原発性高脂血症に関する調査研究

文献情報

文献番号
201024011A
報告書区分
総括
研究課題名
原発性高脂血症に関する調査研究
課題番号
H20-難治・一般-011
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
山田 信博(筑波大学)
研究分担者(所属機関)
  • 及川 眞一(日本医科大学第三内科)
  • 横山 信治(名古屋市立大学大学院医学研究科)
  • 白井 厚治(東邦大学医学部附属佐倉病院)
  • 石橋 俊(自治医科大学内科学講座)
  • 太田 孝男(琉球大学医学部育成医学)
  • 武城 英明(千葉大学大学院医学研究院)
  • 山下 静也(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 後藤田貴也(東京大学大学院医学系研究科)
  • 林 登志雄(名古屋大学医学部附属病院老年科)
  • 荒井 秀典(京都大学大学院医学研究科)
  • 小林 淳二(金沢大学大学院医学系研究科)
  • 斯波 真理子(国立循環器センター研究所バイオサイエンス部)
  • 衛藤 雅昭(奥羽大学薬学部)
  • 曽根 博仁(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
  • 鈴木 浩明(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
37,131,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
原発性高脂血症の診療実態調査および病因解明、新規治療法の開発を行う。
研究方法
1.家族性高コレステロール血症(FH):急性冠症候群(ACS)におけるアキレス腱肥厚の頻度について検討した。臨床的にFHと診断された200名の遺伝子解析を行った。
2.原発性高トリグリセリド(TG)血症の遺伝子解析を行った。
3.家族性III型高脂血症の診断方法について検討した。
4.ABCA1がHDL増加薬のターゲットとなりうるかどうか、in vitroで検討した。
5.遺伝子導入脂防細胞の自己移植することにより、LCAT欠損症の治療法開発を目的に基礎的な検討を行った。
6.冠動脈疾患の脂質予測因子について一般住民および2型糖尿病コホート等を用いて検討した。
7.小児生活習慣病健診受診児を対象に、学童期の脂質異常に影響する因子について検討した。
結果と考察
1.ACSでアキレス腱肥厚を有する患者は、全体の56%に認められた。若年で診断されたFHの過半がACS発症時に初めてFHと診断されており、遺伝疾患としてのFHに対する一般医家の啓蒙が重要である。遺伝子解析では、LDL-R異常が46%、ARH異常が1%、PCSK9異常が9%に認められた。LDL-R変異例の96.8%、PCSK9変異例の80%がFH Index法により診断可能であった。
2.原発性高TG血症におけるリポ蛋白リパーゼ欠損症の頻度は、対象とするTG値によっても異なるが、10%から35%であり頻度は低かった。原発性高TG血症患者の一部にアポA-V遺伝子異常とangptl3の異常が認められ、これらが高TG血症や急性膵炎併発に関与している可能性が示唆された。
3.家族性III型高脂血症の診断に、RLP-C/TGやアポB48/TGも家族性III型高脂血症の診断に有用であった。
4.カルパインもしくはカルモジュリン阻害薬によりABCA1の分解を抑制することで、HDL産生が増加することが明らかとなり、ABCA1分解抑制がHDL増加薬のターゲットとして有用であることが示された。
5.移植細胞はがん化しないことが明らかとなった。また、遺伝子導入前脂肪細胞の分泌するLCAT蛋白がLCAT欠損によるHDLの成熟障害を改善した。また、移植時の細胞のscaffoldとしてフィブリンゲルが有用であった。
6.small dense LDLやnon-HDL-C, LDL/HDL比は冠動脈疾患の有用な予測因子であった。
7.学童期における高LDLコレステロール血症は遺伝的な要因が強く、家族解析が必要である。
結論
原発性高脂血症の診断・治療に有用な基礎的・臨床的データを得た。

公開日・更新日

公開日
2011-12-27
更新日
-

文献情報

文献番号
201024011B
報告書区分
総合
研究課題名
原発性高脂血症に関する調査研究
課題番号
H20-難治・一般-011
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
山田 信博(筑波大学)
研究分担者(所属機関)
  • 及川 眞一(日本医科大学第三内科)
  • 横山 信治(名古屋市立大学大学院医学研究科)
  • 白井 厚治(東邦大学医学部附属佐倉病院)
  • 石橋 俊(自治医科大学内科学講座)
  • 太田 孝男(琉球大学医学部育成医学)
  • 武城 英明(千葉大学大学院医学研究院)
  • 山下 静也(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 後藤田貴也(東京大学大学院医学系研究科)
  • 林 登志雄(名古屋大学医学部附属病院老年科)
  • 荒井 秀典(京都大学大学院医学研究科)
  • 小林 淳二(金沢大学大学院医学系研究科生活習慣病講座)
  • 斯波真理子(国立循環器センター研究所バイオサイエンス部)
  • 衛藤 雅昭(奥羽大学薬学部臨床内科・薬理学)
  • 曽根 博仁(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
  • 鈴木 浩明(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
原発性高脂血症の実態調査と治療を開発することを目的に以下の研究を行った。
研究方法
  
