免疫アレルギー疾患の予防・治療法の開発及び確立に関する臨床研究:関節リウマチ患者の生命予後からみた至適医療の確立に関する臨床研究

文献情報

文献番号
201023011A
報告書区分
総括
研究課題名
免疫アレルギー疾患の予防・治療法の開発及び確立に関する臨床研究:関節リウマチ患者の生命予後からみた至適医療の確立に関する臨床研究
課題番号
H20-免疫・一般-011
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
山中 寿(東京女子医科大学 附属膠原病リウマチ痛風センター)
研究分担者(所属機関)
  • 竹内 勤(慶応義塾大学 リウマチ内科)
  • 田中 良哉(産業医科大学医学部 第一内科学講座)
  • 石黒 直樹(名古屋大学大学院医学系研究科 機能構築医学専攻 運動・形態外科学講座整形外科学)
  • 簑田 清次(自治医科大学 アレルギー・リウマチ科)
  • 福田 亙(京都第一赤十字病院 糖尿病・内分泌・リウマチ科)
  • 津谷 喜一郎(東京大学大学院薬学系研究科 医薬政策学)
  • 桃原 茂樹(東京女子医科大学 附属膠原病リウマチ痛風センター )
  • 中島 亜矢子(東京女子医科大学 附属膠原病リウマチ痛風センター )
  • 竹内 正弘(北里大学薬学部 臨床医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫アレルギー疾患等予防・治療研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
関節リウマチ(Rheumatoid arthritis, 以下RA)は関節予後のみならず生命予後も悪い疾患であると認識されている。RA治療は過去10年間で著しく進歩し、特に生物学的製剤を用いて疾患活動性を強力に制御する治療戦略は患者の予後を著しく改善させたが、このような新しい治療戦略が関節予後を改善することはエビデンスがあるが、生命予後を改善させるかについては不明確な点が多い。本研究班は、厚労省研究班としては初めてRA患者の生命予後を中心としてとらえ、生命予後という究極のアウトカムを指標とした場合、どのような治療手段が最も好ましいと言えるかを検証し、現時点におけるRAの至適医療を提言することである。
生命予後から見た至適医療についての提言を行うことを目的として組織された。
研究方法
上記の目的を達成するために、1)多施設共同研究による生物学的製剤投与中の患者の生命予後の解析、2)RA患者の長期予後に影響を及ぼす因子を解析する研究、3)RA患者における新規治療手段の現状と長期予後の調査、4)RA診療に関する医療経済学的検討を行った。
結果と考察
多施設共同研究により生物学的製剤投与中の患者を全2,746例(女性86%)登録し、6,965.7人年の観察で、観察期間中の死亡は38例(男:女=11: 27)であった。標準化死亡比(SMR)を検討した結果、このコホートの死亡率は、日本人一般人口の死亡率や東京女子医大のIORRAコホートと有意な差は認めなかった。死因は肺炎8例(含む肺結核1例)、間質性肺炎7例、急性呼吸不全2例、肺胞出血1例と肺疾患が18例、呼吸器以外の感染症6例、悪性腫瘍5例、虚血性心疾患2例を含む循環器障害5例、他アミロイドーシス1例、などであった。死因は一般人口と比較すると肺炎による死亡が多く、IORRAとの比較では感染症や呼吸器系疾患の割合が高く、心血管障害の割合が低かった。これは、生物学的製剤投与例の長期予後を他集団と比較したわが国では初めての報告である。その他、生物学的製剤により動脈硬化に及ぼすいくつかの因子が改善することが明らかになったことや、RA診療に関する医療経済学的検討にて疾病負担を明らかにした。
結論
生物学的製剤投与により総死亡は有意に増加しないが、死因では感染症、呼吸器疾患が増えて、心疾患が減少する。したがって、これらの疾患に対する対応策が必須である。

