世界の健康危機への備えと対応の強化に関する我が国並びに世界の戦略的・効果的な介入に関する研究

文献情報

文献番号
202505001A
報告書区分
総括
研究課題名
世界の健康危機への備えと対応の強化に関する我が国並びに世界の戦略的・効果的な介入に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23BA1001
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
詫摩 佳代(慶應義塾大学 法学部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 淳一(獨協大学 法学部)
  • 武見 綾子(東京大学先端科学技術センター グローバル合意形成政策分野)
  • 中山 一郎(北海道大学 大学院法学研究科)
  • 西本 健太郎(東北大学 大学院法学研究科)
  • 藤田 雅美(国立国際医療研究センター 国際医療協力局)
  • 松尾 真紀子(東京大学 大学院公共政策学連携研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題解決推進のための行政施策に関する研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
3,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
パンデミック協定に関しては、衡平性やワンヘルスの原則など、今後の健康危機対応の根幹となる規範が提案されてきたが、一方で、感染症の情報提供と収集、健康危機下の医薬品・医療用品の衡平分配や技術移転・知財の取扱い、動物由来の感染症対策、病原体の国際共有等の個別の論点に関して、詰めきれていない部分が多い。本研究では協定交渉に関する包括的な情報収集に加え、技術的・法的観点からの分析を行い、日本の交渉におけるプレゼンス確保を目指すと同時に、わが国を含めた世界各国が健康危機の備えと対応に実質的に貢献できるように、ワクチン・治療薬・診断薬の研究開発及び生産能力等に関する具体的な支援のあり方を分析し、その分析結果から日本政府及び世界の健康危機管理の向上に向けた政策上の提言をまとめることを目指す。
研究方法
公開されている資料やインタビュー、関連の文献の分析を通じて研究した。
結果と考察
米国のWHO脱退に伴い、WHOの機能はルールの策定、状況評価、緊急時の関係国のコーディネートという最もコアな役割に今後限定されていく可能性が高い。近年は二国間ベースの交渉を行い、その見返りとして病原体情報を確保し、ワクチンや医薬品開発に自国が優位に立とうという動きも加速している。こうした動きは突き詰めれば、パンデミック合意を骨抜きにする可能性を孕んでおり、世界の健康にとって著しいインパクトが予想される。
結論
鈴木淳一は、WHOを中心に検討が進んでいる国際保健規則(IHR)の強化とパンデミックに関する新しい国際文書に関して国際法学の見地から交渉のプロセス・法整備・法運用の考察と検証を行なった。PABS文書をめぐっては、グローバル・ノースとグローバル・サウスとの間で、特に利益配分をめぐって主張が厳しく対立している状況であり、PABS文書の交渉の行方は予断を許さない。いかなるABS制度が導入され、それがどのような規範として実現し、運用されていくのか注目されると結論づけている。
 武見綾子は、AI・データ時代のグローバルヘルス研究開発体制を支えるデータ・ガバナンス基盤として、病原体ゲノム配列データ(DSI)のデータベース・ガバナンスを、PABS、CBDのDSI多国間メカニズム、WHO IPSN下のサーベイランス体制等、複数の国際ガバナンス枠組みが共通して依拠する基盤として構造的に分析する。そして(1)既存プラットフォーム3類型の構造的限界、(2)データベース断片化によるフリーライダー問題、(3)技術的統合の試みによるABSとオープンサイエンスの両立可能性、(4)デカップリングと拘束的契約要請との根本的対立、(5)AI・合成生物学による追跡可能性の根本的困難、の5つの構造的論点を抽出した。
 中山一郎は、パンデミック協定のうち、知的財産・技術移転・アクセスと利益配分を中心に検討した。そして、(1)パンデミック協定は、健康への権利が基本権であることを前提に、衡平性を重視しているが、そのことが知的財産の保護の軽視を招かないように留意すべきであること、(2)ワクチン、治療薬及び診断薬(VDT)の早期開発を進めるためには、病原体等への早期アクセスとともに、開発インセンティブの確保が重要であることを、今後の運用やPABSシステムの詳細設計において十分に考慮すべきであること、の2点を主張する。
 西本健太郎は、WHOパンデミック協定におけるワンヘルス・アプローチの採用と、病原体アクセス・利益配分システム(PABS)をめぐる課題を検討した。先行する条約として参照されることのある国連公海等生物多様性協定(BBNJ協定)は、デジタル配列情報(DSI)の利用に関する利益配分制度や標準バッチ識別記号を通じた透明性メカニズムを有しているが、同制度は開発途上国がPABSについて主張しているような個別のアクセスから商品化・利益配分までを追跡する仕組みではないと指摘する。
 藤田雅美はパンデミック協定を反映して分析枠組みを更新し、ガバナンス、監視、労働力、規制システム、公平なアクセス、資金調達を含む主要ドメインにわたり、カンボジア、ナイジェリア、ウズベキスタンの現在の能力を検討した。そして、形式的な遵守と実効的な機能の間に依然として乖離があること、国家の枠組みが条約の原則を反映しつつある一方で、体系的かつ測定可能な実施は依然として限定的であると結論づけている。
 松尾真紀子はPABS)システムに特化して分析を行った。そしてPABS附属文書の草案の課題点として、①定義上の課題、②PABS運営上の課題、③参加する製造業者等関連アクターのインセンティブ構造の検討の必要性、④ガバナンスの項目に関するさらなる検討の必要性、⑤積み残しとなっている附属文書の次の作業への準備、について指摘した。

