高齢者に対する向精神薬の使用実態と適切な使用方法の確立に関する研究

文献情報

文献番号
201025001A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者に対する向精神薬の使用実態と適切な使用方法の確立に関する研究
課題番号
H20-長寿・一般-001
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
三島 和夫(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神生理研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 筒井 孝子(国立保健医療科学院 福祉サービス部 福祉マネジメント室)
  • 兼板 佳孝(日本大学医学部 公衆衛生学教室 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
7,125,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者ならびに認知症患者の睡眠障害と随伴する精神行動障害に対して頻用される向精神薬の処方実態と臨床的問題点を、疫学、臨床薬理、睡眠生理学的視点から調査した。向精神薬の長期投与が高齢者の臨床転帰に及ぼす影響を明らかにし、向精神薬からの離脱法を開発するための臨床試験を行った。高齢者の睡眠・精神行動障害に対する合理的で安全性の高い薬物使用ガイドラインを作成することをめざした。
研究方法
本研究班では以下の研究課題に取り組んだ。
1.大型診療報酬データを用いた日本における向精神薬処方実態及びその臨床的問題点に関する調査:1)日本における向精神薬処方実態の縦断的調査、2)向精神薬の長期服用がもたらす転倒骨折リスクに関する薬剤疫学調査、3)高齢者において睡眠薬の服用頻度が増大する背景要因(気分障害と生活習慣病の併存実態)に関する調査
2.高齢者における精神行動障害ならびに睡眠障害の実態調査と対処課題の抽出
3.長期投与中の抗精神病薬から認知症高齢者を離脱させる手法の開発に関する多施設共同研究
結果と考察
1.約33万人分の連結可能匿名化された診療報酬データ解析の結果、2005年?2009年までの5年間の向精神薬(睡眠薬、抗うつ薬、抗不安薬もしくは抗精神病薬)の処方トレンド、初処方から3年間の処方期間及び処方量の長期転帰、生活習慣病が睡眠薬処方率の増大に関係していること等を明らかにした。向精神薬の長期服用がもたらす大腿部骨折(ICD-10コードS72)リスク要因を、時間依存型比例ハザードモデルによって解析した結果、睡眠薬の服用が関連していることが明らかになった。
2.アルツハイマー病患者110名を対象として、睡眠表及びアクチグラフでの定量的睡眠状態評価を行い、睡眠障害の類型化を行った。また、不規則型睡眠・覚醒タイプでは催眠鎮静系向精神薬への治療反応性が乏しいことが明らかになった。
3.長期投与中の抗精神病薬から認知症高齢者を離脱させる手法の開発に関する多施設共同研究を推進し、68名の認知症患者をエントリーし、46名が離脱試験プロトコルを完遂した。
結論
本研究では、高齢者の向精神薬の使用実態を明らかにしつつ、リスク・ベネフィット比が不良であるにもかかわらず向精神薬を頻用しなくてはならない社会的、医学的背景要因を明らかにできた。特に、向精神薬の処方動向および長期的な処方転帰について精度の高い情報が得られたことは実地臨床にも役立つ研究成果であると考える。

公開日・更新日

公開日
2011-08-08
更新日
-

文献情報

文献番号
201025001B
報告書区分
総合
研究課題名
高齢者に対する向精神薬の使用実態と適切な使用方法の確立に関する研究
課題番号
H20-長寿・一般-001
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
三島 和夫(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神生理研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 筒井 孝子(国立保健医療科学院 福祉サービス部 福祉マネジメント室)
  • 兼板 佳孝(日本大学医学部 公衆衛生学教室 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者ならびに認知症患者の睡眠障害と随伴する精神行動障害に対して頻用される向精神薬の処方実態と臨床的問題点を、疫学、臨床薬理、睡眠生理学的視点から調査した。向精神薬の長期投与が高齢者の臨床転帰に及ぼす影響を明らかにし、向精神薬からの離脱法を開発するための臨床試験を行った。高齢者の睡眠・精神行動障害に対する合理的で安全性の高い薬物使用ガイドラインを作成することをめざした。
研究方法
本研究班では以下の研究課題に取り組んだ。
1.大型診療報酬データを用いた日本における向精神薬処方実態及びその臨床的問題点に関する調査:1)日本における向精神薬処方実態の経年的調査、2)高齢者における睡眠薬の服用頻度の増大とその背景要因に関する調査、3)向精神薬の長期服用がもたらす転倒骨折リスクに関する薬剤疫学調査
2.一般住民を対象とした睡眠薬の服用実態、睡眠薬による機能改善状況、及び睡眠薬の服用に関する意識調査
3.急性期一般病棟の入院患者を対象とした睡眠障害の罹患実態、及び、向精神薬の服用状況とその副作用の実態に関する調査研究
4.高齢者における精神行動障害ならびに睡眠障害の実態把握と対処課題の抽出
5.アルツハイマー病患者の睡眠障害の臨床類型化と向精神薬を用いた薬物療法のリスク・ベネフィット比の検討
6.長期投与中の抗精神病薬から認知症高齢者を離脱させる手法の開発に関する多施設共同研究
結果と考察
本研究により国内における向精神薬(睡眠薬、抗不安薬、抗精神病薬、抗うつ薬)の高齢者における処方率および処方量の増加、薬剤内訳、処方期間、および2005年~2009年の5年間のトレンドについて精度の高い情報が得られた。また、高齢者において高頻度にみられる睡眠障害及び随伴行動障害を看過せず、正しく診断し早期に適切な治療介入を行うことの重要性について明らかにした。高齢者の向精神薬の使用実態を明らかにしつつ、リスク・ベネフィット比が不良であるにもかかわらず高頻度で向精神薬を使用しなくてはならない社会的、医学的背景要因を明らかにした。
結論
現在、睡眠医療専門医を中心としたエキスパートグループを組み、得られた研究成果をもとに“高齢者の睡眠障害に対する向精神薬の使用ガイドラインと応用指針”としてまとめる作業に着手している。得られた研究成果について広く啓発し、実地臨床に展開することで、睡眠障害に罹患した高齢者の臨床転帰の改善に寄与することが可能であると考える。

