化学物質の情動・認知行動に対する影響の毒性学的評価法に関する研究-特に遅発性影響の評価系のメカニズム解明による確立-

文献情報

文献番号
201035009A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質の情動・認知行動に対する影響の毒性学的評価法に関する研究-特に遅発性影響の評価系のメカニズム解明による確立-
課題番号
H20-化学・一般-009
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
北嶋 聡(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター・毒性部)
研究分担者(所属機関)
  • 山田 一之(理化学研究所・脳科学総合研究センター・リサーチリソースセンター)
  • 種村 健太郎(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター・毒性部 )
  • 中島 欽一(奈良先端科学技術大学院大学・バイオサイエンス研究科・分子神経分化制御学講座)
  • 熊ノ郷 淳(大阪大学微生物病研究所・感染病態分野、国際研究拠点大阪大学免疫学フロンティア研究センター)
  • 冨永 貴志(徳島文理大学香川薬学部 病態生理学講座)
  • 高森 茂雄(同志社大学・生命医科学部・医生命システム学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
38,390,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
情動・認知行動試験は、従来より心理学では繁用されるが、主観的判定に傾きやすく、物証に裏付けられた毒性評価としての利用は限定的である。本研究は、それに脳神経科学の最先端解析手法及びトキシコゲノミクス手法を組み合わせてメカニズム解明を行うことにより、客観的な毒性評価手法としての「情動・認知行動毒性」、特に、発生発達期暴露の遅発影響の評価体系を確立することを目的とする。
研究方法
発生・発達段階にある脳の特性に配慮し、マウスを用いた「発生・発達期暴露in vivo解析」、「発生・発達期暴露ex vivo・in vitro解析」、「成熟期暴露in vivo解析」及び「成熟期暴露ex vivo・in vitro解析」の各研究方法について、成熟時点での情動・認知行動解析、及び、中枢神経系の先端的な形態機能解析、神経幹細胞分化能解析、神経回路機能解析、シナプス伝達活性解析、網羅的遺伝子発現解析等を行う。
結果と考察
幼若期及び胎生期グルホシネート投与マウスに、成長後の重篤な記憶異常とともに、海馬における神経細胞突起異常が認められた。また胎生期マウスへの抗てんかん剤バルプロ酸ナトリウムの経胎盤投与によって、成熟後の記憶異常が誘発されるが、成長過程でのランニングホイール設置による自発的運動増加によって改善された。神経初代培養細胞シナプス形成に対するバルプロ酸ナトリウム暴露影響を検討した結果、抑制性シナプスの形成が選択的に抑制されることが判明した。さらに、生後2週齢の幼若期マウスへのトリアゾラム投与後にPercellome法による網羅的遺伝子発現変動解析を行った結果、発現が減少した遺伝子リストの中に、シナプスの興奮と抑制の恒常的バランス維持を司るNpas4遺伝子とその関連遺伝子が見いだされた。本研究の成果は、化学物質の中枢神経系に対する影響を科学的に明らかにするものであると考えられた。
結論
本研究により、発生・発達期にある脳における神経シグナルかく乱は、成熟後に顕在化する行動異常の原因となること、また、Percellome法による網羅的遺伝子発現変動解析等は、その様な遅発性中枢影響の誘発のメカニズムの推定に大きく貢献する結果を得た。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
201035009B
報告書区分
総合
研究課題名
化学物質の情動・認知行動に対する影響の毒性学的評価法に関する研究-特に遅発性影響の評価系のメカニズム解明による確立-
課題番号
H20-化学・一般-009
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
北嶋 聡(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター・毒性部)
研究分担者(所属機関)
  • 山田 一之(理化学研究所・脳科学総合研究センター・リサーチリソースセンター)
  • 種村 健太郎(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター・毒性部)
  • 中島 欽一(奈良先端科学技術大学院大学・バイオサイエンス研究科・分子神経分化制御学講座)
  • 熊ノ郷 淳(大阪大学微生物病研究所・感染病態分野、国際研究拠点大阪大学免疫学フロンティア研究センター)
  • 冨永 貴志(徳島文理大学香川薬学部 病態生理学講座)
