肝炎ウイルスワクチン実用化のための基盤的研究

文献情報

文献番号
201030010A
報告書区分
総括
研究課題名
肝炎ウイルスワクチン実用化のための基盤的研究
課題番号
H20-肝炎・一般-010
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
石井 孝司(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
研究分担者(所属機関)
  • 脇田 隆字(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 明里 宏文(京都大学 霊長類研究所)
  • 加藤 孝宣(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 中村 紀子(東レ株式会社 医薬研究所)
  • 松本 美佐子(北海道大学 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
53,555,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
C型肝炎ウイルス(HCV)感染は持続感染化し、肝細胞癌を発症する重大な感染症である。しかし、インターフェロンおよびリバビリンによる治療効果は不十分である。HCVワクチンが、HCV感染に対する新たな予防法および治療法となれば、多くの患者の社会復帰を可能にし、医療保険のコスト軽減に寄与できると考えられる。
研究方法
HCVワクチン開発に必要な下記の研究を遂行する。
1. ワクチン実用化に向けたウイルス産生法および精製法向上に関する研究
2. 効果的な免疫法に関する研究
3. Genotypeに関わらず感染中和活性を誘導できるワクチンの開発
4. ウイルス様中空粒子産生系およびウイルス抗原を用いた安全な組換えワクチンの開発
5. ワクチン効果を実証できる動物モデルの開発
6. 感染中和機構に重要なHCVの初期感染過程の解析
結果と考察
感染性HCV粒子を高純度に精製し、不活化してマウスに免疫することで、実際にHCVに対する免疫を誘導できること、またこの誘導された免疫がHCV感染を阻害することができることを示した。また、2種類のプラスミドのトランスフェクションにより、single-roundな感染性HCV様粒子の産生に成功した。動物モデルとしてGBV-B急性感染期を経たサル個体について長期経過観察を行い、GBV-Bはマーモセットにおいて長期持続感染し慢性肝炎を呈することを明らかにした。免疫誘導用のアジュバントを検討し、樹状細胞のTLR3-TICAM-1経路のみを細胞外から活性化し、炎症性サイトカイン産生を誘導せず細胞性免疫を起動できる新規合成RNA分子の開発に成功した。
結論
1.HCV粒子の精製工程を検討し、高効率に夾雑蛋白質が除去できる条件を見出した。本システムで精製、不活化したHCV粒子は、genotypeに関わらない感染阻害活性を誘導した。
2. 不活化精製ウイルス粒子を免疫したマウスから精製したIgGにin vivoにおける感染阻害活性を確認した。
3.2種類のプラスミドのトランスフェクションにより、single-roundな感染性HCV様粒子の産生に成功した。
4.C型肝炎のサロゲート病態霊長類モデルにおいて、ウイルスゲノム変異及び免疫学的側面からの解析を行い、HCVの慢性化機序の解明に有用な情報を多く得た。
5. poly(I:C)同様細胞外からエンドソームTLR3にターゲットされ、TLR3を活性化しTICAM-1を介してシグナルを伝達するが細胞質RIG-I, MDA5経路を活性化しない新規RNAアジュバントを得た。

