらず、再現性も高く、非常に有用な行動評価系を確立した。これら行動評価系を用いて、グルタミン酸受容体拮抗薬やアセチルコリン受容体作動薬が情動性、学習・記憶、認知機能などの化学物質に固有な精神発達障害を誘発することを明らかにした。また、化学物質により免疫系を介した精神発達障害が引き起こされることも明らかにした。本年度は、これら精神障害の発現機序について検討した。
研究方法
妊娠マウスにフェンシクリジン(PCP)またはニコチンを与え、その仔マウスが成体期に達した時点で神経化学的解析を行った。新生仔期polyI:C処置により誘発される神経発達障害について、マウス由来培養アストログリア細胞および培養神経細胞を用いて検討した。
結果と考察
胎生期にPCPを暴露したマウスの前頭皮質では、グルタミン酸トランスポーターの発現増加および高カリウム誘発性グルタミン酸遊離量の減少が観察されたことから、胎生期のPCP暴露はグルタミン酸作動性神経系の機能を障害すると考えられた。胎生期にニコチンを暴露したマウスの前頭皮質ではノルアドレナリン(NE)の代謝産物であるMHPG含量が低下しており、NE作動性神経系の機能低下が認められた。一方、マウス大脳由来培養アストログリア細胞にpolyI:Cを添加して培養した上清 (polyI:C-ACM) を初代培養海馬神経細胞に添加すると神経細胞の成長が抑制されたが、IFITM3遺伝子欠損マウス由来polyI:C-ACMには障害効果が認められなかった。さらに、セクレトーム解析の予備的検討を行いpolyI:C-ACM中に遊離されるタンパクが存在することを確認した。したがって、異常免疫応答に伴う神経発達障害にはアストログリア細胞におけるIFITM3の誘導と、アストログリア細胞から分泌される液性因子が関与していることが示唆された。
結論
胎生期におけるPCPまたはニコチンの暴露は、成体期の前頭前皮質においてグルタミン酸やNE作動性神経系の機能を障害することを明らかにした。また、polyI:C処置により誘発される神経発達障害にはアストログリア細胞の活性化と神経細胞-アストログリア細胞間の相互作用の異常が関与していることを示唆した。
公開日・更新日
公開日
2011-05-27
更新日
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