トゥレット症候群の治療や支援の実態の把握と普及啓発に関する研究

文献情報

文献番号
201027004A
報告書区分
総括
研究課題名
トゥレット症候群の治療や支援の実態の把握と普及啓発に関する研究
課題番号
H20-障害・一般-006
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
金生 由紀子(国立大学法人東京大学大学院医学系研究科 こころの発達医学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 太田昌孝(心の発達研究所)
  • 星加明德(東京医科大学病院小児科)
  • 飯田順三(奈良県立医科大学医学部看護学部)
  • 岡田俊(国立大学法人京都大学大学院医学研究科 脳病態生理学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
3,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
トゥレット症候群(TS)患者について、適応を妨げる症状、治療や支援の実態及びニーズを多様な場面で調査すると共に、治療や支援のための冊子をして普及啓発を推進する。
研究方法
1.担当患者について、チック重症度の評価、機能の全体的評価などを検討した。医師対象追加調査として、TSのプライマリケアの拡充に向けたアンケート調査を実施した。
2.教員対象追加調査として、場面想定法を用いてチックへの対応を問うなどの質問紙調査を行った。
3.埼玉県及び奈良県の発達障害者支援センターの相談者や支援者を対象にしてTSに関するアンケート調査を行った。
4.トゥレット協会が主体となり会員を対象としてTSの多様な側面に関する調査を行ったデータを多面的に解析した。
5.TSのプライマリケア担当者向けの冊子について、昨年度に作成した案に対するアンケート調査などによる検討を行って改訂した。
結果と考察
1.小児科外来患者では初診時には服薬群が重症であったが、最終確認時には両群共に軽快していた。医師対象追加調査から少数例でもTSの診療経験のある医師は、薬物療法までをプライマリケアの範疇と考えており、少数例でも診療経験を持つことによって、プライマリケアで対応可能な範囲が大きく拡大すると思われた。
2.教員対象追加調査から、教員は、児童・生徒の不調に気づいた時にはまず保護者から情報を得ようとすること、他児から不満が出た場面では本人、他児、クラス全体に対してなど多面的に柔軟な対応をしていることが示唆された。実際に教員が困難を感じる場面は、音声チックが目立つ時や周囲が反応する時であった。
3.埼玉県のセンターの相談者と支援者ではチックの認知度は高いのにTSについては低いと確認された。奈良県のセンターの利用者におけるTSという言葉の認識の向上には啓発活動との関連が示唆された。
4.医療機関の選択から、プライマリケアの小児科医のTSに対する理解の向上を図ることが重要であると示唆された。
5.TSに関する基本的な説明に、調査結果を踏まえた「コラム」、具体的な治療や支援の内容を含めた「症例」を加えた冊子を完成させた。
結論
多様な場の調査から、チックと併発症が生活に影響を与えており、両方を十分に考慮した対応を整備して普及啓発を進める必要性が確認され、その推進のための冊子を完成させた。

公開日・更新日

公開日
2011-05-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2012-03-01
更新日
-