公開日・更新日

公開日
2026-09-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2026-09-02
更新日
-

文献情報

文献番号
202505001B
報告書区分
総合
研究課題名
世界の健康危機への備えと対応の強化に関する我が国並びに世界の戦略的・効果的な介入に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23BA1001
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
詫摩 佳代(慶應義塾大学 法学部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 淳一(獨協大学 法学部)
  • 武見 綾子(東京大学先端科学技術センター グローバル合意形成政策分野)
  • 中山 一郎(北海道大学 大学院法学研究科)
  • 西本 健太郎(東北大学 大学院法学研究科)
  • 藤田 雅美(国立国際医療研究センター 国際医療協力局)
  • 松尾 真紀子(東京大学 大学院公共政策学連携研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題解決推進のための行政施策に関する研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
パンデミック協定をはじめとする各種国際文書の交渉に関する包括的な情報収集に加え、技術的・法的観点からの分析を行い、日本の交渉におけるプレゼンス確保を目指すと同時に、わが国を含めた世界各国が健康危機の備えと対応に実質的に貢献できるように、ワクチン・治療薬・診断薬の研究開発及び生産能力等に関する具体的な支援のあり方を分析し、その分析結果から日本政府及び世界の健康危機管理の向上に向けた政策上の提言をまとめることを目指す。
研究方法
公開されている資料、関連の専門文献の渉猟、関連する研究会を通じた意見交換や情報交換、インタビューに基づいて研究した。
結果と考察
研究代表者の詫摩佳代は、グローバル保健ガバナンスの変容について分析した。WHOの機能はルールの策定、状況評価、緊急時の関係国のコーディネートという最もコアな役割に今後限定されていくと予想される。グローバルな法整備と並行して、地域など小さな単位での協力にも注力していく必要があると指摘する。
 研究分担者の鈴木淳一は、IHRの改正により、健康危機対応の想定する過程のうち、準備・予防、事象の通報、PHEICやパンデミック緊急事態の認定手続は整備されたと指摘する。また、パンデミック協定のPABS文書が作成されてパンデミック協定が署名に開放されれば、パンデミックに対する国際協力の枠組みが準備されることが期待されると結論づける。
 研究分担者の武見綾子は、新型コロナウイルス感染症後の国際的な感染症対応ガバナンスの再構築を(1)法的枠組みの限定的修正(IHR改正)、(2)法的合意外での代替的取り組み(同志国連携・データ源多様化等)、(3)合意を実体化する実装ガバナンス(データベース・ガバナンス等)の3層において横断的に検討し、各層の検討から共通して導出されるのは、技術的解決主義の限界と、制度的配置・運用ガバナンス・民間部門との恒常的協議枠組みの整備の重要性であると指摘する。
 研究分担者の中山一郎は、パンデミック協定は、健康への権利が基本権であることを前提に、衡平な医薬品アクセスを重視しているが、そのことが知的財産の保護の軽視を招かないように留意すべきだと指摘する。VDTの早期開発を進めるためには、病原体等への早期アクセスとともに、開発インセンティブの確保も重要であり、今後の運用やPABSシステムの詳細設計においては、その点にも十分に考慮すべきだと指摘する。
 研究分担者の西本健太郎は、パンデミック協定の採択とIHRの2024年改正はパンデミックの予防、備え及び対応に関する制度を一定程度発展させた一方で、その多くは、具体的な権限・義務を根本的に強化するというよりも、今後の実施及び制度発展のための枠組みを整えるものとしての性格を有すると指摘する。したがって、今後PABSに関する附属書が採択されパンデミック協定が発効した後は、協定とIHRを相互に補完する制度として整合的に運用し、採択された枠組みをどのように実効的な実施へとつなげていくかが重要な問題となると指摘する。
 研究分担者の藤田雅美は、パンデミック協定・IHR改正に関する主要国際文書を対象に、公衆衛生学的論点を整理した。カンボジア、ナイジェリア、ウズベキスタンを対象とした分析の結果、 (1)国内での持続可能な資金調達、(2)地方レベルでの運用実効性、(3)医薬品の現地製造や技術移転に関する透明性に重大な欠落があることが浮き彫りになった。特に、形式的な政策の整備と実際の「作動可能性(Functionality)」の間には依然として大きな乖離(実施の欠如)が存在しており、将来のパンデミックにおける公平なアクセス確保に向けた構造的課題が特定された。