公開日・更新日

公開日
2011-06-02
更新日
-

文献情報

文献番号
201030010B
報告書区分
総合
研究課題名
肝炎ウイルスワクチン実用化のための基盤的研究
課題番号
H20-肝炎・一般-010
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
石井 孝司(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
研究分担者(所属機関)
  • 脇田 隆字(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 明里 宏文(京都大学 霊長類研究所)
  • 加藤 孝宣(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 中村 紀子(東レ株式会社 医薬研究所)
  • 松本 美佐子(北海道大学 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
C型肝炎ウイルス(HCV)感染は持続感染化し、肝細胞癌を発症する重大な感染症である。しかし、インターフェロンおよびリバビリンによる治療効果は不十分である。HCVワクチンが、HCV感染に対する新たな予防法および治療法となれば、多くの患者の社会復帰を可能にし、医療保険のコスト軽減に寄与できると考えられる。また、予防用ワクチンを世界に先駆けて開発することにより、HCVキャリアー率の高い国々への国際協力が可能となる。
研究方法
HCVワクチン開発に必要な下記の研究を遂行する。1. ワクチン実用化に向けたウイルス産生法および精製法向上に関する研究2. 効果的な免疫法に関する研究3. Genotypeに関わらず感染中和活性を誘導できるワクチンの開発4. ウイルス様中空粒子産生系およびウイルス抗原を用いた安全な組換えワクチンの開発5. ワクチン効果を実証できる動物モデルの開発6. 感染中和機構に重要なHCVの初期感染過程の解析
結果と考察
1. 高純度HCV粒子をマウスに免疫し、感染阻害活性を持つ抗体の誘導を指標に本高純度HCV粒子にワクチン能があることを確認した。 HCV粒子の免疫原性は組換えタンパク質のそれよりも高い可能性があることを明らかにした。
2. HuH-7細胞をクローニングし、効率的にHCV粒子の生成が可能な細胞株を分離同定した。その細胞株では、細胞内のウイルス粒子生成効率が亢進していると考えられた。
3. 効率の良いHCVtcpの産生系を確立した。本系を用いることにより、 Genotype 1bの構造蛋白質を用いた感染性粒子産生も可能となった。
4. 長期慢性C型肝炎の霊長類モデルを初めて作出した。
5. Poly(I:C)同様、細胞外からエンドソームTLR3にターゲットされるが細胞質RIG-I、 MDA5経路は活性化しない、高いアジュバント活性を持つ新規化合物を発見した。
結論
本研究により、不活化HCV粒子が予防用、治療用ワクチンとして有望であることが明らかとなった。今後は、生産性の向上、大量培養、精製法の検討を進め実用化への道を探る。また、優れたアジュバントの研究、HCV中空粒子のワクチンへの応用、動物モデルのさらなる検討も引き続き行いたい。

公開日・更新日

公開日
2011-06-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201030010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
C型肝炎ウイルス(HCV)感染は持続感染化し、肝細胞癌を発症する重大な感染症であるが、インターフェロンおよびリバビリンによる治療効果は不十分である。輸血用血液のスクリーニングにより新規感染者数は減少しているが、医療従事者などハイリスクグループに予防的ワクチンが必要である。今回の研究により、不活化HCV粒子が予防ワクチン、治療ワクチンとして有望であることが見出された。
臨床的観点からの成果
HCVワクチンがHCV感染に対する新たな予防法および治療法となれば、多くの患者の社会復帰を可能にし、医療保険のコスト軽減に寄与できると考えられる。また、予防用ワクチンを世界に先駆けて開発することにより、HCVキャリアー率の高い国々への国際協力が可能となる。医療関係者だけでなく、薬物常用者などへの接種も考えられる。本研究成果はこれらの可能性に道を開くものである。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
(1) 感染予防が可能なワクチンが開発できれば、医療従事者などのハイリスクグループに対処することが可能となる。
(2) 中和抗体による感染防御が可能となれば、針刺し事故などの医療事故にも対処可能となる。
(3) 治療用ワクチンの開発も期待されている。HCVの新たな治療法となれば、多くの患者の社会復帰を可能にし、医療保険のコスト軽減に寄与できる。
その他のインパクト
2009年8月8日付け日本経済新聞に「感染研と東レなどがHCVワクチンを試作、開発にメド」として掲載された。