結果と考察
家族性高コレステロール血症(FH)では、スタチンによりコレステロール値をより厳格に低下させることができるようになったことで、冠動脈イベントの初発年齢が有意に高くなっていた。一方、急性冠症候群でアキレス腱肥厚を有する患者が半数以上いることも明らかとなり、FHを早期に診断・介入することが重要であることが示唆された。
小児の高LDL-C血症には遺伝的な要因が強いのに対し、高TG血症や低HDL-C血症では肥満やインスリン抵抗性と関連していた。小児の高LDL-C血症では、家族解析を行いFHなどの早期診断につなげていく必要があると考えられた。
血中TG値とMLXIPL, ANGTPL3, TRIB1, GALNT2上のSNPsとの間に有意な相関を認めた。高度高TG血症患者でアポA-V変異を有する症例が存在することや、angptl3濃度が正脂血症患者よりも高値の傾向を認めた。LDL-C値とSORT1ならびにTRIB1上のSNP遺伝子型との間に有意な相関を認めた。PCSK9変異は、日本人の高LDL-C血症と低LDL-C血症患者で比較的高頻度に認められた。
ABCA1とアポA-IによるHDL新生は細胞表面で起こることを明らかとした。また、ABCA1の転写制御について、AP2、LXR、PPARsを介した経路があることを明らかとした。ABCA1分解抑制をターゲットとした創薬がHDL産生増加薬となりうることを示した。
遺伝子導入脂肪細胞を自己移植することで、LCAT欠損症をターゲットにヒトに臨床応用するための基礎的な検討を行った。
2型糖尿病患者の冠動脈疾患の予測因子としてnon-HDL-Cが有用であった。
LDL受容体変異を有する患者を対象とした場合、本研究班で作成したFHの新診断基準によってFHを診断する感度は約100%、特異度は50?60%、PCSK9変異を有するFHでは、感度83%であった。日本人2型糖尿病患者におけるnon-HDL-Cの冠動脈疾患発症のハザード比はLDL-Cのハザード比と同等であった。また、I型・V型高脂血症、小児FH、IIb型高脂血症、HDLの診療ガイドラインを作成した。
本研究班の長年にわたる研究成果と患者会の活動により、平成21年に家族性高コレステロール血症ホモ接合体が特定疾患として認定された。
結論
  

