食品添加物等における遺伝毒性発がん物質の評価法に関する研究

文献情報

文献番号
201033023A
報告書区分
総括
研究課題名
食品添加物等における遺伝毒性発がん物質の評価法に関する研究
課題番号
H21-食品・一般-009
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
能美 健彦(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
研究分担者(所属機関)
  • 青木康展(国立環境研究所 環境リスク研究センター)
  • 續 輝久(九州大学大学院 医学研究科)
  • 安井 学(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
  • 山田雅巳(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
  • 松田知成(京都大学大学院 工学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安心・安全確保推進研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
一般に遺伝毒性物質の作用には閾値がないとされており、DNAと反応することにより突然変異を誘発し発がん性を示す物質は、どのように低用量であってもヒトに発がんリスクを負わせるものと考えられている。このため、食品添加物等に発がん性と遺伝毒性が認められた場合には、原則的にADI(一日摂取許容量)は設定されず使用が禁止となる。しかしヒトはさまざまな生体防御機能を有しており、低用量の遺伝毒性物質の作用を打ち消し、事実上の閾値を形成する可能性が考えられる。本研究では、生体防御機能が「実際上の閾値」形成に寄与する可能性を、実験的に検討することを主な目的とする。
研究方法
解毒代謝に関連するNrf2欠損マウス、DNA修復に関連するMutyh欠損マウス、乗り越えDNA合成に関わるPolk欠損ヒト細胞の感受性を野生型マウスあるいは野生型細胞と比較検討する。またヒト細胞染色体の特定箇所に1分子の酸化DNA損傷塩基、8-オキソグアニンを導入する手法を開発し、超低用量域における変異誘発の可能性について検討する。
結果と考察
小麦の改良剤である臭素酸カリウムを0.2%の用量で投与したNrf2欠損マウスは,野生型マウスよりも高い致死感受性を示した。これはNrf2欠損により、活性酸素種への感受性が上昇したためと考えられる。0.2%臭素酸カリウムを投与したMutyh欠損マウスは,野生型に比べて小腸での発がん頻度が約60倍上昇していた。一方、0.1%臭素酸カリウムを投与したMutyh欠損マウスの腫瘍発生頻度は,0.2%投与群の約7分の1であった。これらの結果は、Mutyh遺伝子産物が、酸化剤による遺伝毒性発がんの抑制に深く関与し,閾値形成に貢献している可能性を示唆している。Polk欠損ヒト細胞は、過酸化水素に対して野生型株よりも、高い致死感受性を示し、Polkが酸化剤に関する閾値形成の要因である可能性を示唆した。ゲノム中に導入した8-オキソグアニンは、主にG・C → T・A変異を誘発し、その頻度は約10 %であった。この結果から、ゲノムに形成された全ての8-オキソグアニンが変異に結びつくわけではないことが示唆された。
結論
臭素酸カリウムなどの酸化剤によって誘発される遺伝毒性は、解毒代謝、DNA修復、トランスリージョンDNA合成などにより修飾を受けており、低用量における変異頻度は生体防御機能の作用により自然突然変異のレベルにまで抑制され「事実上の閾値」が形成される可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2011-05-18
更新日
-

収支報告書

文献番号
201033023Z