  • 高森 茂雄(同志社大学・生命医科学部・医生命システム学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
化学物質の中枢神経系に対する遅発性の影響を科学的に明らかにし、特に発生・発達期の生体の特性に配慮した毒性評価法を確立することを目的とする。
研究方法
マウスを用いて情動・認知行動解析に中枢神経系の先端的な形態機能解析、神経幹細胞分化能解析、神経回路機能解析、シナプス伝達活性解析、網羅的遺伝子発現解析等を組み合わせ、毒性メカニズム解明研究を行う。その際、胎児期・小児期暴露と成熟期暴露との毒性の差異について、脳の発生、発達、及び成熟との関係をも明らかにする。これにより、遅発性の情動・認知行動毒性評価法を確立し、今までに評価法が定まらず看過されてきた「遅発性」・「中枢性」神経毒性の同定と、高感受性集団としての子どもの反応特性を考察する。
結果と考察
本研究の結果から、発生・発達期の脳に対する化学物質暴露が遅発性の情動認知行動異常を誘発することが明らかとなった。それらは、従来の毒性評価手法では検出が困難であった毒性であり、これらを説明する形態異常や、遺伝子発現様式の変動、生化学的性状変化、等の神経科学的物証を明らかにした。更に研究を進め、毒性発現の分子メカニズムを基盤とした、化学物質暴露による遅発性の情動・認知行動毒性の評価系の確立を目指す。この成果を足がかりとして、妊婦や子どもに対する化学物質暴露による遅発性の情動・認知行動毒性の予測を可能とすることが期待できる。
結論
本研究は、複数の行動試験を組み合わせたバッテリー解析によって、従来の毒性試験法では検出が困難であった情動-認知行動異常の解析が可能であることを示した。さらに、動物への被検物質の投与時期を変えることによって、妊婦や子どもに対する化学物質暴露による遅発性の中枢神経影響の評価に資する研究成果を得た。また、Percellome法による網羅的初期遺伝子発現変動解析等によって、化学物質による遅発性の情動認知行動毒性の分子基盤解明が進んだことから、更なる研究によって、客観的な毒性指標に基づく評価系の確立が期待される。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2012-03-21
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201035009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は、複数の情動・認知行動試験を組み合わせたバッテリー解析によって、従来の毒性試験法では検出が困難であった情動・認知行動異常の解析が可能であることを示した。その上で、動物への被検物質の投与時期を変えることによって、妊婦や子どもに対する化学物質暴露による遅発性の中枢神経影響の評価に資する研究成果を得た。また、これらの情動・認知行動異常を裏付ける物証としてのPercellome法による網羅的初期遺伝子発現変動解析等によって、化学物質による遅発性の情動認知行動毒性の分子基盤解明が大きく進んだ。
臨床的観点からの成果
子どもに対する化学物質暴露による遅発性の情動・認知行動毒性の予測が可能となることによって、現在、暴露との関与が疑われる注意欠陥多動障害、学習障害等への具体的対応策の提示が期待される。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
本研究は、化学物質の中枢神経系に対する有害性影響を科学的に明らかにするものである。特に、発生・発達期の脳に対する化学物質暴露が誘発する成長後の遅発影響に関する研究成果は、従来の毒性評価(FOB等)では検出が困難であった遅発性の情動・認知行動毒性を科学的物証とともに検出し評価する系を提示し、毒性メカニズムを解明する糸口を与えるものであると考えられる。これにより、妊婦や子どもに対する化学物質暴露による遅発性の情動・認知行動毒性の予測を可能とし、客観的な毒性指標に基づく評価系の確立が期待できる。
その他のインパクト
特になし。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
71件
その他論文(和文)
9件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
110件
学会発表(国際学会等)
44件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tanemura K et al.
Brain structure impairment and Behavioral disturbance induced in male mice offspring by a single intraperitoneal administration of domoic acid (DA) to their dams.
J Toxicol Sci. , 34 (2) , 279-286  (2009)

公開日・更新日

公開日
2016-06-21
更新日
-

収支報告書

文献番号
201035009Z