持続性結核菌感染の病原性や発症に関わる分子機構の解明及び治療・予防の基礎研究

文献情報

文献番号
201028010A
報告書区分
総括
研究課題名
持続性結核菌感染の病原性や発症に関わる分子機構の解明及び治療・予防の基礎研究
課題番号
H20-新興・一般-010
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
小林 和夫(国立感染症研究所 免疫部)
研究分担者(所属機関)
  • 松本 壮吉(大阪市立大学大学院医学研究科 細菌学)
  • 杉田 昌彦(京都大学ウイルス研究所 細胞制御研究分野)
  • 宮本 友司(国立感染症研究所 ハンセン病研究センター)
  • 小出 幸夫(浜松医科大学)
  • 前倉 亮治(国立病院機構刀根山病院)
  • 北田 清悟(国立病院機構刀根山病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
結核の発症機序は「早期に発症する一次性結核」、「持続潜在性感染から発症する二次性結核(内因性再燃)」や「再感染し発病(外来性再感染)」であるが、約70%の成人結核は内因性再燃に起因している。持続潜在性感染機序の解明は診断、抗結核薬や感染曝露後治療ワクチン開発を促進し、結核制圧に寄与することが期待される。潜在性感染から発症に関わる宿主及び菌の分子機構を解明し、病態の理解、診断・治療やワクチン候補の探索を目的とした。
研究方法
抗酸菌脂質や糖脂質解析、蛋白質・遺伝子発現解析、薬剤感受性、DNAワクチンの作製、抗原決定基の同定、持続性潜在結核菌感染を検出する血清診断(酵素抗体)法を用いた。生命倫理、動物愛護や遺伝子組換実験など、規程に準拠し、機関承認を得て実施した。利益相反はなかった。
結果と考察
抗酸菌DNA結合蛋白質(MDP1)は代謝の低下した休眠菌に発現し、MDP1がkatG遺伝子(抗結核薬:イソニアジドの標的)に結合することにより、イソニアジド耐性に関与していた。MDP1は結核病変である乾酪壊死組織(低栄養・酸素部位)で高発現し、陳旧性肺結核で血清抗MDP1抗体価が高値を示し、抗MDP1抗体価が潜在性結核菌感染を反映する可能性を示唆した。感染宿主内における抗酸菌糖脂質代謝(GMM<-TDM)転換により、GMM優位な免疫応答が惹起された。Mycobacterium avium complex (MAC)-GPL糖鎖は菌凝集形態に影響を与えた。潜在性感染のワクチン候補として、Rv3132 (dosS/desS) はT細胞応答と抗体産生を共に誘導でき、また、結核菌HSP70と防御抗原の融合蛋白は有望な候補抗原であると考えられた。血清GPL-IgA抗体価は化学療法に伴い低下することから、疾患活動性を反映し、治療効果の評価に有用であった。肺MAC感染症の血清抗MAC-GPL抗体の検出による迅速血清診断(所要:約3時間<-現行診断基準:1か月)は体外診断用医薬品として製造販売承認された。
結論
・休眠菌における代謝状態を解明し、潜在性結核菌感染症の血清診断抗原候補を発見した。
・抗体及び細胞性免疫を誘導する結核菌抗原を同定し、ワクチン候補を探索できた。
・抗MAC-GPL抗体検出によるMAC感染症の血清診断は安全・簡便・迅速であり、体外診断用医薬品として臨床的有用性が期待される。

