ファール病(特発性両側性大脳基底核・小脳歯状核石灰化症)の分子病態の解明

文献情報

文献番号
201024257A
報告書区分
総括
研究課題名
ファール病(特発性両側性大脳基底核・小脳歯状核石灰化症)の分子病態の解明
課題番号
H22-難治・一般-202
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
保住 功(岐阜大学大学院医学系研究科 神経内科・老年学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 林 祐一(岐阜大学大学院医学系研究科 神経内科・老年学分野)
  • 香村彰宏(岐阜大学大学院医学系研究科 神経内科・老年学分野)
  • 犬塚 貴(岐阜大学大学院医学系研究科 神経内科・老年学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
12,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の目的は、全国のファール病患者数の実態を把握し、臨床データおよび検体を収集し、明確な診断基準を作成することにある。血液、髄液、毛髪を収集し、重金属、金属結合蛋白等を測定し、その病態を明らかにする、および原因ないし疾患感受性遺伝子を明らかにすることが目的である。
研究方法
1) 全国一次調査:倫理委員会の承諾の下、全国の神経内科医、小児神経医、放射線科医に特発性両側性脳内石灰化症(IBiC)症例のアンケートを行う。
2) 二次、三次調査:一次調査で協力の得られた症例を調査し、倫理委員会の承諾、患者の同意書を得て、血液、髄液、頭髪を収集する。収集した血液、毛髪、髄液の重金属および重金属結合蛋白を測定する。
3) 候補疾患感受性遺伝子の検索:候補遺伝子のSNP検索を行なう。
結果と考察
結果
(1)症例調査
神経内科医より69症例、小児神経医より35症例の登録が得られた。DNA 13症例、血清10症例、髄液8症例、毛髪10症例が収集された。
(2)解析
髄液中の総タウ量では、ファール病、Kosaka-Shibayama病、アルツハイマー病で明らかな差異を認めていない。また髄液中の重金属もファール病、Kosaka-Shibayama病で同様である。メタロチオネイン(MT)遺伝子のSNPの検索では正常コントロール206例とIBiC症例でSNP頻度の差は認めなかった。また、MT-III遺伝子ではプロモーターの上流3か所とまたその近傍でSahara-African人にのみ報告されていたSNPを日本人でも確認できた。
考察
 原因不明の、病的な脳内石灰をきたす症例(IBiC)の登録は100症例を超える予想以上の症例数が登録されている。無症状の症例、軽い頭痛のみの症例もあった。小児例では、背景に何らかの先天代謝異常症が予想される症例も少なからずあった。初老期の症例では、Kosaka-Shibayama Disease (DNTC)と考えられる症例もあった。IBiCの多様性が明らかとなった。さらに家族例と考えられる症例も存在した。
結論
100例を超える症例が集積された。NFTや小血管周囲の石灰化を画像検査で検出することは、現在困難で、何らかの髄液マーカーの確立が必要と考えられる。脳血管内皮細胞に一次的障害があることが推定され、病態の解明に今後の検討が必要である。

公開日・更新日

公開日
2011-12-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201024257C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ファール病の名称は従来から問題があり、我々は特発性両側性脳内石灰症(IBiC)という概念で症例の取集に当たった。臨床的に多種多様であり、小児では先天代謝異常症に伴う脳内石灰化、初老期ではKosaka-Shibayama病との鑑別が重要であった。全国から症例が登録され、検体の検索のシステムを作り上げた。班会議において、Kosaka-Shibaya病の病理学的比較検討から、ファール病における血管病変の検索など今後の病態解明に向けての方向性が打ち出された。
臨床的観点からの成果
全国的に多くの症例が存在することが明らかになりつつある。これまで、病因、病態が不明で、治療法もないことから患者は放置されてきた。本研究会ができたことで、全国から岐阜大を受診する患者も少なからず出てきて、病態の研究が始まったことで、患者に希望を与えている。臨床的には多種多様であること、家族例も少なからず存在することが明らかになっている。本班会議によって、全国の神経内科医、小児神経医、放射線科医の中で脳内の石灰化に関心が持たれるようになった。
ガイドライン等の開発
臨床的に種々多様な病態であることは、まずはその実態、病態の把握が必要である。登録症例のカテゴリー分類、さらに髄液診断マーカーの検索、脳内石灰化に関する感受性遺伝子検索が試みられた。また病理学的所見の検討が重要であるとの見地から、平成23年2月5日、岐阜にて、「ファール病(特発性両側性大脳基底核・小脳歯状核石灰化症)の分子病態の解明」研究班会議が開催され、Kosaka-Shibaya病を軸に、病理所見の検討がなされた。以上の成果を踏まえ、今後の検索と合わせ診断ガイドラインの試作を行った。
その他行政的観点からの成果
まだ審議会で取り上げられたり、行政施策に反映されたものはないが、ファール病は担当医に対処法がなく、対応に苦慮し、一方で、患者側も「原因はわからない」「治療法もない」と言った説明に絶望感を感じていた。研究班ができ、ホームページ上で公開されたことで、全国の医師、患者、家族から電話での問い合わせ、直接の受診があった。診断基準を設定したが、特定疾患として上程したい。また検索と共に、心のケア、e-メール通信がなされたことは、患者や家族に一応の安心感と希望を与えることができたものと思われる。

その他のインパクト
平成23年2月5日、岐阜にて、「ファール病(特発性両側性大脳基底核・小脳歯状核石灰化症)の分子病態の解明」研究班会議を開催し、全国に広報し、参加自由とした。班会議で、参考となる小阪柴山病や画像検索に関する講演は、内容を記述し、報告書とは別途に冊子を作成した。その冊子を欲しいという希望者が数多くみられた。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
1件
「医学のあゆみ」に紹介、総説を掲載。 (243(4):323-324, 2012)
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
8件
新潟脳神経研究会、日本薬学会東海支部講演会、第52回日本神経学会総会等
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yamada M, Hayashi Y, Hozumi I et al.
High frequency of calcification in basal ganglia on brain computed tomography images in Japanese older adults.
Geriatr Gerontol Int  (2012)
doi: 10.1111/ggi.12004
原著論文2
堀田みゆき、保住 功
希少神経難病ファール病 3例の患者と家族のインタビューから得られたもの
臨床看護 , 38 (13) , 1907-1912  (2012)
原著論文3
Takagi M, Ozawa K, Hozumi I et al.
Decreased bioelements content in the hair of patients with Fahr’s disease (Idiopathic bilateral calcification in the brain).
Biol Trace Elem Res , 151 (1) , 9-13  (2013)
doi: 10.1007/s12011-012-9529-z
原著論文4
Hozumi I.
Roles and Therapeutic Potential of Metallothioneins in Neurodegenerative Diseases.
Curr Pharm Biotechnol , 14 (4) , 408-413  (2013)
原著論文5
Yamada M, Tanaka M, Hozumi I et al.
Evaluation of SLC20A2 mutations that cause idiopathic basal ganglia calcification in Japan.
Neurology , 82 (8) , 705-712  (2014)
doi: 10.1212/WNL.0000000000000143.

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2018-06-11

収支報告書

文献番号
201024257Z