 研究分担者の松尾真紀子は、PABS附属文書の草案の課題点としては、定義上の課題、PABS運営上の課題、参加する製造業者等関連アクターのインセンティブ構造の検討の必要性、ガバナンスの項目に関するさらなる検討の必要性、積み残しとなっている附属文書の次の作業への準備の5点をあげ、個別に検討をおこなった。
結論
パンデミック協定と改正IHRを取り巻く国際情勢は厳しく、グローバル保健ガバナンスは転換期にあると言える。このような状況下でパンデミック関する法整備が進展してきたことは保健分野における多国間主義の強靭さを示している。また法整備においてはグローバルサウスの存在感が目覚ましく、グローバル保健ガバナンスにおける勢力図の再編をも示している。他方、健康安全保障意識の高まりや南北対立を反映して、改正IHRとパンデミック協定の個々の項目に関する検討は引き続き課題であるし、その実効性や有効性の確保という問題も引き続き検討されていく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2026-09-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2026-09-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202505001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では、世界の健康危機対応を取り巻く国際環境の変化、健康危機対応に関する国際的な法整備(IHRの改正ならびにパンデミック協定)を多角的に分析し、その可能性と課題を抽出した。成果はGlob Health Med等の国内外の学術誌、刊行物に掲載され、国内外から大きな反響があった。
臨床的観点からの成果
該当なし
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
健康危機対応に関する国際的な法整備(IHRの改正ならびにパンデミック協定)を多角的に分析し、その可能性と課題を抽出した。とりわけ法整備の交渉の過程においては、本研究成果が日本政府の交渉に活用され、健康危機における国際的な法整備における日本の役割強化に貢献した。
その他のインパクト
『国際開発ジャーナル』2026年2月号での解説(「分断続く世界で成立したパンデミック協定」 、日本経済新聞「経済教室」への寄稿(2025年7月8日)など、一般むけの解説も広く行なった。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
10件
その他論文(英文等)
9件
学会発表(国内学会)
14件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
4件
マスコミ発表4件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Saki Nakamura, Makiko Matsuo
The world preparing for future pandemics and public health emergencies of international concern
Glob Health Med , 7 (2) , 127-140  (2025)
https://doi.org/10.35772/ghm.2025.01000
原著論文2
Ichiro Nakayama
Intellectual property rights and the right to health in pandemic times
The Interface of Intellectual Property Law with other Legal Disciplines , 113-128  (2025)
https://doi.org/10.4337/9781035340934.00015
原著論文3
Ayako Takemi
Managerial imperatives for health–security information sharing: Balancing confidentiality and utility amid a deepening interface
Politics and the Life Sciences , First View , 1-22  (2026)
https://doi.org/10.1017/pls.2025.10016

公開日・更新日

公開日
2026-09-02
更新日
-

収支報告書

文献番号
202505001Z