公開日・更新日

公開日
2011-09-05
更新日
-

文献情報

文献番号
201028010B
報告書区分
総合
研究課題名
持続性結核菌感染の病原性や発症に関わる分子機構の解明及び治療・予防の基礎研究
課題番号
H20-新興・一般-010
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
小林 和夫(国立感染症研究所 免疫部)
研究分担者(所属機関)
  • 松本 壮吉(大阪市立大学大学院医学研究科 細菌学)
  • 杉田 昌彦(京都大学ウイルス研究所 細胞制御研究分野)
  • 宮本 友司(国立感染症研究所 ハンセン病研究センター)
  • 小出 幸夫(浜松医科大学)
  • 前倉 亮治(国立病院機構刀根山病院)
  • 北田 清悟(国立病院機構刀根山病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
結核の発症機序は「早期に発症する一次性結核」、「持続潜在性感染から発症する二次性結核(内因性再燃)」や「再感染し発病(外来性再感染)」であり、約70%の結核は内因性再燃に起因する。持続潜在性感染機序の解明は診断、抗結核薬や感染曝露後ワクチン開発を促進し、結核制圧に寄与する。潜在性感染から発症に関わる宿主及び菌の分子機構を解明し、病態の理解、診断・治療やワクチン候補の探索を目的とした。
研究方法
抗酸菌脂質や糖脂質解析、蛋白質・遺伝子発現解析、薬剤感受性、DNAワクチンの作製、抗原決定基の同定、持続性潜在結核菌感染を検出する血清診断(酵素抗体)法を用いた。生命倫理、動物愛護や遺伝子組換実験など、規程に準拠し、機関承認を得て実施した。利益相反はなかった。
結果と考察
休眠分子である抗酸菌DNA結合蛋白質(MDP1)は菌代謝酵素の発現を制御、さらに、薬剤耐性に関与していた。結核菌はミコール酸転移反応を行い、糖脂質代謝を変化させ、生成糖脂質は宿主に遅延型アレルギーを誘導した。Mycobacterium avium complex(MAC)糖ペプチド蛋白質(GPL)の生合成系が低栄養や低酸素など休眠状態に影響されることが判明した。休眠期結核菌が発現するDosR regulon及び再活性化時に発現する蘇生促進因子のDNAライブラリーを作製した。DosR regulon蛋白質の免疫原性を解析し、T細胞応答や抗体産生抗原を同定した。Rv3132cは両免疫応答を誘導し、ワクチン候補抗原と考えられる。抗結核菌糖脂質抗体やQuantiFERONの結果から持続性潜在結核感染症例を抽出し、休眠期結核菌が産生する蛋白質や増殖期に産生される蛋白質を抗原として血清抗体価を評価した。潜在結核菌感染の診断抗原としてRv3132、MDP1、Ag85A及びAg85Bが有望であった。血清GPL core IgA抗体価は活動性MAC感染症の迅速血清診断(所要:約3時間<-現行診断基準:1か月、感度:84%、特異度:100%)に有用であり、MAC-GPL血清診断は体外診断用医薬品として製造販売承認された。
結論
潜在性抗酸菌感染症を研究し、特に、診断領域において、基礎医学の成果を臨床医学に展開(橋渡し研究)できた、これらの研究成果は抗酸菌感染症の制圧に寄与する。