文献情報

文献番号
201027004B
報告書区分
総合
研究課題名
トゥレット症候群の治療や支援の実態の把握と普及啓発に関する研究
課題番号
H20-障害・一般-006
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
金生 由紀子(国立大学法人東京大学大学院医学系研究科 こころの発達医学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 太田昌孝(心の発達研究所)
  • 星加明德(東京医科大学病院小児科)
  • 飯田順三(奈良県立医科大学医学部看護学科)
  • 岡田俊(国立大学法人京都大学大学医学研究科 脳病態生理学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
トゥレット症候群(TS)患者について、適応を妨げる症状、治療や支援の実態及びニーズを多様な場面で調査すると共に、治療や支援のための冊子をして普及啓発を推進する。
研究方法
1.担当患者について、チック重症度の評価、機能の全体的評価などを検討した。TSの診療について全国規模の医師対象調査及び追加調査を実施した。
2.チックやTSの認識や体験について複数地域の教員対象調査及び追加調査を実施した。
3.全国の発達障害者支援センターを対象としてTSの実態と普及啓発に関するアンケート調査を実施した。埼玉県及び奈良県のセンターの利用者や支援者を対象にしてTSに関するアンケート調査を行った。
4.トゥレット協会が主体となり会員を対象としてTSの多様な側面に関する調査を行ったデータを多面的に解析した。
5.TSのプライマリケア担当者向けの冊子についてアンケート調査を含めた検討を加えて改訂した。
結果と考察
1.薬物療法の適応には、音声チックの重症度、チックが活動を妨げる程度が重要と示唆された。プライマリケア医の役割が大きいこと、併発症を有する患者が多いこと、抗精神病薬による薬物療法が治療の主体であることが示された。少数例でもTSの診療経験のある医師は、薬物療法までをプライマリケアの範疇と考えていた。
2.TSという言葉を知っている割合は、特別支援学級担当教諭で35%、通常学級担当教諭18%であった。教員が困難を感じる場面は、音声チックが目立つ時や周囲が反応する時であった。
3.全国の発達障害者支援センターの6割以上がTSの具体的な対応方法が分からないとする一方で、約7割がTSまたはチック障害の相談を受け付けていた。センターの利用者などの認識から、多面的な啓発活動の重要性が示唆された。
4.チックの発症からTSの診断までの期間は近年になるに従って短縮していた。当事者が現在困っている症状は、音声チックが最多だが、併発症状も少なくなかった。プライマリケアの小児科医のTSに対する理解の向上を図ることが重要であると示唆された。
5.TSに関する基本的な説明に、調査結果を踏まえた「コラム」、具体的な治療や支援の内容を含めた「症例」を加えた冊子を完成させた。
結論
多様な場の調査から、チックと併発症が生活に影響を与えており、両方を十分に考慮した対応を整備して普及啓発を進める必要性が確認され、その推進のための冊子を完成させた。

