Fynチロシンキナーゼ・シグナリングを介した統合失調症分子病態の解析

文献情報

文献番号
201027116A
報告書区分
総括
研究課題名
Fynチロシンキナーゼ・シグナリングを介した統合失調症分子病態の解析
課題番号
H21-こころ・若手-020
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
服部 功太郎(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第三部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
2,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
Fynチロシンキナーゼは脳に強く発現し神経細胞内のシグナル伝達を担うことで、シナプス可塑性や記憶学習、情動行動の制御に関わっている。近年、FynはドーパミンD2受容体によるNMDA受容体機能の制御にも関わり、マウスの抗精神病薬への反応性に関わることを我々は見出した。このためFynは統合失調症の分子病態にも関与している可能性が高い。そこで、本研究においては統合失調症の血液、死後脳、脳脊髄液などの臨床検体を用いて統合失調症の分子病態におけるFynの変化を解析し、バイオマーカーとしての可能性を検討する。
研究方法
(1) 死後脳におけるFynおよび関連タンパク質の解析
前年度のスタンレー研究所の60例の死後脳検体セットで得られた結果(統合失調症におけるFyn活性上昇とNMDA受容体サブユニット減少)を受け、本年度は、同研究所の105例(統合失調症、双極性障害、健常者各35例)の死後脳検体を用いブラインドで解析を行った。Fynの解析には独自に確立したSandwich ELISAを用い、NMDA受容体サブユニットなどの解析にはドットブロットを用いた。

(2) 脳脊髄液の収集とFynおよび関連タンパク質の解析
 前年度までの血液を用いた解析結果(脳と異なりfyn発現は減少していた)を受け、より脳に近い脳脊髄液で解析する必要性が生まれた。そこで、当センター倫理委員会の承認を経てボランティア等に同意を得たうえで研究目的の腰椎穿刺を行った。
結果と考察
(1) 死後脳におけるFynおよび関連分子の解析
60検体、105検体、両方の解析系にて統合失調症ではFynの増加が認められた。またFyn関連分子のうち60検体ではNR2A, NR2Bの量が統合失調症において有意に減少していたが、105検体ではNR2Aの減少傾向のみ認められた。
(2) H22年度には統合失調症、気分障害、健常対照者、計99検体を収集した。また、Fyn-ELISAのプロトコルを改善し、脳脊髄液での解析も行えるようになった。
結論
Fynが統合失調症で変化していることが確認された。特に死後脳でみられたFynの活性変化、NMDA受容体の減少は統合失調症の分子病態において重要な所見であると考えられた。脳脊髄液の収集は順調に進んでおり、Fynを含めた関連分子の解析に着手できる状況となった。

公開日・更新日

公開日
2011-07-12
更新日
-

収支報告書

文献番号
201027116Z