ヒト由来幹細胞の安全性薬理試験への応用可能性のための調査研究

文献情報

文献番号
201034084A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト由来幹細胞の安全性薬理試験への応用可能性のための調査研究
課題番号
H22-医薬・指定-035
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
関野 祐子(国立医薬品食品衛生研究所薬理部)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤薫(国立医薬品食品衛生研究所薬理部)
  • 五嶋良郎(横浜市立大学大学院医学研究科)
  • 白尾智明(群馬大学大学院医学系研究科)
  • 杉山篤(東邦大学医学部)
  • 諫田泰成(国立医薬品食品衛生研究所薬理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 ヒト由来幹細胞の安全性薬理試験への応用可能性を検討するために、本研究では、幹細胞由来標本が現行の非臨床in vitro試験で利用可能か、動物実験を代替できるか、動物実験で検出できない副作用予測や臨床試験開始の迅速化が可能かなどについて、情報収集と実験により科学的に検証する。本年度は特に、ヒト由来iPS細胞から分化誘導された心筋細胞や中枢神経細胞を使った薬理実験がどこまで可能になっているのかについて情報を収集し、安全性薬理試験ガイドラインに則った試験法開発のために必要な細胞標本の品質や供給の問題に関して産学官で協議する。
研究方法
 情報収集は、主に班会議の開催、ワークショップの開催、関連学会への参加などにより行った。また下記分担研究項目について研究を行い、産学官の専門家らと協議した。
(1)ヒト由来幹細胞を用いた安全性薬理試験の必要性に関する調査研究
(2)ヒト由来幹心筋の安全性薬理実験のプロトコール提案
(3)ヒト由来幹細胞の心筋分化に関する調査研究 
(4)ヒト由来幹細胞の神経分化に関する調査研究 
(5)中枢神経軸索輸送機能よる安全性薬理評価系の構築 
(6)中枢神経シナプス機能のin vitro分化レベル評価系の構築 
結果と考察
 製薬関連会社の内数社で、ヒトiPS由来心筋細胞の利用が開始されており、現行の試験法との関係で心筋細胞利用への関心の高さがうかがわれた。
 ヒト由来幹細胞から得られる標本の品質は、iPS細胞株、iPS細胞の継代数、分化誘導法、分化後の培養日数などにより、標本における心筋細胞、神経細胞、グリア細胞の種類や構成が大きく異なることが明らかとなった。今後、生理学的特性、さらに化学物質に対する応答性の違いなどを検証する。ヒト由来幹細胞を新医薬品開発に利用するにはまず、標本の品質を多角的に評価して比較し、試験結果の再現性を検証する研究が必要である。品質評価のためのバイオマーカーの選択や標本の活動や活性を定量的に評価する指標を明確にして、実験プロトコールを整備していく必要がある。
結論
 品質の安定性が評価された標本が大量かつ安価に供給されるシステムが整備されれば、ヒト由来幹細胞を用いた試験法の施設間バリデーション研究が可能となり、将来的に非臨床試験ガイドラインとして国際的に受け入れられる可能性がある。ガイドライン化までのロードマップを想定したうえで研究開発を行うことが、ヒトiPS細胞の行政試験系としての実用化への道を促進するだろう。 

公開日・更新日

公開日
2011-06-06
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201034084C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ヒト由来幹細胞のなかでもヒトiPS細胞から分化した細胞(iPS分化細胞)を広く安全性薬理試験に応用するための必要条件を考察した。iPS分化細胞の生物学的特性の再現性には、iPS細胞株、未分化iPS細胞の継代数、組織細胞への分化誘導法、分化誘導後の培養日数などが、大きく影響を与えることが分かった。iPS分化細胞を安全性薬理試験に応用するためには、再現性を実現するための基準作りが重要である。iPS分化細胞の活性等を定量的に評価する指標を設定し、複数の研究機関によりバリデーションを行う必要がある。
臨床的観点からの成果
非臨床試験では認められない有害反応により開発中止に至る場合がある。これはヒトと実験動物の種差が原因と考えられている。ヒト由来のiPS分化細胞を非臨床試験に導入することで、この問題が解決できると考えられる。更にヒトへの安全性が早い段階で評価できるため、臨床試験開始の迅速化につながる可能性がある。iPS細胞由来心筋に関しては、すでに複数の製薬関連企業が安全性薬理試験への応用を想定した基礎研究を開始している。中枢神経系に対する医薬品の安全性評価に関してもiPS細胞を使った試験法の導入が期待される。
ガイドライン等の開発
現行の心機能に対する安全性薬理試験は、心筋に発現するひとつのカリウムチャネル(hERG)への影響のみに着目している。しかし心臓の活動電位の形は複数のチャネルの活動の複合であり、一つのチャネルへの影響だけでは評価が不十分である。そこで、ヒトiPS細胞由来心筋の活動電位波形を評価する試験法の開発に期待が寄せられる。
その他行政的観点からの成果
ヒトiPS細胞に限らずヒト幹細胞由来標本を安全性薬理試験に応用するためには、まず新薬の承認申請に使用するデーターを得る組織細胞に関する生物学的特性に関する基準を明確にすることが必須である。現在の研究進行状況から鑑みると、いまだ多角的に条件検討をするべき段階にあることが明らかとなった。このような研究を可能にする厚生科学研究費補助金の細目の設定が望まれる。
その他のインパクト
ワークショップを開催し、製薬関連企業の安全性薬理担当者と意見を交換することにより、本研究の必要性を製薬業界にアピールした。また、ヒトiPS細胞由来心筋と中枢神経細胞を再生医療に応用するための研究プロジェクトを担う研究者を訪問し、創薬応用への協力を依頼した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
14件
10月以降の発表数
学会発表(国際学会等)
3件
10月以降の発表数
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
4件
ワークショップの開催、関連研究室の訪問など

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-29
更新日
-

収支報告書

文献番号
201034084Z