公開日・更新日

公開日
2011-09-20
更新日
-

文献情報

文献番号
201023011B
報告書区分
総合
研究課題名
免疫アレルギー疾患の予防・治療法の開発及び確立に関する臨床研究:関節リウマチ患者の生命予後からみた至適医療の確立に関する臨床研究
課題番号
H20-免疫・一般-011
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
山中 寿(東京女子医科大学 附属膠原病リウマチ痛風センター)
研究分担者(所属機関)
  • 竹内 勤(慶応義塾大学 リウマチ内科)
  • 田中 良哉(産業医科大学医学部 第一内科学講座)
  • 石黒 直樹(名古屋大学大学院医学系研究科 機能構築医学専攻 運動・形態外科学講座整形外科学)
  • 簑田 清次(自治医科大学 アレルギー・リウマチ科)
  • 福田 亙(京都第一赤十字病院 糖尿病・内分泌・リウマチ科)
  • 津谷 喜一郎(東京大学大学院薬学系研究科 医薬政策学)
  • 桃原 茂樹(東京女子医科大学 附属膠原病リウマチ痛風センター )
  • 中島 亜矢子(東京女子医科大学 附属膠原病リウマチ痛風センター )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫アレルギー疾患等予防・治療研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
関節リウマチ(以下RA)は日常生活動作に著しい障害をきたすために、RAは、関節予後を中心に論じられてきた。しかしながら、RA患者は動脈硬化性疾患による死亡が多く、生命予後をも悪化させる疾患であることが欧米の臨床研究により明らかにされており、患者の長期的予後を考える上において生命予後は極めて重要な要素である。一方で、RA治療は過去10年間で著しく進歩し、特に生物学的製剤を用いて疾患活動性を強力に制御する治療戦略は患者の予後を著しく改善させたがあくまで短期的予後であり、長期的予後ではない。本研究班は、厚労省研究班としては初めてRA患者の生命予後を中心としてとらえ、生命予後から見た至適医療についての提言を行うことを目的として組織された。
研究方法
本研究班では、全体研究として、生物学的製剤を投与された患者のコホートを新たに確立し、生命予後とそれに及ぼす因子の解析を行った。さらに分担研究として、RA患者の長期予後に関する因子を複数の視点から検討した。その中には医療経済学的視点も含まれる。
結果と考察
本研究の成果より、RA患者に対する至適医療を行うために本研究班から以下の提言をしたい。
1)RA患者に対する診療は進歩したが、至適医療を考える上では死亡をアウトカムとした観察研究が必要である。特に日本人RA患者の総死亡は欧米と変わらないが、死因は欧米人と異なり、呼吸器疾患が多く、心疾患が少ない。したがって我が国独自の研究が必須である。
2)生物学的製剤投与により総死亡は有意に増加しないが、死因では感染症、呼吸器疾患が増えて、心疾患が減少する。したがって、これらの疾患に対する対応策が必須である。
3)RA診療は進歩したが、早期からの十分な治療などが徹底されているとは言えず、まだ改善が必要である。
4)RA診療の進歩に伴い薬剤経済学的な観点からは高額な医療費が問題になるが、積極的な疾患コントロールにより、直接コストのみならず間接コストも抑制しうる可能性が示唆され、長期予後の視点からは費用対効果を有する。
結論
本研究班事業により、現在のRA治療の方向性は妥当なものであるが示されたが、改善すべき点も残されていることがわかった。特にRA患者に対する至適医療の展開を患者予後の改善に結びつけるためには、感染症、呼吸器疾患のマネージメントがきわめて重要である。今後も生命予後を指標とした臨床研究が重要であることを強調したい。

公開日・更新日

公開日
2011-09-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201023011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
関節リウマチ治療における生物学的製剤の使用により死亡率が増加するかどうかを多施設研究で検証した。生物学的製剤の使用は2003年以降急激に増加しているが、安全性に関する懸念も根強い。本研究は我が国における死亡率を検証し、死亡率が増加しないことを報告したもので大きな反響があった。
臨床的観点からの成果
生物学的製剤が日常診療で投与されるようになり、有害事象発症などの短期的予後は市販後調査などで検証されたが、死亡などの長期的予後は検証されていなかった。本研究では死亡率が増加しないことを検証したが、呼吸器合併症が重要な死因になりうることを示し、それに警鐘を鳴らしたことが評価されている。
ガイドライン等の開発
現在、厚生労働省研究班(宮坂班)で関節リウマチの診療ガイドラインを作成中であるが、そのなかで重要な研究として取り上げられる予定である。本ガイドラインは2014年3月までに完成の予定である。
その他行政的観点からの成果
関節リウマチのような慢性疾患においては、短期予後の検討も重要であるが長期予後の検討が極めて重要であり、死亡はその中でも最も重要なものである。比較的短期の安全性検証が数多く行われる中で、長期のアウトカムに目を向けた意義は大きいと考える。
その他のインパクト
一部のマスコミの誤った解釈による記事などが患者に不安を与えたことがあったが、本研究によりエビデンスが証明された。患者も含め、臨床現場に一定の安心を与えるとともに、注意すべき点を明示したことの意義は大きいと考える。