公開日・更新日

公開日
2011-05-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201027004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
医療機関及び発達障害者支援センターの全国規模の調査、複数地域の教育機関の調査を我が国で初めて行い、トゥレット症候群の認識と経験を明らかにした。医師対象調査への約600名の回答から、診療科にかかわらず併発症、特に強迫性障害と広汎性発達障害が高率なこと、抗精神病薬による薬物療法が治療の主体であることが示された。十分な数の担当患者を対象とする調査から、薬物療法の適応には、音声チックの重症度、チックが活動を妨げる程度が重要なことが示唆された。
臨床的観点からの成果
医療機関、教育機関、発達障害者支援センターを対象とする調査を行う過程で、チックやトゥレット症候群に関するそれらの機関の認識が高まり、それ自体が啓発活動であったと考えられる。トゥレット協会会員のデータの収集・解析を通じて当事者側との連携が深まると同時に、治療・支援のニーズがより明確になった。また、医師対象追加調査からプライマリケアの拡充のための示唆が得られる一方で、併発症の治療には児童精神科医の対応が必要とされることが確認されて医療機関のネットワークが重要と思われた。
ガイドライン等の開発
プライマリケア担当者が活用できるような「トゥレット症候群の治療・支援のためのガイドブック」を完成させた。ガイドブックに記された治療・支援の効果について厳密な実証は確認されていないが、追加調査に参加した医師や教員などトゥレット症候群にかかわる多職種のアンケート調査でも有用性・実用性が高く評価されていた。さらに、ガイドブックを受け取った後に専門医が診療したチック障害患者の調査からも有用性が示唆され、質の高いエキスパートコンセンサスガイドラインであると思われる。
その他行政的観点からの成果
教師対象調査からトゥレット症候群という言葉の認識が特別支援学級及び通常学級では各々4割弱、約2割とかなり低いことが認められた。発達障害者支援センターの全国規模の調査から約7割がトゥレット症候群またはチック障害の相談を受け付けているにもかかわらず6割以上がトゥレット症候群の具体的な対応が分からないことが示された。同時に、普及啓発活動によって短期間でも認識が変わることも認められ、教育機関や相談機関への普及啓発の必要性が明らかとなった。
その他のインパクト
日本LD学会及び日本発達障害ネットワークの自主シンポジウム、トゥレット協会の医療講演会及び教育シンポジウムで研究成果を報告し、国際トゥレット症候群シンポジウムを開催した。NHK総合「首都圏ネットワーク」で研究成果が紹介された(平成22年9月)。NHK総合「首都圏ニュース」でトゥレット協会の教育シンポジウムが紹介された(平成22年11月)。朝日新聞(平成23年11月、平成25年2月)、しんぶん赤旗(平成25年6月)、読売新聞(平成26年4月)、TBSラジオ(平成27年6月)でも紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
9件
小児科における薬物療法の適応に関する調査、教育機関におけるトゥレット症候群の認識や経験に関する調査、チックの自己対処の検討、さらに詳細な症例検討などをまとめた論文を発表した。
原著論文(英文等)
11件
トゥレット症候群の“怒り発作”、衝動性、ディメンジョン別からみた強迫症状など併発症との関連の観点から検討した論文4編、薬物療法の適応について検討した論文1編などを発表した。
その他論文(和文)
53件
トゥレット症候群及び併発症(ADHD、自閉スペクトラム症、吃音、抜毛など)の病態や治療について検討を加えると共に分かりやすく解説した総説などを発表した。
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
27件
薬物療法の適応や有効性に関する検討、教育機関に対する調査、トゥレット症候群における不安、抑うつ症状や前駆衝動の検討、保護者の精神状態とその支援の検討など、多面的な研究の成果を発表した。
学会発表(国際学会等)
14件
第5、6、7回アジア児童青年精神医学会、第19、20回国際児童青年精神医学会などで我が国のトゥレット症候群と関連疾患の発表を積極的に行った。
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
26件
トゥレット協会のシンポジウム、学会の自主シンポジウムなどシンポジウムや講演会15件、研修講座7件で重点的に取り上げた。その他に複数の講演等で研究成果を含めてトゥレット症候群の情報を提供した。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kano Y, Ohta M, Nagai Y, et al.
Rage attacks and aggressive symptoms in Japanese adolescents with tourette syndrome
CNS Spectrums , 13 (4) , 325-332  (2008)
原著論文2
Kano Y, Ohta M, Nagai Y, et al.
Association between Tourette syndrome and comorbidities in Japan
Brain & Development , 32 (3) , 201-207  (2009)
10.1016/j.braindev.2009.01.005
原著論文3
Kano Y, Kono T, Shishikura K, et al.
Obsessive Compulsive Symptom Dimensions in Japanese Tourette Syndrome subjects
CNS Spectrums , 15 (5) , 296-303  (2010)
原著論文4
菊池なつみ,野中舞子,河野稔明他
トゥレット症候群に関する情緒障害通級指導学級担当教諭の認識および経験
児童青年精神医学とその近接領域 , 51 (5) , 539-549  (2010)
原著論文5
野中舞子,河野稔明,菊池なつみ他
トゥレット症候群に関する教員の認識及び経験―特別支援学級と通常学級の比較―
児童青年精神医学とその近接領域 , 52 (1) , 61-73  (2011)
原著論文6
Kuwabara H, Kono T, Shimada T, et al.
Factors Affecting Clinicians' Decision as to Whether to Prescribe Psychotropic Medications or Not in Treatment of Tic Disorders
Brain & Devlopment , 34 (1) , 39-44  (2012)
10.1016/j.braindev.2011.01.003
原著論文7
Matsuda N, Kono T, Nonaka M, et al.
Impact of obsessive-compulsive symptoms in Tourette's syndrome on neuropsychological performance
Psychiatry and Clinical Neurosciences , 66 (3) , 195-202  (2012)
10.1111/j.1440-1819.2012.02319.x
原著論文8
野中舞子, 金生由紀子, 松田なつみ他
音声チックを有する児童・生徒への対応についての教員の認識 ―通級指導教室・特別支援学級の教員を対象として―
臨床心理学 , 13 (6) , 849-855  (2013)
原著論文9
Kano Y, Kono T, Matsuda N, et al.
The impact of tics, obsessive-compulsive symptoms, and impulsivity on global functioning in Tourette syndrome
Psychiatry Research , 226 (1) , 156-161  (2015)
10.1016/j.psychres.2014.12.041.

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
2017-05-23

収支報告書

文献番号
201027004Z