公開日・更新日

公開日
2011-09-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2012-03-01
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201028010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
抗酸菌代謝の分子機構や宿主応答を解明し、潜在性結核菌感染症やMycobacterium avium complex(MAC)感染症に関する迅速免疫診断診断法の開発やワクチン候補を探索できた。潜在結核菌感染の有望な診断抗原を同定した。血清GPL core IgA抗体価は活動性MAC感染症の迅速血清診断(所要:約3時間<-現行診断基準:1か月、感度:84%、特異度:100%)に有用であった。また、休眠分子であるRv3132cは両免疫応答を誘導し、ワクチン候補抗原と考えられた。
臨床的観点からの成果
正確な診断は診療における最優先事項であり、潜在性結核菌感染症やMAC感染症に関する迅速免疫診断診断法の開発は臨床的に極めて有用である。活動性MAC感染症の迅速血清診断(所要:約3時間<-現行診断基準:1か月、感度:84%、特異度:100%)を研究開発し、診断に要する時間を大幅に短縮することが可能となり、また、広範な普及を目途に診断キットは製造販売承認された。
ガイドライン等の開発
MAC感染症の現行診断指針(アメリカ合衆国胸部疾患学会・感染症学会)に血清診断の項目を加えることを提言し、国際共同研究(相手先:国立ユダヤ医療研究センター Charles L. Daley呼吸器科長、デンバー市、コロラド州、アメリカ合衆国)を推進し、MAC感染症の血清診断に関する性能を評価した(感度:77%、特異度:94%)。
その他行政的観点からの成果
血清GPL core IgA抗体価は活動性MAC感染症の迅速血清診断(所要:約3時間<-現行診断基準:1か月、感度:84%、特異度:100%)に有用であり、MAC感染症の血清診断は安全な体外診断用医薬品として製造販売承認された。
その他のインパクト
潜在性結核菌感染症の有望な血清診断抗原としてRv3132、MDP1、Ag85AやAg85Bが取り上げられた(Med. Tribune 43:30, 2010)。
MAC感染症の迅速血清診断の性能や有用性は米国胸部疾患学会誌の論説(Am. J. Respir. Crit. Care Med. 177: 677-9, 2008)やScienceDaily(http://www.sciencedaily.com/releases/2008/04/080401081920.htm)で高い評価を得た。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
43件
その他論文(和文)
10件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
68件
学会発表(国際学会等)
28件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kitada, S., K. Kobayashi, S. Ichiyama, et al.
Serodiagnosis of Mycobacterium avium-complex pulmonary disease using an enzyme immunoassay kit.
Am. J. Respir. Crit. Care Med. , 177 , 793-794  (2008)
原著論文2
Nakata, N., N. Fujiwara, T. Naka, et al.
Identification and characterization of two novel methyltransferase genes that determine the serotype 12-specific structure on glycopeptidolipids of Mycobacterium intracellulare.
J. Bacteriol. , 190 , 1064-1071  (2008)
原著論文3
Fujiwara, N., N. Nakata, T. Naka, et al.
Structural analysis and biosynthesis gene cluster of an antigenic glycopeptidolipid from Mycobacterium intracellulare.
J. Bacteriol. , 190 , 3613-3621  (2008)
原著論文4
Nishimura, J., H. Saiga, S. Sato, et al.
Potent anti- mycobacterial activity of mouse secretory leukocyte protease inhibitor.
J. Immunol. , 180 , 4032-4039  (2008)
原著論文5
Saiga H., Nishimura J, Kuwata H, et al.
Lipocalin 2-dependent inhibition of mycobacterial growth in alveolar epithelium.
J. Immunol. , 181 , 8521-8527  (2008)
原著論文6
Matsunaga, I., T. Naka, R.S. Talekar, et al.
Mycolyltransferase-mediated glycolipid exchange in mycobacteria.
J. Biol. Chem. , 283 , 28835-28841  (2008)
原著論文7
Morita, D., K. Katoh, T. Harada,et al.
Trans-species activation of human T cells by rhesus macaque CD1b molecules.
Biochem. Biophys. Res. Commun. , 377 , 889-893  (2008)
原著論文8
Miyamoto, Y., T. Mukai, Y. Maeda, et al.
The Mycobacterium avium complex gtfTB gene encodes a glucosyltransferase required for the biosynthesis of serovar 8-specific glycopeptidolipid.
J. Bacteriol. , 190 , 7918-7924  (2008)
原著論文9
Mukai T., Y. Maeda, T. Tamura, et al.
CD4+ T-cell activation by antigen-presenting cells infected with urease-deficient recombinant Mycobacterium bovis bacillus Calmette-Gu&eacute;rin.
FEMS Immunol. Med. Microbiol. , 53 , 96-106  (2008)
原著論文10
Aoshi, T., T. Nagata, M. Suzuki, et al.
dentification of an HLA-A*0201-restricted T-cell epitope on the MPT51 protein, a major secreted protein derived from Mycobacterium tuberculosis, by MPT51 overlapping peptide screening.
Infect. Immun. , 76 , 1565-1571  (2008)
原著論文11
Hirayama, Y., M. Yoshimura, Y. Ozeki, et al.
Mycobacteria exploit host hyaluronan for efficient extracellular replication.
PLoS Pathog. e1000643 , 5 , 100-643  (2009)
原著論文12
Wada, T., S. Fujihara, A. Shimouchi, et al.
High transmissibility of the modern Beijing Mycobacterium tuberculosis in homeless patients of Japan.
Tuberculosis , 89 , 252-255  (2009)
原著論文13
Tateishi, Y., Y. Hirayama, Y. Ozeki, et al.
Virulence of Mycobacterium avium complex strains isolated from immunocompetent patients.
Microb. Pathog. , 46 , 6-12  (2009)
原著論文14
Seto, S., S. Matsumoto, I. Ohta, et al.
Dissection of Rab7 localization on Mycobacterium tuberculosis phagosome.
Biochem. Biophys. Res. Commun. , 387 , 272-277  (2009)
原著論文15
Okazaki, M., K. Ohkusu, H. Hata, et al.
Mycobacterium kyorinense sp. nov., a novel, slow-growing species, related to Mycobacterium celatum, isolated from human clinical specimens.
Int. J. Syst. Evol. Microbiol. , 59 , 1336-1341  (2009)
原著論文16
Ozeki, Y., I. Sugawara, T. Udagawa,et al.
Transient role of CD4+CD25+ regulatory T cells in mycobacterial infection in mice.
Int. Immunol. , 22 , 179-189  (2010)
原著論文17
Sena, C. B., T. Fukuda, K. Miyanagi, et al.
Controlled expression of branch-forming mannosyltransferase is critical for mycobacterial lipoarabinomannan biosynthesis.
J. Biol. Chem. , 285 , 13326-13336  (2010)
原著論文18
Kitada, S., K. Kobayashi, Y. Nishiuchi, et al.
Serodiagnosis of pulmonary disease due to Mycobacterium avium complex proven by bronchial wash culture.
Chest , 138 , 236-237  (2010)
原著論文19
Miyamoto, Y., T. Mukai, T. Naka, et al.
Novel rhamnosyltransferase involved in biosynthesis of serovar 4-specific glycopeptidolipid from Mycobacterium avium complex.
J. Bacteriol. , 192 , 5700-5708  (2010)
原著論文20
Kai, M, N. H. Nguyen Phuc, A. H. Nguyen, et al.
Analysis of drug-resistant strains of Mycobacterium leprae in an endemic area of Vietnam.
Clin. Infect. Dis. e127-e132 , 52 , 127-132  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201028010Z