発表件数

原著論文(和文)
83件
原著論文(英文等)
108件
その他論文(和文)
81件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
556件
学会発表(国際学会等)
123件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nakajima A, Saito K, Kojima T, Amano K, et al.
No increased mortality in patients with rheumatoid arthritis treated with...
Mod Rheumatol.  (2012)
10.1007/s10165-012-0773-z
原著論文2
Yamanaka H, Seto Y, Tanaka E, Furuya T,et al.
Management of rheumatoid arthritis: the 2012 perspective.
Mod Rheumatol. , 23 (1) , 1-7  (2013)
10.1007/s10165-012-0702-1
原著論文3
Seto Y, Inoue E, Shidara K, Hoshi D,et al.
Functional disabikity can deteriorate despite suppression of disease activity in...
Mod Rheumatol.  (2013)
10.1007-s10165-012-0816-5
原著論文4
Tanaka E,Hoshi D,Igarashi A,Inoue E et al.
Analysis of direct medical and nonmedical costs for care of rheumatoid arthritis patientsusing the...
Mod Rheumatol.  (2012)
10.1007/s10165-012-0729-3
原著論文5
Momohara S, Ikari K, Kawakami K, Iwamoto T,et al
The increasing disease duration of patients at the time...
Rheumatol Int. , 10 , 3323-3324  (2012)
10.1007/s00296-011-2101-x
原著論文6
Hoshi D, Nakajima A, Shidara K, Seto Y,et al
Disability is the major negative predictor for ...
Mod Rheumatol  (2013)
原著論文7
Takeuchi T, Yamanaka H, Ishiguro N, Miyasaka N,et al
Adalimumab, a human anti-TNF monoclonal antibody, outcome study for the prevention of ...
Ann Rheum Dis , 1 , 1-8  (2013)
原著論文8
Harigai M, Takeuchi T, Tanaka Y, Matsubara T,
Discontinuation of adalimumab treatment in rheumatoid arthritis patients after achieving low ...
Mod Rheumatol. , 22 , 814-822  (2012)
10.1007/s10165-011-0586-5
原著論文9
Khan NA, Spencer HJ, Abda E, Aggarwal A, et al
Determinants of discordance in patient's and physician's ...
Arthritis Care Res (Hoboken). , 64 (2) , 206-214  (2012)
10.1002/acr.20685
原著論文10
Shidara K, Inoue E, Hoshi D, Tanaka E,et al
The influence of individual joint impairment on functional disability ...
J Rheumatol. , 39 (3) , 476-480  (2012)
10.3899/jrheum.110770
原著論文11
Tanaka E, Mannalithara A, Inoue E, Iikuni N, et al
Effects of long-term corticosteroid usage on functional disability in patients...
Rheumatol Int. , 32 (3) , 749-757  (2010)
10.1007/s00296-010-1638-4
原著論文12
Shidara K, Inoue E, Hoshi D, Sato E, et al
Anti-cyclic citrullinated peptide antibody predicts ...
Rheumatol Int. , 32 (2) , 361-366  (2010)
10.1007/s00296-010-1671-3
原著論文13
Momohara S, Inoue E, Ikari K, Yano K, et al
Comparison of characteristics and therapeutic efficacy in rheumatoid arthritis patients treated by rheumatologists and those...
Mod Rheumatol. , 22 (2) , 209-215  (2011)
10.1007/s10165-011-0495-7
原著論文14
Sato E, Nishimura K, Nakajima A, Okamoto H,et al
Major depressive disorder in patients with rheumatoid arthritis.
Mod Rheumatol.  (2012)
10.1007/s10165-012-0643-8.
原著論文15
Takeuchi T, Tanaka Y, Keneko Y, Tanaka E,et al
Effect iveness and safety of adalimumab in Japanese patients with...
Mod Rheumatol , 22 , 327-338  (2012)
10.1007/s10165-011-0516-6
原著論文16
Harigai M, Takeuchi T,Tanaka Y, Matsubara T et al
Erratum to:Discontinuation of adalimumabTreatment in rheumatoid arthritis...
Mod Rheumatol.  (2012)
10.1007/s10165-011-0586-5.
原著論文17
Ichikawa N, Yamanaka H.
Disease-modifying antirheumatic drugs.
Clin Calcium , 22 (2) , 215-221  (2012)
CliCa1202215221
原著論文18
Hoshi D, Nakajima A, Shidara K, sato E et al
Inciedence of serious respiratory infections in patients with rheumatoid...
Mod Rheumatol , 22 (1) , 122-127  (2012)
10.1007/s10165-011-0488-6
原著論文19
Furuya T,Inoue E,Hoshi T, Taniguchi A
Risk factors associated with the occurrence of hip fracture in Japanese...
Osteoporos Int  (2012)
10.1007/s00198-012-2080-0.
原著論文20
Takeuchi T, Harigai M, Tanaka Y, Yamanaka H,et al
Golimumab monotherapy in Japanese patients with active rheumatoid arthritis...
Ann Rheum Dis  (2012)

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

収支報告書

文献番号
201023011Z