公開日・更新日

公開日
2011-08-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2012-03-01
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201025001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は、高齢者に対する向精神薬の使用実態と薬物相互作用のリスク、治療転帰を総合的に評価することを目的とした我が国で初めて実施された大規模調査である。薬物選択・使用法に関する数多くの先行研究やプロパガンダに比較して薬物離脱・中止の基準やプログラムに関する情報が乏しい現状が長期投与を助長しているとの反省から、高齢者で使用頻度が高い向精神薬からの安全な離脱法に関する実証的な研究を行うとともに関連領域の情報整理を行った。
臨床的観点からの成果
高齢者の睡眠・行動障害に対しては一般的に催眠・鎮静系向精神薬が用いられるが、メタ分析によれば、汎用されるベンゾジアゼピン系睡眠薬、定型・非定形抗精神病薬は極めて不十分なリスク・ベネフィット比しか有せず、生命予後を悪化させる危険性があり推奨されていない。しかしながら日本国内の高齢者に対する向精神薬の処方量、使用期間、併用薬物に関する大規模調査は行われておらず、医学的妥当性についての検証も十分ではない。本研究では高齢者における向精神薬の適正使用に際して有用となる多くの臨床情報を供することができた。
ガイドライン等の開発
高齢者の睡眠障害に対処するため、最新の睡眠科学、睡眠医療の成果に立脚した合理的で安全性の高い「高齢者の睡眠障害に対する向精神薬使用ガイドライン」の策定をめざした
その他行政的観点からの成果
昼夜逆転等の睡眠障害および随伴精神行動障害は、高齢者の在宅介護を困難にさせ、、要介護度の悪化をもたらし、施設入所を助長する最大の要因の一つである。本研究の成果を元に、高齢者の睡眠・行動障害に適切に対処することにより、高齢者の健康寿命の延伸と介護者負担の軽減、医療コストの軽減等に資することが期待される。
その他のインパクト
日本国内の向精神薬の処方率および処方量の増加の実態に関する成果は多数の新聞、雑誌、メディアサイトで取り上げられた。また、向精神薬の使用のあり方に関するシンポジウムが学会等で行われた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
4件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Enomoto M, Endo T, Higuchi S, et al.
Newly Developed Waist Actigraphy and its Sleep/Wake Scoring Algorithm.
Sleep and Biological Rhythms , 7 , 17-22  (2009)
原著論文2
Yokoyama E, Kaneita Y, Saito Y, et al.
Association between Depression and Insomnia Subtypes: A Longitudinal Study on the Elderly in Japan.
Sleep , 33 , 1693-1702  (2010)
原著論文3
Enomoto M, Tsutsui T, Higashino S, wt al.
Sleep-related Problems and Use of Hypnotics in Inpatients of Acute Hospital Wards.
General Hospital Psychiatry , 32 , 276-283  (2010)
原著論文4
Kaji T, Mishima K, Kitamura S, et al.
Relationship between late-life depression and life stressors: Large-scale cross-sectional study of a representative sample of the Japanese general population.
Psychiatry Clin Neurosci , 64 , 426-434  (2010)
原著論文5
Abe Y, Mishima K, Kaneita Y, et al.
Stress coping behaviors and sleep hygiene practices in a sample of Japanese adults with insomnia.
Sleep and Biological Rhythms , 9 , 35-45  (2011)
原著論文6
Furihata R, Uchiyama M, Takahashi S, et al.
Self-help behaviors for sleep and depression: A Japanese nationwide general population survey.
Journal of Affective Disorders , 130 , 75-82  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-

収支報告書

文献番号
201025001Z