公開日・更新日

公開日
2011-12-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201024011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
原発性高脂血症に関連する遺伝子変異やSNPsを明らかにした。家族性高コレステロール血症の遺伝子変異のうち冠動脈疾患重症度と関連する変異を明らかとした。HDLの生成機構の解明とABCA1をターゲットとしたHDL増加薬創薬の可能性を示した。III型高脂血症の新たな診断法を開発した。
臨床的観点からの成果
遺伝子導入自己脂肪細胞の移植による遺伝子治療法の開発を行った。また、急性冠症候群に家族性高コレステロール血症に認められるアキレス腱黄色腫を有する患者が半数程度いることが明らかとなった。non-HDL-Cやsmall dense LDLが冠動脈疾患発症の予測因子となることを示した。小児においては、高コレステロール血症は遺伝的な要因が強いこと、高トリグリセリド血症は肥満やインスリン抵抗性と関連が強いことが明らかとなった。
ガイドライン等の開発
I型・V型高脂血症、IIb型高脂血症、HDL管理ガイドライン、小児家族性高コレステロール血症の各ガイドラインを作成した。また、平成19年度に本研究班で作成した家族性高コレステロール血症の新診断基準の妥当性を評価し、家族性高コレステロール血症診断に有用であることを示すとともに、動脈硬化学会の新しいガイドライン作成において参考とされた。
その他行政的観点からの成果
家族性高コレステロール血症ホモ接合体が、特定疾患に認定された。
その他のインパクト
なし。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
182件
その他論文(和文)
138件
総説および書籍
その他論文(英文等)
2件
総説および書籍
学会発表(国内学会)
243件
学会発表(国際学会等)
37件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Lu R, Arakawa R, Ito-Osumi C, et al.
ApoA-I facilitates ABCA1 recycle/accumulation to cell surface by inhibiting its intracellular degradation and increases HDL generation.
Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology , 2 (9) , 1820-1824  (2008)
原著論文2
Shimano H, Arai H, Harada-Shiba M, et al.
Proposed Guidelines for hypertriglyceridemia in Japan wit non-HDL cholesterol as the second target.
Journal of Atherosclerosis and Thrombosis , 15 (3) , 116-121  (2008)
原著論文3
衛藤雅昭,服部由香,寺澤理恵,他
家族性III型高脂血症(アポリポ蛋白E遺伝子変異)
The Lipid , 20 (4) , 383-387  (2009)
原著論文4
Lu R, Ito J, Iwamoto N, et al.
FGF-1 induces expression of LXR alpha and production of 25-hydroxycholesterol to upregulate the apoE gene in rat astrocytes.
Journal of Lipid Research , 50 (6) , 1156-1164  (2009)
原著論文5
Nishida T, Ito J, Nagayasu Y, et al.
FGF-1 induced reactions for biogenesis of apoE-HDL are mediated by Src in Rat astrocytes.
Jouranl of Biochemistry , 146 (6) , 881-886  (2009)
原著論文6
Hossain MA, Tsujita M, Akita N, et al.
Cholesterl homeostasis in ABCA1/LCAT double-deficient mouce.
Biochimica et Biophysica Acta , 1791 (12) , 1197-1205  (2009)
原著論文7
Yoshida T, Nagasaki H, Asato Y, et al.
The ratio of high-molecular weight adiponectin and total adiponectin differs in preterm and term infants.
Pediatric Research , 65 (5) , 580-583  (2009)
原著論文8
Arai H, Yamamoto A, Matsuzawa Y, et al.
Prevalence of the metabolic syndrome in elderly and middle-aged Japanese.
Journal of Clinical Gerontlolgy and Geriatrics , 1 (2) , 42-47  (2010)
原著論文9
Harada-Shiba M, Sugisawa T, MakinoH, et al.
Impact of statin treatment on the clinical fate of heterozygous familial hypecholesterolemia.
Jouranl of Atherosclerosis and Thrombosis , 17 (7) , 667-674  (2010)
原著論文10
野口徹,川尻剛照,多田隼人,他
PCSK9遺伝子変異とLDL受容体遺伝子変異を合併したホモ接合体家族性高コレステロール血症の一例
The Lipid , 21 (3) , 286-291  (2010)
原著論文11
Sandoval JC, Nakagawa-Toyama Y, Masuda D, et al.
Fenofibrate reduces postprandial hypertriglyceridemia in CD36 knockout mice.
Jouranl of Atherosclerosis and Thrombosis , 17 (6) , 610-618  (2010)
原著論文12
Sandoval JC, Nakagawa-Toyama Y, Masuda D, et al.
Molecular mechanisms of ezetimibe-induced attenuation of postprandial hypertriglyceridemia.
Atherosclerosis and Thrombosis , 17 (9) , 914-924  (2010)
原著論文13
Asumi M, Yamaguchi T, Saito K, et al.
Are serum cholesterol levels associated with silent brain infarcts? The Seiryo Clinic Study.
Atherosclerosis , 210 (2) , 674-677  (2010)
原著論文14
Sone H, Tanaka S, Iimuro S, et al.
Long-term lifestyle intervention lowers the incidence of stroke in Japanese patients with type 2 diabetes: a nationwide multicentre randomised controlled trial (the Japan Diabetes Complications Study).
Diabetologia , 53 (3) , 419-428  (2010)
原著論文15
Sone H, Tanaka S, Iimuro S, et al.
Components of metabolic syndrome and their combinations as predictors of cardiovascular disease in Japanese patients with type 2 diabetes. Implications for improved definition. Analysis from Japan Diabetes Complications Study (JDCS).
Journal of Atherosclerosis and Thrombosis , 16 (4) , 380-387  (2009)
原著論文16
Iwamoto N, Lu R Tanaka N, et al.
Calmodulin interacts with ATP binding cassette transporter A1 to protect from calpain-mediated degradation and upregulates high density lipoprotein generation.
Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology , 30 (7) , 1146-1152  (2010)
原著論文17
Tanaka N, Abe-Dohmae S, Iwamoto N, et al.
Helical apolipoproteins of high-density lipoprotein enhance phagocytosis by stabilizing ATP-binding cassette transporter A7.
Journal of Lipid Research , 51 (9) , 1446-1452  (2010)
原著論文18
Aoyagi Y, Kuroda M, Asada S, et al.
Fibrin glue increases the cell survival and the transduced gene product secretion of the ceiling culture-derived adipocytes transplanted in mice.
Experimental and Molecular Medicine , 43 (3) , 161-167  (2011)
原著論文19
Aoyagi Y, Kuroda M, Asada S, et al.
Ceiling Culture-Derived Proliferative Adipocytes are A Possible Delivery Vehicle for Enzyme Replacement Therapy in Lecithin: Cholesterol Acyltransferase Deficiency.
The Open Gene Therapy Journal , 4 , 1-10  (2011)
原著論文20
Asada S, Kuroda M, Aoyagi Y, et al.
Disturbed apolipoprotein A-I-containing lipoproteins in fish-eye disease are improved by the lecithin:cholesterol acyltransferase produced by gene-transduced adipocytes in vitro.
Molocular Genetics and Metabolism , 102 (2) , 229-231  (2011)

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
-

収支報告書

文献番号
201024011Z