発表件数

原著論文(和文)
10件
原著論文(英文等)
112件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
110件
学会発表(国際学会等)
77件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計5件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takahashi H., Akazawa D., Kato T. et al.
Biological properties of purified recombinant HCV particles with an epitope-tagged envelope
Biochemical and Biophysical Research Communications , 395 , 565-571  (2010)
原著論文2
Murayama A., Date T., Akazawa D. et al.
RNA polymerase activity and specific RNA structure are required for efficient HCV replication in cultured cells
PLoS Pathogens , 6 (4)  (2010)
原著論文3
Masaki T., Suzuki R., Saeed M. et al.
Production of infectious hepatitis C virus by using RNA Polymerase I-Mediated Transcription
Journal of Virology , 84 (11) , 5824-5835  (2010)
原著論文4
Yoshida T., Saito A., Iwasaki Y. et al.
Characterization of natural killer cells in tamarins: a technical basis for studies of innate immunity
Frontiers in Virology , 1 (1)  (2010)
原著論文5
Oshiumi H., Miyashita M., Inoue N. et al.
The Ubiquitin Ligase Riplet Is Essential for RIG-I-Dependent Innate Immune Responses to RNA Virus Infection
Cell Host & Microbe , 8 , 496-509  (2010)
原著論文6
Oshiumi H., Sakai K., Matsumoto M. et al.
DEAD/H BOX 3 (DDX3) helicase binds the RIG-I adaptor IPS-1 to up-regulate IFN-b-inducing potential
European Journal of Immunology , 40 , 940-948  (2010)
原著論文7
Hmwe S., Aizaki H., Date T. et al.
Identification of hepatitis C virus genotype 2a replicon variants with reduced susceptibility to ribavirin
Antiviral Research , 85 , 520-524  (2010)
原著論文8
Kubota N., Ebihara T., Matsumoto M. et al.
IL-6 and IFN-a from dsRNA-stimulated dendritic cells control expansion of regulatory T cells
Biochemical and Biophysical Research Communications , 391 , 1421-1426  (2010)
原著論文9
Saeed M., Suzuki R., Kondo M. et al.
Evaluation of Hepatitis C Virus Core Antigen Assays in Detecting Recombinant Viral Antigens of Various Genotypes
Journal of Clinical Microbiology , 47 (12) , 4141-4143  (2009)
原著論文10
Hara H., Aizaki H., Matsuda M. et al.
Involvement of Creatine Kinase B in Hepatitis C Virus Genome Replication through Interaction with the Viral NS4A Protein
Journal of Virology , 83 (10) , 5137-5147  (2009)
原著論文11
Suzuki R., Moriishi K., Fukuda K. et al.
Proteasomal Turnover of Hepatitis C Virus Core Protein Is Regulated by Two Distinct Mechanisms: a Ubiquitin-Dependent Mechanism and a Ubiquitin-Independent but PA28 -Dependent Mechanism
Journal of Virology , 83 (5) , 2389-2392  (2009)
原著論文12
Oshiumi H., Matsumoto M., Hatakeyama S. et al.
Riplet/RNF135, a RING Finger Protein, Ubiquitinates RIG-I to Promote Interferon-! Induction during the Early Phase of Viral Infection
Journal of Biological Chemistry , 284 (2) , 807-817  (2009)
原著論文13
Murakami K., Inoue Y., Hmwe S. et al.
Dynamic behavior of hepatitis C virus quasispecies in a long-term culture of the three-dimensional radial-flow bioreactor system
Journal of Virological Methods , 148 , 174-181  (2008)
原著論文14
Akazawa D., Date T., Morikawa K. et al.
Characterization of infectious hepatitis C virus from liver-derived cell lines
Biochemical and Biophysical Research Communications , 377 , 747-751  (2008)
原著論文15
Kato T., Choi Y., Elmowalid G. et al.
Hepatitis C Virus JFH-1 Strain Infection in Chimpanzees Is Associated With Low Pathogenicity and Emergence of an Adaptive Mutation
Hepatology , 48 (3) , 732-740  (2008)
原著論文16
Murakami K., Kimura T., Osaki M. et al.
Virological characterization of the hepatitis C virus JFH-1 strain in lymphocytic cell lines
Journal of General Virology , 89 , 1587-1592  (2008)
原著論文17
Ebihara T., Shingai M., Matsumoto M. et al.
Hepatitis C Virus–Infected Hepatocytes Extrinsically Modulate Dendritic Cell Maturation To Activate T Cells and Natural Killer Cells
Hepatology , 48 (1) , 48-58  (2008)
原著論文18
Masaki T., Suzuki R., Murakami K. et al.
Interaction of Hepatitis C Virus Nonstructural Protein 5A with Core Protein Is Critical for the Production of Infectious Virus Particles
Journal of Virology , 82 (16) , 7964-7976  (2008)
原著論文19
Ishii K., Murakami K., Hmwe S. et al.
Trans-encapsidation of hepatitis C virus subgenomic replicon RNA with viral structure proteins
Biochemical and Biophysical Research Communications , 371 , 446-450  (2008)
原著論文20
Aizaki H., Morikawa K., Fukasawa M. et al.
Critical Role of Virion-Associated Cholesterol and Sphingolipid in Hepatitis C Virus Infection
Journal of Virology , 82 , 5715-5724  (2008)

公開日・更新日

公開日
2013-06-04
更新日
-

収支報告書

文献番号
201030010Z